レジデントノート

米国にて内科修行中。何ができるか模索している過程を記録していく

閉塞性睡眠時無呼吸

 

繰り返す上気道閉塞による酸化ヘモグロビン飽和度低下や生理的ストレスによって血圧上昇や心血管疾患が引き起こされる(1)

 

 

閉塞性無呼吸を示唆する症状を呈する患者のうち実際に評価され治療されているのは50人に1人のみである(2)

 

 

外来では全ての患者に対し睡眠に関する満足度や日中の眠気について問診することが推奨されている

 

 

スクリーニングの対象

・眠気による交通事故を起こした、あるいは起こしそうになった全ての患者

・職業運転手

・閉塞性無呼吸のリスクを要する

 

 

リスクファクター

 ・肥満(特にBMI>35)

 ・睡眠時無呼吸家族歴

 ・下顎後退症

 ・治療抵抗性高血圧

 ・うっ血性心不全

 ・心房細動

 ・脳卒中

 ・2型糖尿病

 ・肺高血圧症

 

 

テストステロン投与も閉塞性無呼吸の悪化および誘発の原因になり得るので、テストステロン投与中の患者ではスクリーニングが勧められる(3)

 

 

スクリーニング方法として Berlin questionnaire とSTOP BANG スクリーニングテストが広く使用されている

 

 

STOP-BANG

S: 大きないびきをかきますか(Snore)(閉めた扉を通しても聞こえるほど)

T: よく疲れますか(Tired)、日中に眠気が強いですか 

O: 睡眠中に呼吸が止まっている事を誰かに観察された(Observed)ことがありますか

P: 高血圧(high blood Pressure)の既往がありますか

B: BMI >35 

A: 50歳以上(Age)

N: 頸まわり(Neck) > 40cm 

G: 男性(Gender)

 

3つ以上当てはまる場合、閉塞性無呼吸の可能性が84%、5つ以上では中等度から重度の閉塞性無呼吸を示唆する(4)

 

 

統計上疾患の男女比は2:1であるが、専門家への患者紹介の比率は男女比9:1とも報告されている。女性での評価が不十分である事が示唆されている(5)

 

 

診断方法としては polysomnography が推奨されるが、患者が自宅で行える簡易で低費用な Home sleep testing(HST)の利用も増えている。検査前確率が高く心肺合併症のない患者では HST によって診断が確定できる事を示すエビデンスが認められている(6, 7)

 

 

検査前確率が低い、あるいは中等度の患者では HST による診断確定をサポートするエビデンスは示されていない。また HST は検査の信頼性が患者の認知機能に依存すること、閉塞性無呼吸の重症度を評価できない、などの欠点がある

 

 

閉塞性無呼吸重症度

軽度:5 < AHI < 15

中等度:15 < AHI < 30

重度:AHI > 30

(AHI: 時間あたりの無呼吸および低呼吸の頻度)

 

 

重症度に関わらず、日中の強い眠気を呈する患者では治療が推奨される

(特に交通事故を起こした、あるいは起こしそうになった事がある場合)(8, 9)

 

 

軽度あるいは中等度の閉塞性無呼吸で無症状の患者の場合、治療すべきかどうかは確定されていない

 

 

CPAPが症状を有する中等度から重度の閉塞性無呼吸患者の第一選択治療である

 

 

上気道閉塞に対する手術療法の多くは閉塞性無呼吸の重症度および症状を十分には改善しない(10)

 

 

下顎前方固定術は、特に非肥満で下顎後退症の患者において、90%の治癒率を示すが、侵襲が大きく術後回復に時間を要するため適応が限られる

 

 

酸素投与治療が閉塞性無呼吸による酸化ヘモグロビン飽和度低下改善に効果的ではあるが、症状、血圧上昇、心血管リスクを減らすことを示すエビデンスは乏しい(11)

 

 

閉塞性無呼吸の治療が心血管リスクを減らすかどうかははっきりしていない

 

 

閉塞性無呼吸はCPAP治療によって死亡率及び非致死的心血管イベントを減らす事が observational studies で示されているが(1, 12)、治療バイアスによる可能性も指摘されている

(CPAPを忠実に使用する患者の方が心血管治療に対してもより忠実である可能性がある)

 

 

 

 

 

 

 

 

1.   Gottlieb DJ.   Prospective study of obstructive sleep apnea and incident coronary heart disease and heart failure: the sleep heart health study. Circulation. 2010;122:352-60

 

2.   Kapur V.  Undiagnosis of sleep apnea syndrome in U.S. communities. Sleep Breath. 2002;6:49-54

 

3.   Bhasin S.  Testosterone therapy in adult men with androgen deficiency syndrome: an endocrine sociaty clinical practice guideline. J Clin Endocrinol Metab. 2006;91:1995-2010 

 

4.   Chung F.  High STOP-Bang score indicates a high probability of obstructive sleep apnea. Br J Anaesth. 2012;108:768-75

 

5.   Young T.   The gender bias in sleep apnea diagnosis. Are women missed because they have different symptoms? Arch Intern Med. 1996;156:2445-51

 

6.   Rosen CL.   A multisite randomized trial of portable sleep studies and positive airway pressure autotitration versus laboratory-based polysomnography for the diagnosis and treatment of obstructive sleep apnea: the HomePAP study. Sleep. 2012;35:757-67

 

7.   Kuna ST.   Noninferiority of functional outcome in ambulatory management of obstructive sleep apnea. Am J Respir Crit Care Med. 2011;183:1238-44

 

8.   Patel SR.   Continuous positive airway pressure therapy for treating sleepiness in a diverse population with obstructive sleep apnea: results of a meta-analysis. Arch Intern Med. 2003;163:565-71

 

9.   Weaver TE.   Continuous positive airway pressure treatment of sleepy patients with milder obstructive sleep apnea: results of the CPAP Apnea Trial North American Program randomized clinical trial. Am J Respir Crit Care Med. 2012;186:677-83

  

10.  Aurora RN.   American Academy of Sleep Medicine. Practice parameters for the surgical modifications of the upper airway for obstructive sleep apnea in adults. Sleep. 2010;33:1408-13

 

11.  Gottlieb DJ.   CPAP versus oxygen in obstructive sleep apnea. N Engl J Med. 2014;370:2276-85

 

12.   Marin JM.   Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnoea-hypopnoea with or without treatment with continuous positive airway pressure: an observational study. Lancet. 2005;365:1046-53

 

 

インザクリニック

アナルズオブインターナルメディシン

 

