レジデントノート

米国にて内科修行中。何ができるか模索している過程を記録していく

在宅高齢者の転倒予防

 

転倒は70歳以降10歳毎にその発生率が2倍に増えていく

 

 

転倒は意図しない傷害による死亡の3番目に高い原因である(1)

 

 

転倒は高齢者の非致死的および致死的傷害の最も多い原因である(2, 3)

 

 

傷害に至らない転倒であっても、機能低下、精神的ストレス、自立の喪失などをもたらし、老年症候群を悪化させうる(4)

 

しかしながら担当医と転倒についての話し合いをもたれる在宅高齢者は4人に1人のみである(5)

 

 

転倒リスクは介入の種類に依存して20〜40%減らすことが可能であることをエビデンスが示している(6)

 

 

医療従事者は転倒に関する一次的および二次的スクリーニングに対する努力を積極的に行い、エビデンスに基づいた適切な指示を提供する必要がある

 

 

 

Risk Factors

リスクファクターは修正可能なものと修正不能なもの、内因性と外因性に分類される(7)

 

転倒における内因性および外因性リスクファクター

内因性

:視力低下、黄斑変性症、緑内障、白内障、遠近調節機能低下、奥行知覚の低下、失明、網膜症

循環:徐脈、頻脈性不整脈、起立性低血圧、非代償性心不全

神経:認知症、Parkinson病、脳卒中、他の運動性疾患、末梢神経障害、歩行障害、バランス障害

泌尿:失禁、夜間頻尿

精神:不眠、睡眠障害、うつ病

筋骨格:変形性関節症、疼痛、下肢筋力低下、姿勢障害、バランス障害、柔軟性低下

 

外因性

薬剤:抗コリン剤、抗うつ剤、向精神薬、鎮静剤、ベンゾジアゼピン、オピオイド、降圧剤、α-and-β遮断剤、抗不整脈薬、4つ以上の薬剤服用

履物:backlessの靴およびスリッパ、ハイヒール、足の背部、土踏まず、あるいはかかとにサポートがない靴、底が重たい、あるいはつま先が狭い靴

環境: 濡れているあるいは滑りやすい床、手すりの欠如、平らでない床、床の敷物、弱い照明、階段の手すりがない、コードなどの通路の障害

 

 

転倒リスクは一つの因子あるいはいくつかの因子の累積によって推定される。独立した転倒リスク因子としては、転倒の既往(likelihood ratio(LR):3)、椅子から腕を使わずに立てない(LR:4)、遅い歩行(LR:2)、動作に問題があることを自覚している(LR:2)、向精神薬使用(LR:20)、認知症(LR:15)、Parkinson病(LR:5)、脳卒中(LR:3)などがある(8)

 

 

 

転倒のおよそ半数が傷害にいたり(9)、10%が重篤な傷害を起こす(4)

 

 

個々の因子および状況因子の両方の存在が転倒による重篤な傷害のリスクを予測する。重篤な傷害には、骨折、関節脱臼、関節内出血、重度の捻挫、頭部外傷による意識喪失および入院、縫合を要する裂創、入院を要するあるいは活動性低下をきたす内部損傷が含まれる(10)

 

個々の因子としては、女性、低体重(body mass index<22kg/m2)、認知機能低下、がある。状況因子としては、階段での転倒、displacing activity(ドアを開けたり、クローゼットに近づく時などの重心を移動させる動作)、身長と同じ、あるいはそれ以上の高さからの転倒、などが含まれる(10)

 

 

転倒に対する恐怖はその神経精神的重大さにて転倒のリスクを高め、機能低下をもたらす(11)

 

 

在宅高齢者で転倒歴のある21〜85%、転倒歴のない在宅高齢者の33〜46%が転倒に対する恐怖を報告している(12)

 

 

機能レベルでは転倒への恐怖は、姿勢の変化、バランスに対する自信の低下、活動を避ける、運動の低下などと関連を認める(13, 14)

 

 

転倒への恐怖自体が将来の転倒の大きな予測因子となる(15)

 

 

精神心理学的には、転倒に対する恐怖をもつ人は比較的に精神衛生が劣り、自立性が低く、健康に対する自己評価が低い 、とされている(16)

 

 

転倒への恐怖が活動性低下を導き、身体機能低下を促進する。この状況を認識することによって医療従事者が患者に対し転倒予防への努力を促し、自信を取り戻させ、結果以前に勤しんでいた活動を再開させることを可能にする

