COVID19(米国施設ガイドライン)
2021年5月20日作成
推奨・エビデンス
NIH:National Institute of Health(国立衛生研究所)
推奨
A:強く推奨
B:中等度推奨
C:オプショナルで推奨
エビデンス
I:one or more randomized trials without major limitations
IIa:other randomized trials or subgroup analyses of randomized trials
IIb:nonrandomized trials or observational cohort studies
III:expert opinion
IDSA:Infectious Diseases Society of America(米国感染症学会)
推奨
強く推奨
弱く推奨・条件付き推奨
エビデンス
高い
中等度
低い
非常に低い
UTD:UpToDate
推奨
強く推奨
弱く推奨
エビデンス
高い
中等度
低い
診断
核酸検出検査(PCR検査)
検体採取
上気道より採取(鼻咽頭、鼻腔、咽頭のいずれかから)(NIH: AIII)
咽頭よりも鼻咽頭、中鼻甲介、前鼻腔、唾液、前鼻腔と咽頭両方、のいずれかから採取(IDSA: 弱く推奨/非常に低い)
核酸検査初回偽陰性率5-40% (1, 2)
発症期間によるRT-PCRの偽陰性率:暴露当日100%、発症5日目38%、発症8日目20%、発症21日目66% (3)
(RT-PCR:real time polymerase chain reaction)
初回PCR検査が陰性でも疑いが強い場合は感染防護を継続し再検査
挿管されている場合は下気道より採取(NIH: BII)
気管洗浄検体よりも気管吸引検体を推奨(NIH: BII)
喀痰、気管洗浄液、気管吸引のいずれかから採取(IDSA: 弱く推奨/非常に低い)
入院時検査
血液検査
血算
全生化学
CPK
CRP
troponin
D-dimer
Fibrinogen
フェリチン
LDH
血液培養2セット(菌血症が疑われる場合)
β-HCG(妊娠可能な女性)
心電図
画像検査
・ポータブル胸部X線
・PA/側面像はCOVID19の疑いが高くない場合および結果がマネージメントを変えうる場合のみに考慮
・CTはCOVID19の確定診断への有用性が限られており、結果がマネージメントを変えうる場合のみに考慮
入院基準
UTD(下記のいずれか一つでも満たせば入院になる可能性が高い)
・重度の呼吸困難(安静時呼吸困難、一文を中断せずに話せない)
・SpO2 ≦ 90%
・意識障害、低灌流あるいは低酸素血症の徴候(転倒、血圧低下、チアノーゼ、無尿、胸痛など)
NIH(下記のいずれか一つでも満たせば)
・SpO2<94%
・呼吸数>30/min
・PaO2/FiO2<300mmHg
・肺野浸潤影>50%
薬剤
スタチンは継続
NSAIDsは臨床適応があれば投与(NIH: AIII)
ACEI/ARBは継続(血圧低下、急性腎障害などの禁忌がない場合)
気管支拡張剤はネブライザーを避ける(ウイルスをエアロゾル化して伝搬性を高めるリスクがあるため、metered dose inhaler(加圧式定量噴霧吸入)を使用)。ネブライザーが必要な場合は適切な感染コントロール処置を行なって投与
抗凝固剤
禁忌がない限り入院患者全員に深部静脈血栓予防にて投与(NIH: AIII)
抗菌薬
UTDではルーティンでの投与は推奨していないが、細菌性肺炎との鑑別が難しい場合はエンピリックの投与も妥当としている。プロカルシトニンがガイドになるかもしれない(注1)。WHOでは重症(呼吸数>30/min、重度の呼吸困難、SpO2<90%)の場合にはエンピリックに投与することを推奨している
(NIH・IDSAでは推奨・非推奨なし)
重症度
軽症
有症状だが呼吸困難がなく、画像所見正常
中等症
下気道病変がありSpO2 95%以上
重症
SpO2 94%以下、PaO2/FiO2<300mmHg、呼吸数>30/min、肺野病変>50%
重篤
ICU入院、呼吸不全、敗血症性ショック、多臓器不全
予後評価のためのリスクファクター
疫学(カテゴリー1)
50歳以上
呼吸器疾患の既往
慢性腎臓病
糖尿病 A1c>7.6%
高血圧
心血管疾患
肥満(BMI>30)
妊娠
生物学的薬剤使用
臓器移植歴あるいは免疫抑制剤使用
HIV、CD4<200あるいはCD4不明
バイタルサイン(カテゴリー2)
呼吸数>24/min
心拍数>125/min
SpO2≦94%
PaO2/FiO2<300mmHg
血液検査(カテゴリー3)
D-dimer>1000ng/mL
CPK>正常上限2倍
CRP>100mg/L(10mg/dL)
LDH>245U/L
トロポニン上昇
リンパ球絶対数<0.8(800/mcL)
フェリチン>500μg/L
アルゴリズム
1. 診断
2. 重症度評価
3. 予後評価
4. 治療決定
軽症・中等症で入院を必要としない
・supportive care
・外来にてモニタリング
・予後不良ハイリスクの場合は抗モノクローナル抗体治療(注2)
Bamlanivimab + Etesevimab(NIH: AIIa)(IDSA: 弱く推奨/低い)
Casirivimab + Imdevimab(NIH: AIIa)(IDSA: 弱く推奨/低い)
入院で酸素投与を必要としない
・予後不良ハイリスクの場合はレムデシビルを検討してもよいかもしれない
(UTDは弱く推奨/低い)
(NIHはデータ不十分として推奨・非推奨もしていないが、予後不良ハイリスクには考慮してよいかもしれないと記載)
(IDSAは投与しないことを弱く推奨/非常に低い)
入院にて酸素投与(高量でない)を必要とする
・デキサメタゾン(NIH: BI)(IDSA: 弱く推奨/中等度)
・デキサメタゾン + レムデシビル(酸素必要量が増加する場合)(NIH: BIII)
・レムデシビル(低量の酸素を必要とする場合)(NIH: BIIa)(IDSA: 弱く推奨/低い)
ネイザルハイフローあるいはNIPPV治療を必要とする
・デキサメタゾン(NIH: AI)(IDSA: 強く推奨/中等度)
・デキサメタゾン + レムデシビル(NIH: BIII)
・トシリズマブを上記のいずれかに追加(近日の入院で急速に酸素必要量が悪化し全身性炎症が強い場合)(NIH: BIIa)(IDSA: 弱く推奨/低い)
・レムデシビル単剤治療は推奨しない(NIH: AIIa)
挿管・人工呼吸器治療あるいはECMO
・デキサメタゾン(NIH: AI)(IDSA: 強く推奨/中等度)
・デキサメタゾン + トシリズマブ(ICU入院24時間以内)(NIH: BIIa)(IDSA: 弱く推奨/低い)
・レムデシビル併用(IDSA:弱く推奨/中等度)(NIHはデータ不十分として推奨・非推奨もしていない)(UTDはルーチンの投与をしないことを推奨しており(弱く推奨/低い)、挿管24〜48時間以内ならデキサメタゾンに追加することが妥当であるかもしれないが、臨床的利益は不明であると記載)
・レムデシビル単剤治療は推奨しない(NIH: AIIa)
デキサメタゾン
6mg 1日1回 経口あるいは静注投与(10日まで)
重症あるいは重篤なCOVID19患者にて利益(RRR 36% on invasive O2 Tx vs RRR 18% on non-invasive O2 Tx)(4)
酸素投与を必要としない患者には利益が認められない
他のステロイドと異なりミネラルコルチコイド作用がない
10日間投与あるいは退院時のどちらか早い方で中止
代替療法
ヒドロコロチゾン静注 50mg 8時間毎
メチルプレドニゾロン静注 30mg 1日1回
プレドニゾン 経口40mg1日1回
レムデシビル
初日200mg静注1回、続いて100mg静注1日1回4日間
RCTsにて主要アウトカムへの利益が明確でない(5-10)
5日目までに改善しない、人工呼吸器・ECMO治療の場合など10日目まで延長可
肝酵素と腎機能を毎日フォロー
退院時に中止
ALTが正常上限の10倍以上の場合は開始しない、あるいは中止
GFR<30の場合はケース毎に利益とリスクを考慮して投与を決定する
トシリズマブ
8mg/kg(max 800mg)1回投与
酸素必要量増加(>6L/24時間)、CRP>75mg/L(7.5mg/dL)の場合に考慮
既にデキサメタゾンを開始されていなければならない
免疫不全患者、コントロール不良の他のウイルス感染、細菌感染、真菌感染、AST/ALT>正常上限の5倍、好中球数<1000cc/mm³、血小板<50000、腸穿孔のハイリスク患者、などでは注意
Daily Management
心電図をフォロー:QTを延長する薬剤投与時
血液検査
状態が安定するまで毎日
・血算(特に総リンパ球数)
・全生化学
・CPK
・CRP(入院最初の1週間、ICU以外(注3))
ベースライン、およびその後隔日(ICU入院あるいは上昇している場合は毎日)
・PT/PTT/フィブリノーゲン
・D-dimer
リスク層別化
・LDH(上昇している場合は毎日)
・トロポニン(上昇する場合はフォロー)(注4)
血球貪食症候群が疑われる場合(肝酵素上昇、フィブリノーゲン低下、血圧低下)
・ESR、フェリチン
呼吸状態をフォロー
酸素化目標
UTDではSpO2 90% to 96%を保ちながらFiO2をできる限り低くすることが好ましいとしている。NIHでは最適酸素飽和度は不明であるが、92%以上96%以下に保つことが妥当としている。WHOでは90%以上を推奨
ハイフローネイザル・NIPPV
WHOはmild ARDS(200mmHg<PaO2/FiO2 ≦ 300mmHg (with PEEP or CPAP≧5cmH2O))の場合はハイフローネイザル、NIPPVのトライアルを行ってもよいかもしれない、としている。
従来の酸素投与法では酸素必要量を保てない場合はNIPPVよりもハイフローネイザルを推奨(NIH: BIIa)
COVID以外の急性呼吸不全患者におけるブラインドなしで行われたハイフローネイザルとNIPPVが比較された試験において人工呼吸なしの期間(22日 vs 19日)と90日死亡率(HR 2.01 vs HR 2.50)であった結果に基づく(11)
非挿管患者の腹臥位療法
酸素投与量を増加しても低酸素血症が持続するが挿管の適応でない場合はawake prone positioning(覚醒腹臥位療法)を検討することを推奨(NIH: CIIa)しているが、適応があるにもかかわらず挿管を避ける目的で行わないことも推奨している(NIH: AIII)
WHOでは重症で酸素投与を必要とする場合(ハイフローネイザル、NIPPVも含む)は弱く推奨(エビデンス低い)
酸素化が改善したと報告するスタディもあるが(12)、挿管を回避できる、回復を早める、死亡率を下げるかに関するエビデンスは不明である
適応:自分でポジションを調整でき腹臥位に耐容できる患者
禁忌:緊急で挿管が必要、血行動態不安定、最近の腹部手術、脊椎が不安定
挿管
挿管のタイミングは難しいが、いたずらに遅らせて緊急に行わなければならない状況は患者および医療従事者双方にとって有害となりえるため、下記を評価しながら挿管の閾値は低めにしておくことが大切である
・数時間で急速に悪化
・ハイフローネイザル(>50L/min)、FiO2>0.6にて改善を認めない
・高二酸化炭素血症発症、呼吸努力の増大、tidal volume増加、意識状態悪化
・血行動態不安定あるいは多臓器不全
人工呼吸管理
low tidal volume (VT) ventilation(VT>8mL/kg(理想体重)よりもVT 4-8 mL/kgを推奨)(NIH: AI)
Plateau pressure<30cmH2O(NIH: AIIa)
liberal fluid strategyよりもconservative fluid strategyを推奨(NIH: BIIa)
(liberal fluid strategy(CVP 10-14mmHgあるいは肺動脈楔入圧14-18mmHgを目標)とconservative fluid strategy(CVP<4mmHgあるいは肺動脈楔入圧<8mmHgを目標)に分けて行われたARDSのスタディに基づく) (13)
腹臥位療法
人工呼吸療法の最適化にも関わらず低酸素血症が続く場合は12-16時間/日の腹臥位療法を推奨(NIH: BIIa)
重症ARDS(PaO2/FiO2<150)の場合は12-16時間/日の腹臥位療法を推奨(WHO)
神経筋遮断薬
肺保護換気を促すために中等度から重症ARDSに対し神経筋遮断薬の間欠的あるいは持続的投与を推奨(NIH: BIIa)
WHOでは中等度から重症ARDSに対し持続静注による神経筋遮断薬をルーティンで使用しないことを推奨。鎮静にもかかわらず呼吸器と同調しない、低酸素血症あるいは高二酸化炭素血症が改善しない場合は間欠的あるいは持続投与を検討してもよいかもしれない、としている
UTDではデータが矛盾しているためルーティンでの使用は好ましくないとしいてる
ECMO
WHOでは肺保護換気にもかかわらず酸素化が改善しない場合(PaO2/FiO2<50mmHg for 3 hours、PaO2/FiO2<80mmHg for 6 hours)は検討することを推奨
UTDでは他の呼吸器療法(腹臥位療法、神経筋遮断薬、high PEEPなどを含む)に失敗した時の最後のリゾートとすることを提唱している
絶対禁忌:回復が望めない複数の重度の病態が存在(多臓器不全、進行悪性疾患、重度の中枢神経障害、長期の心停止)
相対的禁忌:高齢、BMI>40、重度の免疫不全、重度心不全
退院
一般的には他の疾患と同じで病院レベルのケアおよびモニタリングを必要としない状態になれば可能。施設に転院する場合はその入所基準を満たす必要があるかもしれない。自己隔離ができる状況であれば感染隔離継続が必要であることが自宅への退院を遅らせてはならない
隔離解除
CDC基準
症状に基づく隔離解除基準
軽症から中等症で重度の免疫不全がない場合(下記の全てを満たす)
・発症から少なくとも10日以上経過
・最後の発熱から解熱剤なしで24時間以上経過
・症状改善(咳、呼吸困難)
無症状で重度の免疫不全がない場合
・最初の検査陽性日から10日以上経過
重症〜重篤あるいは重度の免疫不全がある場合(下記の上3つ全てを満たす)
・発症から少なくとも10日から20日まで経過
・最後の発熱から解熱剤なしで24時間以上経過
・症状改善(咳、呼吸困難)
・感染症専門家コンサルトを検討
検査に基づく隔離解除基準
有症状の場合(下記すべてを満たす)
・解熱剤なしで発熱改善
・症状改善(咳、呼吸困難)
・PCR検査が24時間以上あけて少なくとも2回陰性
無症状の場合
・PCR検査が24時間以上あけて少なくとも2回陰性
(重度免疫不全:化学療法中、造血幹細胞移植1年以内、未治療HIVでCD4<200、複合免疫不全症、プレドニゾン20mg /日以上14日以上服薬など)
他の治療薬
ファビピラビル
インフルエンザ治療に使われるRNAポリメラーゼ阻害剤である。現在COVID19に対する治験が行われている。初期の試験ではロシア(14)と中国(15)において利益も報告されたが、他の治療薬(immunomodulatory agents)も投与されており解釈には注意を要する。イランの試験では重症COVID19に効果が認められなかったと報告されている(16)
ヒドロキシクロロキン
入院患者に投与しないことを推奨(NIH: AI)
IDSAは投与しないことを強く推奨(中等度)
ロピナビル・リトナビル
入院患者に投与しないことを推奨(NIH: AI)
IDSAは投与しないことを強く推奨(中等度)
回復期血漿輸血
IDSAは投与しないことを弱く推奨(低い)
中和抗体を含む血漿が理論上臨床利益をもたらすとして緊急で承認されたが、重症患者に対する利益が明確でないため、UTDでは臨床試験以外で投与しないことを弱く推奨している
イベルメクチン
IDSAは臨床試験以外で投与しないことを弱く推奨(非常に低い)
NIHはデータ不十分として推奨および非推奨を行なっていない
免疫グロブリン静注
NIHではデータ不十分として推奨および非推奨を行なっていない
注1
プロカルシトニンはCOVID19にて入院する多くの患者にルーティンでの検査は推奨されないが細菌感染合併のリスクが中等度の場合は限られた有用性があるかもしれない。スタディではCOVID19感染の初期7〜10日まではプロカルシトニンは低値のままで、それ以降では細菌感染の合併がなくても上昇することが確認されている。
発症から経過が短いCOVID19患者で細菌感染の可能性が懸念される場合にプロカルシトニン値が低値であれば、抗菌薬投与が必要でないかもしれない。また、臨床経過が悪化する場合にプロカルシトニン値が低値のままであれば細菌感染合併の可能性が低いと考えられるかもしれない
注2
Anti-spike SARS-CoV-2モノクローナル抗体はS蛋白受容体ドメインと結合しACE2受容体との作用を阻害する。外来におけるRCTでは特定のモノクローナル抗体が入院を70%まで減らしたと報告されている。Bamlanivimab、bamlanivimab + etesevimab、casirivimab + imdevimabがハイリスクの外来患者に承認された
外来投与基準
・COVID19診断確定
・軽度から中等度の症状(無症状は除外)
・発症から10日以内に投与終了が可能
・酸素投与を必要としない、あるいはCOVID19によって酸素必要量がベースラインより増えない
・以下のリスクを少なくとも1つ以上有する
65歳以上
BMI>35
慢性腎臓病
糖尿病
免疫不全疾患
免疫抑制剤使用中
高血圧既往の55歳以上
心血管疾患既往の55歳以上
COPDあるいは他の呼吸器疾患既往の55歳以上
注3
入院1週間以上あるいはICU入院の場合は炎症マーカーの解釈が困難となる。CRPはトシリズマブの投与決定の判断に役立つかもしれない
注4
心筋障害のバイオマーカーはCOVID19 、急性心疾患(心筋梗塞や心不全)で上昇する可能性がある。正常上限の2倍以上で血行動態が安定している場合はトロポニン値をフォローする。説明のつかない血圧低下や中心静脈血酸素飽和度の低下などがない場合はルーティンでの心臓超音波検査は不要である。トロポニンが正常上限の5〜10倍以上の場合で血行動態が悪化する、あるいは他の懸念される心血管症状や徴候がある場合は心臓超音波検査や循環器コンサルトを考慮しなければならない
参照
UpToDate
WHO COVID-19 Clinical management
https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-clinical-2021-1
NIH COVID-19 Treatment Guideline
https://files.covid19treatmentguidelines.nih.gov/guidelines/covid19treatmentguidelines.pdf
IDSA Guidelines on the Treatment and Management of Patients with COVID-19
https://www.idsociety.org/practice-guideline/covid-19-guideline-treatment-and-management/
CDC Clinical Care Guidance
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/clinical-guidance-management-patients.html
Massachusetts General Hospital COVID-19 Treatment Guidance
UCSF Adult COVID-19 Management Guidelines
1
COVID-19 diagnostics in context.