心房細動

 

・自覚症状は動悸や胸痛が比較的若い患者で多い一方、高齢者では倦怠感や呼吸困難感が多く認められる(1)

 

 

・日常的に症状を有する患者では診断にホルター心電図で十分なことが多いが、発症の頻度が少ない場合は1ヶ月モニターしても見逃す事もあり得る

 

 

・原因不明の脳梗塞では診断によって抗凝固療法が適応となる心房細動有無の評価のために埋め込み型モニターがより多く使用されるようになってきている(2)

 

 

・新規発症の心房細動を評価する場合、血液検査(電解質、甲状腺機能、腎機能、肝酵素)、便潜血反応、経胸壁心エコー等を評価する。また誘引となる急性疾患を見逃さないように注意する(心筋梗塞、肺血栓塞栓症、甲状腺機能亢進症等)

 

 

・心房細動治療の目的は症状緩和、塞栓症予防、心筋症予防の主に三つである

 

 

・WPW症候群を伴う心房細動では房室伝道が極めて速くなり得るため、緊急でcardioversionを要する事が多い

 

 

・入院適応

- 診断不明瞭あるいは不安定な不整脈の時

- 急性心筋梗塞、意識障害、非代償性心不全、血圧低下等を合併している

- 血行動態は安定していても症状が非常に強い

- 待機的cardioversionを行う時

- 塞栓症のリスクが非常に高く抗凝固療法を緊急で開始する時

- 特定の治療薬を開始する場合にモニターを要する時

 

 

・rhythm control よりも rate control が治療の主流であるが、若い患者や症状が強い患者では rhythm control を考慮する事が妥当とされる

(特に初回発症で症状を有する若年患者では 洞調律復帰後に抗不整脈投与なしで洞調律を維持できる事が多いので rhythm control が好まれる事が多い)

 

 

・rate control の目標は110 beats/min以下である(3)

 

 

・rate control の第一選択薬はβブロッカーあるいは非ジヒドロピリジンCaチャネルブロッカーである

 

 

・ジギタリスは運動に伴う頻脈を抑制せず、また心不全で交感神経が緊張している状況では効果が低い

 

 

・アミオダロンが rate control に使われる事があるが、副作用が多いため、他の薬剤が使用できない時に考慮される(4)

 

 

・アミオダロン以外の rhythm control 薬は一般的には効果が同等とされており、副作用等に基づいて選択される

(虚血性心疾患、構造的心疾患や重度の心不全がない場合はフレカイニドやプロパフェノンが有効とされる。ソタロールはβブロッキング作用を有するが、多少のnegative inotropic activity を持ち、QT延長のリスクがあるため入院でモニタリングを行いながら導入される)

  

 

・ドロネダロンはアミオダロンに比べ抗不整脈効果が弱く、また非代償性心不全および慢性心房細動では禁忌とされている(5)

 

 

・CHA2DS2-VASc scoreが塞栓症リスク評価のスタンダードである

 

 

・CHA2DS2-VASc score2点以上のすべての心房細動患者で抗凝固療法が推奨される

(0点では不要である。1点の時は必須ではないがアスピリンあるいは抗凝固療法を考慮する事が妥当とされている)(6)

 

 

・アスピリンによる塞栓症予防のエビデンスは弱く、full dose (325mg/day) でのみ認められる(6)

 

 

・4つの全ての非ビタミンK依存経口抗凝固薬(ダビガトラン、リバロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)が人工弁を持たない心房細動患者の塞栓症予防に対しワーファリンに劣らない代替薬として承認されている(7, 8, 9, 10)

 

 

・非ビタミンK依存経口抗凝固薬は人工弁患者では禁忌である(11)

 

 

・非ビタミンK依存経口抗凝固薬は僧帽弁狭窄症以外での生体弁患者には使用できる

(7, 8, 9, 10)

 

 

・イダルシズマブがダビガトランに対する特異的中和剤として承認されている(12)

 

 

・アンデキサネットα がリバロキサバン、アピキサバン、エドキサバン の中和剤としてFDAで承認審査を受けている(13)

 

 

・症状が強い発作性あるいは慢性心房細動患者で薬剤治療に失敗した場合はアブレーション治療が考慮される(6)

 

 

・アブレーション後の長期予後に関する質の高いデータは得られていないのが現状である

 

 

・治療成功後に抗凝固療法が不要になるという患者の期待に基づいてアブレーション療法を選択すべきでない

(現在のところ、いかなるrhythm control 治療も塞栓症リスクを減らす事を示した信頼できるデータが得られていない)

 

 

 

 

 

1.  Reynolds MR. Influence of age, sex, and atrial fibrillation recurrence on quality of life outcomes in a population of patients with new-onset atrial fibrillation: the Fibrillation Registry Assessing Costs, Therapies, Adverse events and Lifestyle study. Am Heart J. 2006;152:1097-103

 

2.  Sanna T. Cryptogenic stroke and underlying atrial fibrillation. N Engl J Med. 2014;370:2478-86

 

3.  Van Gelder IC.  Lenient versus Strict rate control in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med. 2009;12;360:668-78

 

4.  Zimetbaum P.  Antiarrhythmic drug therapy for atrial fibrillation. Circulation. 2012;125:381-9

 

5.  Hohnloser SH.  Effect of dronedarone on cardiovascular events in atrial fibrillation. N Engl J Med. 2009;360:668-78

 

6.  January CT.  2014 AHA/ACC/HRS guideline for the management of patients with arital fibrillation: executive summary: Circulation. 2014;130:2071-104

 

7.  Connolly SJ.  Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med. 2009;361:1139-51

 

8.  Patel MR.  Rivaroxaban versus warfarin in nonvalvular atrial fibrillation. N Engl J Med. 2011;365:883-91

 

9.  Granger CB.  Apixaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med. 2011;365:981-92

 

10.  Giugliano RP.  Edoxaban versus warfarin in patients with atrial fibrillation. N Eng J Med. 2013;369:2093-104

 

11.  Eikelboom JW.  Dabigatran versus warfarin in patients with mechanical heart valves. N Engl J Med. 2013;369:1206-14

 

12.  Pollack CV Jr.  Idarucizumab for Dabigatran Reversal. N Engl J Med. 2015;373:511-20

 

13.  Connolly SJ.  Andexanet Alfa for Acute Major Bleeding Associated with Factor Xa Inhibitors. N Engl J Med. 2016;375:1131-41

 

 

 

 

 

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アナルズオブインターナルメディシン

2017年3月7日 

 