 

 

 

 

評価

 

転倒のスクリーニングはバランス、下肢筋力低下、歩行に関して自覚している情報を得ることから開始する

 

 

American and British Geriatrics Societies(AGS/BGS)のガイドラインでは65歳以上のすべての高齢者に対し一年毎に以下のことを尋ねることを推奨している;過去1年間のうちで2回以上転倒したか、転倒によって怪我をしたか、歩行あるいはバランスによる問題があるか(17)。これらの質問に対し一つでも「はい」と答えた患者ではさらなる評価が必要になる

 

 

 

プライマリケア医が転倒予防手段を取ることを助けるためにCenters for Disease Control and Prevention(CDC)がStopping Elderly Accidents, Deaths & Injuries(STEADI)tool kitを開発している(18)。それによると以下のkey questionsをスクリーニングとして尋ねることを提案している;過去1年間の間に転倒したか、立ったり歩いたりする時に不安定さを感じるか、転倒しないか心配になるか。またCDCは転倒リスクを減らすための介入による利益があるかを評価するスクリーニング質問事項を作成している。この計14点からなる"Stay Indepedent"質問事項は有効性が認められた転倒リスクの自己評価法として高齢者が自分で回答し、外来受診時に担当医が評価するものである(19)。質問事項のスコアが4点以上、あるいはSTEADI tool kitのkey questionsに一つでも該当すれば、患者は転倒のリスクがあるとされ、さらなる評価が必要になる

 

 

Stay Independent questionnaire 

・過去一年の間に転倒したことがある(2)

・杖や歩行器を使う、あるいは使うよう勧められている(2)

・歩行時に時おり不安定さを感じる(1)

・家の中を歩くときに安定のために家具などにつかまる(1)

・転倒するか心配になる(1)

・椅子から立ち上がる時に腕で押し上げる必要がある(1)

・歩道の縁石を上がることが困難な場合がある(1)

・トイレに急いでいく必要がある場合が多い(1)

・足の感覚が鈍い(1)

・内服すると立ちくらみや疲れやすくなる薬を服用している(1)

・睡眠剤や気持ちを安定させる薬を服用している(1)

・悲しかったり抑うつ気分になることが多い(1)

 

 

 

 

 

 

 

ガイドラインでは転倒の既往がある、あるいはなく、バランスや歩行に問題がある高齢者に歩行、下肢筋力、およびバランスの機能的評価を行うことを推奨している(17)

 

 

いくつかのfunctional performance testが転倒リスク評価として利用可能である。しかし、これらの多くは非実用的で多くのプライマリケアにおいては不必要である。したがってAGS/BGSとCDCは、転倒リスクを有し動作に問題のある高齢者を特定するためにTimed Up-and-Go(TUG)test、Thirty-Second Sit-to-Stand(STS)test、Four-Stage Balance testなどのようなシンプルなテストを行うことを推奨している

 

 

TUG testは歩行、バランス、調整、筋力を評価するもので、施行者に特別なトレーニングを必要とせず、5分間で行うことができる(20)。その転倒に対する予測能力と診断の正確性は中等度である(21)。テストを終了するのに12秒以上かかる高齢者は転倒のリスクがあり、20秒以上かかる場合はよりリスクが高くなる

 

  

 

STS testおよびFour-Stage Balance testは迅速で外来ベースで行われる、下肢の筋力およびバランスをそれぞれ測定するスクリーニングツールで、簡単に施行でき、TUG testを補足する有益な情報が得られる(22, 23)

 

 

 

AGS/BGSのガイドラインでは歩行あるいはバランス障害をもつ全ての人に転倒リスクの評価を行う必要があるとしている

 

 

 

Functional Tests

 

Timed Up-and-Go test

Description

運動、バランス、移動能力、転倒リスクを評価する。硬い背もたれの椅子から腕を利用して立ち上がり、10 feet(3m)歩行し、振り返り、戻って来て椅子に座る。普段から使用している場合は補助用具(杖、歩行器)を使って行う

Comments

転倒のハイリスクを示唆するカットオフスコアはpopulationに依存して変わる。特異度(60〜87%)の方が感度(31〜56%)より良い傾向にある

 

Berg Balance test

Description

14項目の客観的指標によって静的バランスを評価する(座る、立つ、移動、近づく、方向転換など)

Comments

このテストは他のテストに比べより時間を要し、実施にトレーニングを必要とする

 

