レジデントノート

米国にて内科修行中。何ができるか模索している過程を記録していく

甲状腺機能低下症

 

甲状腺機能低下症は甲状腺が末梢組織の需要に見合うだけの十分な甲状腺ホルモンを産生できない状態である

 

原発性甲状腺機能低下症は甲状腺自体の疾患による甲状腺不全を指し、全ての甲状腺機能低下症の99%以上を占める(1)

 

原発性甲状腺機能低下症は基準範囲よりも甲状腺刺激ホルモン(TSH: thyroid-stimulating hormone)が高く、サイロキシン(thyroxine: T4)が低い場合に顕性と定義される。潜在性甲状腺機能低下症は機能不全がより軽度で、TSHが軽度から中等度上昇するが、T4が正常範囲にあるものとされる

 

顕性甲状腺機能低下症の有病率はアメリカでは0.3〜3.7%、ヨーロッパでは0.2〜5.3%である(1, 2)

 

甲状腺機能低下症の有病率は年齢とともに上がり、女性、他の自己免疫疾患を有する、ダウン症候群、ターナー症候群などでより多く認められる(1)

 

潜在性甲状腺機能低下症はより有病率が高く、およそ3〜15%とされている(3)

 

アメリカにおける成人の原発性甲状腺機能低下症の最も多い原因は慢性リンパ球性甲状腺炎(橋本甲状腺炎)、放射性ヨウ素アブレーション、甲状腺摘出術、高量の頭頸部放射線治療などである

 

世界においては地域に起因する重度のヨウ素欠乏が最も一般的な原因である(1)

 

非自己免疫性浸潤疾患(アミロイドーシス、ヘモクロマトーシス)も頻度は少ないが原因となる

 

多くの薬剤が甲状腺機能を障害し、原発性甲状腺機能低下症の原因となる(4)

 

甲状腺機能低下症は3つのタイプの破壊性甲状腺炎の回復期にも一時的に認められる;出産後甲状腺炎、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎

 

中枢性甲状腺機能低下症(二次性甲状腺機能低下症)は甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンと、または甲状腺刺激ホルモンの産生を障害する視床下部あるいは下垂体疾患によって起こる(1, 5)。最もよくみられる原因は腫瘍、手術、放射線治療、出血、感染、浸潤性疾患、外傷性脳損傷、薬剤などである(4, 5)

 

 

スクリーニング

 

リスク

原発性甲状腺機能低下症のリスクが上がるのは、甲状腺ホルモン不全の症状がある、甲状腺腫、甲状腺疾患あるいは治療歴、1型糖尿病、副腎不全、セリアック病、尋常性白斑、などの自己免疫性疾患、などを有する場合である

 

薬剤で原発性甲状腺機能低下症のリスクを高めるものは、アミオダロン、ヨウ素サプリメント、リチウム、インターフェロンα、免疫チェックポイント阻害剤(イピリムマブ、ニボルマブ)、アレムツズマブなどがある(4)

 

中枢性甲状腺機能低下症のリスクを高めるのは、下垂体手術、放射線治療、外傷性脳損傷や、グルココルチコイド、ドパミン、オクトレタイド、ベクサロテン、ミトタンなどの薬剤である(4)

 

 

 

上記のリスクを有する患者をスクリーニングすることは適切である。しかし、すべての人をルーチンにスクリーニングすることは推奨されてない。無症状で軽度の甲状腺機能低下症を診断することおよび治療することに利益があることを示すエビデンスが不十分であるからだ。にもかかわらず特定のスクリニーングの推奨が学会毎に大きく異なっている(1, 6, 7, 8)

 

 

血清TSH測定が甲状腺機能低下症の検知に最も適する方法であり、99%以上の甲状腺機能低下症が原発性であり、TSH上昇が最初の血液検査異常として認められる(1)。中枢性甲状腺機能低下症が疑われる場合は、TSH産生が正常に行われないため血清free T4の測定が適切となる

 

 

 

 

 

診断

 

症状

甲状腺機能低下症の患者が経験する症状は多くが非特異的で、甲状腺機能低下症以外でも起こるものが多い

 

1997年のスタディでは顕性甲状腺機能低下症の患者がよく経験するのは、皮膚乾燥(76%)、寒冷不耐性(64%)、肌荒れ(60%)、眼瞼浮腫(60%)、発汗低下(54%)、体重増加(54%)、感覚異常(52%)、cold skin(50%)、便秘(48%)であるとされた(9)

 

2014年のスタディでは倦怠感(81%)、皮膚乾燥(63%)、呼吸困難(51%)、情動不安定(46%)、便秘(39%)が多いと報告された

 

甲状腺ホルモン不全の程度が上がるにつれて症状の数およびその重症度が上がる傾向があるが、 生化学的値の異常が強い場合でも無症状あるいは症状が軽度である患者も見られる

 

甲状腺機能低下症の患者は精神科疾患と診断され、抗うつ剤、抗不安剤、抗精神科剤などで治療されることが多く見られる(10)

 

高齢者の患者では典型的な症状が少ない傾向で、その世代では倦怠感や衰弱などが最も目立つ特徴がある(11)

 

中枢性甲状腺機能低下症では原発性と症状が同様であるが、視床下部ー下垂体疾患の症状や兆候が認められるかもしれない。腫瘍による症状、他のホルモンの過剰あるいは不全、感染、炎症などである(5)

 

 

 

身体所見

身体所見も同様に非特異的な傾向があり、わずかか、あるいは欠如する場合もある

 

最もよく認められるのは粗い肌、皮膚乾燥、脱毛、眼瞼浮腫、嗄声、動作緩慢などである(9, 12)

 

深部腱反射遅延は典型的身体所見であり、myoedema(筋腫脹)も時折見られる

 

甲状腺腫、あるいは甲状腺摘出後の手術痕なども重要なサインである

 

一般血液検査異常も診断的ではないが、甲状腺機能低下症を示唆するものがある;低ナトリウム血症、大球性貧血、クレアチニンキナーゼ上昇、などがよく見られる所見である

 

甲状腺機能低下症はすべての脂質とリポ蛋白質(総, LDL, HDL, TG, lipoprotein)上昇を伴う混合型高脂血症の原因ともなる(13)

 

閉塞性無呼吸もおよそ30%の顕性甲状腺機能低下症患者に認められたと報告されている(14)

 

 

血液検査 

血清TSH測定が原発性甲状腺機能低下症を最もよく検知する試験である

 

TSH高値はほとんどの場合が原発性甲状腺機能低下症であり、それが正常の場合は甲状腺機能が正常であることを強く示唆する

 

TSHは日内変動があり、午後の遅い時間および夜間に最も高くなる(1)

 

年齢が上がることも、甲状腺機能が正常に見える人の自然なTSH上昇との関連が認められている(15)

 

TSHの上昇が認められれば、free T4とともにTSHを再測定して顕性(free T4低値)あるいは潜在性(free T4正常)甲状腺機能低下症が存在するか評価する必要がある

 

多くの状況では甲状腺機能低下症の患者においてtotal T3あるはfree T3を測定する必要はない。甲状腺機能低下症患者では脱ヨウ素酵素活性によって循環しているT3は比較的よく保たれているからである。したがってT3測定を行ってもTSHとfree T4によって得られる甲状腺機能低下症の重症度に関する追加的な情報が提供されることはない

 

 

抗甲状腺ペルオキシダーゼ(anti-TPO)抗体と抗サイログロブリン抗体の存在は甲状腺機能不全の原因が橋本甲状腺炎であることを示す。しかし成人における甲状腺機能低下症は医原性あるいは薬剤性でない場合はほとんどが橋本甲状腺炎であるため米国甲状腺学会(American Thyroid Association)と米国臨床内分泌学会(American Association of Clinical Endocrinologists)は甲状腺抗体の測定を推奨していない(6)

 

甲状腺超音波検査は橋本甲状腺炎では通常低信号パターンを示す(1)が、触診あるいは他の画像検査によって偶然1つあるいはそれ以上の結節を認める場合以外は甲状腺機能低下症において甲状腺画像検査は推奨されない

 

中枢性甲状腺機能低下症の診断は原発性に比較して難しくなる

 

TSHが低値あるいは正常低値で甲状腺機能低下症症状を認める患者、特に視床下部ー下垂体疾患を有する患者においてfree T4低値が確認されれば中枢性TSH不全が示唆される(1, 5)

 

中枢性甲状腺機能低下症とnonthyroidal illness syndromeを鑑別することは困難である。その場合はtotal T3とreverse T3(RT3)の測定が有用であるかもしれない。TSHは通常両者において低値あるいは正常低値であるが、中枢性甲状腺機能低下症ではT4がT3に比較してより低値であり、RT3も低値である一方で、nonthyroidal illnesssではT3がT4に比べ低値でありRT3が上昇する傾向にある

 

 非甲状腺疾患の回復期にはTSHが軽度に上昇することが見られるかもしれない(16)。もしTSHが軽度上昇している患者で最近病気になったり入院したことがある場合はTSHを6〜8週間後に再度評価する必要がある

 

 

 

 

 

潜在性甲状腺機能低下症

潜在性甲状腺機能低下症ではTSHが上昇しfree T4あるいはtotal T4が正常範囲にある(1, 3)

 

TSH上昇は血清T4濃度が正常より低値であることを示唆する。上昇したTSHが甲状腺を刺激し、代償して適切な量に近い甲状腺ホルモンを産生しようとする

 

潜在性甲状腺機能低下症が顕性甲状腺機能低下症に進展するのはおよそ2〜6% of patients per yearである(3)。進展率は抗TPO抗体陽性(2〜3倍)およびTSHがより高値でfree T4がより低い患者で高くなる(3)

 

TSH上昇が7mU/L以下までの患者の46%までにおいて2年以内にTSHが正常化することは留意しておく必要がある(3)

 

潜在性甲状腺機能低下症は無症状あるいは非特異的症状であることが多い。一つのスタディではTSHが4.1〜9.9mU/Lにある患者942人、TSHが10mU/L以上の患者70人、甲状腺機能正常のコントロール群8334人を比較した結果、health-related QOL scoreが甲状腺機能低下症と正常グループ間で有意差が認められなかった(17)

 

潜在性甲状腺機能低下症はたとえ無症状であっても、冠動脈疾患、心不全、死亡率のリスク上昇と、特に比較的若い患者(65歳以下)でTSHが10mU/Lである場合は、関連がある可能性がある。逆に高齢(65歳以上)で特にTSHの上昇が軽度(<10mU/L)の場合はそのリスクが小さい、あるいはないことをスタディが示している(1, 3)。さらには軽度のTSH上昇は高齢者の機能的利益との関連があることを示すエビデンスもある(18)

 

 

 

 

 

治療

 

Lサイロキシン(LT4: L-Thyroxine)が多くの患者において効果的かつ安全に症状を軽減し生化学値を正常化するため甲状腺機能低下症の治療として選択される(1, 6, 19, 20)。十二指腸で吸収された後、循環に入ったLT4が末梢組織脱ヨウ素酵素によってT3に変換され、その率は各組織の代謝必要量によって制御される(1, 21)

 

LT4投与量は比較的健康な顕性甲状腺機能低下症の成人患者においては1.6mcg/kg/dayである(1, 6, 19, 20)

 

lean body mass(BMIを24〜25kg/m2とした場合の身長から導かれる体重)は実際の体重に比較して投与必要量を推測するより良い指標となる(22)。例えば、67インチ(170cm)で190パウンド(86kg)の女性はBMIが24kg/m2であるとした場合のlean body weightは153パウンド(70kg)となり、彼女のlean mass body投与量(1.6mcg/kg)は112mcg/dとなり、実体重から計算された場合は137mcg/dとなる

 

比較的若い患者で冠動脈疾患の既往がない場合は初回フル投与量によく耐容し、通常甲状腺機能低下症による症状が速やかに改善する

 

LT4治療開始後、TSHは6〜8週間後に測定し、通常6〜8週毎に12.5〜25mcg/d単位で変更してTSHが正常範囲になるように調整する

 

TSH目標値を達成するためのLT4投与量は甲状腺摘出術既往の患者や小児おいて比較的高くなる傾向がある(1)

 

60歳以上の高齢者や冠動脈疾患の既往のある場合は比較的低量のLT4(25〜50mcg/d)から開始し、TSH目標値に到達するまで6〜8週毎に12.5〜25mcg/d単位で調整を行う。急なフル投与や急速に投与量を増やした場合に起こり得る不整脈や虚血性イベントを防ぐ目的でこの低量開始によるアプローチは好まれている(1, 6, 19, 20)

 

LT4は食事摂取の1時間前あるいは4時間後に水とともに摂取される必要がある。また鉄剤、カルシウム、大豆サプリメントから少なくとも4時間ずらして摂取しなければならない。代替としては最後の食事から2〜3時間あけた睡眠前に服用する方法もある(1, 6, 19, 23)

 

もし服用できなかった場合は翌日に2投与量まとめて服用することができ、その後通常量を再開できる。もし2回服用できなかった場合は2投与量を2日間服用し、その後通常量を再開することが可能である

 

 

 

潜在性甲状腺機能低下症の治療適応

軽度の潜在性甲状腺機能低下症の患者は症状が軽度でTSH上昇が少ない場合にはLT4治療によって症状が改善しないかもしれない(1, 3)。高齢者で行われた2つのRCT(65歳以上(24)と80歳以上(25))では軽度の潜在性甲状腺機能低下症に対するLT4治療によって甲状腺による症状あるいは倦怠感の改善が認められず、secondary outcome(血圧、体重、腹囲径、握力)に対する利益も認められなかった。しかし症状が比較的強く、TSHが10mU/L以上であった場合には治療による利益があるようであった(1, 3, 6, 19, 26)

 

潜在性甲状腺機能低下症に対するLT4治療によって冠動脈イベントおよび死亡率を減らすかを評価した十分なRCTが行われていない(1, 3)

 

1つのコホート研究では比較的若い患者では心血管疾患に対する利益が認められたが、高齢者では認められなかったと報告されている(27)。他のスタディでは高齢者の潜在性甲状腺機能低下症に対するLT4治療が死亡率上昇との関連を認めたとも報告されている(28)

 

 

したがってガイドラインでは潜在性甲状腺機能低下症に対する治療は患者毎に決めることを推奨している(6, 19, 26)

 

70歳以下でTSHが10mU/L以上の場合はLT4治療を強く考慮する必要がある

 

70歳以上でかつ、あるいはTSHが10mU/L以下の場合は、症状の有無、甲状腺腫の有無、TSH上昇の程度、TPO抗体、妊娠の希望、心血管疾患リスクファクター、冠動脈疾患、心不全などを考慮に入れて患者毎に決定する必要がある

 

3〜6ヶ月以内に症状に対する利益が明らかにならない場合、あるいは重大な副作用を認める場合は治療を中止する必要がある

 

治療を行わないことを決定した場合は症状およびTSH値を6〜12ヶ月毎にモニターし、症状が出る、あるいは悪化する場合、またTSHが10mU/Lを超える場合は治療を開始する必要がある(1, 3, 19, 26)

 

 

甲状腺ホルモン投与の有害事象は稀で、薬剤が過剰に投与された場合のみに起こりえる。TSH値を抑制するLT4投与は不安、倦怠感、過剰発汗、動悸、振戦、不眠などを起こすかもしれない。慢性的な甲状腺ホルモンの過剰暴露は心房細動および高齢者や閉経後患者の骨粗鬆症による骨折リスクを上昇させる(29)

 

 

 

モニター

甲状腺ホルモン投与を受けている患者では受診毎に甲状腺ホルモン不全あるいは過剰の症状および兆候、薬剤のアドヒランス、併用薬剤、TSH値を評価する必要がある

 

甲状腺機能低下症患者では関連する症状の改善とTSH値が甲状腺ホルモン投与必要量のガイドとなる

 

TSHは正常下垂体機能においては甲状腺ホルモンの状態の最も正確で客観的な指標となる(1, 3, 6, 19)

 

TSHは治療開始後6〜8週毎に評価され、LT4投与量をTSH値が正常範囲になるまで調整する必要がある。その後TSHを3〜6ヶ月後に評価し、以降年に1回測定する

 

TSH値が正常範囲外になる場合はLT4投与量を6〜8週毎に12.5〜25mcg増減してTSHが目標値に到達するように調整する(1, 6, 19)

 

米国におけるTSHの正常範囲は多くのラボで0.45〜4.5mU/Lである

 

LT4治療を受けている患者のTSH目標値を正常下限に設定する治療家もいる。しかしこの治療法は実証されておらず、よくデザインされたRCTで評価された結果、TSH目標値を正常範囲下限に設定する治療は、中央あるいは上限に設定することに比べ、LT4治療を受けている患者の症状または認知機能を改善しないことが確認されている(30, 31)

 

逆に甲状腺摘出後の末梢における甲状腺ホルモン活性のバイオマーカーはTSH値を0.03〜0.3mU/Lに保った場合に術前の値に最も近くなることが報告されている(32)

 

TSHが正常上限あるいはわずかに正常値よりも高い範囲にあることが高齢者(65〜70歳以上)の長寿および良い運動機能に関連する可能性も示唆されている(1, 18)

 

したがってガイドラインではTSH目標値を多くの患者では正常下限におくことをサポートしておらず、70〜80歳以上の患者では4.0〜6.0mU/Lを目標とすることを推奨している(19)

 

 

中枢性甲状腺機能低下症はTSHを正常に産生できないため、LT4治療反応のモニターにTSHを使ってはならない。代わりにfree T4をモニターし正常上限に維持される必要がある(1, 5) 

 

 

 

入院 

粘液水腫性昏睡の治療には入院が必須であり、重度の甲状腺機能低下症で服薬ができない場合も入院が考慮され、LT4が経鼻あるいは静注投与(経口投与量の75%量)される

 

粘液水腫性昏睡は非代償性甲状腺機能低下症としても知られ、甲状腺機能低下症の極度の症状として発症する生命危機に関わる状態である。不適切に治療された、あるいは未治療の甲状腺機能低下症の高齢者に、寒冷暴露、感染、外傷、手術、心筋梗塞、心不全、肺血栓塞栓、脳卒中、呼吸不全、消化管出血、中枢神経抑制剤の使用などの発症を促すイベントが起こった時に発症することが多い(1, 33, 34, 35, 36)

 

最初に報告された当初は粘液水腫性昏睡の死亡率は100%とされたが、適切に治療された場合の予後は大きく改善し、現在の死亡率は0〜45%の範囲にあるとされる(1, 33)

 