Weissleder R. Sci Transl Med. 2020;12(546)
2
Occurrence and Timing of Subsequent SARS-CoV-2 RT-PCR Positivity Among Initially Negative Patients.
Long DR. Clin Infect Dis. 2020
3
Variation in False-Negative Rate of Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction-Based SARS-CoV-2 Tests by Time Since Exposure.
Kucirka LM. Ann Intern Med. 2020;173(4):262. Epub 2020 May 13.
4
Dexamethasone in Hospitalized Patients with Covid-19.
RECOVERY Collaborative Group, Horby P. N Engl J Med. 2021;384(8):693. Epub 2020 Jul 17
5
Drug treatments for covid-19: living systematic review and network meta-analysis.
Siemieniuk RA. BMJ. 2020;370:m2980. Epub 2020 Jul 30.
6
Remdesivir for the Treatment of Covid-19 - Final Report.
Beigel JH. N Engl J Med. 2020;383(19):1813. Epub 2020 Oct 8.
7
Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial.
Wang Y. Lancet. 2020;395(10236):1569. Epub 2020 Apr 29
8
Repurposed Antiviral Drugs for Covid-19 - Interim WHO Solidarity Trial Results.
WHO Solidarity Trial Consortium, Pan H, Peto R. N Engl J Med. 2021;384(6):497. Epub 2020 Dec 2
9
Remdesivir for severe covid-19: a clinical practice guideline.
Rochwerg B, BMJ. 2020;370:m2924. Epub 2020 Jul 30.
10
Remdesivir for Adults With COVID-19 : A Living Systematic Review for American College of Physicians Practice Points.
Wilt TJ. Ann Intern Med. 2021;174(2):209. Epub 2020 Oct 5.
11
High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure.
Frat JP, Thille AW, Mercat A, et al. N Engl J Med. 2015;372(23):2185-2196
12
Feasibility and physiological effects of prone positioning in non-intubated patients with acute respiratory failure due to COVID-19 (PRON-COVID): a prospective cohort study.
Coppo A. Lancet Respir Med. 2020;8(8):765. Epub 2020 Jun 19.
13
Comparison of two fluid-management strategies in acute lung injury.
National Heart, Lung, and Blood Institute Acute Respiratory Distress Syndrome (ARDS) Clinical Trials Network, Wiedemann HP. N Engl J Med. 2006;354(24):2564. Epub 2006 May 21.
14
AVIFAVIR for Treatment of Patients with Moderate COVID-19: Interim Results of a Phase II/III Multicenter Randomized Clinical Trial.
Ivashchenko AA. Clin Infect Dis. 2020
15
Experimental Treatment with Favipiravir for COVID-19: An Open-Label Control Study
Cai Q, Yang M, Liu D, et al. Engineering. 2020
16
Safety and efficacy of Favipiravir in moderate to severe SARS-CoV-2 pneumonia.
Solaymani-Dodaran M. Int Immunopharmacol. 2021;95:107522. Epub 2021 Mar 11.
肺高血圧
肺血管床は通常抵抗が低く、全身循環のおよそ15〜20%の圧で全心拍出量を収容できる容量がある。肺高血圧では上昇した肺動脈圧が拍出量を維持しようとする薄い壁でできた右室に負荷をかける。効果的な治療なしでは、進行する右室機能不全が症状の悪化をもたらし、通常死に至る。肺高血圧は左心疾患あるいは肺疾患によって引き起こされる場合が多く見られる。頻度は少ないが、肺血管自体に内因する過程によって起こる場合もある。肺高血圧の原因を鑑別することは適切な評価を要し、また必須となる。なぜなら原因によって対応が異なることおよび不適切な治療は重篤な害をもたらす可能性があるからである
診断およびスクリーニング
正常の肺動脈収縮期圧(pulmonary arterial systolic pressure: PASP)は15〜30mmHg、拡張期圧は4〜12mmHg、平均圧は9〜18mmHgである。現在の定義では平均肺動脈圧(mean pulmonary arterial pressure: mPAP)が25mmHg以上の場合に肺高血圧とされる。現在WHOによって5つのカテゴリーに分類され、それぞれで肺動脈圧上昇の原因、自然経過、治療が異なっている
肺動脈高血圧(WHO group 1)は毛細血管前肺細動脈に血管病因を有する特異的な血行動態を持つものとして定義される。この血行動態的定義を満たすためには平均肺動脈圧は25mmHg以上で肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure: PCWP)が15mmHg以下でなければならない
肺高血圧の最も多い原因は左心疾患に基づく左房圧上昇と慢性的な肺静脈圧上昇によるものである。肺静脈圧上昇をきたす左心疾患の主なものは左室収縮能不全および拡張能不全、僧帽弁あるいは大動脈弁疾患である。肺静脈抵抗は長期の肺静脈圧上昇とともに上昇する
慢性肺疾患は肺実質の破壊、肺血管の絞扼、低酸素による肺血管収縮などを起こし、肺高血圧をきたしうる。最も多い原因は慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。特発性肺線維症などのような線維性肺疾患、膠原病性血管疾患によるびまん性肺実質疾患(強皮症やSLEなど)なども肺高血圧の原因となる。閉塞性睡眠時無呼吸もこのカテゴリーに含まれる
肺塞栓症後の患者4%が慢性血栓塞栓性肺高血圧をきたす(1)。症状が進行して肺高血圧が認識され、その原因が評価されるまで静脈血栓塞栓のイベントが認識されない場合もある
左心疾患、慢性低酸素性肺疾患、慢性血栓塞栓症がない場合は、肺高血圧が内因する肺血管障害による”肺動脈高血圧”に起因するものであるかもしれない。これは進行的な血管内膜、中膜、外膜の障害による肺血管抵抗の上昇が関与している。遺伝的素因あるいは膠原血管病、HIV、肝疾患、左右シャントを伴う先天性心疾患、メタンフェタミンなどの刺激薬使用歴などのリスクファクターなどによっておこる場合がある。リスクが同定できない場合に肺動脈高血圧は”特発性”と呼ばれる
肺高血圧の原因
肺動脈高血圧(WHO group 1)
左心疾患による肺高血圧(肺静脈高血圧)(WHO group 2)
慢性肺疾患/低酸素血症による肺高血圧(WHO group 3)
塞栓症による肺高血圧(慢性血栓塞栓性肺高血圧、腫瘍塞栓)(WHO group 4)
その他の原因(サルコイドーシス、リンパ性閉塞)(WHO group 5)
症状
進行する呼吸困難が肺高血圧で最もよく見られる症状である。これが半分以上の患者で最初に見られ、最終的にはおよそ85%にまで認められる(2)。労作性呼吸困難はよく見られる症状であり、また肺高血圧は比較的頻度が少ないため、患者同定のために疑いをもつよう意識する必要がある。疾患に対する認識が向上しているが、発症から診断まで遅れることが多く、肺動脈高血圧の20%までの患者が診断に2年以上かかると報告されている
他の症状には倦怠感(26%)、胸痛(22%)、失神あるいは失神前症状(17%)、下肢浮腫(20%)、動悸(12%)などがある(2, 3)
心臓超音波検査
心臓超音波検査は肺高血圧を評価するために最も良い検査の一つである。肺動脈収縮期圧は心臓超音波検査によって三尖弁逆流速度から算出される推定右室圧を下大静脈外観から推定される中心静脈圧に加えることによって推定される。多くの患者で肺動脈収縮期圧の近似値を得ることが可能だが、正確な三尖弁逆流のエンベロープが得られない場合は情報が限られる。右房および右室拡大、肥大、右心機能不全の所見は肺動脈収縮期圧の正確な推定よりも重要である。なぜならこれらの所見は原因にかかわらずより重篤な病態を示唆するからである。心臓超音波検査による肺動脈収縮期圧の推定は肺高血圧の評価に有用であるが、疾患の正確な重症度および治療反応を評価する場合には適切ではない。特定のタイプの肺高血圧に対する特異的治療を考慮する場合は、右心カテーテル検査が必須となる。心臓超音波検査のみでは肺動脈高血圧を診断できない
他の検査
肺高血圧の原因診断あるいは除外のために他のいくつかの試験が必要となる。たとえ肺塞栓症の既往がなくても慢性血栓塞栓症を除外するため換気血流スキャンを行わなければならない。肺塞栓症が認識されていない場合が多く見られるからである。CT肺血管造影は肺高血圧の重要で治療できうる原因除外には感度が十分には高くないと考えられている。臨床症状、呼吸機能検査、胸部レントゲンからびまん性肺疾患が疑われる場合には胸部CTが有用であるかもしれない。睡眠時無呼吸の可能性がある場合は睡眠検査を考慮しなければならない
肺高血圧の評価
膠原血管病のための自己抗体検査
BNPあるいはNT-proBNP
胸部レントゲン
血算
心臓超音波検査
心電図
電解質/クレアチニン
HIV血清検査
肝機能検査(ALT, AST, ALP, T-bil)
安静時および労作時酸素飽和度
ポリソムノグラフィー
呼吸機能検査(スパイロメトリ、肺容量、拡散能)
放射性核種拡散血流検査
右心カテーテル
6分間歩行距離
他の試験も疾患の重症度評価、治療選択および治療反応評価に有用である。ヘモグロビン酸素飽和度を安静時および労作時に測定しなければならない。BNPもあるタイプの肺高血圧の重症度と相関を認める。特に肺動脈高血圧の場合、あるいは肺高血圧が収縮性左心不全に関連する場合などである。最初の診断時のBNPが150pg/mL以上の肺動脈高血圧患者は悪い予後と相関し、また治療開始後にBNP 180pg/mL以上が持続する場合も予後が悪い(4)。NT-proBNPが1400pg/mL以上の場合も予後不良との相関を見せる(5, 6)。BNPおよびNT-proBNPは肺動脈高血圧と左心疾患に起因する肺静脈高血圧の両方で上昇する可能性があり、両者を鑑別できない。6分間歩行試験は肺高血圧の機能的影響の評価を行うことができ、予後とも相関を認める。連続的な試験も治療反応の評価に有用であるかもしれない
心臓カテーテル検査
肺動脈高血圧の診断確定には右心カテーテルが必須であり、肺血管に対する特異的な内科的治療を開始する前に行わなければならない。また以前に認識されていなかった左心機能不全および肺静脈高血圧の同定にも有用である。たとえ肺高血圧が左心疾患に関連するものであっても、肺高血圧の診断の確定および重症度評価のためにも右心カテーテルを考慮しなければならない。弁膜性心疾患および心移植適応に関する治療オプションに影響を与える可能性があるからである。同様に慢性肺疾患に関連する肺高血圧の血行動態が分かることで、開胸肺生検、治療オプション、肺移植のタイミングの考慮などに関する意思決定に影響を与えられる。右心カテーテルは肺高血圧の患者において安全な手技で、合併症率は1.1%で、最も多く関連するものが静脈アクセス、不整脈、迷走神経反射による血圧低下などである。手技による死亡は稀で0.05%と報告されている(7)
肺動脈高血圧の診断
肺高血圧の存在(平均肺動脈圧が25mmHg以上)
肺静脈高血圧の欠如(左房あるいは肺動脈閉塞圧(楔入圧)が15mmHg以下)
肺血管抵抗上昇(>3 Wood units)
重度の慢性低酸素性肺疾患(重度の慢性閉塞性肺疾患など)あるいは慢性血栓塞栓症の除外
治療
適切な治療は肺高血圧の原因に依存し、慢性心疾患あるいは肺疾患を持つ患者ではその元になる状態に対する治療にフォーカスすることとなる。通常これにより症状および肺の血行動態が改善する
酸素療法は安静時、労作時および睡眠時に酸素飽和度90%以上を維持する量を投与すべきである(8)。アイゼンメイジャー症候群をきたし右左シャントを伴う患者では酸素投与による利益が証明されていない
原因によらず肺高血圧が右心不全をきたす場合は利尿剤治療が必須になる。最適な投与量に関するデータは少ないが、利尿剤(塩分制限と頻度の体重評価とともに)によって右心不全の症状を伴う患者の体液過剰および呼吸困難を最小限にすることが必須となる
左心疾患による肺高血圧の治療
臨床において左心疾患に関連する肺高血圧が最もよく見られるものである。左心疾患における肺高血圧は直接肺動脈圧を下げる試みよりも左心疾患自体に対する治療を行う必要がある。プロスタサイクリンアナログ、エンドセリン受容体拮抗剤、ホスホジエステラーゼ5阻害剤、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤などが左心疾患を伴う肺高血圧において調べられてきたが結果は思わしいものではなかった(9, 10, 11)。左心弁疾患、特に僧帽弁狭窄症による肺高血圧がよく調べられてきた。僧帽弁の治療後、肺動脈圧は多くの場合正常にもどる。反応は速やかにあるいは6ヶ月以内に現れる(12)
肺疾患による肺高血圧
COPDに関連する肺高血圧の治療において唯一効果が認められているのは酸素投与である(13)。治療はその元となる睡眠時無呼吸、COPD、肺疾患の最適化を目指す必要がある。低酸素血症を防ぐ酸素投与、適応があれが呼吸理学療法を利用することである(14)。睡眠時無呼吸は夜間酸素飽和度低下および低酸素性肺血管収縮を介する肺高血圧の促進を最小限にすべく積極的な治療を行うべきである。肺疾患による肺高血圧に対し肺動脈高血圧治療は現在推奨されていない(15)。びまん性肺疾患、COPDに対する肺血管拡張薬を投与した臨床試験において効果は認められず、これらの薬剤は換気血流不均等を悪化させ、より重度の低酸素血症をもたらす結果となった(16, 17)
慢性血栓塞栓症による肺高血圧治療
慢性血栓塞栓症は他の肺高血圧とは異なり、外科的手技である肺血栓内膜摘除術(pulmonary thromboendarterectomy: PTE)が治療選択となり治癒する可能性がある(18)。慢性血栓塞栓症の患者でPTEが適応とならない場合、あるいはPTE後に肺高血圧が残存する場合は経験のある施設における肺動脈バルーン形成術(balloon pulmonary angioplasty: BPA)が推奨されるかもしれない。慢性血栓塞栓症の診断が考えられる場合は効果的な抗凝固療法を開始し、専門施設に紹介する必要がある。肺高血圧に対する内科的治療がPTEやBPAの機械的治療を行う施設での評価を遅らせてはならない。外科的にアクセスできる疾患の多くの場合はPTE成功後も症状の改善が維持され、専門施設での外科的治療による死亡率は5%以下である(19, 20)。PTE後に肺高血圧が残存する患者あるいは外科的治療の適応とならない患者においては可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤リオシグアト治療が血行動態エンドポイントと6分間歩行距離などの機能的アウトカムを改善し、少なくとも1年間は効果が維持されたと報告されている(21, 22)