Four-Stage Balance test

Description

静的バランスを評価する。対象者は四つの状態を順次行っていく;parallel stance(両足底が平行な状態で立つ)、semi-tandem(足底が縦方向にずれて立つ)、full tandem(足底が縦方向に一直線にして立つ)、single leg stance(片足立ち)。ゴールは支えなしに10秒間各状態を保持

Comments

一つのスタディでは転倒再発予測に対する感度45%、特異度74%であった。外来にて簡易に行える

 

Thirty-Second Sit-to-Stand test

Description

下肢筋力評価を行う。対象者は座位から腕を使わずに立ち上がる動作を30秒の間にできるだけ多い回数行う

Comments

正常値は性別および年齢に依存し、性別/年齢に基づく正常値を達成できない場合は転倒リスクがあるとされる。 年齢および性別に関わらず転倒予測のカットオフ値を11とした場合の感度は68%、特異度は54%であった

 

Dynamic Gait Index

Description

歩行中にexternal demandsが存在する時のバランス保持能力を評価する

Comments

施行者のトレーニングを必要としない。10分以内に施行可能。スコア19以上で転倒リスク予測の感度が59%、特異度が64%

 

Four-Square Step test

Description

前方、横方向、後方へステップする能力を評価する

Comments

テスト終了に15秒以上を要する場合転倒リスクがあるとされる

 

 

 

Clinical assessment

 

転倒リスクの評価には問題に焦点をあてた身体診察が必要になる。過去の転倒に関する記載は転倒の防止およびマネージメントの要の一つである(24)

 

転倒歴

症状(前駆症状):めまい、たちくらみ、動悸

場所:寝室、トイレ、浴室、屋外

時間: 食後、1日の時間帯、服薬時間との関係

活動:転倒時の状況;歩行時あるいは立ち上がった時

 

身体診察

頭部・眼・耳・鼻・咽頭:視力、周辺視野

循環器:orthostatic vitals、脈拍、リズム、雑音

神経:認知機能、感覚、深部知覚、バランス、運動機能、反射、小脳機能、歩行

精神:うつ病スクリーニング

筋骨格:立位の姿勢、関節可動域(特に下肢、頭部、頸部、体幹)、筋緊張、筋量、足および履物の評価

 

 

 

処方薬剤の評価は転倒リスクの評価における最重要事項の一つである。全ての薬剤について臨床的に必要かどうか再評価する必要がある。4剤以上の薬剤を服薬している事自体が転倒の独立したリスクとなる(25)。抗コリン剤や鎮静作用を有する中枢神経系に影響を持つ薬剤が転倒と最も強い関連を持ち、可能な限り漸減、減量あるいは中断すべきである(26)。これらの薬剤には向精神薬、三環系抗うつ剤、セロトニン再取り込み阻害剤、中枢作用性降圧剤、オピオイド、鎮静剤、非ベンゾジアゼピンおよびベンゾジアゼピン受容体阻害剤などが含まれる(27)

 

 転倒リスクを上げる薬剤

・向精神薬

・鎮静剤

・降圧剤(中枢作用性)

・利尿剤

・抗不整脈薬

・オピオイド

 

 

転倒リスクの評価に基づいて適切な血液検査と画像検査を選択する必要がある。検査にはヘマトクリット、TSH、ビタミンB12、25-hydroxyvitamin D、dual-energy x-ray absorptiometry(DEXA)scanningなどが含まれるかもしれない

 

 

 

 

転倒に対する恐怖を評価

転倒リスクを認める場合、機能低下の原因となる転倒に対する恐怖、およびその程度を評価する必要がある。その場合、long (16-item) or short (7-item) Falls Efficacy Scale-International (FES-I)を使用して評価することが可能である(28)。この評価によって着替え、食事準備、入浴などの日常動作中の転倒に対する本人の懸念を引き出すことができる。これは転倒に関連する機能低下を評価することで医療補助具、home safety評価、作業療法などから利益を得られる高齢者を同定することに有益である

 

 

 

Home safety assessment

機能評価および転倒歴から環境因子に問題がある可能性が考えられる場合は住居環境の改善や作業療法士への紹介が妥当となる(9)

 

Basic Home Safety Recommendation 

玄関:手すり、および適切な階段、適切な照明

台所:よく使用するものを届きやすい場所に配置、滑りにくいマット

トイレ・浴室:滑り止めを備えたマット、手すり、適切な照明

階段:散らかりを除去、手すり、階段の段ごとにカラーストリップを配置する

廊下:散らかりを除去、夜間の照明

 