 

 

 

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市中肺炎

 

・肺炎球菌ワクチンの適応

65歳以下で慢性呼吸器疾患を有する(COPDは含まれるが喘息は適応でない)

  

 

・慢性疾患を持つ高齢者は呼吸器症状がない場合がある

(倦怠感、転倒、食思低下、意識障害などで受診した高齢者の鑑別疾患として考慮する必要がある)

 

 

・血液培養は必ずしも全ての患者で採取しない方が良いかもしれない(1, 2)

(低リスク患者では偽陽性の確率が真陽性の確率を上回り、入院期間を延長させたり、バンコマイシン投与が増える可能性がある)

(以下の場合、血液培養採取が推奨される:ICU入院、白血球減少、アルコール乱用、重度慢性肝疾患、無脾症、胸水、肺炎球菌尿抗原陽性)(1)

 

 

 ・初回胸部X線写真は陰性であることがある

(胸部X線写真が陰性でも病歴や身体所見で肺炎を示唆する可能性が高い場合は治療を開始し、フォローアップ胸部X線写真を行う)

 

 

・入院時に陰影を確認できた場合、入院中あるいは退院前にルーチンでフォローアップの胸部X線写真を撮る必要はない

(治療反応不良あるいは悪化する場合精査が必要である)

 

  

・プロカルシトニン値測定が抗菌薬使用のガイダンスに有用であるかもしれない

(プロカルシトニン値が0.25μg/L以下の時に抗菌薬投与を控えたグループは通常の臨床に基づいて抗菌薬を投与したグループに対して有害事象や死亡率に有意差がなかった)(3)

 

 

・治療開始48〜72時間後に改善を認めない場合は通常細菌感染でない可能性(結核、ウイルス、真菌)あるいは非感染性肺疾患(閉塞性細気管支炎、器質化肺炎、過敏性肺炎、間質性肺炎、肺癌、癌性リンパ管症、気管支肺胞癌、リンパ腫、うっ血性心不全等)の可能性を検討する

(感染症科コンサルト、あるいは呼吸器内科コンサルトして気管支鏡検査を検討) 

 

 

・治療に一旦反応した後に悪化する場合は肺塞栓症、抗菌薬起因腸炎、膿胸、髄膜炎、心内膜炎等を鑑別疾患として考慮する

 

 

・重症度判定を参考に外来治療、一般病棟入院、ICU入院の判断をする

(PSI と CURB-65を比較したスタディでは 両方で低リスク患者を正確に予測し、またハイリスク患者においてはCURB-65の方が死亡率予測により優れた結果を示した)(4)

 

 

・ICU入院基準

◆ 人工呼吸器治療

◆ 敗血症性ショック 

◆ 以下の項目を三つ以上満たす場合

呼吸数30/分以上、PaO2/FIO2 ratioが250以下、多葉肺炎、意識障害、BUNが20mg/dL以上、白血球数4000以下あるいは10000以上、体温36度以下、多量輸液を必要とする血圧低下 

 

 

・喀痰量が1日30mlを超える場合は呼吸理学療法が有効であるかもしれない(5)

 

 

・外来抗菌薬選択

<薬剤耐性肺炎球菌、グラム陰性菌のリスクがない場合>(*)

▶︎ アジスロマイシン500mg 初日1回、250mg 1日1回4日間、あるいは、500mg 1日1回3日間

あるいは

▶︎ ドキシサイクリン 100mg 1日2回5日間

 

<薬剤耐性肺炎球菌あるいはグラム陰性菌のリスクがある場合>(*)

▶︎ 2剤併用(βラクタム剤とマクロライドあるいはドキシサイクリン)

◎ βラクタム剤(下記のうちどれか一つ)

- アモキシシリン1g 1日3回

- アモキシリンクラブラン酸(オーグメンチン)2g 1日2回

- セフポドキシム(バナン)200mg 1日2回

- セフロキシム(オラセフ)500mg 1日2回

(プラス)

◎ マクロライドあるいはドキシサイクリン(投与量は上記に同じ)

投与期間は5日間 

 

 

あるいは

 

▶︎ レボフロキサシン(クラビット)750mg 1日1回5日間

 

 

・外来でフォローする際の患者に対する指示

以下のいずれかの場合は医師に報告するように指示

◎ 治療開始48時間以降に体温が38.2度を超える、あるいは37.2度を下回らない場合

◎ 1日1〜2L以上の水分摂取を目指し、それが達成できない場合

◎ 胸痛、重度あるいは増悪する呼吸困難感、意識障害を認める時

治療効果が良好な場合は10〜14日後に再受診するよう指示

 

 

・治療開始から最低1ヶ月は間隔をあけてフォローアップ胸部X線写真を行う

(改善しない陰影は肺癌、炎症性疾患、非通常感染症等である可能性がある) 

 

  

・一般病棟入院抗菌薬選択①

<多剤耐性菌リスクがない場合>(*)

▶︎ βラクタム+マクロライドあるいはドキシサイクリン

- セフトリアキソン(ロセフィン)1〜2 gram 1日1回

- セフォタキシム(セフォタックス)1〜2 gram 8時間毎

- アンピシリンスルバクタム(ユナシン)1.5〜3 gram 6時間毎

(プラス)

マクロライドあるいはドキシサイクリン

(重症肺炎でない場合は経口投与可) 

 

あるいは

 

▶︎ 抗肺炎球菌キノロン

- レボフロキサシン750mg 1日1回

- モキシフロキサシン400mg 1日1回

 

(薬剤耐性肺炎球菌が疑われる場合はセフトリアキソンあるいはセフォタキシムが好ましい)(6)

  

・QT延長を認める場合はマクロライドやキノロンでなくドキシサイクリンを選択する

 

 

・一般病棟入院抗菌薬選択②

<医療介護関連肺炎で多剤耐性菌リスク有の場合>(*)

● 非重症肺炎で多剤耐性菌リスクが2つ以上の場合 

あるいは

● 重症肺炎で多剤耐性菌リスクが一つ以上の場合

▶︎ 緑膿菌二重カバー  +  MRSAカバー が必要になるかもしれない

 

(医療介護関連肺炎は多剤耐性菌のリスクが高いと考えられ、院内肺炎と同様に対応することが推奨されていたが、いくつかのスタディから必ずしもそうでないことが明らかになり、不必要な広域抗菌薬暴露および薬剤耐性菌発生を防ぐ目的もあって2016年のIDSA/ATS院内肺炎ガイドラインからは医療関連肺炎の項目が除外された。よって医療介護関連肺炎における多剤耐性菌をカバーする抗菌薬の選択はケース毎に検討されるべきとされている)