診断は主に臨床所見に基づく。最も特徴的な所見は低体温、徐脈、低呼吸である。心嚢液、胸水、腹水、イレウス、尿閉もよく見られる。中枢神経症状には痙攣、昏迷、昏睡が含まれる。深部腱反射は欠如あるいは遅延する。甲状腺機能低下症の皮膚変化および毛髪の変化もよく見られる。甲状腺腫や甲状腺摘出術痕は診断の助けとなる

 

貧血、低ナトリウム血症、低血症、コレステロール上昇、クレアチニンキナーゼ上昇もよく認められる血液検査所見である

 

TSH値は非常に高くなり、T4とT3は非常に低くなることが多い。しかし粘液水腫性昏睡はTSH上昇あるいはT4/T3不全の程度に基づいて診断することはできない

 

 

診断を促進するための粘液水腫性昏睡スコアリングシステムが発表されている

 

Myxedema Coma: Clinical Feature Scoring System

体温

>35℃(0)

32−35℃(10)

<32℃(20)

中枢神経症状

なし(0)

傾眠/嗜眠(刺激で覚醒し、合目的行動も可能)(10)

昏朦(覚醒はしているが浅い眠りに近い状態)(15)

昏迷(強い刺激で覚醒、発語ははっきりしない)(20)

痙攣/昏睡(強い刺激にもほとんど反応がない)(30)

消化器

食欲不振/疼痛/便秘(5)

蠕動運動低下(15)

麻痺性イレウス(20)

起因となるイベント

あり(10)

心血管

心拍≧60拍/分(0)

心拍50〜59拍/分(10)

心拍40〜49拍/分(20)

心拍<40拍/分(30)

他の心電図異常(10)

心嚢液/胸水(10)

肺鬱血(15)

心拡大(15)

血圧低下(20)

代謝異常

低ナトリウム血症(10)

低血糖(10)

低酸素血症(10)

高二酸化炭素血症(10)

GFR低下(10)

粘液水腫性昏睡を促すイベント

寒冷暴露 

感染、外傷、手術

脳卒中

心筋梗塞

肺血栓塞栓

糖尿病性ケトアシドーシス

薬剤(中枢神経抑制)

 

スコア

≦24:粘液水腫性昏睡でない可能性が高い

25〜59:粘液水腫性昏睡の可能性

≧60:粘液水腫性昏睡の可能性が高い

 

 

 

 

初期治療のゴールは欠乏した甲状腺ホルモンプールの急速な補充である。正常では体内に貯留されている総T4量はおよそ1000mcg(500mcgが甲状腺にあり、500mcgが残りの体内にある)である。稀な状態でもあるため異なる甲状腺ホルモン補充法を比較したRCTがない。当施設ではローディング投与として300〜500mcgのLT4を初日に静注投与を行い、以降、経口摂取が可能になるまで経口投与量(服用量あるいは1.6mcg/kg/d)の75%量を1日1回静注投与を行う。LT4静注投与に反応を示さない場合は、5mcgのLT3を4〜6時間毎に静注投与することが考慮されるかもしれない。LT4/LT3混合静注投与を推奨する専門家もいる。比較的低いLT4ローディング投与量(200〜300mcg)と10mcg LT3静注投与を行い、以降LT4 100mcg 1日1回静注投与およびLT3 10mcgを8〜12時間毎静注投与を行う(19, 36)。他の治療にはストレス量のグルココルチコイド投与、バイタル維持および酸素化のサポート治療、発症を促進する状態の治療などが含まれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アナルズオブインターナルメディシン

インザクリニック

2020年7月7日

 

 

 

 

 

 

 

 

全身性エリテマトーデス

 

Systemic Lupus Erythematosus (SLEあるいはループス)は免疫システムが体中の正常な細胞と組織を攻撃することによって起こる病態である。SLEの免疫反応はBリンパ球とTリンパ球の過剰な免疫応答と自己抗原に対する免疫寛容の欠如によって特徴づけられる。抗体産生、免疫複合体の組織沈着、補体とサイトカインの活性化によって軽度の倦怠感や関節痛から生命を脅かす臓器障害に至るまでの範囲にわたる臨床症状が引き起こされる

 

北米での罹患率は10万人あたり23.2人で世界で最も高い(1)

 

SLEは治癒しないが、薬物によってコントロールすることが可能である。米国での年齢調整死亡率は46年の間に24.4%減少し、これは治療の発達と早期診断によるものと考えられている(2)。しかし一般人口に比べ依然SLE患者の死亡率は2〜3倍高い。最も多いSLE患者の死因は腎疾患、心血管疾患、感染症である(2, 3)

 

 

 

診断

体重減少、倦怠感、軽度発熱はよく見られ、関節痛や関節炎を伴うかもしれない

 

SLEの関節炎の特徴は持続する朝のこわばりと軽度から中等度の関節腫脹である。非びらん性で、対称性あるいは非対称性、大関節あるいは小関節のどちらにも認められるうる。多量の関節液貯留が認められることは少なく、関節液も炎症性ではない(4)。関節変形も少ない

 

全身症状を伴う関節痛や関節炎が、SLEに特徴的な顔、頸部、四肢の光過敏性皮疹などを認めない場合は、SLEの診断の前に感染症診断のための評価を行うことが妥当である

 

 

皮膚症状もよく見られ75〜80%の患者で認められる(5)。急性、亜急性、慢性に分類される

 

急性の皮疹は頬部、頭、腕、手、頸部、胸部に現れる硬結性あるいは紅斑性のものである。頬部の皮疹は酒さ(rosacea)、薬疹、多形日光疹などに間違われる可能性があるが、SLEに特徴的な他の臨床症状や血清学的所見があれば皮膚生検が必要になることは稀である

 

亜急性皮疹は痕を残さず、光が当たる場所に出る環状連圏状型(リング状で重なる)、あるいは丘疹落屑型の皮疹からなる。これはanti-SSA抗体とよく関連する

 

慢性皮疹は円板状エリテマトーデスや、ループス脂肪識炎、肥大型エリテマトーデス(特徴的ないぼ状皮疹)、tumide lupus(滑らかで光沢がある赤紫色の丘斑で通常頭や頸部に出る)、凍瘡状エリテマトーデス(青紫の皮疹で手指、足趾、耳などに見られる)などの稀なものが含まれる。円板状エリテマトーデスは最もよく見られる慢性皮疹で瘢痕と色素脱失を残して治癒する硬結性丘斑を特徴とする。急性の皮疹はほぼ全身性ループスと関連するが、円板状エリテマトーデスでは全身症状が稀である(3〜5%)

 

 

 

 

SLEの症状は他にも様々な形で現れる。発熱、皮疹、関節炎が最も古典的な初期症状であるが、標的臓器の急性障害が見られることもよくある(6)

 

血小板減少、白血球減少、リンパ球減少、貧血などの血液所見を認める、血尿、蛋白尿、細胞円柱、血清クレアチニン上昇などの腎所見を認める、咳、呼吸困難、喀血、胸膜痛などの呼吸器所見を認める、頭痛、羞明、局所的神経所見などの中枢神経症状を認める、などが生殖年齢の女性である場合はSLEの可能性を考慮する必要がある

 

 

 

血液所見

血球減少はよく見られ、中等度から重度のリンパ球減少が疾患の高い活動性および臓器障害との関連を認める(7)。溶血性貧血は多くない(8)

 

 

腎所見

腎障害はよく見られる標的臓器障害であり、臓器不全のハイリスクであるため予後が悪い。50%にのぼるまでの患者に腎疾患を認める(9)。透析や腎移植を受けるループス関連末期腎不全患者は他の原因による末期腎不全患者に比べ予後が悪い(10)

 

 

呼吸器所見

あらわれる症状と治療への反応は障害される解剖学的部位に依存して異なる

 

胸膜炎が最もよく見られる呼吸器所見で、30〜50%の患者に認められる(11)。ループス胸膜炎は感染、肺血栓塞栓、肝疾患、心疾患、悪性疾患などの他の原因が除外されて初めて診断される

 

血管性障害は肺胞出血、肺高血圧、血栓塞栓症などの原因となる

 

実質の障害は比較的少なく、間質性肺炎、acute pneumonitis、BOOPなどに起因する場合もある

 

 

神経精神所見

SLEによる神経精神症状は血管障害、自己抗体、炎症メディエーターなどに起因し、頭痛、無菌性髄膜炎、血管炎、運動障害、痙攣、認知障害、精神症状、脱髄疾患、脊髄症、自律神経障害、末梢神経障害などを引き起こす

 

 

眼所見

乾性角結膜炎(シェーグレン病を伴うあるいは伴わない)、角膜炎、上強膜炎、強膜炎、ぶどう膜炎、網膜血管炎、網膜動静脈閉塞、網膜症などが眼所見として認められる可能性がある(12)

 

 

消化器所見

消化器症状としては食欲不振、嘔気、嘔吐、腹痛、下痢などが認められる。SLEにおける他の腹痛の原因としては腸間膜血管炎や肝胆道疾患による場合もある。稀な消化器合併症としては偽性腸閉塞、蛋白喪失性腸症、膵炎などがある。免疫不全を伴うSLE患者ではサイトメガロウイルスやサルモネラ感染による腸炎が起こる可能性もある

 

 

 

 

米国リウマチ学会の診断基準の役割

SLEは多臓器疾患で感染症、悪性疾患、他の自己免疫疾患に類似する

 

1997年にAmerican College of Rheumatology (ACR) のSLE診断基準がアップデートされた。この基準では最もよく見られる臨床所見および検査所見にフォーカスが当てられ診断への系統的アプローチが行われる。診断のためには11の基準のうち少なくとも4つを満たさなければならない。ACR基準は分類を促すことを意図して作成されたとはいえ、客観的な所見に基づきSLEの感度・特異度が高い診断ツールとなっている。しかし軽症は見逃される可能性もある。2012年にSystemic Lupus International Collaborating ClinicsがACR基準をアップデートした。1997年の基準に比べ、感度は上がったが特異度は上がらなかった(13)

 

 

ACR基準(1997年改訂)

・顔面紅斑
・円板状皮疹
・日光過敏
・口腔潰瘍(無痛性で口腔あるいは鼻咽腔に出現)
・関節炎(2領域以上の末梢関節で非破壊性)
・漿膜炎(胸膜炎あるいは心外膜炎)
・腎障害(0.5g/日以上の持続的尿蛋白か細胞性円柱の出現)
・神経学的病変(痙攣あるいは精神症状)
・血液学的異常(溶血性貧血、4000/μl以下の白血球減少、1500/μl以下のリンパ球減少、10万/μl以下の血小板減少のいずれか)
・免疫学的異常(抗ds-DNA抗体、抗Smith抗体、抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント、梅毒反応偽陽性)のいずれかが陽性)
・抗核抗体陽性

 

 

 

 

 

2019年にEuropean League Against Rheumatism (EULAR)がACRと共にSLEの基準をアップデートした。10の領域における22の基準を設け、それぞれ2〜10点の範囲で重きの異なる点数が与えられている(14)。抗核抗体陽性が基準を適応する必要条件となっている事に加え、診断のために計10点以上条件を満たさなければならない。2019年EULAR/ACR基準は診断の複雑性を加え、より臨床試験や診断困難なケースに有用となっている

 

 

 

EULAR/ACR基準(2019年)

エントリー基準:ANA≧1:80倍 (Hep2細胞の関節蛍光抗体法または同等の検査法)

全身症状
 発熱 (38.3℃以上)(2点)

血液
 白血球減少 (<4000/μL)(3点)
 血小板減少 (<10万/μL)(4点)
 自己免疫性溶血(4点)

神経
 せん妄(2点)
 精神症状(3点)
 けいれん(5点)

皮膚
 非瘢痕性脱毛点(2点)
 口腔潰瘍(2点)
 亜急性皮膚ループスまたは円板状皮疹(4点)
 急性皮膚ループス(6点)

関節炎
 2関節以上の腫脹を伴う滑膜炎または2関節以上圧痛と30分以上の朝のこわばり(6点)

漿膜炎
 胸水または心嚢水(5点)
 急性心膜炎(6点)


 蛋白尿>0.5g/24hr(4点)
 Class II or V ループス腎炎(8点) 
 Class III or IV ループス腎炎(10点)

抗リン脂質抗体
 カルジオリピンIgG 陽性またはCLβ2GPI-IgG陽性またはLAC陽性(2点)

補体
 Low C3 またはlow C4(3点)
 Low C3 かつLow C4(4点)

特異抗体
 抗ds-DNA抗体または抗Smith抗体(6点)

 

 

 

 

 

 

 

 

抗核抗体を検査する必要があり、陽性であった場合は抗ds-DNA抗体、Ro/SSA抗体、La/SSB抗体、抗Smith抗体、抗RNP抗体などの抗原特異的な抗核抗体を検査しなければならない。抗ds-DNA抗体のSLEに対する特異度は60%以上である。抗Smith抗体の特異度は90%以上であるが、陽性となるのは30%のみである

 

 

 

SLEの初期検査

血算

直接Coombs試験

総生化学

ESR

CRP

尿検査

血清学試験(抗核抗体、陽性の場合は抗ds-DNA抗体、抗SSA/SSB抗体、抗Smith抗体、抗RNP抗体) 

補体C3/C4

CPK

 

 

 

他の鑑別疾患は

慢性疲労症候群や線維筋痛症は全身性の筋骨格症状を持ちSLEに似るかもしれない。これらの疾患は一次性のものは自己免疫疾患が欠如し、また自己免疫疾患に二次的に発症する場合もある。炎症性疼痛がなく、血清学的に陰性であればSLEを除外できる

 

関節リウマチは強い炎症、びらん性関節炎、リウマチ因子あるいは抗cyclic citrullinated peptide抗体が陽性となるなどの特徴がある

 

プロカインアミド、ヒドララジン、ミノサイクリン、イソ二アジド、TNF阻害剤などの薬剤が薬剤誘発性ループスの原因となり、発熱、漿膜炎、関節炎、皮疹などのSLEに類似した症状を呈する。抗ヒストン抗体が薬剤誘発性ループスのおよそ75%の患者で認められるが、SLEでも陽性となり病理特異的ではない。抗ds-DNA抗体や他の特異的抗核抗体が認められることは稀で、薬剤中止によって数日から数週間で通常症状が軽減する

 

小あるいは中血管炎、血小板減少性紫斑病、ウイルス性関節炎などがパルボウイルスあるいはHIV/AIDSなどでも見られるが、血液検査、ウイルス血清検査、組織検査などで鑑別ができる

 

血液悪性疾患や悪性リンパ球増殖性疾患なども抗核抗体陽性を伴って、貧血、軽度発熱、胸水、リンパ節腫脹などを呈し、SLEと誤診される場合もある

 

 

 

 

 

治療

SLEの治療には多岐に渡る薬剤が使用され、それにはグルココルチコイド、抗マラリア薬、NSAIDs、免疫抑制剤、B細胞標的生物学的製剤などが含まれる。ヒドロキシクロロキンはSLE治療の要となっている

 

グルココルチコイドはSLEの多くの症状の第一選択薬である

 

ループス腎炎の組織学的検査結果に基づいて免疫抑制剤が選択される

 

ベリムマブはBリンパ球刺激因子を標的とするモノクローナル抗体であり、関節症状や皮膚症状を改善する(15)。ベリムマブ皮下投与によってSLEの悪化を減らし、グルココルチコイドの漸減を可能にすることが確認されている(16)

 

 

 

フレアのない安定した患者の治療

ヒドロキシクロロキンや他の抗マラリア薬が悪化を防ぐためSLEの患者に処方される必要がある。フレアを防ぎ、新生児SLEの先天性房室ブロックのリスクを減らすと同時に、ヒドロキシクロロキンは血小板凝集抑制によって抗血栓効果を発揮するため(17, 18)、抗リン脂質抗体や蛋白尿を認め血栓傾向のある患者では特に重要な治療となる

 

 

 

フレアを認める患者の治療

ループス腎炎、肺胞出血、中枢神経血管炎などの重症SLE症状を有する場合は免疫抑制剤とともにグルココルチコイド静注にて治療される。寛解が達成され、必要に応じて適切なsteroid-sparing薬剤が追加されればグルココルチコイドは漸減される。経口プレドニゾンやメチルプレドニゾロンが関節炎、胸膜・心膜炎、皮膚血管炎、ぶどう膜炎に投与される。グルココルチコイドの投与量と投与期間は行われた臨床試験が少ないため症状により臨床経験に基づいて行われている

 

 

 

皮膚症状の治療

皮膚ループスの全てのタイプ(急性、亜急性、慢性)に対し、タクロリムス、R-サルブタモールピメクロリムス、クロベタゾール、ベタメサゾン、光線保護剤などの局所投与が行われることが多い。RCTではSLEの皮膚症状に対するそれらの局所薬の効果はヒドロキシクロロキンやクロロキン全身投与と同等であることが示されている。

 

 

 

関節炎の治療

関節炎の治療には低量のグルココルチコイドと抗マラリア薬が第一選択となる。メトトレキサートも関節炎や皮膚症状に、特に他の全身症状がない場合などによく使用される(19, 20)

 

 

 

腎炎の治療

ループス腎炎の治療は腎生検の組織学的所見に基づいて決められる。クラスI・IIループス腎炎は免疫抑制剤を必要としないが、クラスIII・IVループス腎炎では積極的に使用されて治療される

 

 

寛解導入療法

臨床試験に基づきシクロホスファミドとグルココルチコイド静注の併用がクラスIII・IVループス腎炎における寛解導入療法のスタンダードとして確立している(21, 22)。シクロホスファミドはDNA鎖間架橋を促し、Tリンパ球とBリンパ球の増殖および抗体産生に影響を与えるアルキル化剤である。ミコフェノール酸モフィチルも過去10年間においてループス腎炎の寛解導入治療としての効果が確認されているが、シクロホスファミドとの優越性は確立されていない(23, 24)。2012年ACRガイドラインではクラスIIIあるいはIVループス腎炎の寛解導入治療としてシクロホスファミドあるいはミコフェノール酸モフィチルとグルココルチコイド併用治療が推奨されている(25)

 

 

維持療法

ACRガイドラインはミコフェノール酸モフィチルあるいはアザチオプリンをループス腎炎の維持療法として使用することを推奨している。その目的ではその両剤がシクロホスファミドに比べ優位性が認められている(26)。シクロスポリンのようなカルシニューリン阻害剤が維持療法の代替として使用されるかもしれない。多施設RCTではクラスIVとVのループス腎炎に対するシクロスポリンとアザチオプリンの比較において同等の有効性が認められ、また血圧および腎機能に対しても効果が同等であった(27)。カルシニューリン阻害剤のタクロリムスもまたびまん性増殖性あるいは膜性ループス腎炎の治療に使われる。リツキシマブはBリンパ球膜蛋白質のCD20に対するモノクローナル抗体である。リツキシマブは末梢血のBリンパ球を減少させる。日本とイタリアにおける小さな臨床試験では治療抵抗性ループス腎炎に対するリツキシマブの有効性が認められている(28, 29)

 

 

 

神経精神症状の治療

急性脳血管障害、痙攣、無菌性髄膜炎などの重症なSLEによる神経精神症状は経験的に治療され、グルココルチコイド静注、免疫グロブリン、シクロホスファミドなどが使用される。抗リン脂質抗体症候群の所見と重なるSLEによる脳血管障害所見を認める場合は免疫抑制剤に加え、抗凝固療法も必要になるかもしれない

 

 

 

呼吸器症状の治療

胸膜炎はNSAIDsおよび低量から中等量のグルココルチコイドに反応を示す。免疫抑制剤は治療抵抗性の場合に投与される場合がある。肺胞出血は突発性で予後が悪く、グルココルチコイド静注と免疫抑制剤治療を要する。血漿交換も考慮されるかもしれない。肺高血圧はSLEでは少なく(0.5〜17%)、血管障害、間質性肺炎、in situ thrombosisなどによる二次性のものである場合がある。SLEによる肺高血圧あるいは間質性肺炎に関する大きな臨床試験が行われておらず、治療は経験則に基づいて判断されている。ミコフェノール酸モフィチルとタクロリムスが膠原病における間質性肺炎の治療としてより盛んに使われるようになっている(30)。acute lupus pneumonitisでは高量グルココルチコイドとシクロホスファミドの併用治療が必要となる

 

 

 

眼症状の治療

眼障害の重症度と全身疾患の活動性に依存して治療が決まり、ステロイド外用、眼内ステロイド、抗マラリア薬、NSAIDs、経口あるいは静注グルココルチコイドなどが投与される。強膜および網膜障害があればグルココルチコイドパルス治療、それに続いて1mg/kgプレドニゾンと免疫抑制剤併用が必要となるかもしれない(31)

 

 

 

 

治療を受けている患者のモニター

フォローアップ受診での検査には血算、基礎生化学、尿検査が含まれる。多くの医師が抗ds-DNA抗体と補体C3・C4もルーティンで測定している。しかしこの診療は安定した患者においてはcontroversialである。抗ds-DNA抗体、補体C3・C4は症状を有するSLE患者の活動性評価および治療反応の評価により有効である。薬剤副作用の血液検査によるモニタリングおよびヒドロキシクロロキン服用中の眼科的評価にも注意を払う必要がある。骨粗鬆症予防も考慮し必要に応じて治療薬を処方することが妥当である

 

 

 

入院が必要な患者は?