 

 

 

 

Management

 

転倒予防のための様々な介入方法がある。その中で運動が最も強いエビデンスを持ち、転倒および転倒による傷害を減らすことが確認されている(6, 29)

 

 

転倒による傷害を減らすかどうかのエビデンスは欠如しているが、住居環境の改善も効果的である(29)。住居環境の改善は視力低下をもつようなハイリスクの人により効果をもたらす。住居環境改善は作業療法士によって行われる場合により有効であるようである(6)

 

 

 

中枢神経に作用する薬剤の中止あるいは減量は転倒を減らすことに有効性が認められている(6, 17)。多くの高齢者は薬剤と転倒の関連に無自覚であるが、一度アドバイスを与えられると服用する薬剤の数や用量を減らす提案を受け入れることが多い。リサーチでも高齢者の薬剤に対するそのような態度が確認され、医師からアドバイスを受けると68%が薬剤の使用を減らしたいと思い、92%が薬剤を中止したいと考える、と報告されている(30)。このスタディでは薬剤を減らすことの重要性、および高齢者における薬剤のリスクと害を医師自身が認識すべきことを強調している(27)。最近のリサーチでは高齢者における向精神薬使用減量の主なバリアとなっているのが医師の薬剤中止に対する消極的な姿勢である、と報告している(31)

 

 

Multifactorial intervention

計41596人の参加者を39の介入方法で評価した54のrandomized trialsにおけるcomprehensive systematic reviewおよびnetwork meta-analysis(29)からのエビデンスでは以下の組み合わせの介入が転倒に関する傷害を減らすと報告している;運動と視力評価およびマネージメント(OR, 0.17 [CI, 0.07-0.38])、運動と視力および住宅環境の評価とマネージメント(OR, 0.30 [CI, 0.13-0.70])、clinic-level quality improvement(医師への情報提供)とmultifactorial assessment and managementとビタミンDおよびカルシウム補足(OR, 0.12 [CI, 0.03-0.55])

 

 

 

Interventions for Fall Prevention and Their Evidence Ratings

筋力およびバランスエクササイズ

USPSTF: B AGS/BGS: A(効果的(16 trials))

 

太極拳 

USPSTF: B AGS/BGS: A(転倒のリスク減少(7 trials))

 

住宅環境改善

USPSTF: I* AGS/BGS: A(効果的(6 trials))

 

向精神薬の減量

USPSTF: I* AGS/BGS: B(2 positive trials) 

 

服薬数の減量および用量減量

USPSTF: ー  AGS/BGS: B 

 

起立性低血圧のマネージメント

USPSTF: ー  AGS/BGS: C

 

ビタミンD補足

USPSTF: D  AGS/BGS: B(効果は認められない(13 trials))

 

視力スクリニンーグおよびマネージメント

USPSTF: ー  AGS/BGS: I(Harmful effect in 1 trial)

 

聴力スクリニーングおよびマネージメント

USPSTF: ー  AGS/BGS: ー

 

足・履物のスクリーニングおよびマネージメント

USPSTF: ー  AGS/BGS: C(転倒のリスク減少(2 trials))

 

患者教育のみ

USPSTF: ー  AGS/BGS: D(1 negative trial)

 

carotid sinus hypersensitivityに対するcardiac pacing

USPSTF: ー  AGS/BGS: B(転倒のリスク減少(3 trials))

 

白内障手術

USPSTF: ー  AGS/BGS: B(1 positive trial)

  

multifactorial interventions

USPSTF: C  AGS/BGS: A(転倒の率を減らすがリスクは減らさない(19 trials))

  

AGS: American Geriatrics Society, BGS: British Geriatrics Society, USPSTF: U.S. Preventive Services Task Force

USPSTF Rating: A=recommended with high certainty of benefit, B=recommended with moderate certainty of benefit, C=selectively offer based on professional judgement and patient preference, D=recommended against based on moderate or high certainty of no benefit or that harms outweigh the benefit, I=insufficient evidence, I*=evidence report finding of insufficient evidence/not part of summary recommendation 

AGS/BGS Rating: A=strongly recommended, B=recommended, C=no recommendation, D= recommended against, I=insufficient evidence

 

 

 

 

 