 

 

・救急外来受診4時間以内に抗菌薬を開始する

 

 

・ICU入院抗菌薬選択

<緑膿菌リスクファクターなし>(*)

◎ セフトリアキソン あるいは セフォタキシム

(プラス)

◎ アジスロマイシン あるいは 抗肺炎球菌キノロン(レボフロキサシン、モキシフロキサシン)

 

(ICU入院患者ではβラクタム・マクロライド併用投与の方がβラクラム・キノロン併用に比べ死亡率が低い傾向にあった)(7)

 

 

<緑膿菌リスクファクターあり>(*)

▷ 緑膿菌二重カバー

 

◎ 抗緑膿菌βラクラム(セフィピーム、ピペラシリンタゾバクタム、イミペネム、メロペネム)

(プラス)

◎ 抗緑膿菌キノロン(シプロフロキサシン、高用量レボフロキサシン(750mg))

 

あるいは

 

◎ 抗緑膿菌βラクタム

(プラス)

◎ アミノグリコシド(ゲンタマイシン、アミカシン、トブラマイシン)

(プラス)

◎ マクロライドあるいは抗肺炎球菌キノロン

 

 

・市中MRSA肺炎が疑われる場合はリネゾリド、あるいはバンコマイシン投与を追加する(*)

(人工呼吸器治療を要する、あるいは敗血症性ショックの場合は投与)

(壊死性肺炎の場合はリネゾリド、あるいはバンコマイシン + クリンダマイシンを投与する。バンコマイシンのみではトキシン産生を抑制しないため)(8)

 

 

・重症肺炎で全身性の炎症が強い場合はステロイド投与が有効であるかもしれない

(重症肺炎でかつ入院時CRPが15mg/L以上の場合、メチルプレドニゾロン0.5mg/kg 12時間毎 5日間投与した場合、投与しなかったグループに比べ死亡率に有意差はなかったものの、治療失敗率は有意に低かった)(9) 

 

 

・抗菌薬を静注から経口に変更するタイミング

 発熱がないことが8時間以上あけて2回確認され、かつ経口薬内服が可能な場合

(早くて入院から24〜48時間以内、少なくとも入院3日目までに半数の患者で変更可能である)

 

 

・原則培養結果に基づいて経口薬を選択するが、培養結果が得られなかった場合で、βラクタム・マクロライド併用治療に反応が良好であった時はマクロライド単剤経口薬に変更可能である

 

 

・経口薬に変更でき次第退院が可能である

(経口薬に変更したその当日に退院させた場合、変更後1日入院継続して経過を診たグループに比べ、死亡率および再入院率に有意差はなかった)(10)

 

 

 

 

* ペニシリン・薬剤耐性肺炎球菌リスクファクター

65歳以上、3ヶ月以内のβラクタム剤治療、免疫抑制治療(コルチコステロイドを含む)、複数の慢性疾患の既往(心・呼吸器・肝・腎疾患)、アルコール依存、悪性疾患、無脾症、デイケアセンターの子供への曝露

 

* グラム陰性菌リスクファクター

nursing home 在住、慢性心・呼吸器疾患、複数の慢性疾患の既往、最近の抗菌薬使用

 

*  多剤耐性菌リスクファクター(緑膿菌、他のグラム陰性菌、MRSA等)

最近の入院、最近の抗菌薬投与、functional status不良、免疫抑制

 

* 緑膿菌リスクファクター

器質的肺疾患(気管支拡張症)、コルチコステロイド使用(プレドニゾン10mg/day以上)、1ヶ月以内の1週間以上の広域抗菌薬使用、低栄養、最近の入院、免疫抑制(HIV、好中球減少、臓器・血液幹細胞移植等)

  

* MRSAリスクファクター

ESRD、IV drug乱用、インフルエンザ罹患、3ヶ月以内の抗菌薬使用(特にキノロン)、MRSAキャリア、グラム染色で示唆する所見、壊死性あるいは空洞性の肺炎、膿胸

 

 

 

 

 

1. Infectious Disease Society of America. Infectious Disease Society of America/American Thoracic Society consensus guidelines on the management of community-acquired pneumonia in adults. Clin Infect Dis. 2007;44 Suppl 2:S27-72

 

2. Metersky ML, Predicting bacteremia in patients with community-acquired pneumonia. Am J Respir Crit Care Med. 2004;169:342-7

 

3. Upadhyay S, Biomakers: what is their benefit in the identification of infection, severity assessment, and management of community-acquired pneumonia? Infec Dis Clin North Am. 2013 27:19-31

 

4. Aujesky D, Prospective comparison of three validated prediction rules for prognosis in community-acquired pneumonia. Am J Med. 2005;118:384-92

 

5.  Graham WG, Efficacy of chest physiotherapy and intermittent positive-pressure breathing in the resolution of pneumonia. N Engl J Med. 1978;299:624-7

 

6.  Lujan M, Prospective observational study of bacteremic pneumococcal pneumonia: Effect of discordant therapy on mortality. Crit Care Med. 2004;32:625-31

 

7.  Sligl Wl, Macrolides and mortality in critically ill patients with community-acquired pneumonia: a systematic review and meta-analysis. Crit Care Med 2014;42:420-432

 

8.  Micek ST, Pleuropulmonary comlications of Panton-Valentine leukocidin-positive community-acquired methicillin-resistant Staphylococcus aureus: Importance of treatment with antimicrobials inhibiting exotoxin production. Chest. 2015;128:2732-8

 

9.  Torres A, Effect of corticosteroids on treatment failure among hospitalized patients with severe community-acquired pneumonia and high inflammatory response: a randomized clinical trial. JAMA 2015;313:677-686

 

10.  Nathan RV, In-hospital observation after antibiotic switch in pneumonia: a national evaluation. Am J Med 2006;119:512.e1-7

 

 

 

 

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アナルズオブインターナルメディシン

2015年10月6日 

 

 

 

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痛風

 

・コーヒー (4〜6杯/day)・ビタミンC (500mg/day) 摂取はリスクを下げる(1, 2)

 

 

・ロサルタンとカルシウム拮抗薬はリスクを下げ、β遮断薬・ACE阻害薬・ロサルタン以外のアンギオテンシンII受容体拮抗薬はリスクを高める(3)

 

 