重篤な合併症を認める場合は入院が必要となる。重度の血小板減少、重度あるいは急性に悪化する腎症、lupus pneumonitisの疑い、肺胞出血、重度の心血管あるいは脳血管障害、などを認める場合がそれに含まれる

 

SLEの主な死因に感染症があり、日和見感染も含まれる。SLE患者で説明のつかない発熱を認める場合は入院による評価および抗菌薬治療を開始する必要があるかもしれない。経験的治療においては黄色ブドウ球菌、緑膿菌、クレブシエラ、大腸菌、アシネトバクターをカバーする必要がある

 

SLE患者における胸痛は冠動脈疾患、漿膜炎、肺血栓塞栓症、食道疾患である可能性がある。SLEは内皮機能不全のリスクを高め、長期のステロイド投与が冠動脈疾患のリスクファクターを増やす(32)

 

SLEによる神経症状には神経精神ループス、感染症、抗リン脂質抗体症候群合併症、高血圧による場合などがある。SLE患者で急性の神経症状を認める場合は入院させ、画像、脳脊髄液、心超音波検査、血液検査による速やかな評価が必要となる

 

 

 

 

 

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インザクリニック

アナルズオブインターナルメディシン

2020年6月2日

 

 

 

 

 

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好酸球性食道炎

 

 

好酸球性食道炎は比較的新たな疾患で最初に認識されたのは1990年代である

 

食物アレルギーによってもたらされ、食道の慢性炎症、線維化、狭窄をきたす(1)

 

悪性疾患に進展する可能性はないと考えられているが、食物が詰まるなどの急性のイベントが起こり、患者はその慢性疾患に適応していくことが困難なことを経験する

 

その病態生理に関する理解が急速に進み、生物学的製剤を含む効果的な治療の発展につながっている

 

好酸球性食道炎は多角的な病態生理をもつ

 

その主要なメカニズムがアレルギーであることが様々なエビデンスによって裏付けられている。小児および成人の好酸球性食道炎において、elemental diet(食物アレルゲンを除去)を与えるとそれぞれ95%および80%の割合で食道好酸球浸潤の改善へとつながる(2, 3)。食物アレルゲンを再導入すると好酸球増多および食道の炎症が再発する

 

食道好酸球浸潤と炎症の発生および維持はII型アレルギー反応に続いておこる。抗原暴露によってTリンパ球がインターロイキン4, 5, 13などの炎症性サイトカインを放出するTh2細胞に変容する(4)。これらのサイトカインが上皮バリアを破壊して抗原の粘膜進入を可能にし、抗原認識に続いて放出されるeotaxin-3が骨髄由来の好酸球を引き寄せる。これらがリンパ球と肥満細胞の引き寄せおよび活性化を起こし、基底層の増殖が促される。好酸球はいくつかのtoxic substanceを有しており、脱顆粒に際して上皮がそれらに暴露される。上皮に対するこの多角的なアレルギー反応が炎症変化を引き起こし、結果線維化へと繋がる

 

 

好酸球性食道炎を罹患する患者は小児期においてアトピー性皮膚炎、喘息、アレルギー性鼻炎などの他のアレルギー性疾患を有していることがよく見られる

 

好酸球性食道炎の素因は腸管内菌叢を変容させるような幼少期のイベントに影響される可能性がある。好酸球性食道炎の患者は帝王切開、人工ミルク栄養、抗菌薬への暴露などの割合が比較的高い(5)

 

好酸球性食道炎の長期的な自然経過はよく分かっていない。比較的新しく認識されたことによるが、15年を超えた臨床経過は不明である。小児の限られたデータに基づく推測では、好酸球性食道炎の小児患者は成人期も罹患が続くと考えられている。しかしいくつかの報告では比較的良性で安定した臨床経過をたどるとされている。これは未治療の成人患者の多くが食道狭窄に進展すると考えられている事とは対照的である。一つの報告では症状を有する成人患者が20年以上未治療であった場合の食道狭窄をきたす割合は85%であるとされている

 

好酸球性食道炎に関する二つの重要な問いがある。どれくらいの罹患率か、なぜプライマリーケア医および内科医が知らなければならないか

 

好酸球性食道炎はよく見られる疾患である。これは認識が高まってきたことおよび罹患率が増えていることに基づいている(6, 7, 8)。デンマークでは罹患率が15年の間に20倍にまで増え、人口10万人あたり2.6人の割合であると報告されている(7)。罹患率は10万人あたり1人から56人の間で、調べられる時期と対象に依存するとの報告もある(9)。内視鏡の臨床適応があった軍人においては好酸球性食道炎の罹患率は6.5%であった一方で、食物嵌頓をきたして受診した患者(特に40歳以下)では好酸球性食道炎の認められた割合が63%にまでのぼった(10)

 

医師が好酸球性食道炎を知っておかなければならない理由は他にもある。最も重要なことはその患者への影響である。死亡や癌などは合併症でないと考えられているが、食物嵌頓、頻回の内視鏡を必要とする事、そのQOLへの影響、などは計り知れないものがある。食物嵌頓は強く合併症と関連し、食道閉塞による誤嚥、自然経過による、あるいは内視鏡治療による食道穿孔などがある。自然に改善する食物嵌頓や嚥下障害もQOLに大きな影響を与える。食べ物が詰まることへの不安、アレルゲンを避けなければならない、軟食、食の変更を要することなどから患者はsocial situationsを避けるようになる

 

 

 

 

診断

 

好酸球性食道炎は人口統計的特徴がある。他のどの人種よりも白人に多く、女性に比べ男性が3〜4倍多い(11)

 

好発年齢のピークは30〜40代であるが、最も若い年齢では1歳、最高では89歳まで報告されている

 

喘息、アトピー性皮膚炎、季節性アレルギー、口腔アレルギー、他のIgE関連症候群などのアトピー性疾患が好酸球性食道炎患者の100%に昇るまで認められることが報告されている(12)

 

他の疾患も好酸球性食道炎との関連が言われている。膠原病、炎症性腸疾患、Ehlers-Danlos and Loeys-Dietz syndrome、 他の自己免疫性疾患、アカラシア、バレット食道、食道閉鎖症、肥大型心筋症などである(13, 14, 15, 16, 17)

 

 

 

好酸球性食道炎の臨床症状は年齢によって異なる

 

小児では症状が変化し、より年少の小児では発育不全、嘔気、嘔吐、年長になると腹痛、胸痛、胸焼けなどがみられる。10代になると狭窄による嚥下障害がより顕著となり成人になっても持続する。成人においてはほぼ100%の割合で嚥下障害が認められる(18)。食道狭窄の結果食物嵌頓がよく見られる症状である

 

 

 

診断はいくつかのガイドラインによって規定されている(19, 20, 21, 22)

 

成人における好酸球性食道炎は食道に関する症状と食道好酸球浸潤を両方認めることで定義される

 

好酸球性食道炎は成人患者の90%以上で嚥下障害を認め、40%以上が他のアトピー性疾患を有し、診断は比較的容易である

 

嚥下障害があれば通常消化器内科へ紹介される。しかし逆流性食道炎も症状、内視鏡所見、組織所見において好酸球性食道炎と重なる部分があり、また併存する場合もある。したがって好酸球性食道炎の診断は臨床判断を必要とし、内視鏡、放射線画像、組織所見が好酸球性食道炎を強く示唆する場合に単独で、あるいは逆流性食道炎と併存するものとして診断される。以前の基準ではPPIに反応する症状と好酸球増多は好酸球性食道炎から除外されていたが、PPIに反応する好酸球性食道炎がその亜型として存在することが確認されている

 

 

診断は内視鏡所見に依存する。初期の頃には線状溝、白斑、粘膜浮腫、輪状溝、狭窄形成などを確認することが基準となっていた。2011年にHiranoらはこれらの各所見の有無および重症度を点数化して内視鏡的スコアリングシステムを作成した。このスコアは広く有効性が確立されている(23)。現在EREFS(Edema of the mucosa, esophageal Rings, eosinophilic Exudates as white specks, linear Furrows, esophageal Stricture )スコアは診断、臨床試験、フォローアップの重要なパラメーターとなっている

 

 

 

 

内視鏡・組織検査の他にも好酸球性食道炎の診断に有用な方法がある

 

バリウム食道造影は内視鏡にて狭窄が確認できなかった場合の補助となる。内径の狭窄が15mmに満たない場合の25%は内視鏡で確認できなかったが、食道造影によって検知されたと報告されている(24)。放射線検査によって障害を認める食道の範囲および腔の内径を記録し重症度を評価することが可能であるかもしれない

 

組織検査に加え、内視鏡および放射線検査による食道の炎症および線維化の評価が好酸球性食道炎のステージングに不可欠である。これらのデータが疾患の重症度、病期、予後、治療の必要性に対する理解を提供する

 

 

 

AGA AGREE conferenceによる診断基準(22)

食道の機能不全による症状

アトピー性疾患の併存が好酸球性食道炎の疑いを高める

内視鏡検査による輪状溝、縦走溝、白斑、狭窄、crepe paper mucosaなどの所見が好酸球性食道炎の疑いを高める

食道生検による15個/HPF以上の好酸球浸潤

好酸球浸潤が食道に限局する

好酸球性食道炎以外で好酸球性食道炎の原因となる、あるいは寄与する疾患の評価

 

 

Summary of European statements and recommendations on management of EoE(20)

年長の小児および成人では、固形食の嚥下障害、食物嵌頓、嚥下に関連しない胸痛などがよくみられ、年少の小児および乳幼児では嘔気、嘔吐、腹痛、胸焼け、胸痛などがよくある症状である

 

内視鏡的に粘膜異常を認める異なる部位から少なくとも6個の生検が行われる必要がある

 

好酸球性食道炎の診断に必要な好酸球の密度は15/HPF以上である

 

組織の評価はヘマトキシリンエオジン染色で可能である

 

好酸球のピーク密度に加え、以下の組織学的特徴も認められるかもしれない;微小膿瘍、基底層の肥厚、上皮細胞間隙の開大、好酸球の表層への集積、乳頭の延長、粘膜固有層の線維化

 

現在のところ、好酸球性食道炎の診断およびモニターにおいて信頼できる非侵襲性のバイオマーカーはない

 

症状は組織学的活動性と必ずしも一致しないため、疾患をモニターするためには組織学的検査を継続する必要がある

 

内視鏡所見のみでは好酸球性食道炎の診断を信頼をもって行えない

 

未治療の好酸球性食道炎は症状および炎症の持続と関連し、食道のリモデリングをきたし、その結果食道の狭窄形成および機能不全をもたらす。抗炎症治療が疾患の進行を抑えるエビデンスも認められている

 

好酸球性食道炎は社会的および精神神経的機能を阻害し患者のQOLを低下させる

 

好酸球性食道炎が前癌状態であるというエビデンスはない

 

 

 

 

鑑別

 

好酸球性食道炎の鑑別疾患の多くは稀な疾患であるが、その中で逆流性食道炎が最もよく見られ、好酸球性食道炎との鑑別が難しい。その理由には食道遠位部の狭窄が比較的高い頻度で見られること、両疾患とも頻度が高くまた併存する場合があること、食物アレルゲンの逆流に食道粘膜が晒されること自体が好酸球性食道炎に直接寄与する可能性があること、などである。したがって食道pHモニタリングや好酸球浸潤の程度や部位を評価するだけでははっきり鑑別することが困難である

 

現段階では個々の患者での所見を総合的に評価することで診断が行われる。たとえば、好酸球食道浸潤を伴う中心性肥満の70歳白人男性がグレードDの食道炎を認める場合は逆流性食道炎による可能性が高く、反対に、20歳の白人男性で固形食の嚥下障害が5年間あり、喘息、鼻炎が併存し、内視鏡所見で食道の浮腫、縦走溝、輪状溝が認められる場合は好酸球性食道炎が考えられる

 

好酸球性食道炎の診断は病歴とともに画像および組織評価を総合して行うことが現在のスタンダードである

 

 

 

鑑別疾患

アカラシア

アレルギー性血管炎

食道クローン病

薬物過敏反応

食道平滑筋腫

移植片対宿主病

好酸球増多症候群

寄生虫感染

類天疱瘡

逆流性食道炎

 

関連疾患

過剰運動症候群

 Marfan syndrome type II

 Ehlers-Danlos syndrome

 Loeys-Dietz syndrome

好酸球性胃炎/腸炎

膠原病

食道閉鎖症

セリアック病

炎症性腸疾患 

 

 

 

 

 

 

治療

 

治療のゴールは合併症の予防、疾患の安定化、線維化の改善である。現在利用できる治療によって線維化の改善が達成できるかは不明である

 

最もよく見られる合併症は食道狭窄である。これは限局的な狭窄からsmall-caliber esophagusと呼ばれる広範囲にわたる狭小化までにおよぶ。遠位部の狭窄は逆流性食道炎あるいは好酸球性食道炎でも見られるが、バレット食道を伴わない近位部の狭窄は好酸球性食道炎によるものである

 

他の合併症には内視鏡的拡張術による、あるいは自然発生する食道穿孔がある(Boerhaave syndrome)(25)

 

2つの感染症が好酸球性食道炎との関連を認める。食道カンジダがステロイド局所投与による合併症として5%にまで起こる(26)。また単純ヘルペスが好酸球性食道炎を合併する、あるいはそれに先行することが報告されている(27)

 

治療の1つのエンドポイントは食道粘膜の好酸球の減少とされてきた。多くのガイドラインで好酸球15/HPF以下の達成を推奨しているが、現在の薬物治療トライアルでは追加のエンドポイントとして6/HPF以下と0/HPFを採用している

 

しかしこれらの数量的エンドポイントは疑問視されてきた。食道好酸球浸潤は均一でなく、生検では少量の粘膜しか採取せず、好酸球数と他の評価による疾患の活動性に不一致を認めるためである。よって治療成功のより相応しいエンドポイントは好酸球数の低下のみならず、EREFSスコアの改善および症状の改善である

 

症状改善のみの指標は組織学的反応の推測と一致しないことが分かっている。これは炎症がコントロールされても残存する狭窄による嚥下障害が持続することからも理解できる

 

炎症性腸疾患と同様に、はっきりした寛解は好酸球の欠如、症状の消失、内視鏡所見の正常化として定義される(28)。残念ながらこれを達成できる患者は10%にすぎない。この新たなエンドポイントに基づき、好酸球性食道炎の治療のゴールは食道好酸球浸潤の改善、適度な食道径の回復および維持、症状のコントロールである

 

 

 

好酸球性食道炎には3"D's":diet、drugs、dilatationによって要約される効果的な治療手段がある

 

Dietは炎症過程を開始させる食物アレルゲンを除去することによる効果の高い治療法である。6-elimination diet(牛乳、グルテン、大豆、卵、ナッツ、シーフード)は75%の割合で効果が認められ、薬物治療と同程度の有効性をもつ(29, 30, 31, 32)。稀に除去の範囲をライ麦、とうもろこし、豆類にまで広げる必要がある患者もいる(32, 33)

 

子供では成分栄養剤で治療される場合もあるが、成人においては全てのアレルゲンが除去されているため非常に効果が高いものの、それが使用されることはほとんどない(3)

 

食事療法の問題は好酸球性食道炎の原因となる多くの一般的な食物を避けなければならないことである(たとえば牛乳とグルテンはおよそ50%で原因となる)。食事療法の簡便性が改善してきており、多くの患者では2あるいは4つの食物アレルゲンを除去した食事で治療されている(34, 35, 36)

 

食事療法の限界は食物アレルゲンを追加あるいは除去する度にその反応評価のために頻回の内視鏡検査を必要とすることである。1つのスタディでは食物アレルゲンの同定のために内視鏡を最大10回まで必要とした、と報告されている(32)。しかしベッドサイドに麻酔科医をおかずに行われる非内視鏡的検査が行われ始めている。orally passed sponge(37)、string testing(38)、あるいは経鼻内視鏡(39)などの単純な内視鏡装置を使用すること、などである。これによって食事療法はより容易になっていく事が期待されている