認知症高齢者の転倒予防 

認知機能の低下した人は転倒および傷害のリスクが高いが、多くの介入がこの特定の集団を対象にしては試験されていない。運動は認知機能が軽度から中等度低下した在宅高齢者の転倒リスクを下げる効果があることが認められている(32)。しかし、認知症の人をエクササイズに従事させる時、無気力、抵抗、行動障害などが見られる場合がある。認知症のナーシングホーム居住者で行われたスタディでは日中および午後に下肢筋力の維持にフォーカスした立ち座りを繰り返す単純な動作を行うことによって移動の能力を維持することに効果的であったと報告されている(33)。自宅で暮らす進行した認知症の高齢者では自立した移動(ベッドへの出入り、トイレに座る・立ち上がる、車への出入り、など)を続けることは家で暮らし続けるために重要であり、また単純な運動を続けることよりも達成することが可能であるかもしれない。自宅で暮らすことを希望するが認知症および他の疾患にて転倒のリスクが高い高齢者をケアする家族へのアドバイスとして単純な立ち座りの動作を勧めることは実用的である

 

 

 

 

運動 

strength and balance exerciseは転倒および転倒による傷害予防に最も効果が認められている。そのようなエクササイズが持続されれば、転倒に対する恐怖も軽減できる可能性がある(34)。多くの高齢者は筋力とバランスを改善するためのエクササイズを行なっていない。転倒リスクの高い高齢者では最初の安全なアプローチとして理学療法士の一対一による運動指導を受け、その後準備ができれば地域のエキササイズクラスや家庭内でのエクササイズプログラムに移行していく事が可能である(35, 36)

Otago Exercise Program(35)で行われたtrialsでは、理学療法士や訓練された看護師によってエクササイズが実施された場合、バランスが改善し、転倒および転倒による傷害が35%減少したと報告されている(fall incidence rate ratio [IRR], 0.65[CI, 0.57-0.75], fall-related injury IRR, 0.65[CI; 0.53-0.81])

 

 

 

 

ビタミンDとカルシウム 

ビタミンDは筋力および機能の維持を助ける。しかし臨床ガイドラインによる転倒予防へのビタミンD3(cholecalciferol)投与に関する推奨は一致していない。AGS(17)とSTEADI initiative(18)では、ビタミンD欠乏はよく見られ、補足が安全で高価でないことより、中等量のビタミンD(800〜1000IU)を毎日投与することを推奨している。Cochrane CollaborationではビタミンD投与が全体としては転倒を減らさないが、ビタミンD値が低い場合は減らす可能性がある、としている(6)。U.S. Preventive Services Task Forceは転倒予防のために骨粗鬆症やビタミンD欠乏のない高齢者へのビタミンD投与をもはや推奨していない(37, 38)。この推奨は最近行われた高用量のビタミンD(500000IU/年一回)投与にて評価されたlarge trialの結果、市中在住のリスクを伴う高齢者において転倒および骨折のリスクが増えたことが認めらた、とのエビデンスに基づいている。しかし、多くの転倒リスクを有する高齢者は骨粗鬆症、ビタミンD欠乏、あるいはその両方を持つため、骨粗鬆症の治療を開始する前にカルシウムやビタミンDの値が十分であることを確認する事は重要である。したがってビタミンDの補足(800〜1000IU daily)は臨床的に合理的であり、professional societiesの推奨に一致している(17, 39, 40)

 

 

 

 

股関節プロテクター 

プラスチック製で硬いシールドのものや柔らかいパッドなどの股関節プロテクターが股関節骨折の予防に有効であるかのスタディが行われてきた。高齢者におけるおよそ全て(>99%)の股関節骨折は転倒に起因している。市中在住高齢者に股関節プロテクターを使用した三つのトライアルにおけるcochrane meta-analysisでは股関節骨折のリスクを減らすエビデンスは認められなかった(RR, 1.14[CI, 0.83-1.57])(41)。股関節プロテクターを装着すること自体が受け入れられづらく、体幹下部に装着しはずすことはチャレンジングである。ヘルメットや肘・膝のプロテクターなどの他の保護具におけるはエビデンスはわずか、あるいは欠如している

 

 

 

 

入院患者の転倒予防

入院中の高齢者は転倒のリスクに晒される。過去に転倒歴があり、いかなる理由による認知機能低下(せん妄、認知症)を認める高齢者は転倒のリスクが最も高い。入院患者の転倒による傷害のリスクを高めるファクターは、関節置換術(OR, 5.58[CI, 1.84-16.9])、向精神薬(OR, 2.23[CI, 1.39-3.60])、男性(OR, 2.08[CI, 1.28-3.45])、過去の転倒歴(OR, 2.08[CI, 1.12-3.85])などである(42)