肺動脈高血圧の治療
肺動脈高血圧の治療は一般的に”バックグラウンド”治療と肺動脈高血圧特異的治療に分けられる。バックグラウンド治療には前述のように利尿剤と酸素投与が含まれる
肺動脈高血圧に対するカルシウムチャネル拮抗剤の使用は右心カテーテル時の血管反応性検査に好反応を示した患者に限定すべきである。利益を認めるのは少数であるが(およそ10%以下)、それらの患者では多くの場合反応が数年持続し良き予後を示す。これらの薬剤は経験的に投与すると血行動態不安定化、症状悪化、あるいは死亡をきたす可能性もあるため、右心カテーテルにて血管反応性が明らかに示されない限り使用すべきではない
現在認可されている肺動脈高血圧治療は病因に関連する3つの分子経路をターゲットとしている。肺動脈高血圧の治療選択と決定は主に疾患の重症度とリスクによって決められる(23)
肺動脈高血圧治療薬
プロスタサイクリン・プロスタサイクリン受容体作動薬
エポプロステノール、イロプロスト、トレプロスチニル、セレキシパグ
エンドセリン受容体拮抗薬
アンブリセンタン、ボセンタン、マシテンタン
PDE5拮抗薬
シルデナフィル、タダラフィル
可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬
リオシグアト
臨床的数値(機能状態や6分間歩行距離など)と心不全に関する検査値(NT-proBNP、心臓超音波検査のハイリスク所見(心嚢液)、右心不全を表す血行動態(右房圧上昇と心係数低下))、右心障害を示唆する所見(超音波上の右心拡大あるいは右心機能不全あるいは測定された血行動態指標)を統合して疾患の重症度が決定される
現在のガイドラインでは低リスク群では単剤治療で開始することをサポートしている。しかし新たに診断された肺動脈高血圧患者の多くでは併用療法が推奨される(23, 24)。治療反応に対する評価をフォローアップしなければならない。もし患者が3〜6ヶ月後も中等度あるいは高リスクのままである場合は低リスクとなるまで治療をエスカレートしなければならない。NYHAIIIあるいはそれ以上の全ての患者では、特に他の肺動脈高血圧治療にもかかわらず高リスクのままである場合には、プロスタサイクリン非経口投与治療を考慮しなければならない
肺移植
肺動脈高血圧特異的治療にて改善を認めない場合は肺移植の評価を行うことが適切となる。重度の右心不全あるいは急速に病態が悪化する場合は早期の肺移植チームへの紹介を考慮しなければならず、肺動脈高血圧治療の反応を待つことによって紹介を遅らせてはならない
運動
運動が制限されることによる患者の身体機能低下を避ける、あるいはそれを改善させることが重要となる。肺高血圧では節度ある運動は禁忌でなく、患者に受容できる範囲での活動性を保つことを促す必要がある。軽度の息切れは受容されるが、重度の呼吸困難、運動性めまい、失神前状態、胸痛などをきたすほどの運動は避けるべきである。等尺性運動(固定抵抗に対して筋緊張を加える)は運動性失神をきたす可能性があるため避けるべきである
心不全あるいは進行した肺疾患による肺高血圧を呈する患者ではリハビリテーションプログラムに参加することが可能である。モニターされた運動プログラムは安定した肺動脈高血圧の患者において運動耐容能および生活の質の向上が認められ、内科的治療の補助的な役割を担う
予後
肺高血圧は心不全やCOPDなどと関連する多くの場合において予後不良とみなされている。心不全の場合は右心カテーテルにおける肺動脈圧の上昇が強い死亡予測因子とされ、特に心筋炎や右心機能低下などの場合である。同様にCOPD患者では重度の肺高血圧が悪い予後を示唆する
従来、肺動脈高血圧も予後不良とされてきた。National Institutes of Health Registry on Pulmonary Hypertensionによる1981年に開始された187人の特発性肺動脈高血圧患者の評価において生存期間中央値は2.8年で、1年生存率は68%であったと報告されている(3)。特異的治療が行われる近年に得られたアウトカムは向上したが、依然肺動脈高血圧は重篤な疾患である。多施設で行われたREVEAL(Registry to Evaluate Early and Long-Term Pulmonary Arterial Hypertension Disease Management)Registryでの2716人から得られたデータでは生存率がそれぞれ以下のようであった;1年:85%、3年:68%、5年:57%、7年:49%(25, 26)
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2021年4月
不眠
restless legs syndromeがある場合はフェリチンを測定する。低値あるいは正常低値の場合は鉄剤治療の適応となるかもしれない(1)
FDAに承認されている不眠治療薬の中で他に比べより推奨される特定の薬剤はない
American Academy of Sleep Medicine(AASM)のガイドラインに記載されている不眠治療剤リスト
ベンゾジアゼピン
Triazolam
Temazepam
非ベンゾジアゼピン受容体アゴニスト
Zaleplon
Zolpidem immediate-release
Eszopiclone
メラトニン受容体アゴニスト
Ramelteon
オレキシン受容体アンタゴニスト
Lemborexant
Suvorexant
三環系抗うつ剤
Doxepin
効果および安全性のエビデンスが少なく、利益よりも有害性が大きい可能性があるため、トラゾドンを含む抗精神病剤と抗うつ剤は不眠治療のオフラベル使用は推奨されない(2)
ミルタザピンとアミトリプチリンはrestless legs syndromeと周期性四肢運動異常の原因となる、あるいは悪化させる可能性がある(3)
ジフェンヒドラミンは市販薬としてよく使用されるが、有効性のエビデンスは認められていない(2)
AASMガイドラインでは有効性あるいは有害性のエビデンスが確認されていないため、メラトニンの使用は推奨されていないが(2)、他では高齢者の第一選択薬として、入院中および長期療養施設入所中の状況も含めて、推奨されている(4, 5, 6, 7)
メラトニンは日中の眠気の原因となりうる(6)
低用量のメラトニン(0.5-1mg)は高用量と同等の効果を認める
入院中の不眠治療剤使用をできる限り避ける努力をすべきである
入院中の高齢者で薬剤が必要だと考えられる場合には低用量のメラトニンが推奨される(7, 8)。高齢者においては他の薬剤は避けるべきである
1
Aurora RN , Kristo DA , Bista SR , et al; American Academy of Sleep Medicine. The treatment of restless legs syndrome and periodic limb movement disorder in adults—an update for 2012: practice parameters with an evidence-based systematic review and meta-analyses: an American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline. Sleep. 2012;35:1039-62
2
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3
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4
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5
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6
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7
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8
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2021年3月9日
急性膵炎
急性膵炎は膵臓の急性炎症で単発あるいは再発のイベントとしておこる
急性膵炎は軽度の炎症による軽い間質性の膵炎から広範囲の膵壊死によって多臓器不全を起こすものにまでわたる疾患である
診断は3つの特徴のうち少なくとも2つ以上認めることに基づいて行われる:特徴的な腹痛、正常上限3倍以上の膵酵素上昇(アミラーゼと/あるいはリパーゼ)、画像検査による特徴的な所見(1)
アルコール多量摂取と胆石が最も多い原因の2つであるが、他にも頻度が比較的低いが原因となるものが多数ある
急性膵炎による死亡率は5%以下であるが、中等症から重症の場合はより長い入院を必要とし、より高い死亡率へとつながる(2)
予防
急性膵炎の最たる原因は胆石(およそ35〜40%)と過剰アルコール摂取(およそ30%)である(3)
胆石症は米国で最も多い疾患の1つで、膵炎において胆石、胆泥、微小な結晶(microlithiasis)として発症しうる(4)
症候性あるいは無症候性胆石あるいはmicrolithiasisの患者が膵炎を発症するかを予測することは難しい。1つのリスクファクターは総胆管に結石を認める、特に2mm以下の場合(microlithiasis)である。十二指腸膨大部の膵管開口部に嵌頓する可能性があるからである
膵炎のリスクを減らすために、症候性胆石の患者は通常胆嚢摘出術を受ける必要があり、また総胆管結石を認める場合はたとえ無症状であってもERCPにて除去する必要がある。ウルソデオキシコール酸などの薬剤による溶解療法は膵炎予防に対する有効性が認められていない
アルコール関連膵炎は通常長期間(10年以上)の多量アルコール摂取によっておこる。リスクは摂取量によって上昇することより、アルコールの代謝物が膵臓に対し直接毒性作用を持つことが示唆される。アルコール使用障害患者の5%だけが膵炎を発症することより、その感受性を高める知られていない遺伝的素因や他の因子がある可能性が考えられる。例えば喫煙はアルコール性膵炎の進行を促進するという報告がある(5)。膵炎を発症するために必要なアルコール1日摂取量は明らかではない。1つのスタディではビールの多量摂取(週に14 drinks以上)との関連が認められたが、ワインや蒸留酒との関連が認められなかった、と報告している(6)
高トリグリセリド血症も重要なリスクファクターであり、重症へ進行する最も高いリスクとされている(7)。どの高トリグリセリド血症患者が膵炎を発症するかというリスクプロファイルは明らかでないが、高度に上昇していない場合の発症は稀である(通常1000mg/dL以上)(8)
いくつかの薬剤が急性膵炎の発症に関連しているが、そのリスクは低い。薬剤誘発性急性膵炎を発症したように見える患者も、特定の薬剤に起因すると決定する前に他の膵炎の原因の可能性を評価しなければならない。薬剤誘発性膵炎はその薬剤投与の過敏性反応として、あるいは投与開始後間もなく、あるいは長期使用した後の反応として、などといつの経過でも起こりえることを知っておく必要がある。しかし多くの場合は投与開始後間もなくおこることが一般的である。薬剤誘発性膵炎は以前に考えられていた以上に頻度が少なく、薬剤誘発性の明らかなエビデンスがない限り必須の薬剤は継続できることが多い(9)
重要な医原性リスクファクターにはERCPがある。ERCPに関連するリスクは2〜20%で、経験レベルなどの術者関連因子、施術適応(特にオッディ括約筋不全)、女性、ERCP関連膵炎の既往などに影響される(10)。発症は周術期のインドメタシン直腸投与によって減少し(インドメタシン投与群9.2% vs プラセボ群16.9%)(11)、また予防的膵管ステントによっても減る可能性がある
説明のできない急性膵炎の稀な原因には癌、粘液性嚢胞腫などによる閉塞、外傷歴、回虫、トキソプラズマ、クリプトスポリジウムなどの寄生虫やウイルス(サイトメガロ、EB)による感染などがある。血管炎や2型自己免疫膵炎などの自己免疫機序も確認されている
診断
病歴と身体所見
最もよく見られる症状は腹痛で、典型的には心窩部におこり背部へと放散する。疼痛は強く持続性で軽減因子および増悪因子がなく、嘔気嘔吐を伴うことが多い。時に疼痛は臥位で悪化し、座位で軽減する
急性膵炎を疑う場合は詳細な病歴によって原因を評価する必要がある。胆石による胆嚢摘出術の既往があって飲酒歴がない、あるいは少量の場合は残存する総胆管結石あるいはmicrolithiasisに起因する膵炎の可能性が上がる
アルコールおよび喫煙のタイプ、量、頻度の詳細な病歴聴取が大切となる
注意深い病歴聴取によって脂質異常症、腹部外傷、以前の似たようなエピソード、ERCP歴、体重減少や食欲不振などの悪性疾患の兆候、などを評価する必要がある
可能性のある起因薬剤とその使用時期にフォーカスした詳細な薬剤服用リストのレビューを行わなければならない(12)
身体所見
身体所見では体液量および重症度を評価するため脈、血圧、呼吸数を測定しなければならない
頻脈と血圧低下はより重症なケースで血管内容量低下を示唆する
SIRSの発症によって発熱がよく見られる
黄疸は胆管閉塞を示唆する
腹部は蠕動音の聴診、疼痛部位、腹壁防御(通常重症)、反跳痛、腹部膨隆などにフォーカスした詳細な診察が必要になる
膵臓が後腹膜腔に位置するため腹膜刺激兆候は認められないことが多い
蠕動音消失を伴う膨隆は多くの場合イレウスを示唆する
側腹部の斑状出血(Grey Turner sign)や臍部周囲の斑状出血(Cullen sign)は膵壊死による腹腔内出血を示唆する。両者とも稀である
意識障害もより重症膵炎を示唆し、敗血症、低酸素血症、電解質異常、アルコール使用などによっておこるかもしれない
多臓器不全は膵壊死など差し迫る合併症を伴う重症膵炎を示唆する
胆石の存在、発熱、右上腹部の疼痛、黄疸(Charcot biliary triad)は胆管炎を示唆するが、急性膵炎の炎症によるものだけであるかもしれない
血液検査
血清アミラーゼと、あるいはリパーゼが正常上限の3倍以上に上昇することが急性膵炎診断の鍵となる
アミラーゼは感度が高いが特異度が低く、偽陽性率が高くなる(13)。血清アミラーゼ上昇の他の原因には唾液腺および卵管の疾患、腸虚血、穿孔性消化性潰瘍、慢性腎臓病などがある
リパーゼはアミラーゼに比べて、アルコール性膵炎の場合や、上昇が持続することより患者が救急外来を発症から数日遅れて受診した場合などは、より感度と特異度が高い
しかしリパーゼも腎不全、頭部外傷、頭蓋内腫瘍、ヘパリン投与中(リポプロテインリパーゼの活性によって)などの場合には偽性に上昇する可能性がある(14, 15)
血清リパーゼの上昇はICUの重篤な患者においてもよく見られる(16)
アミラーゼとリパーゼを同時に評価しても診断の正確性が上がらないようである(13)
上昇レベルが重症度を反映せず、間違った治療の意思決定につながりうるため連続して測定する必要はない
48時間後の血清CRPは重症度を最も反映する
肝酵素は胆石膵炎の評価のためルーチンで評価される必要がある。ALT(150IU/L以上)の上昇は胆石が急性膵炎の原因であることの陽性的中率95%および特異度96%であるが、感度が50%以下である。ASTの正確性も同等である(17)。胆管炎に関連する直接ビリルビンの測定も重要である
トリグリセリドも測定しなければならない。1000mg/dL以上の場合は膵炎の原因となり、重症である場合が多い。急性膵炎においては膵の炎症による二次性脂肪血症のためにトリグリセリドが1000mg/dL以下に上昇している場合もよく見られるが、その場合は高トリグリセリド血症を膵炎の第一原因として混同してはならない
白血球上昇は通常急性の膵炎症のみによっておこり、それのみで感染の兆候とはならない
ヘマトクリットとBUNの上昇は血液濃縮を表す可能性があり、体液喪失を示唆し、重症度の指標となる(18, 19)
BUNの早期の変化が初期輸液治療に対する反応評価で最も役立つ指標となる(20)
不安定な患者におけるヘモグロビンの急な低下は出血性膵炎を示唆する可能性がある。循環している膵酵素あるいは血管障害による凝固因子の消費によってDICを発症する場合もある
画像検査