 

 

 

 

 

薬物治療はプロトンポンプ阻害剤(PPI)あるいはステロイド局所投与によって行われる。高量のPPI1日2回投与を8週間行うことで40〜60%の割合で組織学的寛解を達成できる(40, 41)。低量投与あるいはPPIの速やかな代謝に関連するCYP2C19遺伝子を有する場合は効果が低くなる。PPIが有効である機序は酸抑制以外に抗炎症作用があり、食道のバリア機能を回復させることによる可能性が考えられている(42)

 

 

ステロイド局所投与は60%〜95%の割合で有効性が認められる(26, 43, 44, 45, 46)。好酸球性食道炎に対し現在FDAが承認している薬剤がないため、ステロイド局所投与は喘息吸入薬によって行われるため、投与が面倒である

 

新たに好酸球性食道炎と診断された111人の患者で行われたRCTでは経口粘性budesonide 1mg 1日2回とfluticasone multidose inhaler 800mcg 1日2回が8週間投与で比較検討された(47)。以前の試験ではbudesonideの優位性が示されていたが、両グループにおいて好酸球性食道炎の改善、内視鏡的活動性スコア、症状の改善が同程度に認められた。問題はどのようにステロイドを有効的に服用するかの注意深い指示が必要となることである

 

主にはfluticasoneスプレーとbudesonide液の2つの形状がある。fluticasoneはスプレーを嚥下することで投与が行われ、budesonideは粘液に混入して投与される。両剤とも1日2回投与で食道粘膜との適切で長い接触を保つために服用に対する注意深い指示が与えられなければならない

 

好酸球性食道炎の病態生理に関連するサイトカインに対する生物学的治療も研究が行われている。現在のところ、インターロイキン5および13に対する抗体を利用した生物学的治療のトライアルの結果、将来的な効果が期待されている(48)

 

 

 

 

 

内視鏡的食道狭窄拡張術は多くの成人好酸球性食道炎患者の欠かせない治療法である。拡張術の1つの懸念は食道の線維化が存在するため穿孔のリスクが高いことである。しかし大型施設で行われたsubsequent seriesでは食道拡張術は注意深く行われれば安全で、穿孔の発生率は1〜2%であった(49)。穿孔が起こった場合、多くは保存的に治療され、手術治療あるいはステント留置が必要となるのは1%以下である。患者は適度な食道内腔径を達成するために複数回の拡張術が必要となるかもしれない

 

決着のついていない問いは拡張術は薬物治療の前に行うべきか、あるいは後に行うべきか、というものである。薬剤による炎症のコントロールによって症状の改善、そして穿孔のリスクを下げられることが期待できるかもしれないからである。一般的には頻回の食物嵌頓、体重減少、食事摂取不良などの重度の症状がある場合以外はまず薬物療法から開始する方法が取られる

 

 

 

 

維持療法の役割も鍵となる問題である。以前は薬物治療を8週間行うことが推奨されていたが、成人においてほとんどの場合は再発し、食道狭窄へ進展してしまう懸念より長期的な治療が検討されてきた。食事療法を主に継続したいと望む患者では長期治療を行いやすいが、薬物療法を必要とする、あるいは選択する患者はより慎重に決定される。少なくとも維持療法を受けるべき患者にはその特性がある。治療中止後に速やかに再発する、重度の狭窄(特にsmall-caliber esophagus)、頻回の食物嵌頓などである

 

維持療法のPPIやステロイドの投与量は明らかでない。スタディではbudesonide 0.25mgの投与が食道好酸球浸潤のコントロールに対しプラセボよりも優位であったが、症状では有意差が認められず、12ヶ月以内の再発率は75%であった(50)。したがってより高量の長期治療が提唱されている(28)。同様に寛解をもたらすのに効果的な投与量のPPI治療における12ヶ月の再発率は27%であった(51)。これらの結果より維持投与量は寛解を達成するのに必要な投与量と同じであることが示唆されている

 

理論的に食事療法は寛解をもたらすのに適切なものが長期の維持療法にも効果的であると考えられる。しかし長期のアドヒアランスは、特に多数の食物を避ける必要がある場合は困難である。結果、長期的にはステロイド投与を代替として考慮する必要があるかもしれない。また厳密な食事制限を行ったとしても、それとは独立して環境要因によって疾患が活性化してしまう懸念もある

 

他の問題としては、どのように好酸球性食道炎を長期的にモニタリングするかということがある。治療に対する長期的な反応をどの検査を使ってどのくらいの頻度で行うかに関する明瞭な推奨はない。症状が安定していることだけでは好酸球性食道炎の活動性がないことの証明にはならないというのがコンセンサスである。現在のところ長期的なモニタリングは症状の評価から生検を伴う内視鏡または放射線画像検査にわたって施設毎に異なっている

 

 

 

 

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インザクリニック 

アナルズオブインターナルメディシン

2020年5月5日

 

 

 

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甲状腺機能亢進症

 

甲状腺中毒症(thyrotoxicosis)は血清および組織におけるサイロキシン(T4)、トリヨードサイロニン(T3)あるいはその両方が過剰になることで起こる病態である

 

甲状腺機能亢進症(hyperthyroidism)は甲状腺の活動過剰によって起こる甲状腺中毒症のことを指す

 

 

甲状腺中毒症は甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低い、あるいは検知不能で、血清T4(free or total T4)、total T3、あるいはその両方が正常範囲を超える場合を"overt "(顕性)といい、TSHが低い、あるいは検知不能で、血清T4(free or total T4)とtotal T3の両方が正常範囲内の場合を"subclinical"(潜在性)とされる。したがって顕性/潜在性甲状腺中毒症は臨床症状に関わらず生化学的に定められる

 

 

米国ではおよそ1.2%の人が甲状腺中毒症を有し、その約40%が顕性、60%が潜在性である(1)

 

 

 

スクリーニング

 

甲状腺中毒症のリスクを高めるものは、甲状腺腫、1型糖尿病、他の自己免疫疾患、甲状腺疾患の家族歴、などがある。薬剤でリスクを高めるものには、アミオダロン、インターフェロンα、インターロイキン-2、リチウム、ヨウ化物、ヨード造影剤、チェックポイント阻害剤、アレムツズマブ、がある(2-5)

 

 

スクリーニングすべきか

一般人口に対するスクリーニングは甲状腺中毒症の罹患率の低さより費用対効果が低い(6)。しかし、併存疾患、家族歴、薬剤などによりリスクが高い場合は推奨される。甲状腺中毒症に起因する、あるいは悪化する疾患(骨粗鬆症、心房細動、上室性頻拍、心不全)を有する場合も考慮すべきである。また甲状腺疾患の罹患率が高いことより50歳以上の女性でもスクリーニングが推奨される(6)

 

 

スクリーニング検査は

甲状腺中毒症の最適な検査は血清TSHの測定である。顕性および潜在性甲状腺中毒症の両方でTSHが検知不能、あるいは低くなる。高値あるいは正常高値のT4あるいはT3による下垂体へのネガティブフィードバックが起こるからである

 

 

 

 

診断

 

甲状腺中毒症を示唆する症状は不安、発汗増多、heat intolerance、動悸、倦怠感、体重減少、頻脈、息切れ、下腿浮腫、weakness、眼症状、情緒不安定、頻回の排便などである(7-9)。高齢者ではより軽度ではっきりせず、倦怠感、抑うつ、体重減少、心房細動などの症状が主である場合が多い(7-10)。この表れ方をapathetic thyrotoxicosisと表現される

 

特定の病歴が甲状腺中毒症の原因を示唆する場合がある。眼の痛み、あるいはむくみ、複視、下腿の皮膚症状などはGraves disease(グレーブス病)を示唆する(1, 11)。最近の妊娠は分娩後甲状腺炎である可能性を高める。前頸部の疼痛、倦怠感、発熱、咽頭痛などは亜急性甲状腺炎に特徴的である。アミオダロン、インターフェロンα、インターロイキン-2、リチウム、ヨウ化カリウム、チェックポイント阻害剤(特にイピリムマブとニボルマブ)、アレムツズマブ、最近のヨード造影剤への暴露などは薬剤性あるいはヨード誘発性甲状腺中毒症の可能性が高くなる(2-5)。内密の甲状腺ホルモン服用も考慮しなければならない

 

 

身体診察

甲状腺中毒症によく見られる所見には頻脈、絶対不整な心拍、甲状腺腫、熱感、皮膚湿潤、手指振戦、adrenergic eye signs(眼瞼遅延)などがある(7-9)。グレーブス病ではびまん性甲状腺腫、甲状腺雑音、炎症性/鬱血生眼所見(眼球突出、眼窩周囲浮腫、結膜浮腫、外眼筋機能不全)、前脛骨粘液水腫、甲状腺アクロパチー(軟部組織の腫大と撥指)の特徴的な所見が認められる(1, 11)。中毒性多結節性甲状腺腫あるいは中毒性甲状腺腫は多結節あるいは一つの結節が触れられることによって診断が裏付けられる。発熱や甲状腺圧痛は亜急性甲状腺炎を示唆する(12)

 

 

 

甲状腺中毒症の病歴および身体所見

病歴

 甲状腺中毒症の症状

  体重減少 (61-85%) 

  heat intolerance (55-89%)

  震え (54%)

  動悸 (51-89%)

  不安 (41-99%)

  情緒不安定 (30-60%)

  頻回な排便 (22-33%)

  頸の膨満感 (22%)

  眼の症状 (11-54%)

  息切れ (10-75%)

  体重増加 (2-12%)

  倦怠感 (69-88%)

  発汗過多 (45-91%)

  食欲増大 (42-65%)

 グレーブス病に特異的な症状

  眼のむくみ (報告なし)

  眼の鬱血 (報告なし)

  眼の痛み (報告なし)

  前脛部の皮疹 (報告なし)

 亜急性甲状腺炎に特異的な症状

  頸の痛み (報告なし)

  咽頭痛 (報告なし)

  発熱 (報告なし)

身体所見

 甲状腺中毒症の所見

  腺腫の触知 (69-100%)

  手指振戦 (42-97%)

  adrenergic eye signs(眼瞼遅延) (34-71%)

  皮膚湿潤 (34%)

  頻脈 (80-100%)

  心房細動 (3-10%)

 グレーブス病に特異的な所見

  びまん性腺腫 (報告なし)

  腺腫上の雑音 (報告なし)

  浸潤性眼障害(眼球突出、眼窩周囲浮腫) (報告なし)

  前脛骨粘液水腫 (報告なし)

  甲状腺アクロパチー(報告なし)

 中毒性多結節性甲状腺腫に特異的な所見

  甲状腺結節の触知 (報告なし)

 中毒性甲状腺腫に特異的な所見

  甲状腺結節の触知 (報告なし)

 亜急性甲状腺炎に特異的な所見

  発熱 (報告なし)

  甲状腺圧痛 (報告なし)

 

 

 

血液検査

甲状腺中毒症の診断に最適な検査は血清TSHの測定である。顕性甲状腺中毒症では検知不能であることが多く、潜在性甲状腺中毒症では検知可能であるが低値であることが多い。どちらの場合でもfree T4あるいはtotal T4(free T4が測定できない場合)を測定する必要がある。free T4あるいはtotal T4が正常である場合は、total T3を測定しなければならない。T4 が正常でT3が上昇している場合があるからだ(T3 toxicosis)。利用できる検査法でのfree T3の測定が不正確なため推奨されない

 

甲状腺中毒症が診断されたら、その原因を特定する必要がある。身体所見がグレーブス病を強く示唆する場合(びまん性腺腫、腺腫上の雑音、浸潤性眼障害(眼球突出、眼窩周囲浮腫)、前脛骨粘液水腫、甲状腺アクロパチー)はさらなる検査は不必要である(1, 11)。原因が不明である場合は追加の試験を行わなければならない

 

甲状腺結節あるいは圧痛が認められない場合は血清thyrotropin receptor antibodies (TRAbs) の測定が推奨される(1, 11-13)。もしTRAbが陽性の場合は通常グレーブス病の診断となり、さらなる検査は必要ない。TRAbのグレーブス病に対する感度は96-97%、特異度は99%である(11)が、亜急性甲状腺炎でも弱く陽性になる場合がある

 

甲状腺結節がある、あるいはTRAbが陰性または弱く陽性の場合はradioactive iodine uptake (RAIU)試験および甲状腺スキャンを行う必要がある(1)

 

甲状腺機能亢進症(RAIUが上昇あるいは正常の甲状腺中毒症)は通常グレーブス病、中毒性多結節性甲状腺腫、中毒性甲状腺腫のうちのいずれかが原因である。甲状腺スキャンによってこの3つの病態を鑑別することができる(1)。アイソトープの取り込みがびまん性の場合はグレーブス病、斑状の場合は中毒性多結節性甲状腺腫、1つの結節に取り込まれ、他の組織への取り込みが抑制されている場合は中毒性甲状腺腫である

 

 

TRAbが陰性でラジオアイソトープ検査が禁忌あるいは望ましくない場合(妊婦や授乳中、患者の希望など)はカラードップラを用いた甲状腺超音波検査、thyroid-stimulating immunoglobulin、thyroid peroxidase antibody、thyroglobulin、human chorionic gonadotropin、血沈、24時間尿中ヨウ素排泄量の測定、全身性放射性ヨウ素スキャンなどの他の検査を考慮する必要がある(1, 13) 

 

特にアミオダロン誘発生甲状腺中毒症(amiodarone-induced thyrotoxicosis (AIT))は正確に診断し治療することが難しい(14)。type 1 AITはアミオダロン中に含まれる高量のヨウ素によって起こるものである。これは典型的には既に甲状腺結節を有している患者に起こる。type 2 AITはアミオダロン誘発生甲状腺炎である。type 1 AITを示唆する所見は身体所見や超音波で認められる甲状腺結節、ドップラでの血流増量、低いが検知されるRAIUなどである。type 2 AITを示唆する所見は身体所見や超音波で正常所見、ドップラでの低い血流、欠損あるいは非常に低いRAIU、インターロイキン6の上昇などである(14)

 

 

 

 

検査(適応)

 

TSH:甲状腺中毒症を疑う場合

free T4:TSHが抑制されている場合

total T3:TSHが抑制されていてfree T4が正常の場合

thyroglobulin:甲状腺炎(亜急性、分娩後、無痛性)が疑われる場合

血沈:亜急性甲状腺炎が疑われる場合

TRAb:甲状腺中毒症の鑑別(グレーブス病で陽性)、euthyroid Graves orbitopathy、グレーブス病治療による寛解を評価する時、グレーブス病罹患妊婦の新生児リスクを評価する場合

thyroid peroxidase antibody:橋本甲状腺炎や自己免疫生甲状腺疾患(グレーブス病も含む)の確認、薬剤誘発生甲状腺機能障害のリスクや分娩後あるいは無痛性甲状腺炎を評価する場合

thyroid hormone antibody (anti-T4 and anti-T3 antibodies):橋本甲状腺炎の患者で甲状腺ホルモンとTSHの結果が不一致の場合(free T4とtotal T3が偽性に高い)

RAIU:甲状腺中毒症でTRAbが陰性あるいは甲状腺結節が触知される場合

甲状腺スキャン:甲状腺中毒症でRAIUが正常あるいは上昇している場合

甲状腺超音波:甲状腺結節の存在、type 1とtype 2 amiodarone-induced thyrotoxicosisの鑑別

カラードップラ超音波:type 1とtype 2 amiodarone-induced thyrotoxicosisの鑑別

全身性スキャン:卵巣甲状腺腫や機能性転移性濾胞癌の確認

human chorionic gonadotropin:妊娠、妊娠甲状腺中毒症、妊娠悪阻、絨毛癌、奇胎妊娠、精巣腫瘍

 

 

 

 

 

感染、sepsis、不安、うつ、慢性疲労、心房細動、褐色細胞腫などでは甲状腺中毒症に似た臨床像を示す場合がある。甲状腺ホルモンの測定によって甲状腺中毒症とこれらの病態を鑑別できることが多い。しかし、正常妊娠、妊娠性甲状腺中毒症、妊娠悪阻、非甲状腺疾患、中枢性甲状腺機能低下症、特定の薬剤(グルココルチコイド、ドパミン、bexarotene、mitotane、メトフォルミン、ヘパリン)などではTSHが低く、free T4が正常あるいは低い場合がある(1, 2)

 

 

 

 

 

甲状腺中毒症の鑑別

 

free T4上昇・TSH抑制

グレーブス病:TRAbが陽性、RAIUが上昇あるいは正常、均一な甲状腺スキャン

中毒性多結節性甲状腺腫:RAIUが上昇あるいは正常、不均一な甲状腺スキャン

中毒性甲状腺腫:RAIUが上昇あるいは正常、一箇所の”hot focus”と他の部位が抑制された甲状腺スキャン

亜急性甲状腺炎:低いRAIU、甲状腺スキャンで取り込みが見られない、血沈上昇、高thyroglobulin値、甲状腺機能低下が続いて起こる可能性

分娩後・無痛性甲状腺炎:低いRAIU、甲状腺スキャンで取り込みが見られない、高thyroglobulin値、甲状腺機能低下が続いて起こる可能性

内密な・医原性甲状腺ホルモン摂取:低いRAIUと低thyroglobulin値、L-thyroxineあるいはliothyronineの摂取かもしれない

チェックポイント阻害剤治療:チェックポイント阻害剤使用歴、RAIUは上昇、正常、低下のいずれでもあり得る

アレムツズマブ:アレムツズマブの使用歴、RAIUは通常上昇、均一な甲状腺スキャン

卵巣甲状腺腫:頸部での低いRAIU、全身性スキャンにて骨盤部の取り込み上昇

TSH産生下垂体腫瘍:TSH正常あるいは上昇、RAIU正常あるいは上昇、α-subunit level上昇、MRIにて下垂体腫瘍の存在

妊娠性甲状腺中毒症:human chorionic gonadotropin上昇、TRAb陰性、核医学検査禁忌

妊娠悪阻:human chorionic gonadotropin上昇、TRAb陰性、核医学検査禁忌

絨毛癌、奇胎妊娠、精巣腫瘍:human chorionic gonadotropin上昇、TRAb陰性、RAIU上昇あるいは正常、均一な甲状腺スキャン

アミオダロン誘発性甲状腺中毒症:type 1(ヨウ素誘発生)とtype 2(甲状腺炎)の二つのAIT、 TRAb陰性、低いRAIU

機能性・転移性濾胞癌:多くの患者で甲状腺摘出術の既往、頸部の低いRAIU、全身性スキャンにて転移部の取り込み上昇

McCune-Albright syndrome:TRAb陰性、RAIUが上昇あるい正常、均一な甲状腺スキャン

 