・低用量アスピリンは尿酸保持に働いてリスクを高めるが、高用量アスピリンは尿酸腎排泄を促す

 

 

・痛風発作時の尿酸値上昇は診断基準に含まれていないが、発作時に正常値(6mg/dL以下)であれば痛風の可能性は低くなる(4)

(痛風発作時に尿酸値を測定する事は意義が少ないとされてきたが、関節炎の鑑別に有効である可能性がある)

 

 

・痛風発作と化膿性関節炎は同時に起こり得る

(関節穿刺液で尿酸結晶が確認されただけでは感染の除外にはならないー>細菌学的検査が重要であり、臨床的に感染が疑われる場合は細菌学的検査で除外されるまでは経験的治療を行う必要がある)

 

 

・痛風関節炎が疑われる場合でも以前に痛風と診断されていない場合は関節穿刺を行なって診断する必要がある

 

 

・痛風発作や痛風結節などを認めない尿酸値上昇自体は治療の対象でない

(尿酸値上昇が腎障害や心血管障害のリスクを高めるエビデンスが増えてきているが、ガイドラインを変更する程十分ではない)

 

  

・尿酸値降下薬適応

1. 年2回以上の痛風発作

2. 痛風結節を認める

3. 慢性腎臓病ステージ2以上

4. 尿路結石の既往

 

  

・目標尿酸値 6mg/dl以下(痛風結節を認める場合 5mg/dl以下) 

 

 

・目標値達成後は6ヶ月毎に尿酸値をフォローする

(尿酸降下薬導入時は2〜6週間毎にフォロー)

 

 

・アロプリノールは頻度は低いが致死的副作用を有する

(allopurinol hypersensitivity syndrome, 1000人に1人以下の頻度)

 

 

・アロプリノール投与量は腎機能低下時にも安全に増やせる(5)

 

 

 ・尿酸値降下薬開始後は痛風発作のリスクが高まるため発作予防薬を併用する(6)

(コルヒチン0.6mg1日1〜2回あるいはナプロキセン250mg1日1回 6ヶ月間)

 

 

 ・痛風発作治療におけるNSAIDsの中で最も有効なNSAIDsは確立されていない

(インドメタシン、ナプロキセン、セレコキシブが最も多くスタディで使われている)

 

 

・発作時の最初数日間はNSAIDsをfull dose投与し、その後減量して7〜10日間継続する

(例:ナプロキセン500mg1日2回 3日間、250mg1日2回 4〜7日間)

 

 

・発作時のコルヒチン投与法:1.2mg初回投与、1時間後に0.6mg投与、その12〜24時間後に0.6mgを1日2回、発作が改善するまで投与

 

 

・腎機能低下などでNSAIDsやコルヒチンが使用できない時はグルココルチコイドを投与

(例:

単関節炎:メチルプレドニゾロン40-80mg関節内注射

多関節炎:プレドニゾン30-60mg1日1回2日間、2日毎に5〜10mg減量、10〜14日間投与

心不全などの既往がある場合はミネラルコルチコイド作用の少ないデキサメサゾン投与を検討)

 

 

 

 

 

1. Choi HK, Vitamin C intake and the risk of gout in men: prospective study. Arch Internal Med. 2009;169:502-7

2. Choi HK, Coffee consumption and risk of incidient gout in men: a prospective study. Arthritis Rheum. 2007;56:2049-55

3. Choi HK, Antihypertensive drugs and risk of incident gout among patients with hypertension: population based case-control study. BMJ. 2012;344:d8190

4. Schlesinger N, Serum urate during acute gout. J Rheumatol. 2009;36:1287-9

5. Stamp LK, Using allopurinol above the dose based on creatinine clearance is effective and safe in patient with chronic gout, including those with renal impairment. Arthritis Rheum 2011;63:412-21

6. Khanna D, 2012 American College of Rheumatology guidelines for management of gout. Part2: therapy and antiinflammatory prophylaxis of acute gouty arthritis. Arthritis Care Res. 2012;64:1447-61

 

 

 

 

インザクリニック

アナルズオブインターナルメディシン

2016年7月5日

 

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深夜に専門医に電話で相談する時の心得

 

仕事とはいえ真夜中に宅直の専門医に電話をかける事は決して心浮かれる作業ではない。ましてや相手がおっかない医師である場合ならなおさらだ

 

もちろん睡眠を中断させられる側の方が辛いのだが

 

そのストレスを少しでも増幅させないために、せめて相談する側の電話でのプレゼンテーションをマシなものにする必要がある

 

これは研修医の時からの自分の課題である

 

今もまだ良きプレゼンの方法を模索中だが、現時点で大切だと考えている事は以下のことだ

 

 

① 自分が何を相談したいのか明確にする

② 相手が何を知りたいかを想像する

 

 

 

自分が何を相談したいのか明確にする

 

言うなれば当たり前のようだが、自分が研修医の時はこの事も曖昧なまま上司に相談していた事を思い出す。患者の症候やデータを羅列してどうしたらいいかの対応を乞う。いわば丸投げである

 

相談する前に一度自分で具体的に何を相談したいのか問うてみる

 

それが分かっていないと緊張や恐怖でテンパっている事も加担して、いきなりフルのケースプレゼンテーションを始めてしまうのだ

 

「〇〇先生、お忙しいところすいません。相談したい患者がいるのですがよろしいでしょうか。高血圧、2型糖尿病の既往のある62歳男性が胸痛で来院しました。胸痛の性状は~」

 

といった具合に

 

 

まず具体的に何を尋ねたいかを冒頭で伝える

 

たとえば胸痛の患者であれば

 

「入院中に胸痛を発症して急性冠症候群を疑う患者がいます。カテが必要かどうか、必要なら緊急ですべきか、あるいは待機的でいいかの判断をご相談させていただきたく電話させていただきました」

 

これは相手が何を知りたいかにも繋がるが、最初に要点を伝えておく事で相手がその後に続くプレゼンテーションを聞く際の注意点もはっきりしやすくなる

 

 

続けてプレゼンを始めるのだが、相手が何を知りたいかを想像して行なっていく

 

たとえばこの胸痛の患者に関して専門医は何を知りたいだろうかと考えた際に現在の自分が思いつくのは主に以下のようなものだ

 

 

・急性冠症候群と考える根拠

・鑑別疾患の可能性が低いと考える根拠

・緊急でカテをすべき条件を有しているか

・risk stratification

・カテが可能かどうか

・現在の治療

 

 

これらの事項を入れる事を意識しながらプレゼンを行なう

 

 