最初の画像検査として選ばれるのは超音波検査である。すぐに利用可能、非侵襲的、低費用、胆石の診断に比較的感度が高い(90%以上)からである。胆石の存在、総胆管拡張があれば膵炎の原因として胆石の可能性が示唆されるが、遠位総胆管と膵臓体部および尾部は腸管ガスのためにはっきりしないことが多く、超音波による胆石膵炎の診断は感度が限られる
詳細な病歴、身体診察、血液検査にて急性膵炎の診断がはっきりしない場合はcontrast-enhanced, thin-sliced, triple-phase CTによって膵臓の優れた画像が得られ、他の腹痛の原因も同定できる
CTはまた膵炎の重症度の評価にも有効で、壊死(感染を伴うあるいは伴わない)、偽嚢胞形成、血管性および膵外合併症などの評価を行うことができる(21)
CTは初期の段階では膵炎の兆候および合併症を確認できない可能性があるので、入院時に診断が疑わしい場合を除いては推奨されない。さらには造影剤が腎不全を悪化させる可能性もある
造影剤アレルギーの場合はMRIが膵炎の診断および合併症評価のためのより費用がかかる代替の画像検査となる。胆嚢および総胆管のmicrolithiasisまた膵管の途絶の検知により感度が高い(22)
腎機能障害の場合は造影なしのMRIが壊死を検知し、T2-weighted imageに基づいて胆管と膵管の明瞭な画像が得られる
他の画像検査の中でMRCPは非侵襲的で、胆管結石への感度が高く(90%以上)、膵管癒合不全、膵管異常、輪状膵、粘液嚢胞腫などの他の解剖学的異常を同定することができる(23)。また残存する結石やデブリを除外することができる
内視鏡的超音波検査は胆管内の小さな結石(5mm以下)、もとから存在する慢性膵炎、膵管を閉塞する小さな腫瘍、膵炎の原因となる他の解剖学的異常への感度・特異度が高い(24)。MRIより侵襲的であるが、より小さな結石を検知し、MRIが施行できない場合(重篤な患者あるいはペースメーカーがある場合など)に施行される(25, 26)
重症度
急性膵炎は様々な発症様式、予想がつかない経過、集中治療必要性の有無の評価などから重症化および死亡リスクが評価されなければならない
Atlanta Classification of Acute Pancreatitisが1992年に作成され、不均一な診断基準および重症度評価を標準化するために2012年に改訂された(1)
この基準は膵周囲液体貯留などの局所的合併症の存在、臓器不全の有無に大きく依存しており、急性膵炎重症度評価のgold standardとみなされている
Atlanta Classification for Severity of Acute Pancreatitis(改訂)
軽症急性膵炎
呼吸器、循環器、腎臓を含む膵外臓器不全の欠如
局所的合併症(★)あるいは全身性合併症の欠如
中等症急性膵炎
以下を含む合併症が存在
膵周囲液体貯留あるいは膵周囲壊死
持続しない全身性合併症
重症急性膵炎
臓器不全が48時間以上持続(☆)
★偽嚢胞あるいは膵壊死
☆急性呼吸不全(PaO2-FIO2 ratio < 400)、ショック(収縮期血圧90mmHg以下)、腎不全(クレアチニン 1.4mg/dL以上)
死亡のピークは通常発症1週間以内と発症2〜6週以降にある。最初の週において疾患重症度は通常臓器不全の程度に反映される。その後は感染、血栓症、液体貯留などの局所的合併症の存在によって死亡率が予測される
初期診療では臓器不全の可能性を評価しなければならない(27, 28)
単一臓器不全から多臓器不全への進行は死亡率上昇の指標となる(29, 30)
凝固障害は予後不良を示唆する。血小板が100 x 10⁹ cells/L以下、フィブリノーゲン100mg/dL以下、fibrin split productsが80μg/mL以上の場合などである
同様に低血清カルシウム値(7.5mg/dL以下)も予後不良を示唆する
Atlanta criteriaは局所的合併症(急性膵および膵周囲壊死)の発症も重症膵炎を示唆するものと評価している。膵壊死はCTスキャンによって3cm以上あるいは膵臓の30%以上が灌流不良、造影不良として描出される(1)
膵液体貯留は原因とタイミングによって4つのタイプに分類される
急性の膵液体貯留あるいは膵周囲液体貯留と急性壊死性貯留は4週間以内に発症し、被包性の壁を形成しない。急性の液体貯留は間質性膵炎から発症し、急性壊死性貯留は壊死性膵炎から生じる
4週間以後は急性液体貯留は膵偽嚢胞内に発症し、被包性壁を有するが固形のデブリは含まない。急性液体貯留は通常消失するため偽嚢胞は実際稀である。しかし急性壊死性貯留は壁で囲まれた壊死を形成し、固形のデブリを含む
治療法が大きく異なるため膵の液体貯留の適切な分類が重要である
急性膵炎の経過初期における重症度評価の様々な基準が作成されてきた。Ranson基準、APACHE II/IIIスケール、modified Glasgow prognostic基準、Bedside Index for Severity in Acute Pancreatitisスコア、modified CT severity indexなどである(31ー38)。しかし初期に中等症から重症に進行する患者を同定するマーカーや基準で高い陽性的中率を有するものはない
アミラーゼやリパーゼの値は急性膵炎の重症度を反映しないが、重症患者における24時間後および48時間後のCRPが150mg/dL以上の場合は臓器不全および死亡リスク上昇との関連が認められている(39)。入院48時間後にSIRSが持続することも重症度予測の指標となる(40)
治療
急性膵炎の患者は重症度と進行を評価するまで入院にて十分観察しなければならない
必須の治療は積極的な静脈輸液、液体および固形物の経口摂取中止である
多くの場合静脈注射による疼痛管理が必要になる。典型的にはオピエートが使われ、呼吸抑制などの副作用をモニターしなければならない
複数回の既往があり軽症で安定している患者は外来にて管理される場合もある(41)
適応となればERCPのようなテストが通常入院にて施行される
重症膵炎は入院による厳重なモニタリングが必要となり、臓器不全がおこった場合はICUに転送されなければならない(42)
高齢患者で心血管疾患の既往がある場合は、ICUにて積極的な輸液投与が行われなければならず、より正確な体液モニタリングのために中心静脈カテーテルが必要になるかもしれない
BMIが高く(30kg/m²以上)、尿量低下(50mL/h以下)、頻脈(120 beats/min以上)、酸素飽和度90%以下、脳症の兆候、さらなる麻薬治療を要する、などの場合は特別なモニタリングユニット(必ずしもICUではない)への転送を考慮しなければならない
体液管理
炎症メディエーターによる透過性上昇、サードスペースへ失われることによる血管内ボリュームの低下がおこるため急速輸液は急性膵炎管理において極めて重要となる(19)
血管内ボリュームの低下によって膵臓の灌流が低下し膵壊死や腎不全などの合併症がおこる
輸液投与はバイタルサインに基づいてガイドされなければならない。臨床的評価(頸部静脈、肺鬱血)、尿量、12時間、24時間におけるヘマトクリットの変化などである
SIRSを緩和しCRPを下げることをサポートする臨床試験データより、乳酸リンゲル液が生理食塩水よりも有効なようである(43)
診断がつき次第できる限り速やかに急速輸液を開始することが重要である
栄養
軽症膵炎では多くの場合栄養サポートが必要ない。疼痛、嘔気、嘔吐が軽減すれば、経口栄養が開始できる
低脂肪食にて開始し、疼痛の変化および嘔気、嘔吐をモニタリングする
画像所見の改善、アミラーゼおよびリパーゼの正常化は回復の予測に役立たないため、食事は患者の症状に基づいてアドバンスしていくべきである
壊死リスクのある中等症から重症の膵炎患者では、早期経腸栄養にて明らかな死亡率低下が認められているため、できる限り早く経腸栄養を始めるべきである
経静脈栄養に対する経腸栄養の主な利益は腸から炎症を起こしている膵臓へのbacterial translocationによる感染性膵壊死などの感染合併症の低下させることである
患者が耐容できれば入院後72時間以内に低脂肪食を開始することができる
重症患者あるいはイレウスなどで経腸あるいは経口栄養に耐容できない患者では経静脈栄養が必要になる場合もある
他の補助治療
酸素投与は急性膵炎の初期におこる急性呼吸促迫症候群を減らすかもしれない
疼痛管理は治療のもう一つの要である。急性膵炎による疼痛の重度および経口摂取不能であることが多いことより、麻薬経静脈投与が必須となる。オピエートが通常2〜4時間毎に投与される。間欠的投与による疼痛管理が不十分な場合はpatient-controlled analgesia pumpが使用される場合もある
モルヒネは理論上オッディ括約筋圧を上昇させ、膵および胆管から腸管への流れを低下させる可能性があるが、それは臨床試験によって確認されていない
急性膵炎の疼痛管理にはフェンタニル、ヒドロモルフォン、モルヒネが最もよく使われる麻薬である
抗菌薬
軽症間質性膵炎、または無菌性壊死を伴う中等症から重症膵炎であっても抗菌薬投与は推奨されない
感染合併症を減らすための予防的抗菌薬投与をサポートするスタディはない。コクランレビューでは抗菌薬投与によって壊死性膵炎の感染を予防する、あるいは死亡率を下げる利益は認められない、としているが、βラクタムイミぺネムのみは膵の感染を有意に下げる可能性があるとされている(44)。レビュアーは予防的抗菌薬を推奨するにはより良くデザインされたスタディが必要であると結論している
胆管炎、感染性膵壊死、感染性膵液体貯留には抗菌薬投与が必要になる。セプシスあるいは感染が疑われる場合は、培養、胸部画像検査を含む発熱評価をしなければならない。必要あれば膵壊死部位のCTガイド下による穿刺吸引にて細菌および真菌培養を行わなければならない
もし検査結果が陰性でも敗血症、臓器不全、膵の30%以上が壊死している場合には抗菌薬投与を継続する必要がある
感染性膵壊死は培養に基づいて抗菌薬を選択しなければならない。グラム陰性菌の選択薬としてはイミぺネム、メロぺネム、メトロニダゾールを伴うオフロキサシン、シプロキサシン、第三世代セファロスポリンなどがある
感染性膵壊死を認める患者では治療反応の評価に対する注意深いモニタリングが必要である。多くは侵襲的治療を必要とせず薬剤治療にて改善する
膵液体貯留に対するマネージメントは最小の侵襲的ドレナージとデブリードマンの施行によって過去10年の間に大きく変わっている。膵液体貯留は多くの場合自然軽快するため、症状(疼痛、内腔閉塞、感染)がある場合のみ治療介入が必要となる
急性液体貯留および壊死性液体貯留においては介入を遅らせることが基本的な考え方となっている。それによって被包性壁が成熟するためである。これは通常膵炎発症後3〜4週間まではおこらない。一旦被包性壁が形成されたら、偽嚢胞に対するドレナージ術および壊死性貯留に対するデブリードマンが施行される
向上した有効性、低い合併症率、低コストによって外科的手技よりも最小の侵襲性内視鏡的ドレナージおよびデブリードマンが好まれる(45, 46)
胆管結石による胆石膵炎が疑われる場合はERCPが必要になるかもしれない
胆石による軽症間質性膵炎の患者は退院前に胆嚢摘出術を行う必要がある。手術を行わなかった場合、退院後に再発する可能性が50%もあるからである(47)
ERCP
残存する胆石による胆道閉塞が画像にて認められる場合はERCPによる胆道括約筋切開術と胆石除去の適応となる
胆管炎が疑われる場合は緊急ERCPが適応となる
胆管炎の基準が満たされない場合、早期のERCPによる合併症のリスクが高まることが示されている(48)
膵管途絶による複雑性急性膵炎患者ではERCPによる膵管ステント留置術が有効であるかもしれない
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インザクリニック
アナルズオブインターナルメディシン
2021年2月9日
せん妄
せん妄は突発性の混乱、時間による動揺、注意力低下、意識レベルの異常を特徴とする急性の脳機能障害である(1-3)
せん妄(delirium)、脳症(encephalopathy)、急性錯乱状態(acute confusional state) に対する用語が近年改訂され、専門家がそれぞれ特定の使い方を推奨している
急性脳症は中枢神経系”プロセス”の病理学的状態を指すのに対し、せん妄はベッドサイドで観察される症状を表すものとして使用されるべきであると専門家が推奨している(4)
せん妄は非常によく見られるが診断が難しい場合がある。時おり患者は急性の不穏にのみなる場合もあるが、これは低活動型に比べ遥かに少ない(1, 5)
多くの患者で低活動型が優位を示し、時おり不穏が認められる混合型の様相を呈する
せん妄は急性の意識状態の変化であり、慢性で緩徐に進行する認知症と鑑別されなければならない。しかし既存の認知障害がせん妄のリスクファクターとなるため、せん妄と認知症が併存する場合が多い
入院する多くの高齢者(11−40%)にせん妄が認められる(1, 6)
関節置換術などの待機的手術後の15−25%、股関節骨折修復術や心臓手術後の50%以上の高齢者にせん妄が起こる(7-10)
ICUに入院し人工呼吸器サポートを必要とする全ての年齢層の患者80%までにせん妄が認められ、終末期の累積発生率は85%とまで高くなると報告されている(11, 12)
せん妄と患者の悪い予後が強く関連することが多くのエビデンスによって認められている。院内ではせん妄による死亡のリスクが10倍上昇し、院内合併症、入院期間の延長、退院後のナーシングホームの必要性に対するリスクが3−5倍高くなる(1)
入院中にせん妄を発症した患者はたとえ退院しても身体機能および認知機能回復が悪くなる場合が多い
スクリーニングと予防
せん妄は高齢者におこる多因子性症候群であるが、どの年齢層においても起こりえる。障害がおきる他の臓器と同様に、せん妄のリスクファクターは多因子性で、多くの場合は発症臓器以外、せん妄においては脳や中枢神経以外に存在することが多い
せん妄のよく見られるリスクファクターモデルは素因と誘因を区別する。前者は患者のせん妄発症の可能性を高める慢性的な因子であり、後者はせん妄を起こす急性の状態あるいはイベントである
いくつかの大きな疫学的スタディとシステマティックレビューによってせん妄の素因と誘因が定義されている。このモデルに基づき患者のせん妄リスクは素因と誘因の合計によって規定される。素因が多いほどせん妄発症に必要な誘因のイベントが少なくなる(13)
たとえば健康な若年者はICUにおける重篤なセプシス、呼吸不全、人工呼吸器治療によって起こりえるのに対し、認知機能障害を伴う虚弱な高齢者では睡眠のためにジフェンヒドラミンを服用しただけでも起こる可能性がある
せん妄のリスクファクター
素因
・既存の認知機能障害
・複数の併存疾患(うつ病も含む)
・多剤服用
・感覚器障害(視覚、聴覚など)
・運動機能の低下(日常活動の低下など)
・アルコール多飲や低栄養状態
・貧血
誘因
・重症疾患(セプシス、脳卒中など)
・テザー(繋ぎ止めるもの)の存在(尿道カテーテルなど)や身体拘束
・手術/麻酔
・新たな精神科薬剤
・疼痛
・環境変化
・脱水/電解質異常
・尿閉/fecal impaction(糞塊埋伏)
いつスクリーニングすべきか
せん妄はよく見られる状態であるが55−80%のケースが臨床チームに認識されず記録されない(14-16)。したがって認識し速やかな治療を行うために患者のスクリーニングは重要となる
せん妄の検知と治療を改善するためのシステマティックプログラムの有効性を評価したトライアルではせん妄の検知率を高め、アウトカムを中等度に改善することが示された(17)
既存の認知機能障害や複数の併存疾患を有する、またはICU入室を必要とするせん妄のリスクを有する入院患者をスクリーニングする必要がある
病院からナーシングホームや外来などの急性期後ケアに移行する患者にもスクリーニングを行うことが必要となる。長引くせん妄が治療プランや回復の障害となる可能性があるからだ
せん妄を同定する多くのスクリーニングと診断ツールが利用可能である
せん妄の4つの重要な特徴である、急性の意識変化と時間による動揺、注意力低下、無秩序な思考、意識レベルの異常、を評価するConfusion Assessment Method(CAM)診断アルゴリズム(18)が簡易なスクリーニング法として使われるhttps://www.mnhospitals.org/Portals/0/Documents/ptsafety/LEAPT%20Delirium/Confusion%20Assessment%20Method%20-%20CAM.pdf
臨床ケアにおける通常の観察によってせん妄を認識することは不十分であり、検知を向上させるために標準化された評価法を使用すべきである事をスタディが示唆している(19)
CAMを使用した診断にはせん妄の1番目と2番目および3番目あるいは4番目の特徴の存在が必要となる