正常あるいは低free T4・TSH抑制

潜在性甲状腺中毒症:free T4正常、RAIUは上昇あるいは正常

最近の甲状腺中毒症:甲状腺機能亢進症の治療後

正常妊娠:human chorionic gonadotropin上昇、TRAb陰性、核医学検査禁忌

中枢性甲状腺機能低下症:TSHは低い、あるいは正常、free T4は低いかもしれない

甲状腺炎からの回復:TSHは低い、正常、上昇のいずれでもあり得る

非甲状腺疾患:TSHは低い、正常、上昇のいずれでもあり得る

コルチコステロイド治療:TSHの抑制

ドパミン治療:TSHの抑制

mitotane治療:TSHの抑制、副腎腫瘍治療

bexarotene治療:TSHの抑制、菌状息肉腫治療

 

 

 

 

 

 

治療

 

非薬物治療

コントロールされていない甲状腺中毒症患者ではストレスのかかる身体活動、カフェイン摂取を減らすあるいは中止、禁煙、ヨウ素摂取を避ける(昆布、ヨウ素サプリメント、ヨード造影剤)、ホルモン検査に干渉をおこすビオチンサプリメントを避ける、などに留意しなければならない(1, 2, 15)

 

 

薬物治療

βブロッカーは症状を有する如何なる原因の甲状腺中毒症患者においても投与することができる(1, 16)

 

米国ではmethimazoleとpropylthiouracil (PTU)が2つの抗甲状腺薬として利用できる。carbimazoleはヨーロッパ、アフリカ、アジアの一部で利用可能である。抗甲状腺薬はグレーブス病、中毒性多結節性甲状腺腫、中毒性甲状腺腫の患者において甲状腺ホルモン生成を阻害し、比較的速やかに甲状腺ホルモンレベルを下げる(1, 16-18)。これらの薬剤は通常他の甲状腺中毒症では有効ではない(1)

 

methimazoleはPTUより効果が強く(1, 16-18)、より少ない投与回数となり(1日1回あるいは2回)、またPTUの肝毒性リスクが高いこともあって、より好まれる。methimazoleの開始量は最初のfree T4値に依存する。free T4が正常上限の1.0ー1.5倍の時は5ー10mg 1日1回、free T4が正常上限の1.5ー2.0倍の時は10ー20mg 1日1回、free T4が正常上限の2.0ー3.0倍の時は30ー40mg 1日1回あるいは2回分割投与する(1, 18)

 

グレーブス病において推奨されるmethimazoleの投与期間は12ー18ヶ月、それ以降は患者が無症状でTSH正常、TRAbが陰性の場合は漸減あるいは中止する(1, 18)

 

寛解率はおよそ50%であるが、より長い治療(〜5年)は寛解率をより高めるかもしれない(19)。最初にTRAbが陽性であった患者が治療の終了時に陰性である場合は寛解の可能性をより高め、TRAbの陽性が続く場合はmethimazoleを中止すると再発する可能性が高くなる(1, 20, 21)。同様にmethimazoleの投与にもかかわらずTSHの抑制が持続する場合は薬剤中止時に再発する可能性が高くなる(1, 20, 21)。TRAb陽性またはTSH抑制が持続するため、あるいは薬剤中止によってグレーブス病が再発するためにmethimazole治療を中止できない場合は、radioactive iodine (I-131) ablationまたは甲状腺切除術が推奨される。患者が好む場合の代替として長期のmethimazole低量(10mg/日以下)投与が行われる場合もある(1, 22, 23)

 

抗甲状腺薬は中毒性多結節性甲状腺腫および中毒性甲状腺腫患者の甲状腺ホルモンレベルを効果的に下げるが、寛解を促進しない(治療中止後に甲状腺機能亢進症が再発する)。したがってこれらの病態ではI-131治療や甲状腺切除術が第一選択治療として好まれる。にもかかわらず、長期低量methimazole投与が患者によっては妥当となる場合もある(1)。I-131治療や甲状腺切除術前に、甲状腺機能亢進症のコントロールおよび治療後のthyroid stormのリスクを減らすためにmethimazoleが投与されることが多い(1)

 

抗甲状腺薬の軽度の副作用には皮疹や肝酵素値上昇がある

 

PTUは重度の肝細胞壊死による肝不全をきたす可能性があるため(24, 25)、FDAはアレルギーがある、あるいは妊娠初期で投与できない場合を除いてはmethimazoleを投与することを推奨している(1, 16-18)

 

無顆粒球症は、生命を脅かす状態であるが、いずれの抗甲状腺薬服用中の0.2ー0.4%の患者でおこる(1, 26)。ほとんどは開始後数ヶ月以内に発症する。methimazoleの高量(40mg/日以上)投与でより起こりやすいが、PTUでは投与量に依存しない(1)。無顆粒球症は薬剤中止で改善することが多いが、気づかれず薬剤が速やかに中断されない場合は持続し、骨髄特異的治療を要する場合もある。PTUはANCA陽性血管炎の原因となる場合もある(27)

 

methimazoleは妊娠初期に投与されると、先天性皮膚形成不全、後鼻孔閉鎖症、他の先天性異常との関連が認められている。PTUも同様の先天性異常が報告されているが、比較的頻度は少ない(1, 28, 29)

 

 

 

無顆粒球症の症状(発熱、咽頭痛)や肝障害(黄疸、濃い尿、掻痒感、腹痛、嘔気嘔吐)あるいは血管炎(倦怠感、関節痛)を示唆する症状を認める場合は速やかに医療提供者に知らせるように患者に伝えておく必要がある(1, 16-18)。その時は血算、肝酵素、血沈をオーダーし、重度の副作用が確認された場合は抗甲状腺薬を中止しなければならない(1)。しかし、抗甲状腺薬による副作用が疑われない場合は血算や肝酵素のルーチンのモニターは推奨されていない

 

 

type 1 AIT(ヨウ素誘発性)は通常methimazoleで治療され、type 2 AIT(甲状腺炎)は経口グルココルチコイドで治療される。type 1とtype 2がはっきりしない場合はmethimazoleとグルココルチコイドが併用される場合もある(14)。これらの薬剤の高量投与にもかかわらず治療抵抗性を示す場合は甲状腺切除術が効果的な治療選択となる(30)

 

 

 

 

 

甲状腺中毒症治療薬

 

propranolol

機序:βブロッカー

投与量:60-80mg 4時間毎

有利点:T4からT3に変化することをブロックする(高量)

副作用:心不全や喘息の悪化の可能性

ノート:thyroid stormでは心不全に対する侵襲的なモニターを考慮

 

atenolol

機序:βブロッカー

投与量:50-100mg 12-24時間毎

有利点:1日1回投与が可能

副作用:心不全の悪化の可能性

ノート:合併症のない甲状腺中毒症のみ

 

metoprolol

機序:βブロッカー

投与量:50-100mg 12-24時間毎

有利点:1日1回投与が可能

副作用:心不全の悪化の可能性

ノート:合併症のない甲状腺中毒症のみ

 

esmolol

機序:βブロッカー

投与量:250-500mcg/kg iv loading dose, 続いて50-100mcg/kg/min持続投与

有利点:速やかな調整可能

副作用:集中的なモニターを要する

ノート:thyroid stormのみ、心不全患者では侵襲性モニターを考慮

 

methimazole

機序:抗甲状腺薬、甲状腺ホルモン生成阻害

投与量:free T4正常上限1.0-1.5倍: 5-10mg 1日1回、free T4正常上限1.5-2.0倍: 10-20mg 1日1回、free T4正常上限2.0-3.0倍: 30-40mg 1日1回あるいは2回分割

有利点:ー

副作用:無顆粒球症(0.2-0.4%), 胆汁鬱滞性黄疸(<0.2%), 妊娠初期の投与で先天性欠損

ノート:効果発現の遅延の場合、thyroid storm時は高量(20mg 4時間毎、PTUの方が好まれる)

 

PTU

機序:抗甲状腺薬、甲状腺ホルモン生成およびT4からT3への変化を阻害

投与量:50-150mg 1日3回

有利点:T4からT3への変化をブロック

副作用:無顆粒球症(0.2-0.4%), 肝炎(<0.2%), 血管炎, 妊娠初期の使用で先天性欠損(methimazoleより少ない)

ノート:効果発現の遅延の場合、thyroid storm時は高量(600-1000mg load、 続いて200-250mg 4時間毎、PTUの方がmethimazoleより好まれる)

 

I-131

機序:ヨウ素を介する甲状腺組織の破壊

投与量:10-30mCi

有利点:2-3ヶ月で甲状腺ホルモン減少

副作用:一時的な甲状腺中毒症の悪化、甲状腺眼症の悪化の可能性

ノート:妊婦では禁忌、中等度から重度の甲状腺眼症では避ける

 

Iopanoic acid

機序:T4からT3への変化の阻害

投与量:500-1000mg 1日1回

有利点:T4からT3への変化をブロック

副作用:ヨウ素がクリアになるまでI-131の使用できない

ノート:抗甲状腺薬の前に使用してはならない、thyroid stormで抗甲状腺薬開始1時間後まで開始してはならない

 

ヨウ化カリウム(SSKI, Lugol solution)

機序:甲状腺ホルモン放出阻害

投与量:5 drops 1日4回

有利点:投与が簡易

副作用:ヨウ素アレルギー(本当のアレルギーは稀)、ヨウ素がクリアになるまでI-131の使用できない

ノート:抗甲状腺薬の前に使用してはならない、甲状腺切除術前の準備およびthyroid stormの治療

 

NSAIDs

機序:抗炎症作用

投与量:ー

有利点:ステロイドに比べ副作用少ない

副作用:消化菅刺激

ノート:亜急性甲状腺炎のみ、naproxen, ibuprofen, あるいは他のNSAIDsが投与可能

 

hydrocortisone

機序:T4からT3への変化を阻害、抗炎症作用

投与量:300mg  iv loading, 続いて100mg 1日3回

有利点:併存する副腎不全および血管運動不安定性を治療

副作用:高血糖

ノート:thyroid stormでは300mg  iv loading, 続いて100mg 8時間毎

 

prednisone

機序:抗炎症作用

投与量:40-60mg/日

有利点:亜急性甲状腺炎における速やかな疼痛の改善

副作用:クッシング症候群

ノート:亜急性甲状腺炎およびtype 2 アミオダロン誘発性甲状腺中毒症のみ

 

lithium

機序:甲状腺ホルモン放出抑制

投与量:300mg 1日4回

有利点:補助的治療

副作用:神経、腎、消化管、心臓

ノート:濃度をモニターする必要、thyroid stormでは投与量を調整

 

cholestyramine

機序:消化管で甲状腺ホルモンに結合

投与量:1-2g 1日2回

有利点:補助的治療

副作用:消化管

ノート:ー

 

血漿交換

機序:T4/T3を循環血漿から除去

投与量:1-2回

有利点:補助的治療

副作用:ー

ノート:thyroid stormあるいは手術前

 

 

 

  

 

I-131 ablation

I-131 ablationはグレーブス病の他の主要治療の1つである。効果と安全性が長く確認されており、グレーブス病において抗甲状腺治療薬で寛解しない患者の良い第2選択治療となる(1, 16)

 

グレーブス病の患者は甲状腺機能低下症となるほど十分な量のI-131を投与されるべきで、通常およそ10ー15mCiの固定量、あるいは腺の大きさとRAIUによって算出された投与量となる(1, 16)

 

グレーブス病患者のおよそ90%がよく反応を示し、投与3−6ヶ月後に甲状腺機能低下症となる。この間free T4とTSHは定期的にモニターされる必要があり、それによって甲状腺機能低下症を速やかに検知し、治療開始することができる(1, 31)

 

妊娠はI-131 ablationの絶対禁忌となる(1, 29)。ラジオアイソトープが胎児の成長している甲状腺を破壊するからである

 

また授乳中、甲状腺癌の診断あるいは疑いがある、重度の甲状腺眼症を有する場合なども禁忌となる(1, 29)。甲状腺眼症の悪化はI-131治療の合併症としてよく知られている(32, 33)

 

 

悪性疾患のリスクが研究されているが、以前の2つのスタディではI-131治療後いかなるタイプの悪性疾患のリスク上昇も認められなかった(34, 35)。続く18805人の患者において行われたスタディでは以前のI-131治療と女性の乳癌を含むすべての腫瘍による死亡との関連が小さいながらも認められた(36)

 

 

 

 

甲状腺切除術

 

甲状腺切除術はグレーブス病で抗甲状腺薬によって寛解を得られない患者、中等度から重度の甲状腺眼症、難治性AITなどの場合は主要選択治療として考慮される(1, 30)。甲状腺切除術はまた甲状腺機能亢進症で悪性の可能性のある甲状腺結節を有する患者、他の治療法に耐容できない、あるいは希望しない患者、妊娠後期で抗甲状腺薬によって甲状腺機能亢進症がコントロールできない妊婦などにも推奨される

 

アウトカムは甲状腺手術数の多い外科医に行われた場合が一番良い(37)

 

ほとんどの患者は手術によって甲状腺機能低下症となり、退院前にL-thyroxine(1.6mcg/kg/日)を開始する必要がある(1)。TSHは6ー8週後に評価する必要がある。L-thyroxineの投与量はTSHが正常範囲になるまで6ー8週毎に調整すべきである。その後は年に1回のモニターを行う

 

 

I-131治療や切除術を希望しない、あるいは禁忌である患者において単一あるいは複数の甲状腺結節に対し熟練した術者によって行われるラジオ波焼灼術も効果的である(1)

 

 

 

潜在性甲状腺中毒症の治療は

潜在性甲状腺中毒症はTSHが低く、free T4とtotal T3が正常範囲内にある軽度の甲状腺中毒症に対して使われる用語である(1, 38, 39)。多くの患者が症状を認めないが、甲状腺中毒症の軽度の症状を認める場合もある。正常妊娠、妊娠性甲状腺中毒症、妊娠悪阻、非甲状腺疾患、中枢性甲状腺機能低下症、特定の薬剤使用(グルココルチコイド、ドパミン、bexarotene、mitotane、ヘパリン)などの他の状態によっても同様の甲状腺ホルモンパターンを示す場合があるため、診断が正しいことを確認する必要がある(2)。潜在性甲状腺中毒症が甲状腺機能亢進症(グレーブス病、中毒性多結節性甲状腺腫、中毒性甲状腺腫)による場合は、TRAbは通常陽性あるいは弱陽性(グレーブス病)、RAIUは典型的には低いTSHに合わず正常範囲にあり、甲状腺スキャンは起因疾患に一致する所見を示す(1)

 

潜在性甲状腺機能亢進症(グレーブス病、中毒性多結節性甲状腺腫、中毒性甲状腺腫)は治療が考慮されるが、他の原因による潜在性甲状腺中毒症の場合は通常治療を必要としない(1)。潜在性甲状腺機能亢進症に治療が必要かどうかで専門家の間でも意見が分かれている。多くの患者は無症状あるいは症状が軽度で、長期経過は様々だからである(1, 38, 39)。TSHは治療なしに6ー12ヶ月で正常範囲に戻る場合もある。しかし、高齢者では心房細動、心不全、骨粗鬆症による骨折、早期の死亡などのリスクが上昇するとされている(40-44)。したがって現在のガイドラインではTSHが0.1mU/L以下で明らかな症状のある65歳以上の患者に対し治療を行うことを推奨している(1, 3, 38)。低量のmethimazole (5-10mg/日あるいはそれ以下)が潜在性甲状腺機能亢進症の治療として使用される場合が多い(1)

 

 

 

thyroid storm

thyroid stormは、thyrotoxic crisis(甲状腺クリーゼ) やdecompensated thyrotoxicosisなどとも呼ばれるが、甲状腺中毒症増悪による生命を脅かす緊急を要する状態である(45-49)。通常、認識されていない、あるいは不適切に治療された甲状腺機能亢進症が甲状腺切除術、非甲状腺手術、感染、外傷、最近のI-131治療などに誘発されて起こることが多い。発熱(102℉ (38.9℃)以上)が基本となる症状である。上室性頻拍、心房細動、心不全、虚血性心疾患などが起こる場合が多く、嘔気嘔吐、下痢、腹痛などもよく見られる症状である。運動亢進、精神症状、昏睡などの中枢性神経症状も見られる。free T4とtotal T3は上昇し、TSHは検知されないことが通常である

 

この状態ではTSHが低く、free T4/total T3が上昇するが、ホルモンレベルだけでは信頼を持ってthyroid stormと合併症を伴わない甲状腺中毒症を鑑別することができない。したがって経験を有する臨床家による臨床判断が鍵となる。診断のための妥当なスコアリングシステムが利用可能である(45, 46)が、スコアリング手段を臨床判断よりも優先させてはならない

 

 

 

 

Thyroid Storm Scoring System

99ー99.9℉(37.2ー37.7℃) 5点

100ー100.9℉(37.8ー38.2℃) 10点

101ー101.9℉(38.3ー38.8℃) 15点

102ー102.9℉(38.9ー39.3℃) 20点

103ー103.9℉(39.4ー39.9℃) 25点

≧104℉(40℃) 30点

 

中枢性神経症状

なし 0点

軽度の不穏 10点

中等度の不穏 20点

重度の不穏 30点

 

循環器症状

99ー109 beats/min 5点

110ー119 beats/min 10点

120ー129 beats/min 15点

130ー139 beats/min 20点

≧140 beats/min 25点

心房細動 10点

鬱血性心不全

なし 0点

軽度(浮腫) 5点

中等度(湿性ラ音) 10点

重度(肺鬱血) 15点

 

消化器症状

なし 0点

嘔気、嘔吐、下痢、腹痛 10点

黄疸 20点

 

誘因

なし 0点

あり 10点

 

スコア

<25 thyroid storm unlikely

25ー44 suggestive of thyroid storm

≧45 thyroid storm likely 

 

 

 