 

入院中の転倒リスクを減らすことが確認された介入は、薬剤マネージメント、そして認知機能が低下していない患者においてはフォローアップを伴う患者教育であった(43)。 multifactorial interventionsが現在のエビデンスで支持されている(44, 45)

 

環境を一つのみ改善することによる利益は認められていない(低いベッド、ベッドサイドの”クラッシュ”マット、ベッドアラーム、床の素材を修正)。さらにはベッドサイドマットは歩行可能な患者においては転倒のリスクを上げる可能性がある。ベッド柵を評価したrandomized trialは行われていないが、それは抑制とみなされ、転倒予防として使用すべきではない

 

 

 

 

骨粗鬆症スクリーニング

転倒リスクのある多くの高齢者が認識されていない骨粗鬆症を認め、転倒による特定のタイプの骨折(股関節など)は圧倒的にこれらの患者に多く見られる。したがって転倒予防の一環として骨粗鬆症のスクリーニングを行う事は臨床上道理的である。スクリーニング方法としては骨密度を測るDEXA scanやFracture Risk Assessment Tool(FRAX)などを利用したclinical risk assessmentがある。U.S. Preventive Services Task Forceは65歳以上の全ての女性、およびリスクを有する65歳以下で閉経後の女性に骨密度を測定することを推奨している。男性のスクリーニングにおけるエビデンスは不十分であるが、一つ以上の骨粗鬆症リスクを持つ場合は検討すべきである(喫煙、androgen-deprivation therapy、過去あるいは現在のアルコール多飲、性線機能不全、コルチコステロイドや抗てんかん薬長期使用、など)。なぜなら男性における股関節骨折による死亡率が高いからである。T-scoreが - 2.5以下、あるいは - 2.5以上だがFRAX scoreがハイリスクを示唆する場合は治療オプションおよび生活習慣改善に関する話し合いがもたれるべきである

 

 

 

 

患者および家族へのカウンセリング

 

転倒に関する問題を自ら医師に相談してくる患者は少ない

 

患者が推奨された事を実行する事を受け入れること、また進んで取り組むことが必要であることを医療従事者側が認識することは重要である。患者がどんな事を行いたいかに関する開けた議論を持つ事は患者とパートナーシップを結んで現実的なプランを作成することにおいて必要不可欠である

 

リサーチでは医療従事者の推奨によって転倒予防の行動に患者が取り組むことを促すことが確認されている(46)。他には、リスクファクターに取り組むオプションを提供すること(コミュニティあるいは家庭でのエクササイズ)、肯定的な変化を推奨すること(以前に勤しんでいた活動に再び従事して自信を取り戻す事)、ネガティブなものの排除(敷物や背が空いた靴など)、生活が良くなる影響や楽しい活動に参加できる機会が増えることを強調すること(エクササイズクラスへの参加によって人とのコネクションが生まれる)、などである

 

歩行や上半身のストレッチ運動は転倒を予防しない事(47)、バランスの改善が転倒予防に必須であること(48)、効果を維持するためにはバランスエクササイズを立位にて少なくとも週3回以上行う必要があること、その効果が出るまでに数ヶ月かかること(50時間以上)(49)などを患者に知らせる必要がある。バランスエクササイズを継続することの重要性はどんなに強調してもし過ぎることはない。そしてのこの年齢群でそれを継続することが難しいことも認識する必要がある(本人や家族の病気、パートナー、兄弟、友人の死などの人生の急な変化によるストレス、など)。医師は受診のたびにエクササイズの状況を尋ねる必要がある。患者に日常のルーチンの中にエクササイズを組み込む事を提案することはエクササイズを長期継続するための実用的な方法である(歯を磨いている時に片足で立つ、など)(36)

 

環境リスクのマネージメントのために、患者と協力して危険な状況を認識すること、家族の協力を得ながら患者が受け入れそうな変化による改善を達成することが推奨される。危険な行動(食料品の入った複数の袋を運ぶこと、階段昇降時に手すりを使わないこと、など)を認識し、可能な方法(食料品の入った袋を一回に一つ運ぶ、建物の入り口で最も進入が容易な入り口を見つける、など)を推奨することも助けになる(50)

 

 

 

 

 

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Annals of Internal Medicine

4 December 2018