CAMはせん妄の診断のための正確なアプローチ法である。2001年から2013年にかけた多くの文献のレビューでは感度82%、特異度99%であったと報告されている(20)
以前に認知機能評価が行われていない場合はCAMの感度がかなり下がることを認識しておく必要がある
評価者はRichmond Agitation and Sedation Scale(21, 22)などを利用して意識レベルの評価を、また注意の評価を1つあるいは追加のアイテムを使って行うことができるhttps://www.mnhospitals.org/Portals/0/Documents/ptsafety/LEAPT%20Delirium/RASS%20Sedation%20Assessment%20Tool.pdf
せん妄スクリーニング法の主な要素
・注意力の評価(✴︎)
・無秩序な思考の評価に理解を問う(どこにいますか、何があなたに起こっていますか)
・精神運動状態の評価(不穏か活動低下かその混合か)
・タイムラインの推定と発症経過
最初の認知評価にてせん妄が疑われたら、せん妄に特異的な診断ツールによって評価を行う必要がある
CAMは米国においてせん妄の同定に最も広く使用される方法であるが、最適なパフォーマンスのため正確に使用するには特別なトレーニングを要する(23)
3-Minute Diagnostic Interview for Confusion Assessment Method(3D-CAM)は入院患者の評価により簡易で、感度95%、特異度94%とされている(24)
曜日の確認と1年の月を反対から言わせるultra-brief 2-item testは妥当なスクリーニング法で感度93%、特異度64%である(25)https://www.nursing.psu.edu/wp-content/uploads/2019/03/UB-2-with-disclaimer-fick_Delirium-Pocket-Card_052118.pdf
他の方法には4A's Test(4AT)があり簡易で特別なトレーニングを必要としない。4ATが最初のスクリーニングとして推奨される国もあり、感度は76%、特異度は94%である(26)
Confusion Assessment Method for the ICU(CAM-ICU)は注意、思考、意識レベルを評価するため患者の非言語反応を利用した特別なCAMアルゴリズムを適応している(12)。CAM-ICUは妥当的で信頼ができ、数分で行うことが可能である。ICUの患者はせん妄のリスクが高いため少なくとも毎日スクリーニングを行う必要がある
https://www.aacn.org/docs/EventPlanning/WB0016/Delirium-CAM-ICU-gwgqydl2.pdf
予防
せん妄に対する全ての介入の中で、よく認められるリスクファクターを減らすことを目標とするプロトコールが最もエビデンスによって支持されている。この方法を使った効果的な予防によってせん妄の発症を40%減らすことができる(27)
Yale Delirium Prevention Trialはせん妄の6つのリスクファクター;認知障害、睡眠障害、低活動性、視力障害、聴覚障害、脱水をターゲットとするHospital Elder Life Programの有効性を評価した(28)。リスクファクターは入院時に評価され、1つあるいはそれ以上リスクファクターを有する患者に介入が施された。介入は特別にトレーニングされたチームによって行われ、その中には暖かいミルク、背中をさする、就寝時に落ち着く音楽を流すなどの非薬物療法による睡眠プロトコールが含まれた。この介入は鎮静剤の使用を大きく減らした。介入グループではせん妄が有意に減少した(オッズ比, 0.60 [95% CI, 0.39-0.92], number needed to treat, 19)(28)。Yale trialで使用されたアプローチは広く行われている
他にはせん妄リスクのある患者の家族を介入に利用する方法も同等の成功を納めている(29)
非薬物療法による睡眠の質の改善自体ははっきりせず良いスタディが少ない(30, 31)
通常推奨されているせん妄予防法がCOVID-19パンデミックによって挑戦を受けている。病院や他のケア施設では感染リスクのため家族、友人、そして病院スタッフとの接触を制限している。これらの接触は安心、見当識、他のサポートを提供し、せん妄を予防するために重要な役割を果たしている
せん妄を予防あるいは重症度を減らす薬物トライアルは今日まで成功していない。最近のシステマティックレビューでは抗精神薬使用によるせん妄予防あるいは治療をサポートするエビデンスが認められなかった(32-34)
ICUではよくハロペリドールが使用されるが、せん妄リスクの高い患者においても生命予後を改善しないことが示されている(35)
非薬物療法による予防アプローチがせん妄の重症度および期間を減らす。これらのトライアルでは看護師ケアの改変、患者中心にフォーカスした病院環境、せん妄の誘因としてよく見られる因子を減らすことなどを含む新しいケアモデルが評価されている(36)
抗精神薬投与で過活動性症状から低活動性に変わりせん妄の症状が改善した印象を与え、結果せん妄の重症度が一見改善したように見えることが指摘されている。スタディでは低活動型せん妄は過活動型せん妄と同等あるいはより悪いアウトカムを有すると報告している(37, 38)
診断
混乱した入院患者およびリスクの高い混乱したいかなる状況の患者においてもせん妄を考慮する必要がある
病歴と身体診察
せん妄の診断は病歴と身体診察に基づいて行われる
クリニカルアセスメントよりも正確な血液検査、画像検査あるいは他の検査は存在しない(1)
病歴と身体診察はせん妄評価の2つの役割がある。診断の確定と原因および誘因の同定である
せん妄は主にcaregiverあるいは家族から病歴聴取を行う
1つの重要な要素は意識変容のタイムラインを同定することである。急性の発症がせん妄に最も一致する。正常な場合と非常に混乱する意識状態の変動があるかどうかも必須の要素である
身体診察の重要な側面は意識状態の評価であり、最も重要な評価は意識レベルと注意力の決定である
注意を評価するテスト(✴︎)
・Digit span
https://www.mesa-nhlbi.org/PublicDocs/MESAExam5Forms/V5%20MESA%20Digit%20Span%20Test.pdf
・曜日を尋ねる、年の月を反対から言わせる
・continuous performance task(患者にリストの中からある文字が聴こえた場合に手をあげるようにさせる)
・attention screening examination(写真を見せ、覚えさせ、思い出させる)
・serial 7's or 3's(100から7を順に引き算させる、20から3を順に引き算させる)
・"world"を反対からスペルさせる
病歴と身体診察のもう一つの重要な要素はせん妄の原因と誘因の評価である。これには薬剤服用歴、バイタルサイン、一般診察が含まれる
検査
血液検査、脳画像検査、脳波は診断における病歴と身体診察の代替とはならない。しかし病歴と身体診察に基づいて注意深く検査が選ばれた場合はせん妄の可能性のある原因と修正できうる誘因を同定することが可能であるかもしれない
病歴から痙攣活動あるいは頭蓋内因子(頭部外傷後の意識障害)の存在が強く疑われる、身体診察から局所神経徴候や痙攣活動が検知される場合を除いては脳画像と脳波は通常有用性が低い(39)
これらの検査は患者が入院経過中にせん妄を起こした場合も有用ではない(40)
せん妄が時おり脳卒中の徴候として現れる場合があること(41)は留意しておく必要があり、リスクファクター、病歴、身体診察から示唆される場合は脳画像検査は必須となる
せん妄を評価する血液検査、画像検査、他の検査
基本血液検査
・血算:感染、重度の貧血
・電解質:電解質異常、特に高ナトリウム血症、低ナトリウム血症
・BUN、Cre:脱水および不顕性腎不全(稀)
・血糖:低血糖、重度の高血糖、高浸透圧状態
・肝機能(AST, ALT, T-bil, ALP):不顕性胆管炎、胆管結石、肝障害
感染評価
・胸部レントゲン写真:肺炎(発熱や身体所見から疑われる場合)
・尿一般沈渣・培養:尿路感染(発熱や泌尿器系症状がある場合)
・腰椎穿刺:病歴と身体診察から髄膜炎あるいはくも膜下出血を強く疑う、あるいはせん妄が遷延する、予期されていなかった、説明ができない、若年者に起こる、などの場合
心電図:心筋梗塞や不整脈
動脈血液ガス:慢性閉塞性肺疾患で高二酸化炭素血症の場合
薬物血中濃度:特定の薬剤では血清レベルが正常範囲でもせん妄が起こりえる
ドラッグスクリーニング:摂取が疑われるのはより若い患者の場合が多い
脳画像検査(CT, MRI):病歴と身体所見から脳梗塞や脳出血が強く疑われる場合やせん妄が遷延する、予期されていなかった、説明ができない、などの場合
脳波:痙攣が疑われる場合diffuse slow-wave activityがよく認められるが、可逆的な原因の評価および治療に対して役立つことは少ない
鑑別疾患
せん妄の主な鑑別疾患は認知症、うつ病、他の急性の精神科症候群、そしてせん妄の部分症候群として知られる亜症候群性せん妄がある(1)。多くの場合、これらの症候群が併存し互いにリスクファクターとなるため、本当の意味での鑑別疾患ではない
最も多く遭遇する診断の問題は新たに混乱を呈した患者が認知症か、せん妄か、あるいはその両方を有するか、という問題である。これを決定するためには、医師は患者のベースラインの状態を以前の記載情報から、あるいは家族や患者を知る人から入手しなければならない。ベースラインからの急性の意識の変容は認知症に一致せず、せん妄を示唆する
新たな神経認知障害の診断はせん妄を起こしている間には行えないことを認識している必要がある
急性に揺れ動く経過の変容(分から時間単位で)と意識障害はせん妄を強く示唆する
認知症を有する入院患者のせん妄発症率は非常に高い。認知症患者のせん妄発症リスクは2−5倍高くなる(42)。したがって既存する認知症の診断によってせん妄を除外できず、よりその可能性を高くするかもしれない
うつ病は低活動型せん妄と混同される場合がある。1つのスタディでは、うつ病として精神科コンサルトを受ける急性疾患患者の3分の1に低活動型せん妄が認められたと報告されている(43)
躁状態や急性精神病症状などの急性精神科症候群は過活動型せん妄のような徴候を認める。最初は精神科疾患に起因するものと決定することやその下地になっている重篤な内科疾患を見逃さないためにも、過活動性患者はせん妄として評価し管理した方が良い
せん妄の全てでなく部分的な特徴を呈する患者は亜症候群性せん妄と評価される。これらの患者のアウトカムはせん妄の基準を満たす患者と同等で、せん妄と同様に評価され、マネージメントされなければならない。しかしエビデンスが少ないため亜症候群性せん妄とせん妄への進展あるいは重篤患者における悪い予後との関連は不明である(44, 45)
治療
入院
せん妄を疑う患者を入院させるかを決定するには診断的評価のタイムライン、臨床的安定さ、社会的サポートなどのいくつかの因子を考慮する必要がある。すべてのせん妄患者を入院させる必要はなく、入院自体がせん妄を悪化させうる
診断的評価がすべて滞りなく行え、患者の安全が確保され、せん妄の原因が純粋に薬剤の副作用のみ、あるいは単純な感染症で治療が複雑でない場合は外来管理も適切であるかもしれない
患者の状態が改善しない、あるいは急性に悪化した場合に速やかに外来医師に連絡できるcaregiverが存在することも重要である
せん妄をきたした患者は可能なら、見慣れた環境で診断および治療できることが最善である。入院は認知障害あるいは虚弱な患者にはトラウマとなる場合もある
しかし、セプシス、心筋梗塞などの不安定な内科疾患とせん妄が関連する、あるいは家庭でのサポートが不十分などの場合は入院も必要になるかもしれない
この決定をする場合は院内合併症がハイリスクであること、見慣れぬ環境によって見当識が障害され、せん妄を悪化させる可能性があることを考慮する必要がある
スタディでは注意深く選別された急性状態の患者が”home hospital”で管理された場合せん妄の発症率が院内で管理された同様の患者より低かったと報告されている(46, 47)。家庭での適切な臨床的および社会的サポートが利用可能でない場合が多いため、多くのせん妄患者は入院する
非薬物療法
非薬物療法がせん妄治療の基本となる
せん妄の主要治療は原因因子の同定と治療である
スタッフの言葉かけによって安心感を与える事や付き添いの方が薬物療法よりも好ましい
マネージメントには下地となる疾患の同定と治療、そして誘因に関連するものの除去あるいはその軽減が含まれる。そのような因子には精神科薬剤、水分・電解質異常、強い疼痛、低酸素血症、重度の貧血、感染、感覚器障害、活動不足などが含まれる
特に高齢患者ではせん妄の原因を1つのみに特定することはできないかもしれない。ベースラインにある多くの脆弱性因子や急性の悪化誘因などの影響の累積によるため、いくつかの因子の少ない改善でも全体的に良い結果とつながる可能性もある(1)
精神科薬剤は最も重要でせん妄の修正できうる因子であるため特に注意を払う必要がある
ハイリスクに含まれるのが、ベンゾジアゼピン、鎮静剤、抗コリン作用の強い薬剤、オピオイド、ドーパミン作動性薬剤などである(48 , 49)
ベンゾジアゼピンは特にせん妄との関連の強い薬剤である
薬剤治療
せん妄を治療する薬剤はない
不穏や他の症状を起こした患者に対し鎮静をもたらす薬剤(抗精神病薬など)はある
専門家は鎮静をきたす薬剤は過活動型せん妄をより低活動型に変え、効果を認めたように誤認される可能性があることを指摘している(50)。低活動型せん妄は患者の悪い予後を示唆する
せん妄を起こした患者に抗精神病薬が広く使用されているが、患者の症状が治療の妨げになる、あるいは患者自身やケアを行う人が危険にさらされる場合を除いては投与しないことが推奨されている(33)
入院中に抗精神病薬が投与された場合は誤嚥性肺炎のリスクが4倍高くなる(51)。せん妄を遷延させる、過活動型を昏迷に変えて合併症リスクを高める、誤嚥性肺炎のリスクを高める、などの理由から薬剤治療は慎重に行わなければならない
不穏をきたしたせん妄患者の薬剤マネージメントは必要な時のみに抑え、効果の出る最も低用量をできるだけ短い期間にとどめて使用する必要がある
抗精神病薬はせん妄の症状に対し最もよく使われるクラスの薬剤であるが、効果が限られていることや有害事象からその適応は限られることがますます明瞭となっている(32-34)
抗精神病薬の薬剤間で比較した試験が少なく、他より優れた薬剤があるかは明らかでない
トライアルでは入院において、せん妄による不穏に対して使用された場合はハロペリドールが他の非定型抗精神病薬と同等の効果があることが示されている。定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬の両方で副作用の可能性があり、QTc延長、誤嚥、死亡リスクの上昇などが含まれる
軽度せん妄を認める高齢患者が不穏になってケアが安全に受けられない場合は低用量の抗精神病薬が鎮静目的で使用され、用量を増やす場合は慎重に再評価を行う必要がある
より重度のせん妄ではより高用量の薬剤が初期には使用される。せん妄の悪化と誤認されうる高用量抗精神病薬の副作用であるアカシジア(motor restlessness)を注意して評価しなければならない
パーキンソン病、レビー小体型認知症の患者ではより錐体外路作用の少ない非定型抗精神病薬が好まれ、ハロペリドールは避けるべきである
ICUにおける重症患者では、薬剤副作用と静脈ラインやデバイスを除去されることのリスク対効果を比較して薬剤治療が好まれることが多い
しかしながら、せん妄を予防あるいは治療のためのルーチンでの抗精神病薬使用は推奨されない(32, 33)
最近のガイドラインでは非薬物療法を最適化し、呼吸器管理の患者で鎮静が必要な場合はデクスメデトミジンの使用が推奨されている(52)
デクスメデトミジンは挿管され人工呼吸器治療を受けているICU患者の鎮静に使用されるαアドレナリン受容体作動薬である。あるスタディではおそらくその鎮痛作用によって高用量オピオイドへの暴露を減らし、ICUでのせん妄の発症率および期間を減らすことが報告されている(53-55)。このためデクスメデトミジンは重症患者においてベンゾジアゼピンの代替としてよく使用されている(56, 57)
抗コリン薬剤とせん妄との関連から、コリンエステラーゼ阻害剤のトライアルが行われているが良好な結果は認められていない(58)
”薬剤性拘束”が使用されるすべての場合において治療チームはその使用を必要とするターゲットになる症状を同定し、薬剤による効果を頻回にレビューし、副作用と合併症を評価する必要がある