治療のゴールは(1)抗甲状腺薬による甲状腺ホルモン生成の抑制(methimazoleあるいはPTU(両方とも経口、経鼻胃管、経直腸で投与可、methimazoleは静注投与可、T4-T3 conversionも抑制するためPTUが通常使用される))、(2)経口ヨウ化カリウムあるいは静注ヨウ化ナトリウムによる甲状腺ホルモン放出抑制、(3)βブロッカー(esmolol, metoprolol, propanolol)と、またはカルシウムチャネルブロッカーによる心拍数抑制、(4)ストレス投与量の静注グルココルチコイド、輸液、酸素、クーリング(重度の高熱)による循環サポート、(5)誘発原因の同定と治療、である。血漿交換は以前に抗甲状腺治療薬によって重大な副作用を認めた患者に使用して甲状腺ホルモンレベルを速やかに減らすことができる。thyroid stormが確認された当初の死亡率は100%であったが(45)、今日では状態が速やかに診断され積極的な治療が行われた場合の予後は非常に改善し、報告では死亡率10%以下とされている(45-49)

 

 

 

thyroid stormの治療

甲状腺ホルモン生成の抑制

・propylthiouracil (経口、経直腸、経鼻胃管): 600-1200mg/日(分割)

・methimazole (経口、経直腸、経鼻胃管、静注): 60-120mg/日(分割)

 

甲状腺ホルモン放出抑制

・sodium iodide (静注): 1 g over 24時間

・potassium iodide (経口): 5 drops 1日4回(SSKI) 

 

心拍数抑制

・esmolol (静注): 500mg over 1 minute, 続いて50-100mg/kg/min

・metoprolol (静注): 5-10mg 2-4時間毎

・propranolol (経口): 60-80mg 4時間毎

・diltiazem (静注): 0.25mg/kg over 2 minutes、続いて10mg/min

・diltiazem (経口): 60-90mg 6-8時間毎

 

循環サポート

・glucocorticoid in stress doses

・輸液、酸素、クーリング 

 

血漿交換(以前に抗甲状腺薬による重度の副作用をきたした患者に使用できる)

 

誘因の治療

 

 

 

 

入院適応

thyroid stormが診断される、あるいは疑われる時は入院しなければならない。また抗甲状腺薬による無顆粒球症、重度の肝障害、重度の血管炎などが考えられる場合も入院適応となる

 

 

 

 

 

 

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アナルズオブインターナルメディシン

インザクリニック

2020年4月7日 

 

 

 

 

 

 

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線維筋痛症

 

線維筋痛症はよく見られる疾患で主症状は慢性的で広範囲にわたる疼痛である(1)

 

有病率は用いる診断基準によって4倍も異なりえる(2)

 

線維筋痛症は人口のおよそ2〜4%が罹患している(2)

 

線維筋痛症は費用がかかり、生産性の喪失や機能障害による社会への経済的負荷は非常に大きい。線維筋痛症の患者は糖尿や高血圧と同様にヘルスケアの利用が頻回となる。平均で1年間の外来受診回数は10回となる(3)

 

 

 

 

病態生理とリスクファクター

 

線維筋痛症の原因は不明である 

 

長年に渡って専門家の間でその原因に対して異議が唱えられてきて、心因性によるものとの見られ方もあった。この古い捉え方は疼痛の制御および中枢性感作の障害を特徴とするものというより最近の研究によって反証されている

 

functional MRIを使用した脳画像検査や他の研究によって線維筋痛症の患者では疼痛を増強させる、あるいは疼痛の抑制を低下させる、疼痛処理および制御のいくつかの問題が存在することが確認されている(4)。これには、疼痛を処理する脳領域のより活発な活動、刺激に対する過剰な疼痛反応、脳の形態や末梢および脳の受容体の変化、疼痛に関連する神経ペプチドや神経伝達物質(サブスタンスP、脳由来神経栄養因子、グルタミン、ドーパミンなど)レベルの変容などが含まれる。これらの変化が他の感覚入力の処理にまで影響を及ぼす可能性によって、倦怠感、睡眠障害、認知障害、抑うつなどの他の症状を説明できるのかもしれない(1)

 

 

 

リスクファクターは何か

修正不能なリスクファクターには遺伝因子、女性、他の疼痛疾患の存在が含まれる。

双子の研究では広範囲の慢性疼痛の遺伝率はおよそ50%であった(5)。American College of Rheumatology (ACR) の診断基準(2010年)に基づけば線維筋痛症の男女比はおよそ1:2である。他の疼痛疾患の既往も線維筋痛症との強い関連を認める。例えば関節リウマチやSLEなどの炎症性疾患を持つ患者の20〜30%に線維筋痛症が認められるとの報告もある(6)。うつ病や不安障害などの精神疾患が線維筋痛症患者の25〜65%に認められる可能性がある(7)。また線維筋痛症は慢性腰痛、過敏性腸症候群、顎関節症などの同様の機序をもつ他の慢性疾患と併発することがよく見られる

 

修正しうるリスクファクターには睡眠障害、運動不足、肥満がある。ノルウェー人女性の縦断研究では不眠症状が線維筋痛症発症のリスクをおよそ2倍高める一方で、ハイレベルな身体活動が予防効果を持つことが確認されている(8)。体重過多あるいは肥満女性は標準体重の女性に比べ60〜70%高い割合で線維筋痛症を発症しやすいことが示されている(8, 9)

 

 

 

 

 

 

診断

 

線維筋痛症の患者は広く多発性の慢性疼痛(3ヶ月以上)を持ち、倦怠感、睡眠異常、認知あるいは身体性の症状を伴う

 

”体中が痛い”という主訴は線維筋痛症の可能性を示唆する

 

疼痛は最初から全身性である場合もあれば、腰部や頸部などの特定の部位に限局して始まる場合もある

 

広範囲の疼痛とともに、患者は倦怠感や睡眠異常を呈することがよく見られる(1)

 

倦怠感は中等度から重度で慢性的である(10)

 

記憶、注意、集中などに関連する認知障害を訴える患者もいる

 

身体性の症状(頭痛、腹痛、膨満感、嘔気、下痢、顎部痛、めまい、感覚異常など)もよく見られ、現在の診断の枠組みにも入れられている

 

3ヶ月以上持続する広範囲あるいは多発性の疼痛がある患者では線維筋痛症の診断を考慮しなければならない

 

 

 

ACRは繰り返し線維筋痛症の分類あるいは診断基準を発表してきた(11)

 

1990年のACR基準では腰部から上方および下方の両方において左右どちらにもおよぶ広範囲の疼痛を認め、かつ身体診察において定義された圧痛点が18個中少なくとも11個以上認めなければならない、というものであった。この基準の問題点は疼痛以外の症状が含まれていないこと、また必要とされる圧痛点の特異性および実用性に疑問があることであった

 

ACRは2010年に診断基準を更新した(12)。この基準では圧痛点の必要性を省き、身体性症状を加え、19の部位の疼痛リストの数を評価するWidespread Pain Indexと、倦怠感、睡眠異常、認知症状の評価および身体性症状(下腹部痛、頭痛、うつ)の数を評価するSymptom Severity Score、の2つの簡易な評価スケールが追加された

 

2011年には患者が自己申告できる質問へと修正が加えられた(11)

 

2016年には他の部分的な疼痛疾患と鑑別するために5つ体部のうち4つ以上に疼痛を認めることが必須となった(11)。また”線維筋痛症は他の診断の有無にかかわらず診断される”という基準が加えられた

 

2018年にはACTTION (Analgesic, Anesthetic, and Addiction Clinical Trial Translations Innovations Opportunities and Networks) - American Pain Society Pain Taxonomy (AAPT) が慢性疼痛疾患の診断システムをつるくプロジェクトの一環として線維筋痛症の新たな診断基準を提唱した(10)。AAPTは多発性の疼痛と倦怠感あるいは睡眠異常を線維筋痛症の主要な特徴として定義した。他の特徴としては全身性の軟部組織圧痛、認知症状、こわばり、環境過敏が含まれるが、これらは診断をサポートするものではあるものの必須とはされていない

 

 

 

 

2010/2011 ACR Criteria with 2016 Proposed change 

症状の期間:3ヶ月以上

疼痛部位:全身性の疼痛:5つの体部(左上部、右上部、左下部、右下部、体軸)のうち4つ以上

線維筋痛症スケールスコア:WPI score7点以上かつSSS5点以上あるいはWPI score4〜6点以上かつSSS9点以上

倦怠感・睡眠:(ー)

追加基準・コメント:線維筋痛症は他の診断の有無にかかわらず診断される

 

Widespread Pain Index(19 regions: 各1点)

右顎、左顎、頸部、右肩、左肩、右上腕、左上腕、右前腕、左前腕、右臀部、左臀部、右大腿、左大腿、右下腿、左下腿、前胸部、腹部、上背部、腰部 

Symptom Severity Score(計12点)

倦怠感(0-3点)、睡眠覚醒しても疲れが取れていない(0-3点)、認知症状(0-3点)

(なし: 0点,  軽度: 1点,  中等度: 2点,  重度: 3点)

過去6ヶ月における以下の症状の有無

下腹部の疼痛(1点)、うつ(1点)、頭痛(1点)

 

 

 

 

ACCTION-American Pain Society Pain Taxonomy Initiative 

症状の期間:多発性の疼痛と倦怠感・睡眠異常の両方が3ヶ月以上

疼痛部位:全身性の疼痛:9つの部位(頭部、左上肢、右上肢、胸部、腹部、上背部、腰部/臀部、左下肢、右下肢)のうち6つ以上

線維筋痛症スケールスコア:(ー)

倦怠感・睡眠:中等度から重度の睡眠異常あるいは倦怠感

追加基準・コメント:診断に必須ではないがサポートするもの:圧痛、認知異常、筋骨格のこわばり、環境過敏、神経過敏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鑑別疾患

mechanical spinal pain and soft tissue

特定の部位(腰部、頸部、肩、顎)に限局する疼痛・こわばり・圧痛

腱(腱炎)あるいは滑液包(滑液包炎)の圧痛、画像学的所見

 

関節リウマチ

対称性、多発小関節炎、全身性症状(発熱、体重減少)、炎症マーカー上昇(ESR, CRP)、1時間以上朝のこわばり 

 

脊椎関節炎

脊椎の疼痛(頸椎、胸椎、腰椎)、脊椎の関節可動域制限、画像学的所見、炎症マーカー(ESR, CRP)

 

多発性の変形性関節炎

関節のこわばり、関節周囲の痛み、joint line tenderness、画像検査上の関節間隙減少あるいは骨棘形成

 

リウマチ性多発筋痛症

肩および腰帯部痛、炎症マーカー上昇、コルチコステロイドへの反応良好、痛み以上にこわばりが目立つ、高齢者により多い

 

SLE

全身性の兆候(皮膚炎、腎炎)、光過敏、炎症マーカー上昇、抗核抗体陽性

 

多発性筋炎

近位筋力低下、筋の圧痛、全身性の疼痛の欠如、CPK上昇、特徴的な筋生検所見

 

neuropathy

感覚異常、身体所見上の感覚・運動神経障害、広範囲の疼痛はまれ、筋電図上の所見

 

ライム病

好発地域、最近のダニ刺され、皮疹、滑膜炎、診断的血清所見

 

肝炎

腹痛、肝酵素上昇、肝炎血清検査陽性

 

 

 

 

 

線維筋痛症は機能性身体症候群として分類される他の慢性的な疼痛を認める疾患と併存することがよくある。これには片頭痛、緊張性頭痛、過敏性腸症候群、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、間質性膀胱炎(painful bladder syndrome)、慢性骨盤痛、顎関節症などが含まれる(10)

 

 

 

血液検査 

線維筋痛症の診断に特異的な血液検査異常はない。したがってその評価に対する血液検査の役割は限られており、最小限にすべきである(1, 10)。血液検査の主な目的は似た症状を呈する他の疾患の評価を行うためとなる。専門家は炎症の有無を評価するために血算、ESRあるいはCRPを初期評価として推奨している

 

病歴や身体所見など臨床的に炎症性のリウマチ性疾患が疑われない限りはスクリーニングあるいはルーチンの血液検査(リウマチ因子、抗核抗体)を行わないことが推奨されている。それらのテストは健康な人でも陽性になることがよく見られ、陽性的中率が低いからである

 

線維筋痛症に特異的な画像所見はないため、ルーチンで画像検査を行うべきではない

 

 

臨床的に関連する疾患が疑われる場合は追加の検査を考慮する

 

示唆する症状がある場合は、睡眠スタディを行い、閉塞性無呼吸、restless leg syndrome、周期性四肢運動障害などを評価することができる。閉塞性無呼吸やrestless leg syndromeは併存することがよく見られる(13, 14)

 

よく合併がみられるうつ病や不安障害などを評価するための精神心理的アセスメントも有用であるかもしれない(6)

 

線維筋痛症の患者で感覚障害が多く報告されるが、筋電図は通常適応とならない

 

自律神経系異常に関連する起立性低血圧症状、頻脈、動悸などを認める場合もある

 

 

 

 

 

 

治療 

 

線維筋痛症治療のアプローチは機能の維持あるいは改善、QOLの改善、症状のコントロールである

 

このゴールを達成するためにガイドラインは個人ごとで複数の手段を利用した治療アプローチを推奨している

 

治療開始にあたって患者は診断、基本的な病態生理、セルフマネージ法も含む治療オプションに関する教育を受ける必要がある

 

そのセルフマネージの方法には睡眠衛生、バランスの良い食事、有酸素運動を含む定期的な身体活動、減量、健康的な生活習慣の維持などが含まれる

 

 

 

身体活動

 

定期的な身体活動は線維筋痛症の効果的なマネージメントにおいて必須である。2017年European League Against Rheumatismは線維筋痛症のマネージメントにおいて治療として”強く”推奨できるのは運動のみである、と発表している(15)

 

有酸素運動は線維筋痛症患者の睡眠を改善させたり(16)、抑うつや不安症状を軽減させる可能性がある(17)

 

日常生活における活動性を中等度高めるだけでも患者の生活機能を改善させることができる(18)

 

最も効果的な介入はウォーキング、水泳、水中エアロビクス、サイクリングなどのlow-impactな有酸素運動を含む専門家に監督される運動プログラムである(16, 19)

 

 

他に効果のある可能性のあるエクササイズはウェイトトレーニング(20)や太極拳・ヨガなどのmind-body options(21)などである

 

エクササイズは通常耐容性がよく有害事象が少ないが、アドヒーランスが容易ではない。エクササイズプログラムは開始することおよび継続することが難しい。患者はエクササイズによって疼痛および倦怠感が悪化することを恐れるかもしれない。アドヒーランスを高めるために、患者の耐容性に合わせて徐々に量と強度を上げていく段階をおったエクササイズプログラムが推奨される

 

 

アドヒーランスを高めるために、患者の好み、不安、アドヒーランスのバリアになるもの、などを考慮しながら個人毎にエクササイズプログラムを決定しなければならない

 

 

 

 

心理療法・行動療法

2013年のcochrane reviewでは疼痛緩和、気分改善、治療終了時および長期フォローアップ期間における障害の改善に対し、認知行動療法はコントロールに比較して小さな利益を認めると結論している(22)。より最近のシステマティックレビューでは、心理療法は通常のケアに比べて身体機能、疼痛、気分の改善に効果がある可能性があるが、そのエビデンスレベルは低い、としている(23)

 

たとえ利益が大きくないにしても、心理療法は薬物療法より明らかに安全であり、コストも低いと考えられる。費用効果分析では、認知行動療法は通常治療にpregabalinとduloxetineを併用した場合に比べ、より費用対効果が高かった、と報告されている(24)

 

心理療法に対するバリアとして考えられるのは、線維筋痛症患者のマネージメントに関する専門知識を有する心理療法家へのアクセスが限られていること、患者がメンタルヘルス専門家にかかることを躊躇すること、などが含まれる。アクセスを向上させるために、電話や通信技術によって提供される介入が作られ研究されている。例えばインターネットによるセルフマネージメントプログラム(25)やインターネットによる認知行動療法コースの有効性(疼痛の軽減、うつの改善、満足度の向上)が確認されている(26)

 

 

 

睡眠

全ての線維筋痛症患者に対し、痛み、倦怠感、認知症状を軽減させるために睡眠が重要であることを教育する必要がある。慢性的な不眠を持たない患者へ基本的な睡眠衛生に関するアドバイスを行うことは適切である

 

患者は無呼吸を含む睡眠疾患の有無を評価されるべきである。その場合は特異的治療を要する可能性があるからだ 

 

不眠の患者へは不眠の認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia (CBT-I))が第一選択治療となる(27)。個別あるいはグループによるCBT-Iが利用できない場合は、本、ウェブ、アプリによって提供されるセルフヘルプCBT-Iも有効であることが分かっている(28)

 

 

 

 

薬物治療

非薬物療法の開始後、線維筋痛症の症状を緩和するために様々なクラスの薬剤が試されるかもしれない

 

三環系抗うつ剤、特にamitriptylineは初期選択薬として長い間臨床で使われており、システマティックレビューでもその効果が確認されている(29, 30)。副作用を少なくするため、amitriptyline 少量を夜間から開始し、投与量を少しずつ調整していく。nortriptylineやdesipramineなどの他の三環系抗うつ剤も試されるかもしれないが、あまりよくスタディされていない。cyclobenzaprineは骨格筋弛緩薬として分類されてきたが、構造的および作用的に三環系抗うつ剤に類似している

 

三環系抗うつ剤が禁忌または反応しない、あるいは耐容できない場合は、serotonin-norepinephrine reuptake inhibitor (SNRI)が考慮される。SNRI特にduloxetineやmilnacipranはいくつかのトライアルで有効性が確認されている。2014年のシステマティックレビューではプラセボに比べduloxetineはプライマリーアウトカムである疼痛50%軽減をより多く達成し(相対危険度1.57)、そのnumber needed to treatは8であった(31)。SNRIsの長期のトライアルは少ないが、duloxetineは1年のフォローアップにおいて安全で効果的であることが認められ(32)、強い倦怠感あるいは抑うつを合併する患者では良き選択薬となるかもしれない。milnacipranはプラセボに比べ、疼痛軽減、生活の質および身体機能の向上により効果的であり(33)、duloxetinenの代替薬になるかもしれない

 

 

ガバペンチノイド(gabapentinとpregabalin)は線維筋痛症の患者に有効性が認められている(34)。5つのrandomized placebo-controlled trials(4つがpregabalin、1つがgabapentin)のメタアナリシスではそれらが疼痛を有意に減少させ、睡眠および生活の質を改善することが認められた(35)。gabapentinを調べたスタディは少ないが、pregabalinの代替薬になるかもしれない。一つのスタディではプラセボに比べgabapentinの有効性が認められたが(36)、最近のシステマティックレビューでは線維筋痛症の疼痛を軽減させるためにgabapentinを投与することを推奨する、あるいは反駁するのに十分なエビデンスがない、としている(37)

 

 

疼痛の緩和のためacetaminophenやNSAIDsがよく補助的に処方されるが、線維筋痛症に効果的であるかは確認されていない(38)