「77歳男性、腹痛を主訴に来院、CTにて胆嚢壁肥厚を伴う胆石を認め、手術目的に昨日入院。本日深夜0時ごろベッド上安静中に胸痛出現、発症は緩徐、左上腕に放散痛を伴う左胸部全体の圧迫感、発汗、軽度の呼吸困難感を伴いました。症状はニトロ舌下で改善、胸痛持続時間は15分、発症後に採取した最初のトロポニンは陰性、心電図はI, aVL, V3-6でSTがダウンスロープに低下、入院時の心電図と明らかな変化を認めます。胸部エックス線上、気胸・縦隔拡大認めず、悪性疾患や血栓症の既往なく低酸素血症・頻脈も認めません。現在血行動態は安定、心不全を疑う兆候なし、胸痛もなし、明らかな心雑音も聴取せず、洞調律を維持しています。リスクファクターは糖尿、高血圧、喫煙で、年齢、心電図変化よりTIMI score 3点と評価、腎機能低下なく、Full codeで本人はカテも含めて積極的治療を望んでいます。現在の治療はニトロ舌下一回投与後、アスピリン325mg、アトロバスタチン80mg投与、血圧152/84、脈拍78でメトプロロール25mg経口6時間毎で開始し、ヘパリン持続静注を開始しようと考えています。入院時からの絶食を継続、心電図・トロポニンを継時的にフォローしていきます。夜間緊急でカテをする必要はないのではないかと考えていますが、いかがでしょうか。また2剤併用抗血小板剤ですが、房室ブロック等なく、明らかな出血リスクも認めず、朝外科医に胆摘の時期について確認する予定ですが、投与はどうしたらよろしいでしょうか」

 

 

 

 

プレゼンテーションを聞けばその人のレベルが分かると言われるように、これは一朝一夕に上手くなるものではないと考える

 

ましてや経験も少なく先の見通しも分からない研修医の初期の段階で卒なくプレゼンをこなすのは至難の業だと体験をもって実感している

 

少しでも万全に近づくよう準備してからプレゼンしたいと思いつつも、臨床の現場では必ずしもその猶予がない事が多々ある

 

大切なことは今の時点でできる精一杯のプレゼンをして、抜けたり怒られて指摘された事を次回に活かせるようにすればよいのである

 

仮に自分が相談される側だったとしたら、どうやってその判断をするかを症例を振り返りながら学習する

 

この作業を積み重ねていく事によって少しでもマシなプレゼンテーションができるようになる

 

そう自分に言い聞かせつつ今夜も恐怖に震えながらおっかない先生に電話相談させていただくのである

 

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平均在院日数を短くする方法

アメリカの病院で働き始めて最初に驚くのは患者の入院期間が短いことだ

半分以上は入院翌日、少なくとも二日以内には退院している印象である

一週間なんて入院していたらかなり長い感がある

 

科や病院の種類による平均入院日数の違いはあるだろうが、他の国と比べても最も短い部類に入るそうだ

 

保険にからむ経済的な理由による所が最も大きいのだろうが、その目的のために病院全体として良くも悪くも本気で入院期間を短くする努力を行っている印象だ

 

その取り組みの一部として重要だと感じるものにMultidisciplinary conferenceがある

多職種合同で患者一人一人をディスカッションするミーティングだ

以前の職場で行われていたもので、アメリカ全体の事は把握していないが、おそらく多くの病院で行われていると想像する

 

そのミーティングは主に以下のようなメンバーで構成されている

 

リーダー看護師、ケースマネージャー、ソーシャルワーカー、薬剤師、栄養士、理学療法士、言語療法士、病棟医

 

毎朝そのスタッフたちの前で順番に研修医が入院担当患者一人一人の現状、診療方針、今後の見通し、などをプレゼンしていく

 

それに対し患者毎にそれぞれのスタッフの立場から質問、意見、指示が出されていく

 

「退院後のサービスは必要でないか」

「短期リハビリ入所が必要か評価するため理学療法士コンサルトの指示を出してください」

「この薬とこの薬は相互作用があるので変更できないか、腎機能が下がっているので投与量を~に減量してください」

「低栄養状態なので補足の栄養剤を処方してください」

「誤嚥が確認されたので食事形態を~に変更してください」

 

このような多角的アプローチによって診療の質を維持していく

 

このミーティングは患者ケアを向上させる事に貢献しているのだが、ただそれのみでなく研修医のトレーニングの一環としても重要なものであると感じる

 

ややもすると研修医の初期の頃は患者診療のタイムラインの、全体でなく一点のみ、例えば診断や治療選択などにだけ意識が向いてしまう事が起こりがちだが、このミーティングを通して入院から退院、退院後に患者はどこでどのような生活になるか、という流れを学ぶことができる。その流れを把握していないとプレゼンができないからだ

 

そして何よりこのミーティングの良い所は多職種のスタッフと日々顔を合わせられる事だ。病院の規模にも依存することだが、医師は指示を出したっきり現場で何が行われているか分からずとも仕事が進んでいってしまいうる。直接話をしてタイムリーに状況を把握できることで診療プランを修正したり、不適切な指示を減らすことができる。また顔と顔が見える関係をつくることでお互い遠慮しあって診療に役立つ意見が交換しづらいような事が起こるのを減らせる可能性が生まれる

 

 

などと、とても意義あるものなのだが、これは特別アメリカだけで行われているものではないだろう

 

重要な事は、このミーティングが毎朝行われ全ての患者がディスカッションされる、ということだ

 

これには多くの人の時間と労力を要するが、それに見合うだけのものがある印象だ

 

 

このようにmultidisciplinary conferenceは意義あるものなのだが、個人的にはこのミーティングに毎朝研修医として参加する事が、特に最初の頃は、ただただ苦痛であった

 

ミーティングを仕切っているケースマネージャーにつるし上げられるからだ

 

ケースマネージャーというのは、入院中から退院後のケアまでが円滑に進むように全体をコーディネートする役割を担うのだが、多くの場合はもともと看護師だった人がなるポジションだ

 

この立場にある人がミーティング中終始「入院期間を少しでも短くしろ」と鬼の形相で迫ってくるのだ

 

「なんでまだ入院が必要なのか」

「診療になんの進展もないがこの週末はいったい何をしていたのか」

「その検査をなぜ待つ必要があるのか、退院させて外来でできないのか」

「なんでその検査が昨日行われなかったのか、何故その時に検査室に連絡して確認しなかったのか」

「コンサルタントの医師はなぜまだ患者を診ていないのか、連絡したのか」

「午前中の何時までに必ず退院指示を出せ」

「その抗菌薬静注はあと何日必要なのか、それならPICC lineに変えて外来で続けろ」

 