せん妄患者のsupportive care
運動性を高める
・留置カテーテルや静脈ライン、心電図モニター、持続パルスオキシメーターなどの他の”テザー”の使用を最小化
・身体拘束を除去
・食事の際にベッドから移動させ、必要なら栄養と運動性を高め誤嚥リスクを減らすために食事介助を提供
・可能なら1日に少なくとも2回は歩行させる
尿量および排便をモニタリング:せん妄に寄与する尿閉およびfecal impaction(糞塊埋伏)を避ける
日常ルーチンを正常化
・眼鏡、補聴器などの適切な感覚器インプット、時計、カレンダー、適切な照明の提供
・頻回の見当識オリエンテーション、"reconditioning"を促す対人コンタクトの仕組み化
・健全な睡眠−覚醒サイクル:スタッフによるノイズを減らす、ポケベルをサイレント化、必要な時以外のバイタル測定をなくす、病棟の照明を下げる、テレビやラジオを消す、などによって環境刺激を減らし夜間睡眠を促す
身体拘束
身体拘束は常に好ましくないものとされるが、暴力的行動をコントロールする、特にICUなどで挿管チューブ、動脈内デバイス、カテーテル、重要なデバイスが除去されることを防ぐために必要な場合があるかもしれない
その場合は可能なら付き添う人あるいは家族によって落ち着きが促されることの方が拘束よりも効果がある場合もある
拘束が行われる場合はその適応を頻回に再評価し、できる限り速やかに拘束を除去する必要がある
身体拘束はおそらく混乱した患者の転倒頻度を減らさず、障害のリスクを高める可能性がある(59)
拘束の使用を減らすことがせん妄リスクのある患者のアウトカム改善と関連する(60)
アラームは患者の移動の自由を制限する異なった形の拘束である。ベッドと椅子のアラームは見守りのない歩行を防ぎ転倒リスクを減らす目的で頻回に使用される。しかしこれらのタイプのアラームは転倒リスクを減らすことが証明されておらず、患者に苦痛を与えうる(61)
フォローアップ
せん妄をきたした患者はたとえ混乱が回復しても脆弱なままである。1つのスタディでは心臓手術後の患者で院内せん妄を起こした場合、長期の認知機能障害が術後1ヶ月および1年後にも確認された(62)。これはおそらく非心臓待機的手術を受ける患者にも当てはまることが考えられる(63)。せん妄をきたした患者の短期および長期的モニタリングが必要となる
短期的にはせん妄をおこした患者はベースラインに戻るまで内科的、認知的、機能的なモニタリングが必要となる。モニタリングの頻度は状況と持続する不安定性に依存する。病院においては少なくとも毎日その存在と重症度をモニターし、リハビリ施設への入院も含む退院後の患者は週毎に、そして地域に戻った際は月毎にモニタリングを行う
CAMに基づいて運用される多くのツールがせん妄の重症度の評価に使われている(64, 65)
せん妄をきたし外来にて管理される患者は頻回のモニタリングを必要とし、最初は日毎に、そして状態が改善するにしたがってその頻度を減らしていく
症状が持続あるいは悪化する場合はさらなる治療プランの修正、入院またはサポートサービスの増加が必要となる
電解質異常、心不全、感染などのせん妄をきたす内科的コンデションの改善を確認するためにもフォローアップ検査が必要になるかもしれない
認知機能はせん妄の診断と同様の方法によってモニタリングが行える。特にADLの評価はせん妄からの機能回復のモニタリングに有用である
回復期の患者はより多くの援助が必要になるかもしれず、せん妄が回復するに順って減らしていけるかもしれない
せん妄のエピソードから1−2ヶ月後にも認知機能あるいはADLがベースラインに戻らない患者は老年科および精神神経検査による評価を考慮しなければならない
せん妄の期間を最短化することが重要なゴールとなる。期間が短ければ短いほど、より元の状態に戻りやすいと考えられている(それでも週から月単位の期間を要するが)。せん妄が2週間以上続いた患者はベースラインの状態に戻る可能性がかなり低いとされている(62)
せん妄はたとえ改善してもより悪い長期予後のリスクを高める(66)。せん妄から完全に回復した患者でも依然その再発、認知機能および身体機能低下、死亡のリスクがある
長期アウトカムを向上させる介入はよく調べられておらず議論が続いている(67)
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アナルズオブインターナルメディシン
インザクリニック
2020年10月6日
C型肝炎ウイルス
全経口投与可能、短期間投与、耐容性良好、広く入手可能、効果の高い急性および慢性C型肝炎ウイルス感染に対する抗ウイルス薬の急速な発達によってウイルスの根絶が達成可能なゴールとなっている。2016年にWHOは2030年までにHepatitis C virus (HCV)の影響をなくす国際戦略とアクションプランをかかげている(1)
HCVは米国において最もよく見られる血液感染性の病原体である
HCV RNAが治療終了後少なくとも12週間検知されない状態、sustained virologic response (SVR)が治癒とみなされる
現在SVRは8〜12週間の経口抗ウイルス治療を受けた患者の95%以上で達成される(2)
SVRの結果、生命をおびやかす合併症である肝癌(3)および総死亡率(4)が著しく減少する
HCV感染はもはや米国における肝移植の最たる原因ではなくなったが(5)、新たな抗ウイルス治療にもかかわらず、依然肝癌の最も多い原因である(6)
伝染
HCV患者の多くは感染した血液への経皮的な暴露によって感染する
血液感染の主な2つの経路はドラッグ注射と医原性感染である
ドラッグ注射を行う人の間での感染血液に汚染された注射器の共有によって伝染することが多い
ドナー血液のスクリーニングが始められた1992年以前の血液製剤への暴露もHCV感染のリスクファクターとなる
タトゥーやピアスなどの美容的手技は厳格な感染コントロール手段が取られる限り感染リスクは非常に低いと考えられている
適切な感染コントロール手段が取られていない状況では血液透析を受けている患者での高い感染率が報告されている(7)
HCV RNAがウイルス血症患者の精液に検知される場合があるため、HCVは性交渉によって伝染するかもしれない。しかしセロステータスの異なる異性間カップルで行われたスタディでは伝染性は非常に低いことが報告されている(8)
HCVは男性間での性交渉(MSM: men who have sex with men)、特にプロテクトされていないアナルセックス、あるいはHIV感染を有する場合などでは伝染率が高いと考えられている(9)
HCVの母から子への感染率は4〜5%と考えられている(10)。母乳と感染の関連が認められず、授乳は安全と考えられている(11)
HCVセロステータスが異なり他に関係を持たない長期の異性カップル間でのコンドーム使用は推奨されていないが、多数の関係を有する患者やHIV陽性のMSMにおいては推奨される
患者から医療従事者への針刺し事故後の伝染予防処置を取ることは推奨されていない。感染のリスクが低い事、感染が起こっても効果的な抗ウイルス治療があること、およびコストがかかるためである(12)
スクリーニング
急性期および慢性期の大半が無症状であるためHCV感染のスクリーニングを行うことが推奨される
American Association for the Study of Liver Diseases and the Infectious Diseases Society of America (AASLD/IDSA)は18歳以上のすべての人に単回のスクリーニングを行うことを推奨している(2)
ドラッグ注射使用者、HIV陽性MSMなどのリスクが持続する人の場合は少なくとも年毎のスクリーニングを行う必要がある(13)
診断
自然経過
HCV暴露後の潜伏期間は2〜12週間であり、その間HCV RNAは検知され伝染可能であるが、肝酵素(ALT)は正常のままである
潜伏期間後、軽度の肝炎が起こるが、多くの患者が無症状で10〜15%においてインフルエンザ様症状、筋痛、黄疸、濃い尿、などが見られる。劇症型の報告もあるが非常に稀である。大半が無症状であることより急性感染の患者が医療機関を受診することは少ない
Anti-HCV antibodies (HCVAbs)は感染の初期では検知されないままである場合が多く、この時期に検知するためにはHCV RNAテストが必要となる
急性期にspontaneous viral clearance(再検査にてHCV RNAが消失)がおこる割合は15〜45%である。これは若年者、女性、特定の遺伝的多型を有する、などの有症状者により多く見られる(14)
spontaneous clearanceは感染から6〜12ヶ月以内に起こることが一般的である。慢性感染が確立した後に治療なしでウイルス消失が起こるのは12ヶ月以降であるが、非常に稀である(14)
感染後の最初の1年はHCV RNAが検知される事とされない事が揺れ動くので(15)、モニタリングを中止する前にウイルス血症消失の確認を繰り返し行うことが重要となる
無治療の急性感染患者の多くが慢性感染へと進行する。慢性感染の間、ALTは通常では常にあるいは間欠的に上昇するが、20%までの患者では正常のままである可能性もある
慢性感染患者は通常無症状であるが、クリオグロブリン血管炎、ポルフィリン症、インスリン抵抗性/糖尿病、慢性腎臓病、倦怠感などの肝外症状を認める場合もある(16)
HCV感染の肝外徴候
クリオグロブリン血管炎
膜性増殖性糸球体腎炎
膜性腎症
単クローン性ガンマグロブリン血症
非ホジキンリンパ腫
関節痛/関節炎
レイノー現象
倦怠感
シェーグレン症候群
扁平苔癬
porphyria cutanea tarda
糖尿病/インスリン抵抗性
甲状腺機能低下症/甲状腺機能亢進症
慢性感染の主な続発症は肝線維症であり、数十年かけて肝硬変と進展する。15〜20%の慢性HCV感染患者が20年かけて肝硬変に進展する(17, 18)
肝疾患進展への最も大きいリスクファクターは感染獲得の年齢である(19)。50歳以降に感染した人の60%以上が20年以内に肝硬変になるのに対し、40歳以前に感染した人が肝硬変になる割合は10%以下である
定期的なアルコール摂取、脂肪肝、他のウイルスの重複感染(HIV、HBVなど)も線維化を促進する
いったん肝硬変を発症すると、門脈圧亢進症(腹水、食道や胃からの消化管出血)、肝性脳症、肝細胞癌などの合併症により非常に死亡率が高くなる
HCV関連肝硬変による肝細胞癌リスクは治療成功がない場合は年3%までと高くなる
診断検査
患者はanti-HCV (HCVAb)テストによってスクリーニングされる。これは感度と特異度が高い(20)。HCVAbはnucleic acid testing (NAT) に比べ安価であるが、現在と過去の感染の判別ができず、偽陽性もみられる。NATが急性期およびHCVAb産生が遅れる可能性のある免疫不全患者では好ましい。いったんHCVAb陽性が確認されたら、PCRを使ってHCV RNAを測定し現在の感染かを確認する
HCV RNA titersと病態の進行あるいは線維化との関連性が認められないため、抗ウイルス治療を受けている患者以外でHCV RNAを繰り返し測定する意義はない
6つの主なviral genotypeがあり、genotype 1(特にsubtype 1a)が米国において最もよく認められる。すべてのgenotypeにおいて臨床経過は非常によく類似している。過去には治療レジメンと治療期間を決定するためにgenotypeの評価が必要であったが、AASLD/IDSAの新たに単純化されたガイドラインではgenotypeに基づく治療アルゴリズムは大多数の治療候補者においてもはや推奨されない。genotype検査は肝硬変の患者においては依然有用である。またいったんウイルス消失した後に新たなgenotypeあるいはsubtypeが検出された時に再感染を同定する場合などにも有用である
全生化学とGFR推定、血算、PT/INRはすべてのHCV感染患者で測定される必要がある。腎機能低下が見つかれば、尿タンパクおよび血清クリオグロブリンの測定を行う必要がある。HCV患者は感染経路が共有されることからHIVとHBV(HBsAg、HBsAb、HBcAb)のスクリーニングも行わなければならない。A型肝炎の免疫に関する評価も推奨される(HAV IgG)。可能なら超音波にて肝硬変を同定するため肝臓の結節性および脾臓の大きさを測定することも有用である。ただ検査結果が正常であっても肝硬変は除外できないことにも注意が必要である
線維化の程度を評価することの重要性
併存する脂肪肝やアルコール依存がなければ抗ウイルス治療はC型肝炎による代償性肝硬変から非代償性肝硬変に進行するリスクを本質的には無くすことが可能である。しかし線維化が進行した患者、特に肝硬変患者においては肝細胞癌のリスクが高くなる(3, 21)
アルコール摂取や非アルコール性脂肪肝などによる肝障害が併存する場合は線維化が進行した患者あるいは肝硬変患者において肝代償不全や肝細胞癌のリスクが高くなる。したがってアルコール摂取を中止あるいは減量、体重減量、脂質異常症の治療、インスリン抵抗性のマネージメントなどのリスクファクターの修正が肝不全の原因が2つ以上ある患者においては強調される必要がある。肝細胞癌あるいは肝代償不全がおこれば、肝移植を考慮する必要がある
血液検査
脾摘あるいは他の骨髄抑制の原因などがなければ血小板数は門脈圧亢進の代理マーカとして非常に有用である。血小板数が200×10⁹ cells/L (20万/μL)以下の場合は疑いを持たなければならない。160×10⁹ cells/L (16万/μL)以下あるいは110×10⁹ cells/L (11万/μL)以下の場合の肝硬変に対する特異度はそれぞれ88%および95%である(22)
血清アルブミンが35g/L (3.5g/dL)以下の場合の肝硬変に対する特異度は90%であり、38g/L (3.8g/dL)以下の場合は可能性を考慮する必要がある
HCVウイルスレベル、AST値あるいはALT値と線維化の程度とは相関を認めない
AST、ALT、血小板数によってFibrosis-4 (FIB-4)とAST-platelet ratio index (APRI)の2つの指標が計算できる。AASLD/IDSAガイドラインではFIB-4を治療開始前評価の1つとして推奨している(http://www.hepatitisc.uw.edu/page/clinical-calculators/fib-4)(2)。FIB-4スコアが3.25以上の場合は肝硬変も含む進行した線維化に特異性が高い。よって新たにHCV感染が診断された多くの患者の初回診療において進行した線維化のリスク評価が容易に行うことが可能である
線維化の決定
線維化ステージを決定することは疾患および死亡率を評価することの助けとなる(23)。いくつかの線維化スコアリングシステムが存在するが、METAVIRが最もよく使用され、F0 (線維化なし)からF4 (肝硬変)までをステージングする
肝線維化評価のゴールドスタンダードは生検であり、適切に採取され評価された場合は最も正確な指標となる。また脂肪性肝炎などの原因も検知することが可能だ。しかし現在ではサンプリングエラーや評価者間での相違などのリスクがあることからゴールドスタンダードとしての地位が下がっている。また侵襲的で強い疼痛や出血の小さなリスクも有している
非侵襲的な線維化評価がより多く行われるようになってきている。安価で患者の受容も良く、生検に比べ繰り返し行うことが可能である。肝超音波検査などは進行した肝硬変を同定することが可能だが、初期の肝硬変では感度が高くない
ステージングを行う非侵襲的画像アプローチが広く利用できるようになってきている
FibroScanは超音波に基づく画像手段で線維化の程度に相関する肝臓の硬さを測定する。Acoustic radiation force imaging (ARFI)とpoint shear-wave elastography (pSWE)はエラストグラフィック技術で既にある超音波システムに組み込まれている。ARFI/pSWEはベースライン評価の腹部超音波検査時に行われる場合もあり、FibroScanよりも利用しやすい地域もある。magnetic resonance elastography (MRE)はMRIに基づく肝線維化を評価する手段で特殊なハードウェアとソフトウェアをインストールする必要があるが、超音波ベースのアプローチに比べ進行した線維化や肝硬変の診断能力が高い
治療
進行を遅らせる方法は
アルコールの定期摂取は線維化進行との関連を認め、中等度の摂取でさえも悪い予後と関連する(24)。安全な摂取量が確立されていないため線維化が進行したあるいは肝硬変を有するHCV感染患者は禁酒が勧められる(2)