 

tramadolも線維筋痛症治療にスタディされており、強い疼痛を認める患者には投与してもよいかもしれない(39)

 

capsaicin外用は153人が参加した2つのトライアルがレビューされ、疼痛軽減に利益が認められたが、他のアウトカムに関しては一致した結果が得られなかった(40)

 

 

 

 

薬剤

 

三環系抗うつ剤

投与量

amitriptyline:10mg睡眠時で開始、維持量20-30mg 

cyclobenzaprine(代替):5-20mg睡眠時

利益

広く利用可能、低価、よくスタディされている、疼痛と睡眠に有効

不利益

緩徐な調整が必要、抗コリン・抗ヒスタミン副作用がよく見られる(口渇、便秘、尿閉、鎮静、集中力低価)、心毒性

 

SNRI

投与量

duloxetine:20-30mg朝で開始、維持量60mg

milnacipran:12.5mg朝で開始、維持量50-100mg1日2回

利益

複数の臨床試験で有効性が認められている(venlafaxineは除く)、抑うつを併発している患者に有効である可能性、三環系抗うつ剤よりも耐容性が良い

不利益

頭痛、嘔気、口渇、下痢(duloxetine)、便秘(milnacipran)

 

ガバペンチノイド

投与量

pregabalin:25-50mg睡眠時で開始、維持量300-450mg/日

gabapentin:100mg睡眠時で開始、維持量1200-2400mg/日

利益

疼痛と睡眠を改善させる可能性

不利益

めまい、口渇、傾眠、体重増加、末梢浮腫、認知異常(pregabalin)

 

アセトアミノフェン・NSAIDs

投与量(ー)

利益

他の治療の補助剤として利用、他の併存疾患に有用である可能性(変形性関節症)

不利益

有効性が確立されていない、アセトアミノフェンのスタディが限られている

 

Tramadol

投与量(ー)

利益

短期間における疼痛および生活の質の改善、強い疼痛および他の治療に抵抗性の患者に有効である可能性

不利益

間違った使われ方あるいは乱用の可能性、長期的効果が不明

 

外用剤

投与量

capsaicin gel:1日複数回

利益

疼痛に有効である可能性、安全

不利益

軽度の灼熱感

 

 

 

 

 

 

 

オピオイド

弱いオピオイド作用よりもセロトニン・ノルエピネフリン再取り組み阻害作用による効果が認められるtramadolを除いて、オピオイドは線維筋痛症に対する有効性が確立されていない。研究では線維筋痛症患者は内因性オピオイドシステムに変容が見られ、オピオイド拮抗薬である低用量のnaltrexoneによって疼痛の改善が見られるかもしれない、としている(41)。オピオイドが線維筋痛症に有効でないと考えられているにもかかわらず、疫学的調査では線維筋痛症患者に対しよく長期間投与されていることが確認されている(39)

 

 

 

 

鍼灸、カイロプラクティック、他のマニュアルセラピー

鍼灸や電気鍼療法のrandomized controlled trialsでは疼痛、倦怠感、生活の質の改善に有効であったことが確認されているが、これらのトライアルは規模が小さく、ほとんどが短期間のものである。cochraneレビューでは鍼灸は無治療に比べ有効ではあったが、偽の鍼灸よりも有効ではなかった、と結論している(42)。より最近のシステマティックレビューでは中等度のエビデンス(10トライル)において鍼灸が偽の鍼灸よりも有効であり、また非常に低いエビデンス(2トライル)では鍼灸が薬物治療よりも有効であった、としている(43)

 

カイロプラクティック、マッサージ、筋膜リリース(myofascial release)などの治療はエビデンスが非常に限られており、線維筋痛症における確立した有効性が認められていない(15, 21)

 

 

 

 

食事

患者の間では”抗炎症性”や他のダイエットに強く興味が持たれているにも関わらず、特定の栄養による介入が線維筋痛症に有効であることを支持するエビデンスはない。最近のレビューでは異なる食事に関する7つの臨床試験(低カロリー、ベジタリアン、low-FODMAP(小腸内で消化・吸収されにくい糖類(Fermentable:発酵性、Oligosaccharide:オリゴ糖、Disaccharide:二糖類、Monosaccharide:単糖類、Polyol:ポリオール)の略称))では同様な効果が認められたものの、その全てのスタディで規模が小さく、バイアスの重大なリスクを有している(44)。上記のようにエビデンスの質が低いことより、線維筋痛症患者に対する適切な食事のガイダンスは他の人と同様、必要であれば減量のためにカロリーを減らすことである

 

 

 

 

 

予後

線維筋痛症症状は外傷、手術、感染、精神的ストレスに引き続いて始まる場合がある。また明らかな誘因もなく、徐々に症状が発症していく場合もある。多くの患者が間欠的な変動を見せながらも長く疼痛および倦怠感を有する。研究によれば6つの紹介施設における8年間のフォローアップの間に疼痛、倦怠感、睡眠異常、不安、抑うつの症状の大きな変化が認められなかった(45)。最近の観察研究では、11年間のフォローで疼痛の少なくとも中等度以上の改善が認められたのは4人に対し1人の患者のみという割合であった(46)。逆に、Fitzcharlesの研究では治療開始2年後にも広範囲の疼痛を認めた患者は35%のみであったと報告している(47)。プライマリケアにおいて治療を受ける方が紹介施設で治療されるよりもより良い予後が認められている

 

線維筋痛症の患者では労働に支障をきたすことがよく見られる。ある研究では関節リウマチ患者の36.8%、変形性関節症患者の23.7%が社会保障にて障害認定を受けるの対し、線維筋痛症患者ではその割合が41.5%にまでのぼる、と報告されている(48)

 

予後は特定の人口統計、行動様式、精神心理的ファクターに関連している。女性、社会経済的地位の低さ、非雇用状態などが悪い予後との関連を示している(49) 。他の重要なファクターには、うつ病、薬物乱用の既往、疼痛破局的思考、過度の身体的懸念、肥満などがある(50)。線維筋痛症患者では自殺のリスクが高まるため(51)、うつ病の症状をモニターする必要がある

 

 

 

 

 

 

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アナルズオブインターナルメディシン 

インザクリニック

2020年3月 

 

 

 

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閉塞性睡眠時無呼吸症候群

 

閉塞性睡眠時無呼吸 (obstructive sleep apnea (OSA) ) はオキシヘモグロビンの酸素飽和度低下と睡眠断片化をもたらす睡眠中の繰り返す上気道閉塞を特徴とする

 

OSA syndromeはOSAとその結果起こる症状(典型的には日中の眠気など)を合わせたものと定義される

 

成人では男性の14%、女性の5%に起こるとされている(1)

 

肥満の増加に伴ってOSAの有病率は増えており(1)、中年の5-year incidenceは7〜11%となっている(2)

 

にもかかわらず、OSA syndromeを示唆する症状をもつ人の中で評価が行われ治療されるのは50人に1人のみである(3) 

  

 

もっともよく認められる症状は他人を煩わせるほどのいびき、夜間の覚醒、休息したと感じられない睡眠、日中の眠気、それによってもたらされるQOLの低下である

 

治療をしないでおくと、交通事故や職業上の事故につながるリスクがある(4)

 

さらには繰り返す上気道閉塞による生理学的なストレスによって血圧の上昇が認められる(5)

 

OSAは心房細動、心不全、脳卒中、2型糖尿病のリスク上昇と関連する。しかし治療がそれらの合併症を予防する、あるいは改善するかは明らかでない

 

 

 

スクリーニングと予防

 

OSA syndromeを有するほとんどの患者が外来主治医に報告しないため(6)、スクリーニングをする意義があると考えられている

 

U.S. Preventive Service Task ForceはルーチンのOSAスクリーニングを推奨するための質の高い根拠がないことを強調しているが(7)、American Academy of Sleep Medicine (AASM)はすべての成人に対し、睡眠に不満があるか、日中の眠気があるか、との質問を健康を維持するための評価のルーチンとして確認することを推奨している(8)

 

これは睡眠をreview of systemの一つに入れることで達成することが可能だ。その回答が陽性であった場合はさらなる病歴あるいスクリーニング手段を利用してOSAのスクリーニングを行うことが必要になる

 

 

リスクファクターを有する患者はスクリーニングを行う必要がある

 

OSAの主なリスクファクターは肥満であり、全ての肥満患者にスクリーニングを行う必要がある。体重過多がすべてのOSAの41%、中等度から重度のOSAの58%の原因となり(9)、体重が増えればOSAのリスクが上昇する

 

 

東アジアの患者は顔面骨格の違いによってより低い肥満のレベルにおいてOSAのリスクとなる

 

 

リスクファクター

 ・肥満(特にBMI>35kg/m2)

 ・閉塞性睡眠時無呼吸の家族歴

 ・下顎後退症

 ・治療抵抗性高血圧

 ・うっ血性心不全

 ・心房細動

 ・脳卒中

 ・2型糖尿病

 ・多嚢胞性卵巣症候群

 ・先端巨大症

 ・ダウン症候群

 

 

 

トラック運転手やpublic transit operatorなどのハイリスク職業運転者もOSAであった場合、公衆衛生へのリスクがあるためスクリーニングされる必要がある

 

また眠気による交通事故を起こした、あるいは起こしそうになった全ての人に対してもスクリーニングを行う必要がある(10)

 

 

OSAの併存がよくみられる患者群でもスクリーニングを行うべきである。例えば、治療抵抗性高血圧、心房細動、心不全、脳卒中、2型糖尿病の患者などでは35〜85%の割合でOSAが認められる

 

ハイリスク患者を同定するいくつかのスクリーニング法がつくられており(7, 11)、Berlin QuestionnaireとSTOP-BANGスクリーニングテストの2つが広く利用され、有効性が確立されている

 


STOP-BANGスクリーニングテストは術前評価のためにつくられたものである。8つの項目がありそれぞれ1ポイントで、3つ以上当てはまればOSAである可能性が84%、5つ以上の場合は中等度から重度のOSAである可能性が考えられる(12)

 

 

STOP-BANG

S: 大きないびきをかきますか(Snore)(閉めた扉を通しても聞こえるほど)

T: よく疲れますか(Tired)、日中に眠気が強いですか 

O: 睡眠中に呼吸が止まっている事を誰かに観察された(Observed)ことがありますか

P: 高血圧(high blood Pressure)の既往がありますか

B: BMI >35kg/m2 

A: 50歳以上(Age)

N: 頸まわり(Neck) > 40cm 

G: 男性(Gender)

 

 

体重増加がOSAの罹患率上昇と関連している。10%の体重増加によって臨床的に重大なOSAになる可能性が6倍上がる(13)。よって体重増加を防ぐことによってOSAのリスクを下げることができる。10%の減量が10年間のフォロー期間でOSAの重症度を26%下げたことが確認された。軽度のOSA患者では食事と生活習慣の改善によって15%の減量が達成された場合およそ10人中9人の割合でOSAが認められなくなった(14)

 

 

 

診断

 

OSAの症状としていびきの感度は最も高いが特異的でない(15)。通常のいびきと区別するため、より詳細に尋ねる必要がある。音が大きく人が煩わされるほどの場合は通常のいびきよりもOSAの可能性が高くなる(16)

 

閉塞性無呼吸の症状

・大きく、頻回で、人が煩わされるほどのいびき

・無呼吸のエピソードが人から確認される

・睡眠中の窒息様、あえぎ様の呼吸

・日中の過度の眠気

・居眠り運転(眠気による交通事故あるいはニアミス)

・すっきりしない目覚め

・頻回の夜間覚醒

・睡眠維持障害(夜中に目が覚めて再び入眠することが困難)

・夜間頻尿

・朝の頭痛

・抑うつ気分

・気分過敏

・性欲減退

 

 

 

日中の過度の眠気も非特異的であるが、その確認が治療オプションを決め治療に対する反応をフォローする際にも重要となる。Epworth Sleeping Scaleは日常生活における傾眠傾向を評価する8つの項目スケールからできている(17)。客観的な傾眠との関連は一定せず、OSAの重症度との相関も弱いが、患者の主観的な認識の評価を基準化することの助けとなる。また治療の反応を評価する際にも使うことができる

 

 

Epworth Sleeping Scale

過去1〜2週間において以下の状況でどの程度うとうとした、あるいは居眠りしたかについて

 

0=全くなし、1=少し、2=中等度、3=かなり

 

・座って読書している

・テレビを見ている

・公共の場で活動せずに座っている(劇場やミーティングなど)

・1時間休憩なしで運転手以外として車に乗っている

・可能なら午後に横になった

・人と座って会話している

・アルコール摂取しなかった昼食後に座っている

・車中で信号や渋滞などで数分間停車した時

 

11点以上で日中の過度の眠気と考えられ、さらなる臨床的評価が必要となる

 

 

 

 

 

比較的感度は低いが、睡眠中の息が詰まるような、あるいは喘ぐような呼吸は中等度から重度のOSAに特異的である。また朝の頭痛の存在も同様である(15)

 

自覚のない患者が多くいるため、ベッドパートナーや同居者からの病歴聴取が助けとなる

 

OSAの患者は眠気でなく、”頭にもやがかかった様”、あるいは集中できない、と表現する場合もある

 

OSAは、特に女性においては、不眠や倦怠感が主な症状として典型的でない形で現れる場合もある。睡眠維持障害(夜間覚醒した後に再び眠ることが困難)が入眠障害に比べてよりOSAとの関連を認める(18)

 

 

統計上疾患の男女比は2:1であるが、専門家への患者紹介の比率は男女比9:1と報告されており、臨床家は女性に対しOSAを検討することがより不十分である可能性がある(19)

 

 

無症状の人にOSAのテストを行うことを支持する質の高いエビデンスはない。しかし、治療抵抗性の高血圧で薬剤を5つ以上服薬している無症状の人にOSAの評価を行い治療することは利益があるかもしれない。これらの患者群においてはOSAの罹患率が非常に高く、治療によって臨床的に意義のある血圧低下をもたらすことができる(20)

 

 

肥満者において他に説明のつかない日中の高二酸化炭素血症をきたす状態として定義される肥満低換気症候群 (obesity hypoventilation syndrome (OHS)) とOSAの併存がよく見られる。この症候群は病的に肥満であるOSA患者の10〜20%にまで見られ、OHSを有する患者においては肺性心などの心血管合併症の高い罹患率が認められる

 

 

目撃される夜間の無呼吸やあえぎ様の呼吸はOSAでなく中枢性睡眠時無呼吸症候群である可能性もある。鬱血性心不全の患者はチェーンストークス呼吸のリスクが高く、また長期にオピオイド治療を受けている場合はオピオイドにもたらされる中枢性無呼吸症候群のリスクも高くなる

 

 

眠気、集中力低下、睡眠維持が困難などのOSAで認められる多くの症状は非特異的であることを認識することは重要である。不眠症、慢性睡眠不足、circadian rhythm disorder (shift work sleep disorder等) などの他の睡眠疾患が原因である可能性もある

 

 

 

 

睡眠検査

 

どのタイプの睡眠検査が行われるべきか

 

OSAの診断には公式な検査によって睡眠中の閉塞性呼吸イベントを記録する必要がある

 

今までそのような検査は技術者がいる睡眠ラボで行われ、CPAPの治療圧なども決定されてきた。しかし、いくつかのrandomized trialsではhome sleep apnea testing (HSAT)によって家庭で診断され治療開始が行われた場合、合併症を認めないOSAにおいては同等のアウトカムが認められた(21, 22, 23, 24)

 

HSATは脳波測定がされず、睡眠自体の評価は行われない。酸素飽和度測定、エアフロー、胸郭運動などの呼吸チャネルのみを記録する。モニター器具を自分で装着することが比較的容易である

 

HSATによる治療戦略はより安価で、より速やかな治療開始へと繋がり、遠隔地やサービスを受けられないような地域の患者のアクセスを高めることができ(21, 22)、また患者にも好まれている(23)

 

 

夜間の酸素飽和度測定のみによるOSAの診断はHSATや睡眠ラボでの検査に比べ、悪いアウトカムにつながる(25)

 

公式の検査前に夜間の酸素飽和度測定によるスクリーニングを行うことを支持するエビデンスはない。HSATは酸素飽和度測定にそれほど負担とならない器具を付け足すだけである

 

 

 

睡眠検査用語および睡眠時無呼吸の定義

 

無呼吸:呼吸中断が10秒以上

低呼吸 (hypopnea):3%あるいは4%以上の酸素飽和度低下あるいは睡眠からの覚醒を伴う10秒以上のエアフローの減少

AHI:睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数

REI:記録1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数

ODI:睡眠1時間あたりの3%あるいは4%以上の酸素飽和度低下エピソードの回数

Time below SpO2 90%:酸素飽和度が90%以下となった睡眠時間あるいは記録時間

 

定義

軽度のOSA:AHIあるいはREIが時間あたり5以上15未満

中等度のOSA:AHIあるいはREIが時間あたり15以上30未満

重度のOSA:AHIあるいはREIが時間あたり30以上

OSA syndrome:日中の眠気を伴いAHIあるいはREIが時間あたり5以上

 

 

AHI:apnea-hypopnea index

ODI:oxygen desaturation index

REI:respiratory event index

 

 

 

 

睡眠ラボでの検査:ポリソムノグラフィーは夜間に複数の生理的チャネルを記録する検査で、HSATによる評価が行えない患者の評価に有効である

 

HSATが行えない理由としては家庭状況が不安定である、あるいは認知機能や身体的機能障害にてモニターの自己装着が行えない場合などがある

 

 

呼吸器疾患、心不全、あるいは中枢性無呼吸症候群の可能性が高い場合などのOSAによらない酸素飽和度低下の原因がある場合にはHSATが適応とならない。鑑別疾患としてそのような他の原因がある場合は睡眠ラボでの検査を考慮する必要がある

 

 

ポリソムノグラフィーは介入を行わない全夜間の記録を行う”full-night”、あるいは少なくとも開始2時間を診断のための記録として行い、すぐさまCPAP調整に切り替える”split-night”、のいずれかをオーダーすることができる

 

 

 

睡眠検査で報告される値とその意味

 

OSAの重症度の鍵となる評価法がapnea-hypopnea index (AHI) であり、無呼吸(エアフローの途絶が10秒以上) とhypopnea (低呼吸) (3%あるいは4%以上の酸素飽和度低下あるいは覚醒を伴う10秒以上のエアフローの減少)エピソードの時間あたりの回数として定義される

 

HSATでは睡眠が評価されないため、呼吸イベントの回数を睡眠時間の合計で割ってrespiratory event index (REI) を計算する

 