 

退院を決めたり、診療方針を変えたりの最終判断をくだすのは研修医でなく上の医師なので「直接そっちに言ってくれよ」と感じながら、このサンドバッグ状態にひたすら耐えるのだ

 

そのうち慣れて心の中で(知るか、ボケェッ!)と思って穏やかに聞けるようになるまではただただアワアワするしかないのだ

 

と、研修医にとってはあまり心地の良いものではないのだが、でもやはり日々これだけ発破をかけられると、どうしたって入院期間を短くするために努めざるを得なくなるのだ

 

この働きかけが入院期間を短くする事にかなり貢献している印象だ

 

まあ他にもソーシャルワーカーがとても迅速で入院初日からすぐリハビリやナーシングホームが必要そうだと判断したら虱潰しに連絡を取り始める、などと多くの職員が入院期間を短縮しようという意識を共有している感じがある

 

これらはほんの一部なのかもしれないが、入院期間を短くすることに本気で取り組む事が手放しで良い事かどうかは分からないが、自分たちも一緒に生き残っていくためにせざるを得ない事なのだろう。やると決めたら徹底的にやる姿勢は参考にはなると感じる

 

 

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救外より入院依頼を受けてから指示出し,ノート記載を終了するまでの経時的行動

 

ここでの主なコンセプトは入院対応におけるタイムマネージメントである

救急から入院依頼が引っ切り無しに来る場合、とても各所を行ったり来たりしている余裕はない

どこで時間をロスするかを考え、それを減らすための対策を行う

 

例えば 

・入院場所が違う

本当はICUが必要だった、そもそも病院のキャパシティーで対応できない場合、転棟・転送になるともう限りなく時間が消費されてしまう

・入院した後に追加の画像検査などが必要であったと気づく

救外で行えればスムーズであるが、一旦入院してしまうと対応が後手後手になってしまう

・問診の抜け

患者とカルテとの間を行ったり来たりする時間は大きなロスとなる

・患者が来院当日の薬を内服したかの確認

ワーファリンやlong-acting insulinなど入院後いつから開始するかが異なってくるため必要な情報だが、個人的にはこの確認のし忘れを頻回にしでかし、患者のもとに戻らなければならない事が多々ある

 

他にも大小無数にあるが、それらを如何に少なくできるか奮闘している試行過程を記す

 

 

 

 <事前の準備>

自分仕様の情報収集フォーマットを作成し、プリントアウトしてストックしておく 

 

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 枠左上より

 ED:救急医の患者プレゼンの要所を記入

 ED med: 救急外来で投与された薬剤

 HPI:現病歴、 (+):陽性症状、 (-):陰性症状

 Smoke:喫煙歴、 Alcohol:飲酒歴、 Drug:ドラッグ歴

 FH:家族歴・社会歴、 All:アレルギー、 Code:急変時対応

枠右上より

 PMH:既往歴、 Home med:外来薬剤、 Surgery:手術歴

 VS:救急外来バイタルサイン、 Labs:血液検査所見

 CXR:胸部レントゲン写真所見、 EKG:心電図所見

 Work-up:他の検査(CT, 関節液穿刺、髄液検査、・・)

 PE:身体所見

 Med rec:過去の診療録(入院歴、抗生剤選択、培養歴、心エコー、ストレステスト、呼吸機能検査、CT、・・・)

右端

 Problem:プロブレムリスト

 Plan:診療方針

 Trop / Lactic A / 他:経時的にフォローすべきものを記載

 Order:routine order チェック用(code, 安静度, DVT予防, 心電図モニター, 食事, 血液検査, コンサルテーション)

 Order / Med rec / note:routine work チェック用(order, 外来内服薬確認, カルテ記載)

 

 

 

<ERから連絡を受ける>

①ERからのポケベルが入った時点でコンピューターのERチャートを開き、名前を聞いたらすぐに患者カルテを開けるようにしておく

②ERに電話

③名前、性別、年齢を確認、記載しながらカルテを開く

④救急医の申し送りを聞きながら、出来る限りフォーマットを埋めていく

(主症状、陽性・陰性症状、主要検査結果、画像検査結果、心電図、救外投与薬、プロブレムリスト、・・・)

⑤救急医の申し送りを聞きながら同時に行うこと

・救急医の診断を疑うこと(ダブルチェック機能として)

・重症度を想像する(バイタルを確認、外観なども含め印象を確認する)

・緊急性の高い鑑別疾患をあげる(肺血栓塞栓症、大動脈解離、細菌性髄膜炎、septic joint、septic shock、・・・)

⑥電話を切る前に救急医に確認すること

・診断および入院が必要な理由を確認する(特に入院の理由が明らかでない場合)

・入院先を確認(ICUが必要か、NPPVが必要か, 心電図モニターが必要か、病棟で持続静注、頻回のモニターが可能か・・・)

 病院のキャパシティーで対応できるか不明の時は受け入れを保留して確認する

・鑑別疾患に基づき救急外来にて追加検査が必要だと感じた時は救急医の考えを確認する

(細菌培養採取の確認、直腸診、肺動脈CTA(頻脈、低酸素)、頭部CT(アルコール+高度の意識障害)、髄液検査(意識障害+発熱)、腹部CT(尿路感染、血圧低下)、・・・)

 

 

 <患者を診に行く前に診療録より情報収集しプロブレムリストを追加>

①救急外来での情報を追加収集(バイタルサイン、血液検査(採取時間も:troponin, 乳酸値などをフォローする必要がある場合)、画像検査、投与薬剤、・・・) 

②過去の記録より最も近い入院歴および今回と同様の入院歴を確認、退院サマリーに目を通し、ポイントを確認し、過去の診療録欄に記載

(過去の主要内服薬, ポイント:ACS rule out→ストレステスト結果、感染症→培養結果/投与抗生剤、消化管出血→内視鏡結果、・・・)

救急外来でのバイタルサインの異常、検査値異常は基本的にすべてフォーマット右端のプロブレムリストに追加、検査値異常が新たなものか、慢性的なものか過去の情報より確認(腎機能, 貧血, 血小板数, Na, 肝酵素,・・・)、新たなものである場合でそのアセスメントのために追加検査が必要な時はPlanに追加

④過去の心エコーを確認(多量の輸液投与が予想されるとき)、右下の過去の診療録欄に心機能を記載(拡張能障害にも注意)