コーヒー摂取は線維化進行を遅らせ、肝細胞癌の発生率を下げるデータがある(25)
進行した肝疾患患者では腎障害および消化管出血のリスクがあるためNSAIDsは避けるべきである
一般的にアセトアミノフェンは1日2gを超えない限り安全とみなされている
スタチンは肝疾患患者に安全に使用でき、肝細胞癌や肝非代償および死亡を減らす可能性があると考えられている(26, 27)
A型肝炎に対するワクチンを慢性肝疾患患者、特に慢性C型肝炎の患者に施行することが推奨されている。両ウイルスの重複感染がより重篤な肝障害をきたす可能性があるからだ
肝硬変患者では感染リスクが高まるため、肺炎球菌および毎年のインフルエンザワクチン摂取を行うべきである
HIVあるいはHBVが陰性のHCV感染患者では重複感染を予防することが重要である。HBV感染はワクチンによって防ぐことができる
選ばれたHCV関連の肝硬変患者では上部消化管内視鏡による食道静脈瘤のスクリーニングが推奨される(28)
すべての肝硬変患者では肝画像検査(通常超音波であるが、造影CTあるいは造影MRIも使用される)とαフェトプロテイン血液検査による肝細胞癌のスクリーニングを、治癒が達成された後でさえ、6ヶ月毎に行う必要があ(3, 29)
すべてのactive HCV感染患者において抗ウイルス治療は利益があるとのコンセンサスが得られているが、ウイルスの根絶によって状態が変わらない生命予後の短い患者は例外となる(2)
治療前検査
治療前血液検査はHBcAb IgG、HBsAg、HBsAb、HCV RNA、血算、総生化学、推定GFR、妊娠テスト(現在のすべてのdirect-acting antiviral (DAA)治療は妊娠カテゴリーCとされている)が含まれる
genotypeテストは多くの患者では必要とされないが、genotype 3 感染の肝硬変患者の治療選択にウイルスの抵抗性を調べる必要があるため、ウイルスgenotypeテストは肝硬変患者、特に非代償性肝硬変患者では有用となる
肝硬変でgenotype 3 感染が確認された患者ではnonstructural protein 5A (NS5A) viral resistance mutationsを調べなくてはならない
薬剤相互作用
線維化の評価に加え、患者が服用する全ての処方薬と市販薬を確認する必要がある。起こりえる薬剤相互作用をLiverpool HEP Drug interaction toolで調べることが可能である(http://www.hep-druginteractions.org/)。考慮すべきことの主なものには、アミオダロンはソホスブビルが含まれるレジメンと共に投与されると重度の徐脈を起こす可能性、カルバマゼピン、オクスカルバゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、リファンピン、チプラナビル、St.John's wortなどの強いシトクロムP450誘導剤は有効血中濃度を下げる可能性、スタチンはプロテアーゼ阻害剤と共に投与されるとtoxic levelを上げる可能性、エチニルエストラジオールを含む避妊薬と特定の化学療法薬はプロテイン阻害剤によって濃度が高められる可能性、プロトンポンプ阻害剤は特定のNS5A阻害剤の吸収を抑制する可能性、などがある
治療レジメンの選択
肝硬変の有無、以前の治療の有無が治療レジメン選択決定の要となり、リバビリンを追加するか、あるいは治療を延長するかを決定する。また選択は服用薬剤との薬剤相互作用を最小化することや服薬数負担を減らすことなども考慮して行われる
承認されているDAAには3つの成分がある。NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤、NS5A阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤である。投薬量が固定された合剤には2〜3剤が含まれる。単剤治療では速やかに起こるウイルス抵抗性のために有効でなくなるため合剤治療が必要となる
抗HCV治療剤の中で最も安全性が低いため、ペグインターフェロンはもはや使用されない
リバビリンも既に有用性が低くなっているが、必要となる場合もある
特定の患者における考慮
HIV/HCV重複感染
HIVとHCV重複感染患者におけるDAA治療の成功率と耐容性はHCV単独感染者と同等である(30, 31)。HIV/HCV重複感染で考慮すべきことはHCV DAAと抗レトロウイルス治療の薬剤相互作用である。スタディでは正しく組み合わされた場合は抗HCV DAAはHIV抑制を阻害しないと報告されている
HBV/HCV重複感染
重複感染の患者ではC型肝炎ウイルスは通常B型肝炎ウイルスの複製を抑制する。したがってHCV抑制はHBV再燃(HBV reactivation: HBVr)を起こす可能性がある。HBsAg陽性の患者はHCV治療中および治療後にHBVに対するDAA(エンテカビル、テノホビル)にて治療される必要がある。HBsAg陰性でHBcAb陽性の患者のHBVrのリスクは1%以下であるがHCV治療数年後に起こる場合もある(32)。これらの患者はHCV治療終了後少なとも24週間はHBVrをモニターする必要がある
非代償性肝硬変
肝非代償の患者ではインターフェロンに基づく治療は危険であるが、プロテアーゼ阻害剤を含まない経口レジメンは高い効果を持って安全に投与できるかもしれない(33)
非代償性肝硬変患者の治療は肝臓専門医にて、理想的には肝移植センターで行われることが望ましい。治療前に肝移植の適応が評価される必要がある。患者が肝移植の適応があり肝非代償性が強い場合は肝移植後まで抗ウイルス治療を延期することが適切な場合もある
慢性腎臓病
慢性腎臓病ステージ4あるいは5の患者もいずれのstandard first-line DAAにて治療を行うことができる。透析およびHCV陰性ドナーからの長い待機期間より死亡率が高いことから治療を移植後に延期することが適切であるかもしれない
HCV治療の効果
ソホスブビル/ベルパタスビル、ソホスブビル/ベルパタスビル/ボキシラプレビル、ピブレンタスビル/グレカプレビルがすべての主要なHCV genotypeの治療としてFDAに承認されている(34)。未治療で非肝硬変患者のどのgenotype感染患者へも効果は95%を超える
ソホスブビル/ベルパタスビル
ASTRAL-1試験では121人の代償性肝硬変を含むgenotype 1, 2, 4 ,5, 6で未治療あるいはインターフェロン治療を経験している患者624人に対し12週間のソホスブビル/ベルパタスビル1日1回投与を行った結果99%で効果を認めた。重篤な副作用は治療薬を投与された2%の患者で認められた。プラセボ投与を受けた116人の患者では1人もSVRが達成されなかった(35)
ピブレンタスビル/グレカプレビル
ENDURANCE-1試験ではgenotype 1で、未治療の(62%)あるいは以前にインターフェロンベースのレジメン治療を受けた(38%)、患者703人が無作為に抽出され8週間あるいは12週間のピブレンタスビル/グレカプレビルが投与されて行われた(36)。SVR率は8週間および12週間グループでそれぞれ99.1% (CI, 98%-100%) および99.7% (CI, 99%-100%)であった
ソホスブビル/ベルパタスビル/ボキシラプレビル
ソホスブビル/ベルパタスビル/ボキシラプレビルは初回レジメンあるいは以前の治療後に再発した患者に投与される。POLARIS-2とPOLARIS-3試験では34%の肝硬変を含む611人の未治療患者にソホスブビル/ベルパタスビル/ボキシラプレビルが投与されて行われた。12週間治療によるSVR率はすべてのgenotypeにおいて95〜98%であった(37)
治療の安全性
ペグインターフェロンとリバビリンは様々な副作用や禁忌を認める。これらの薬剤を含むレジメンは現在では使われることが少なくなっている(38)
ペグインターフェロンやリバビリンを含まない抗ウイルスレジメンも倦怠感、頭痛、嘔気などの副作用を認める。これらが認められるのは比較的少なく一時的で、持続したりあるいは重度で治療中止しなければならないことは稀である(39)。非代償性肝硬変ではプロテアーゼ阻害剤を含むレジメン(ピブレンタスビル/グレカプレビル、ソホスブビル/ベルパタスビル/ボキシラプレビル、グラゾプレビル/エルバスビル)などは避けるべきである
治療中のモニタリング
外来受診や電話による抗ウイルス薬治療中のアドヒランスモニタリングは有用である。糖尿病患者では抗ウイルス治療がインスリン抵抗性を改善させ、低血糖をきたす可能性があるためカウンセリングを行う必要がある。ワーファリン治療中の患者ではINRの変化をきたす可能性があり、投与量を調整する必要があるかもしれない。それら以外ではDAAは非常に安全な薬剤であり、特定の血液検査にてモニターする必要はない。HCV RNAは治療開始4週間後にアドヒランスの指標として評価することが可能で、HCV RNAはほぼ全例で検知されない、あるいは非常に少ない量が検知される。高量検知される場合はアドヒランスが最適でないことが示唆される。B型肝炎ウイルスに暴露歴のある患者(HBcAb陽性、HBsAg陰性)ではHCV血症が改善した後にHBVrの小さなリスクがあり、DAA治療終了12週間後および24週間後に再燃の評価(HBsAg)を行わなければならない(32)
治療終了後のモニタリング
肝硬変発症前にSVR(治癒)を達成した患者では治療後に肝臓関連のモニタリングを行う必要はない。肝硬変を認める患者では6ヶ月毎の超音波およびαフェトプロテインによる肝細胞癌のサーベイランスを行い続ける必要がある
SVRの持続性は大きな前向き試験で確認されており、5年のフォローアップにおいてHCV RNA陰性が99%以上で持続した。治療成功後に再感染のリスクファクターがある患者では年毎のHCV RNA評価が必要になる
慢性C型肝炎のよく見られる症状の倦怠感は抗ウイルス治療成功後に改善するかもしれない(40)
SVRは肝臓の炎症減少およびALT値の正常化との関連を認める。SVR後にALT上昇が持続する場合はさらなる検査が必要かもしれない
肝酵素値正常化後の新たな上昇は再燃(通常治療終了後12週間以内)か再感染(治療終了後いつでも起こりえる)かを決定するためHCV RNAテストを行う必要がある
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インザクリニック
2020年9月1日
アナルズオブインターナルメディシン
慢性閉塞性肺疾患
慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease (COPD))はよく見られる予防および治療が可能な疾患で、持続的な呼吸症状と肺活量測定によって確認される進行的な気道閉塞を特徴とし、有害な粒子やガスに対する肺の異常な炎症反応と関連する(1-5)
COPDは4億人に近い人が罹患し、世界で3番目に高い死因となっている(6, 7)
米国ではCOPDによる死亡数が2000年以来男性より女性の方が多くなっている。実際、米国におけるCOPDの年齢調整死亡率は1999年から2014年の間で男性では減少したが、女性では同期間において死亡率が維持されている(8)
COPDの最たる原因は喫煙であるが、25%にのぼるまでの人に喫煙歴が認められない(9)
大気汚染、化学煙霧、粉塵、また暖炉で燃やされる木材などバイオマス燃料から発生するものなどの肺刺激性物質への長期暴露もCOPDの起因となるかもしれない
稀な遺伝子疾患、α1 -アンチトリプシン欠損症も原因となる
スクリーニング
リスク
発症するためには原因物質の吸入が十分な量および期間が必要となるため40歳以下でCOPDが発症することは少ない
およそ80%が喫煙に起因する。喫煙者が臨床的に重大なCOPDを発症するリスクは15%と言われているが、これは過小評価されてるかもしれない(10)
非喫煙者のリスクファクターはバイオマス燃料、大気汚染、間接喫煙、蒸気・ガス・粉塵・煙などへの職業的暴露、喘息、妊娠中の母親の喫煙、低出生体重、小児期の呼吸器感染歴などである(11, 12)
遺伝因子もCOPDの罹患しやすさに関連し、最もよく知られているのがα1アンチトリプシン欠損である
無症状患者へのスクリーニング
無症状の患者にスパイロメトリーによるスクリーニングを行うことを支持するエビデンスはない
U.S. Preventive Services Task Forceは無症状患者へCOPDのスクリーニングを推奨していない(13)
しかし疫学的データではCOPDが診断不足であることが示されている(14)
さらには多くのCOPDを有する患者は症状を報告しないが、実際、症状を避けるあるいは最小限にするため日常身体活動を制限していたり、あるいは症状を体調不良や年齢のせいにしている場合もある
呼吸プライマリケアクリニックにおける患者報告による5つの簡単な質問と呼気ピークフローの選択的な使用によって、COPDのさらなる診断的評価が必要な患者が同定できたと報告されている(15)
診断
いつ診断を考慮するか
リスクファクターを有する40歳以上の成人で、息切れ、咳嗽、喀痰などの慢性的な呼吸症状を訴える場合はCOPDの診断を考慮しなければならない
COPDは”不均質な”コンディションであることを認識する必要があり、ある患者は粘液の過剰産生による慢性咳嗽(慢性気管支炎)が主要症状であり、一方で肺過膨張による進行的な呼吸困難(肺気腫)が主な症状の場合もある
呼吸機能検査の診断的役割
関連するリスクファクターと慢性呼吸症状の存在に加え、気管拡張剤投与後のFEV1-FVC ratioが0.70以下であることがCOPDの診断に必要である(1)
いったん診断が確定すれば、予測FEV1パーセンテージが肺機能障害の重症度に関する情報を提供する。軽度(FEV1≧予測値80%)、中等度(FEV1 予測値50-79%)、重度(FEV1 予測値30-49%)、最重度(FEV1<予測値30%)と分類される
予測FEV1パーセンテージは死亡率との強い関連を認め、COPDの長期予後予測として妥当性が確立しているBODE(Body mass index、airflow Obstruction、Dyspnea、Exercise capacity)の1つの要素となっている(16)
肺活量、一酸化炭素拡散能(diffusing capacity for carbon monoxide (DLCO))などの他の呼吸機能検査も診断をサポートするかもしれないが必須ではない
他の検査
スパイロメトリー以外にCOPDの診断に必要な検査はない。しかし他のいくつかの検査も臨床的な表現型の特定およびマネージメントに、特に病状が進行している場合においては役立つかもしれない
動脈血液ガス試験は慢性的な高二酸化炭素血症を同定し、家庭での非侵襲的呼吸器治療が必要な患者の評価に有効である(17)
進行性に呼吸困難あるいは呼吸機能が悪化する、一酸化炭素拡散能が低下する、CTで重度の肺気腫を認める患者などでは6分間歩行試験を行い、労作による低酸素血症と長期酸素療法の適応に関する評価を行わなければならない
血算での好酸球数は吸入コルチコステロイド(inhaled corticosteroid [ICS])の開始および中止を決定する判断の助けとなるかもしれない。好酸球数値の高い患者では一般的に吸入ステロイドによく反応するからである(18)
胸部CTスキャンはCOPD急性増悪を再発する場合や最大治療にかかわらず呼吸困難が持続する患者の評価に重要であり、肺血栓塞栓症の除外や気管支拡張症、肺線維症、肺腫瘍などの他に併存する肺疾患の評価を行うことができる(19)
COPDの発症が50歳以前、α1トリプシン欠損症の家族歴、認識されるリスクファクターがなく肺気腫、気管支拡張症、肝疾患、脂肪織炎を認める、あるいは重症度が原因物質の暴露の程度に一致しない場合などはα1トリプシン値の測定も考慮しなければならない(20, 21)
喫煙は呼吸機能悪化を促進するため、すみやかに禁煙を促すためにも、あるいはα1トリプシンの静脈投与によって呼吸機能およびCTで測定される肺濃度の低下を減少させられるため、その治療を考慮するためにもCOPD患者を同定することは重要となる(22)
考慮すべき他の疾患
喘息、気管支拡張症などの気道閉塞をきたす肺疾患を考慮しなければならず、またそれらはCOPDと併存する場合もある
またCOPD患者は冠動脈疾患、心不全、肺高血圧症、閉塞性睡眠時無呼吸、骨粗鬆症、うつ病、不安障害などの他の疾患の高いリスクともなる(23, 24)
喘息との鑑別
喘息とCOPDを鑑別することは難しい。どちらもスパイロメトリーにおいて気道閉塞が認められ同様な呼吸症状(呼吸困難、咳嗽、喘鳴)を有する
しかしいくつかの臨床的特徴がこれらを鑑別する助けとなりうる。一般的に喘息患者は喫煙者であることが比較的少なく、若いうちから発症し、症状の変動を経験し(日中と夜間、日毎、季節毎)、ピークフロー測定によってもその変動が確認され、運動、寒冷、エアロアレルゲン(イエダニ、かび、花粉、ペット)などの症状発症の誘因を持ち、アトピーの既往歴あるいは家族歴の割合が高い