患者が夜間の大半覚醒していた場合はREIがAHIをかなり過小評価する可能性がある

 

hypopnea (低呼吸) の異なる定義 (覚醒を伴うあるいは伴わない酸素飽和度低下を3%以上あるいは4%以上とするか) がAHIあるいはREIの計算を大きく変えうるため、他の睡眠ラボからのポリソムノグラフィーの比較を困難にする

 

hypopneaの基準値を酸素飽和度4%低下としたAHIではより心血管リスクとの関連が示された(26)。しかし、この基準値はより厳しいため、治療から利益を得られる可能性があるにも関わらず、重大な酸素飽和度低下を伴わない典型的な症状を有する患者の診断を除外する可能性がある

 

睡眠ラボと家庭での検査両方で得られる他の測定値には、中枢性あるいは閉塞性無呼吸イベントの回数、酸素飽和度低下イベントの回数、酸素飽和度が90%以下に低下した時間、酸素飽和度の最低値などがある

 

睡眠ラボの検査では呼吸に関連しない患者の睡眠情報も得られる。睡眠時間の合計、睡眠の構造や断片(睡眠の深さ、睡眠効率、睡眠開始後の覚醒時間、睡眠ステージの各時間、arousal index)、脳波、夜間不整脈、四肢運動、睡眠に関連する行動のビデオや音声による記録、などである

 

 

 

 

 

 

治療

 

どの患者に治療が必要か

 

重症度にかかわらず日中の眠気を認める患者には治療が提供されるべきである事が質の高いエビデンスによって支持されている(27)

 

特に最近眠気による交通事故やニアミスを起こした場合にはより積極的に治療を行うべきである

 

OSAによる他の症状を有する患者にも治療が提供されるべきであり、その際は治療による症状の軽減と治療の煩わしさのバランスをとって意思決定が共有される必要がある

 

 

治療を試してみることは治療による利益と不利益の大きさに基づいて患者が意思決定する助けになることが多い

 

ベッドパートナーも治療の決定に参加させることが大切である。パートナーのサポートの有無が治療の受容、アドヒーランスの重要な予測因子となり、治療がパートナーの睡眠の質を向上させるからである(28)

 

 

眠気を伴わない中等度から重度のOSA患者にCPAP治療を行ったrandomized trialsでは心血管リスクの減少が認められなかった(29, 30, 31)。したがってCPAP治療は無症状で中等度から重度の患者にルーチンで開始することは推奨されない

 

無症状で軽度のOSA患者では、心血管リスクが上昇する、あるいは治療による利益があることを認めるエビデンスはない(32) 

 

 

減量と運動

 

行動による減量への介入によってOSAの重症度および症状が減少することがrandomized trialsによって示されている(33)

 

さらには、CPAP治療の開始と減量への介入を同時に行う事で、そのどちらのアドヒーランスも下がらず、また追加的な利益をもたらす(34)。したがって食事、運動、行動変容を組み込んだ包括的な減量への介入がOSAを有する全ての体重過多あるいは肥満患者に推奨される

 

減量手術もまた病的肥満患者のOSAの重症度を大きく改善する。減量手術によってAHIが正常化する可能性は高くないが、AHIよりも症状の改善の程度が大きい

 

 

 

睡眠時の体勢

 

多くの患者は仰臥位での舌にかかる重力によって上気道の閉塞およびOSAが悪化する。体勢に依存するOSAが軽度から中等度のOSA患者の3分の1にまで認められる。睡眠時の体勢の治療には患者が仰臥位で寝る時間を短くするために、テニスボール、バックパック、発泡デバイスなどを背中に括りつける、あるいは仰臥位の時にアラームを鳴らすモニターを行う、などがある。短期間のデータではこれらの治療がOSAの重症度および眠気を改善することが示されている(35)

 

 

どのようにCPAP治療を開始するか

 

CPAPは空気圧によって上気道を開き、中等度から重度のOSA患者およびハイリスクドライバーの第一選択治療として考慮されるべきである

 

CPAPの設定は伝統的には睡眠ラボでの検査によって調整され決定されてきた。しかし合併症を伴わないOSA患者では、睡眠ラボでの調整の代替として、自動調整されるCPAPを経験的に処方することも効果が確認されている

 

autotitrating CPAP装置は上気道閉塞の代わりの指標として気流制限を感知し、圧を自動で調整する。autotitrating CPAPは患者のアドヒーランスや眠気の改善に関して圧の固定されたCPAPと同等に機能する(27)

チェーンストークス呼吸を認める患者では禁忌であり、呼吸器疾患を合併する患者においてはよくスタディされていない

 

auto-titrating CPAPの利点は治療の必要の変化に応じて圧を自動で調節できることであり、経過とともに体重が増える場合などに有効である

 

CPAPを処方する場合は圧設定、マスクのタイプ、関連する器具(チューブ、フィルター、マスクストラップ)を明示する必要がある

 

Autotitrating CPAPは通常5〜20cmH2Oなどと広い圧の範囲で処方される

 

CPAPが開始される時、患者はその機能、手入れ、装置の維持、治療による利益、マスクや圧による不耐容性、鼻閉、乾燥あるいは過度の湿潤、マスク周囲からのエアリークなどの起こり得る問題、などについて教育される必要がある

 

マスクは伝統的には睡眠ラボでの調整によって選択されてきた。autotitrating CPAPを使用する家庭ベースでの治療ではCPAPが届けられる時にマスクを選択する必要がある。患者が異なるタイプやサイズのマスクを試してみて最もフィットするものを選べるようにすることが大切である

 

 

どのくらいCPAPを使用すれば十分か

 

CPAP治療による最適な利益を得るためにどの程度CPAPを使用すればよいかの域値はない

 

スタディでは使用時間が眠気、QOL、血圧の改善と直線関係にあることが示されている(36, 37)。したがって患者は寝る時は出来る限りCPAPを使う必要がある。しかしCenters for Medicare & Medicaid Services (CMS) は十分なアドヒーランスを70%の夜に1夜あたり4時間以上使用することと規定している

 

 

 

CPAP治療のアドヒーランスを最大化する戦略 

 

CPAP不耐容

知識と動機を評価

個人の教育、規則正しい睡眠ルーチンの確立、サポーターあるいはベッドパートナーの治療参加

鼻の病態を考慮

加湿を増加、ステロイド点鼻あるいは鼻閉剤、重度の解剖学的異常に対する手術的介入を考慮

マスクリークあるいは不快感を評価

マスク装着のチェックおよびストラップの調整、マスクリークに対し顎のストラップを追加、他のスタイルのマスクを試す

CPAPで眠ることが不能か評価

ramp機能を使用し徐々に圧を上げていく、日中にCPAPマスクを着用し脱感作を行う

圧不耐容を評価

呼気圧の解除を追加、BPAPを考慮

バリアに対する努力を行ったにもかかわらずCPAP治療失敗

口腔器具治療、睡眠時の姿勢による治療を考慮、上気道手術あるいは減量手術を考慮

 

 

 

 

 

CPAP治療のアドヒーランスを最適化するファクターは何か

 

CPAP開始1週間以内にアドヒーランスのパターンが決まり、患者が治療による利益を早期に認識することが長期使用の強い予測因子となる

 

したがって、OSA患者の最適なマネージメントは早期のフォローアープ(治療開始から1〜2週間後)を行い、問題があれば同定し対処することである。患者にCPAP装置とマスクを外来に持参するよう指示し、適切に使用できているか確認する

 

CPAP装置から直接、あるいは転送で得られるアドヒーランスデータは重要である。なぜなら患者は使用を過大評価する傾向にあるからである

 

マスクのフィット不良、鼻閉、気道乾燥などが最もよくある問題でアドヒーランスを下げる。マスクを変える、フィットの調整を行う、点鼻ステロイドの使用、加湿設定をあげる、などで問題を改善できる可能性がある

 

他に最も重要なアドヒーランスのバリアとなるのは、拒否、知識の欠如、低い自己効力感、改善が認識できない、社会的サポートの欠如、などの行動変容に関連するものである

 

OSAによる合併症、治療による利益、トラブルシューティング、行動に関する介入などの動機を高める教育すべてがアドヒーランスを高めることが確認されている(28)

 

CPAPを使用する患者への日々のフィードバック、および使用の遠隔モニターによって自動で送られる使用を励ますメッセージやポジティブフィードバックもアドヒーランスをあげる事がわかっている(38, 39)

 

現在すべてのCPAP製造業者は教育を伴う日々のフィードバックと自動のフィードバックを行う無料のアプリを提供している。これらのアプリを使用することを促す必要がある

 

 

閉所恐怖症も時に患者のCPAPマスクの耐容性に影響を与える場合がある。これは”脱感作”によって対応できうる。たとえば日中テレビを見る時(最初は圧を加えずに)などの気の紛れる活動時に装着することを促し、マスクの装着時間を徐々に増やしていく方法である

 

圧に耐容できないことはアドヒーランスが低い原因としては比較的少ないものである。bi-level PAPや呼気時の圧の解除などによる介入は通常通りにCPAPを使用した時に比べアウトカムを改善しない。しかしながら、息を吐き出すことが困難である、あるいは空気嚥下症などの他の合併症を伴う限られた患者においては、これらの方法を考慮する必要がある

 

 

CPAPマスクはどのように選ぶか

 

マスクは患者の快適さが最大限になるように選ぶ必要がある。マスクの選択に患者を参加させることが順応性を高めることになる

 

nasal maskあるいはnasal pillows (鼻の下に位置して鼻孔にフィットする) が閉所恐怖症の患者にはより耐容性が高いかもしれない

 

nasal pillowは鼻梁の解剖学的異常、顔の毛、鼻腔内のサポートが欠如することにつながる歯の欠如、などがある患者においてはより有効であるかもしれない

 

睡眠中に口を開ける患者では、nasal maskからもたらされるエアフローが口から漏れ、効果的な治療を行えない可能性がある。多くの患者では最初の数日間で口を閉じることを学ぶ、あるいは顎のストラップにてそれが達成される

 

生理食塩水による洗浄、ステロイド点鼻、抗ヒスタミン剤などの鼻閉の治療にて鼻呼吸を改善させる場合もある

 

口呼吸が続く患者においては、oronasal mask ("full-face") を使用することによって鼻と口から圧を与えることができる。しかしこれらのマスクは大きいため、マスクリークや精神的苦痛がより大きくなりうる。さらには、下顎を後方へ圧迫する事でOSAの重症度を悪化させる可能性もある。全体としてoronasal maskはnasal maskに比べ臨床アウトカムが悪く、他のオプションが失敗した時のみに使用されるべきである(40)

 

 

下顎をアドバンスするデバイス

 

custom-made mandibular advancement device (MADs) は口腔デバイスで下顎を前方位に維持することで、気道閉塞を防ぎ上気道を拡大することによってOSAを治療するものである

 

これらのデバイスはCPAPに比べAHIを正常化することの効果が低く、重度のOSA患者の初期治療としては推奨されない(41)

 

しかし、MADsは軽度から中等度のOSA患者の初期治療としては妥当かもしれない。なぜなら効果が比較的低いにもかかわらず、患者にとってはより受容されやすく、より高いアドヒーランスが認められている

 

MADsは軽度から中等度のOSA患者では実際に眠気やQOLの改善に関してCPAPと同等の効果を認めている(42)

 

バリアに対する処置を試みたにもかかわらずCPAP治療に耐容できない重度のOSA患者では、MADsが第2の治療オプションとなる

 

MADsの使用は適切な歯の状態を必要とし、また顎関節の疾患がある場合はそれを悪化させる可能性がある。このデバイスを必要とする患者はOSAマネージメントとして歯科に紹介すべきである。またMADが使用される場合はフォローアップの睡眠検査によって適切にOSAが改善していることを確かめることが推奨される

 

 

 

外科的介入の役割

 

解剖学的異常によってCPAPに耐容することが困難な患者は中隔形成術や鼻甲介手術などの鼻腔手技が耐容性を高める可能性がある

 

 

上気道の閉塞を減らすための多くの手術はOSAの重症度や症状を改善しない

 

口蓋垂軟口蓋咽頭形成術はおそらく最も知られた手技であるが、症状の改善度は一般的に低く、長期的にOSAの重症度が有意に改善するのは患者の半分以下である

 

 

 

下顎前方固定術は、術後回復に時間を要する侵襲的な手技であるが、特に下顎後退症の患者においてはOSAの治癒率が90%以上である

 

気管切開術もOSAを治癒し、生命の危険が差し迫るような状況でも使われる

 

これら2つの手技は特定の患者においてはCPAP治療を生涯行うことに比べより好まれるかもしれないが、その侵襲性とそれに関連する病態よりルーチンでの適応は除外される

 

 

舌下神経刺激が適切に選ばれた患者においては効果が維持する比較的小さな手術手技として最近行われるようになってきた(43)。この手技はBMIが32kg/m2以下で薬剤誘導による睡眠下での内視鏡検査にて気道が前後方向へ虚脱することが確認された患者のみに限られている

 

 

 

どのように患者はモニターされるべきか

 

全てのCPAPデバイスがその使用に関するデータを蓄積して報告し、またその多くが治療効果やマスクリークの情報を提供する(44)。現在のデバイスは内臓モデムを有し、それらのデータをクラウドサーバーに転送し、臨床家がインターネットを介してアクセスすることが可能である。これらのデータは患者の使用報告を確認し問題に対応するためにフォローアップ受診の際に評価される必要がある

 

治療のモニタリングとしては、全ての睡眠セッションでCPAPが使用されることを確かにすること、症状が改善していること、副作用のモニタリング、肥満や高血圧などのよくOSAに関連する併存疾患を評価すること、などにフォーカスする必要がある

 

減量や手術によってOSAが治癒した患者は症状の再発がないかモニタリングする必要がある。居眠り運転、眠気による交通事故、職業事故の既往がある患者も眠気の再発がないか密にモニターし続けるべきである

 

再発の際は以下の可能性について速やかにステップ毎に調査すべきである;アドヒーランスの低下、CPAPによる問題(マスクリーク、デバイス不具合)、必要とする圧の変化、OSAによらない睡眠のファクター(不十分な睡眠期間、薬剤の影響、他の睡眠疾患)。もし眠気が持続する場合はmodafinilあるいはarmodafinilを補助治療薬として考慮すべきである。solriamfetolもこの適応として最近承認された

 

症状の再発がない患者におけるルーチンのフォローアップ睡眠検査を推奨するエビデンスはない。たとえ症状の再発が認められる場合でも、追加の睡眠検査を考慮する前にCPAPに記録されたデータを注意深く評価すべきである

 

 

 

患者が入院した場合はOSAはどのように治療されるべきか

内科病棟に入院したOSA患者のマネージメントに関するエビデンスは乏しい。にもかかわらず、入院中のCPAPやMADの使用が家と同様に奨励される。病院の方針で自分のCPAP使用が許可されない場合は、自分のマスクを使って病院所有の機械で家のセッティングにて使用すべきである。鎮静剤やオピオイド剤はOSAを悪化させうるのでその際は注意して使用されるべきである

 

手術患者では、周術期において治療されていないOSAは心肺合併症および集中治療室転送の率を高める(45)。したがってAmerican Society of Anesthesiologistsは中等度の鎮静が行われる場合は、可能なら持続オキシメトリと持続カプノグラフィにて換気をモニターすること、鎮静中はCPAPの使用も考慮すべきことを推奨している(46)

 

 

専門家にいつコンサルトすべきか

合併症を伴わないOSAでは、治療管理について教育を受けたプライマリケア医は睡眠スペシャリストと同等の治療アウトカムをもたらすことがスタディで示されている(47)。 CPAPに耐容できない患者や治療に関わらず症状が持続する場合などの複雑な状況では睡眠スペシャリストへのコンサルテーションがさらなる評価と治療を行う助けとなる

 

 

患者は薬剤の影響や補助酸素投与に関して何を知っておくべきか

ベンゾジアゼピンやオピオイドはOSAを悪化させるため、その使用は注意を伴う必要がある

 

低いレベルのエビデンスでは外因性テストステロンの投与がOSAの悪化あるいは発症をもたらす可能性があることを示している。したがってアンドロゲン治療を受けている患者ではスクリーニングを行い症状をフォローする必要がある

 

甲状腺機能低下症の患者で適切な甲状腺ホルモン治療を受けている場合はOSAの重症度と症状が改善する。しかしOSA患者におけるルーチンの甲状腺機能低下症のスクリーニングは費用対効果がない

 

補助酸素投与はOSAに伴う酸素飽和度低下の治療には効果的であるが、症状、血圧、心血管リスクを減らすというエビデンスはほとんどない(48)。したがってOSAの治療として補助酸素投与を行うべきではない

 

 

治療は他の疾患を防ぐか、あるいはアウトカムを変えるか

CPAP治療はうつ病の症状および罹患率を減らすことが確認されている(49)。しかし、重度のうつ病患者におけるOSAのスクリーニングおよび治療の役割は調べられていない

 

OSAと高血圧を有する患者では、CPAPとMAD治療の両方で中等度の血圧低下をもたらし、そのアドヒーランスの程度が血圧の反応と相関することが質の高いエビデンスによって示されている(37)。その中でも治療抵抗性高血圧患者では、CPAPによってより大きく臨床的に重要な効果がもたらされる(20)。CPAP治療が他の高血圧治療に付加的な効果を与える(34, 50)

 

心血管アウトカムに対するOSA治療の効果ははっきりしていない。眠気を伴わない中等度から重度のOSA患者で行われた臨床試験では、治療によって心血管リスクは下がらず、OSAに起因する心血管リスク上昇は日中の眠気を伴うOSA患者に限られる可能性が示唆された(51)。OSA治療のために紹介された患者(症状のためと推測される)においては、CPAP治療を受けた患者の方が治療を断った患者に比べて心血管イベントのリスクが低かった(52)。これより症状を有する患者は治療による心血管利益がある可能性が示された。しかしCPAPへのアドヒーランスが良い患者は他の心保護治療に対するアドヒーランスも良いことが考えられることで、この結果を解釈することを困難にしている

 

 

他の疾患もOSA治療によって影響されるかもしれないが、低いレベルのエビデンスがあるのみである。OSAと既に併存していたEFが低下している心不全を有する患者では、CPAP治療がEFの中等度の上昇をもたらすかもしれない。OSAとカルディオバージョンを受ける心房細動を有する患者では治療によって心房細動の再発を減らす可能性が認められている

 

 

 

 

 

 

 

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アナルズオブインターナルメディシン

インザクリニック

2019年12月3日

 

 

 

 

 

 

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