⑤その他の関連情報を随時収集

 

 

<救急外来へ移動中>

・鑑別診断およびプロブレムリストに基づく問診・診察のポイントを考え、フォーマットにメモする

 

 

<救急外来で患者ベッドおよび心電図を確認>

・救急医から追加情報があるか確認

・心電図をダブルチェック

・必要あれば過去の心電図取り寄せを依頼

・必要時QTcを計算(入院後に抗精神薬投与の可能性がある場合など)

 

 

<患者問診・診察>

①名前を確認、挨拶をし問診を開始

②聞き忘れのないようフォーマットに沿って問診していく

(必要なら現病歴の問う内容で忘れる傾向にあるものをフォーマットに入れておく

発症日時、発症様式、発症時の状況、時間的経過、不変・悪化、症状の性質、改善・増悪因子、強さ、放散性、随伴症状、医療機関受診の有無、検査歴、治療の有無および効果、発症時でなく今来院した理由、過去同様の症状の有無、最後に通常の状態であった事を確認された日時、旅行歴、sick contact、ROS、・・・)

③喫煙歴:

COPDと診断された事があるか・呼吸機能検査の有無を確認、在宅酸素治療の有無を確認、入院後ニコチンパッチを使用するか確認(Planに追加)

④飲酒歴:

Heavy drinkerの場合は最後の摂取日時、過去の離脱症状・痙攣の有無を確認(PlanにCIWA protocolを追加)

⑤ドラッグ歴:

投与経路、過去の離脱症状の有無、Drug rehabに興味があるか、入院中に情報提供を受けたいか確認(Planにopioid withdrawal protocol、social worker / drug abuse consultを追加)

⑥家族歴・社会歴:

・家族歴

虚血性心疾患・悪性疾患・静脈血栓症等は発症年齢を確認、突然死の有無も必要時確認

・社会歴

住居の種類、一緒に暮らしている人、訪問看護の有無、移動時のデバイスの有無(杖, 歩行器, 車いす)、経口摂取の有無および栄養形態、排泄

⑦アレルギー:その時の反応を確認(特に抗生剤の場合)

⑧既往歴:

診断日時も確認(心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症、・・・)、専門医フォローの有無を確認、消化管出血歴、転倒歴、・・・

⑨外来内服薬:

来院当日の服薬の有無を確認(抗凝固剤、抗血小板剤、long-acting insulin、ステロイド・・・)、既往歴にもかかわらず推奨薬剤を服薬していない理由を確認(ACEI/ARB, β遮断剤, 抗血小板剤, 抗凝固剤、・・・)

⑩手術歴:

一般手術歴、冠動脈ステント留置歴 (種類, 日時)、弁置換術 (種類)、最近のストレステスト歴、上部・下部内視鏡歴、悪性疾患治療歴、・・・

⑪身体診察

外観(toxicかそうでないか)、意識レベル(家族・施設の人にベースラインとの違いを確認)、ドライかウェットか評価、カテーテルの確認:ポート, 気切, PEG, 膀胱カテーテル、尿道留置カテーテルは救外で留置されたかの確認(尿路感染症の場合で以前から留置されている場合は最後の交換日時を確認)、褥瘡の有無(治療介入を確認)、・・・

⑫現時点でのアセスメントおよびプランを患者・家族に説明、質問に回答

⑬急変時対応の確認、contactする人および連絡先を確認

 

 

<オーダー>

①問診・診察に基づいて新たなプロブレムおよびPlanをフォーマットに追加

(理学療法士コンサルト(退院時にリハビリ転院が予想される場合)、嚥下機能評価、褥瘡ケアコンサルト、栄養士コンサルト、one to one observation、精神科コンサルト、・・・)

②Routine Orderを入れる(フォーマットをチェックしながら)

(code、安静度、DVT予防、心電図モニター、食事、翌日血液検査、コンサルテーション)

③Planに基づきOrderを追加していく

(輸液、抗生剤、培養、乳酸値フォロー、ステロイド、気管支拡張剤ネブライザー、cycle troponin、翌朝心電図、ストレステスト、静注利尿剤、strict In/Out、体重測定毎日、Hb/Hctフォロー、Mg/Phosフォロー、PPI、発熱時指示、疼痛時指示、嘔気時指示、・・・)

 

 

<外来内服薬確認>

①外来内服薬を確認(薬局に電話で確認)

②入院後各薬剤の継続・中断を決定

(意識レベル、絶食、腎機能、血圧、脈拍、ストレステスト予定、消化管出血、risk/benefit balance等に基づいて)

 

 

<入院時ノート記載>

①アセスメント/プランを最初に書く

(呼び出されて途中で中断したとしても少しでも他のスタッフに考えを伝えるため)

・One linerを書く

(A 71 year-old nursing home resident male with PMH of MI, COPD on 2L, and T2DM who presented with altered mental status was admitted to general ward for UTI)

・基本的にはすべてのプロブレムを挙げる勢いで書く

入院後に患者を全く見ていない別の人が診療を引き継ぐ事を可能にするため

(電解質異常、アシドーシス、血球数異常、褥瘡、糖尿、高血圧、心不全、CKD、慢性心房細動、認知症、慢性疼痛、・・・)

・すべてのプロブレムに自分なりのアセスメントを記載する

・アセスメントが不明な場合は主な鑑別を挙げ、その中で自分が最も疑っているものを明示する

・アセスメントを補足する情報を記載する

(陽性所見、陰性所見、検査結果、ベースラインの値(LVEF, クレアチニン, Hb, ・・・)、外来治療、・・・)

・プロブレムそれぞれに対するプランを書く

(検査、治療法、コンサルテーション、外来内服継続・中断、経過観察、・・・)

・中断した外来内服薬の理由を記載する

②他の必要情報を記載

・現病歴は開いた瞬間に読者の勇気をくじく程長くはしないよう心掛ける

・救急外来経過を記載する(最初のバイタル、意識レベル、主な検査結果、治療薬、専門医コンサルト、経過、診断、入院病棟)

・患者のベースラインの状態を記載(意識レベル、意思疎通、歩行、住居状況、訪問看護、経口摂取、排泄等)

 

<最終チェック>

・ノート記載が終了したら、もう一度オーダーの漏れ、検査日時の間違い等ないか再度確認する

 

 

<心を整える>

どんなに鬼のように忙しくても「イーーーーッ」ってならないように空いた時間は瞑想して次の入院に備える

 

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