反対にCOPDでは発症が比較的遅く、重大な喫煙歴(20 pack-years以上)があることが多く、持続性の労作性呼吸困難および湿性咳嗽を有し、一般的に吸入薬への反応が安定しない
これらの両方の臨床的特徴を有する患者は喘息とCOPDが併存すると考えられる(25)
治療
禁煙
COPDを罹患している全ての喫煙者に禁煙を促す必要があり、外来受診あるいは入院の度にアプローチしなければならない
治療する医師のその継続性が禁煙チャンスを最大限にすることに欠かせない
禁煙は多くの臨床的利益があり、気管支拡張剤への反応を良くする、肺機能低下を減らす、死亡率を下げる、などが含まれる(26)
カウンセリングプログラムと薬剤治療を組み合わせることが禁煙を援助する最も効果的な方法である。薬剤治療のオプションにはニコチン治療(貼付剤、ガム、トローチ、経鼻スプレー、吸入剤)とブプロピオンやバレニクリンなどの経口剤がある(27)
薬剤治療へのアプローチ
気管支拡張剤、コルチコステロイドを含む吸入剤はCOPDマネージメントの要である
気管支拡張剤は短期作用型(短期作用型β2アゴニスト、短期作用型ムスカリンアンタゴニスト)と長期作用型(長期作用型β2アゴニスト(long-acting β2-agonist [LABA])、長期作用型ムスカリンアンタゴニスト(long-acting muscarinic antagonist [LAMA]))がある
Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD) ABCD staging systemに基づき、症状の重さおよび急性増悪のリスクが吸入剤治療をガイドしなければならない(1)
症状の重さはmodified Medical Research Council dyspnea severity scaleあるいはCOPD Assessment Test (CAT)(8つの症状を評価(www.catestonline.org))を用いて評価することができる
急性増悪のリスクは前年のその頻度と増悪の重症度によって規定される。推奨される初期吸入剤治療はGOLDグループAでは短期作用型気管支拡張剤、グループBでは1つの長期作用型気管支拡張剤(LABAあるいはLAMA)、グループCではLAMA、グループDでは1つのLAMAあるいは2剤(LAMA+LABA)あるいは吸入コルチコステロイド(ICS)とLABAの併用、とされている(1)
GOLD ABCDステージングによる初期治療ガイド
A:低いリスク、少ない症状/増悪年1回以下/CAT score<10/mMRC Dyspnea Scale Score 0-1
B:低いリスク、より多い症状/増悪年1回以下/CAT score≧10/mMRC Dyspnea Scale Score ≧2
C:高いリスク、少ない症状/増悪年2回以上あるいは入院年1回以上/CAT score<10/mMRC Dyspnea Scale Score 0-1
D:高いリスク、より多い症状/増悪年2回以上あるいは入院年1回以上/CAT score≧10/mMRC Dyspnea Scale Score ≧2
Modified Medical Research Council Dyspnea Scale
0:強い労作の時のみ息切れがする
1:平地で急ぐ時あるいはゆるやかな丘を歩く時に息切れがする(軽度)
2:息切れのため平地では同年代の人よりゆっくり歩く、あるいは自分のペースで歩く時に息切れのために立ち止まる(中等度)
3:平地でおよそ100ヤード(91m)、あるいは数分間歩いた後に息切れのために立ち止まる(重度)
4:息切れのために外出できないあるいは着替えで息切れする(最重度)
COPD急性増悪診断基準と重症度
診断基準
日常の呼吸症状より強い
・呼吸困難の増悪
・喀痰の増量
・喀痰の膿性度上昇(黄色あるいは緑色)
重症度
軽度:短期作用型気管支拡張剤にて治療
中等度:短期作用型気管支拡張剤と抗菌薬とあるいは経口コルチコステロイドにて治療
重度:救急外来受診あるいは入院を要する
吸入器具と薬剤クラスはアクセス、使用の容易性、好みなどに基づいて個人毎に選択されるべきである
正しい吸入手技に関する教育を行うことが重要である。75%以上のCOPD患者が吸入の際に1つ以上の間違いを犯している、といわれている(28)
吸入気管支拡張剤
短期作用型気管支拡張剤の作用期間は3−6時間で、呼吸症状の改善のため必要に応じて使用される。逆に長期作用型気管支拡張剤は維持療法として呼吸困難の減少、肺機能の改善、急性増悪を減らすために毎日使用する必要がある(29)
LAMAはLABAより急性増悪の予防に効果がある(30)
LAMAとLABAの併用による気管支拡張治療は単剤よりも症状、肺機能の改善により効果的である(31)。したがって症状の強い患者(CAT score≧20)に併用療法を、あるいは単剤治療にて症状が持続する場合は併用治療にエスカレートすることを考慮する必要がある(1)
コルチコステロイド
Inhaled corticosteroid (ICS) はCOPDに単独では処方されず、長期作用型気管支拡張剤との併用で使用される
LABAとICSの併用は健康状態、肺機能、急性増悪の頻度に関して単剤治療よりも効果が大きい
症状が重く急性増悪の頻度が高い(GOLDグループD)、特に喘息と合併している、あるいは血中好酸球数が0.300×10⁹cells/L以上の場合には、LABAとICSの併用を初期治療として考慮する必要がある(1)。スタディでは血中好酸球数が高い場合、ICSが急性増悪の予防により効果的であることを示している(18)
LABA、LAMA、ICSの3剤治療はLABA/LAMAあるいはLABA/ICSの併用治療よりも症状および肺機能の改善、急性増悪の頻度を減らすことに効果的である(32)
ICSは肺炎、非結核性抗酸菌感染、口腔カンジダ、あざができやすい、などの有害事象のリスクを高めることを認識している必要がある。したがってICS治療を受けているCOPD患者のリスクと利益を定期的に評価することが大切である
COPD患者でICS中断による臨床アウトカムを評価したスタディでは混合するデータが得られている。3剤吸入治療を受けている急性増悪頻度の高くない患者ではLABA/LAMA併用治療に変更した場合、肺機能のわずかな低下が認められたが、増悪頻度に違いはなかった(33)。しかしベースライン血中好酸球数が0.300×10⁹cells/L以上のサブグループでは肺機能のより大きな低下および急性増悪頻度の増加が認められた。これらの結果より、ICSを継続あるいは中断する判断は急性増悪の頻度、有害事象、血中好酸球数などの鍵となるさまざまな因子を考慮に入れた上で行う必要がある
経口コルチコステロイドは期間を限定した急性増悪治療のために控えておく必要がある。一般的に安定した患者では経口ステロイドの長期投与は避けるべきである。利益が限られた上、骨粗鬆症などの有害事象のリスクが高いからである
経口治療剤の追加
COPD急性増悪は疾患の自然経過において有害なイベントであり、QOLの低下、肺機能の損失、死亡率の上昇との関連を認める。したがってそのようなイベントの予防がCOPDマネージメントの重要な要素となる。最大吸入治療を受けていて急性増悪を繰り返す患者では予防のためにアジスロマイシンあるいはロフルミラスト長期投与の追加を考慮する必要がある
多施設RCTでは過去に喫煙歴があり急性増悪リスクの高い1142人のCOPD患者が評価された。通常治療にアジスロマイシン250mg 1日1回投与とプラセボ投与がそれぞれ追加されたグループに割り当てられ1年間追跡された(34)。アジスロマイシン投与を受けたグループの最初の急性増悪までの期間中央値が266日であったのに対し、プラセボグループは174日であった(P<0.001)。聴覚障害をきたしたのはアジスロマイシングループの25%、プラセボグループでは20%であった(P=0.04)
ホスホジエステラーゼ4阻害剤であるロフルミラストは急性増悪のリスクが高く、FEV1が予測値の50%以下で慢性気管支炎型の患者における中等度から重度の急性増悪の頻度を減らすことが証明されている(35)
テオフィリンは弱い気管支拡張作用を有する経口剤である。効果が比較的弱く、狭い治療域、他の薬剤との相互作用、有害事象(嘔気、嘔吐、頻脈性不整脈、痙攣)などのために、一般的には使用が推奨されない
予防接種
Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)はインフルエンザと肺炎球菌のワクチン接種をCOPDを含む慢性呼吸器疾患を有する患者に推奨している
インフルエンザワクチンは急性増悪の頻度を減らすため全てのCOPD患者が毎年接種すべきである(36)
19−64歳の喫煙者あるいはCOPD患者は23-valent pneumococcal polysaccharide vaccineを接種すべきであり、前回の接種から5年以上あいていれば65歳で再接種する必要がある(37)
ACIPは65歳以上の成人に13-valent pneumococcal conjugate vaccine (PCV13)接種をもはや推奨していない。広く普及している小児へのPCV13ワクチンによってPCV13血清型による感染が著しく減少したからである(38)
PCV13ワクチンの適応には侵襲的肺炎球菌感染、免疫不全状態、無脾症、脳脊髄液漏、人工内耳植え込みなどがある
急性増悪
急性増悪は細菌あるいはウイルスの気道感染、環境的刺激物質(高い湿度、冷たい空気、エアロアレルゲン)への暴露、肺血栓塞栓症などに続いて起こることが多い(19)
速やかな診断がマネージメントとして重要である。作用オンセットが速いため短期作用型気管支拡張剤が急性増悪治療の中心を担う。追加的なマネージメントには抗菌薬や経口コルチコステロイドの開始、入院必要性の評価などが含まれる
COPD急性増悪の症状は特異的でないため、急性心筋梗塞、肺炎、不整脈、心不全増悪などの鑑別疾患を考慮する必要がある
外来におけるCOPD急性増悪患者には抗菌薬処方を考慮する必要がある。いくつかのスタディでは抗菌薬治療によって治療の失敗を減らし、急性増悪が起こる間隔を長くすることが確認されている(39)
膿性喀痰の存在は抗菌薬治療による利益が得られる可能性を最も高める(40)
急性増悪の重症度と肺機能障害の程度も抗菌薬を投与するかの重要な判断材料となる
COPD急性増悪の実際の誘因は不明である場合が多い。したがって抗菌薬治療はもっともよく見られる細菌をカバーする必要がある;ヘモフィルスインフルエンザ、肺炎球菌、モラクセラカタラーリスなどである。また以前の治療への反応や地域の耐性パターンも考慮にいれる必要がある(41)
抗菌薬のオプションにはβラクタム/βラクタマーゼ阻害剤、第2あるいは第3世代セファロスポリン、マクロライド、フルオロキノロン、テトラサイクリン、トリメトプリム−サルファメトキサゾールが含まれる
経口コルチコステロイドは中等度から重度の急性増悪に対し強く考慮される必要がある。急性増悪に対する経口あるいは静注コルチコステロイド投与が治療の失敗の可能性を下げ、1ヶ月間における再発を減らすことがいくつかのスタディによって認められている(42)。これらのスタディでは症状や肺機能のより早い改善、入院期間の短縮なども示されている
コルチコステロイドの静注投与と経口投与の両者では治療の失敗率、再発、死亡率に違いを認めるエビデンスはない。静注および経口ステロイド両方において副作用が認められるが、経口治療の方がより軽度であるため好ましい
救急外来受診したCOPD急性増悪患者314人において行われたRCTでは5日間と14日間の経口コルチコステロイド投与において6ヶ月間での急性増悪再発に違いが認められなかった(43)。この結果はICU入院を必要としない患者へのプレドニゾン40mg/日5日投与の一般的治療法をサポートする
急性増悪の外来マネージメントに適切な反応を示さない患者がいることを認識している事が重要である。これらの患者では入院による非侵襲的あるいは挿管による呼吸器治療を必要とする可能性もある
COPD急性増悪による入院適応
・突然悪化する安静時呼吸困難、高い呼吸数、酸素飽和度低下、混乱、意識レベル低下などの重度の症状
・急性呼吸不全
・新たな身体所見(チアノーゼ、末梢浮腫)
・急性増悪初期治療への反応を認めない
・重大な併存疾患(心不全、新たに発症した不整脈)
・診断不明
・家庭でのサポートが十分でない
リハビリテーション
呼吸リハビリテーションはエクササイズトレーニング(エアロビックと筋力トレーニング)、教育、心理的カウンセリング、栄養カウンセリングを含む様々な介入からなる学際的なケアプログラムである
症状を有する全てのCOPD患者に治療の一環として呼吸リハビリテーションを推奨すべきである。最も利益が得られるのはCOPDによってQOLが障害されている、生活を制限する息切れおよび不安を経験している、強化的な教育およびエクササイズプログラムに積極的に参加する意思のある患者などである(1, 3)
計3822人のCOPD患者を評価した65のRCTの2015年コクランコラボレーションレビューでは呼吸リハビリテーションが呼吸困難を減らし、運動耐容能を増やし、健康関連QOLを改善したと報告している(44) 。1477人の患者を評価した他のコクランコラボレーションレビューではCOPD急性増悪後の呼吸リハビリテーションによる再入院および死亡率に対する効果は混合しており、いくつかのスタディでは利益を認めたが、他では認められなかった(45)
他の付随的治療法
付随的な治療もよく行われるが、その有効性をサポートするエビデンスは少ない
flutter valve deviceの使用や胸部理学療法は慢性気管支炎あるいは併存する気管支拡張症患者の喀痰排出を促し、呼吸困難感を軽減するが、過剰な喀痰産生がない状況ではその有効性が限られている
酸素療法
重度の安静時低酸素血症を認める患者に対する長期酸素療法は死亡率を減少させる(46, 47)。したがって中等度から重度のCOPD患者は定期的に酸素投与必要性の評価を行う必要がある
30分room airで呼吸した後にPaO2を測定することが酸素治療開始の最も正確でスタンダードな方法である
パルスオキシメトリーを長期酸素治療必要性の評価および酸素投与量の調整のために使用することができる
長期酸素治療が適応となれば、1日最低15時間以上、理想的には24時間使用することが推奨される
長期酸素治療の適応
安静時room airにて評価
・SaO2 ≦ 88%
あるいは
・PaO2 ≦ 55mmHg
運動時にて評価
・SaO2 ≦ 88%あるいはPaO2 ≦ 55mmHg
かつ
・酸素投与による運動時低酸素血症の改善を確認
睡眠時に評価
・SaO2 ≦ 88%あるいはPaO2 ≦ 55mmHg 睡眠時に5分以上認める
あるいは
・SaO2 5%以上の低下あるいはPaO2 10mmHg以上の低下が低酸素血症に起因する症状や症候(認知機能低下あるいは落ち着きのなさ)を伴って5分以上認める
心不全、肺高血圧/肺性心、赤血球増加を有する患者では安静時、運動時、睡眠時にSaO2 ≦ 89%あるいはPaO2 56-59mmHgを満たせば酸素治療開始の適応となる
COPDで重度の安静時低酸素血症を有する患者では長期酸素治療による死亡率の低下が確認されているが、中等度の安静時低酸素血症あるいは運動時低酸素血症の患者においては生命予後に対する利益が認められていない。よってこれらの患者では酸素治療開始の判断を患者と意思決定の共有を行う必要がある
肺容量減少手術
Lung volume reduction surgery (LVRS)は罹患部位あるいは機能していない気腫性肺実質を30%にのぼるまで切除を行い、残存する肺がより機能することを促す手術である
これはCOPD患者で呼吸リハビリテーションを終了し以下の基準を満たす場合に考慮される;1)胸部CTにて両側上葉優位の気腫性変化を認める、2)全肺気量と残気量がそれぞれ予測値の100%および150%以上、3)気管支拡張剤投与後のFEV1が予測値の45%以下、4)room airにてPaCO2 60mmHg以下でPaO2 45mmHg以上
FEV1が予測値の20%以下でCT上均一な気腫性変化あるいはDLCOが予測値の20%以下の場合はLVRSが考慮されない。それによる利益がなく、術後死亡率が高いからである(48)
上葉優位の気腫性変化、低運動耐容能、重度の症状を持つ限られた患者においてLVRS後の症状の改善および運動耐容能上昇を伴う死亡率低下が認められる(48)
気管支鏡的肺容量減少術
選択的に気道に弁を留置して気腫性変化をきたした部位に無気肺をつくる気管支鏡的アプローチによる肺容量減少術が発達してきている。2つの弁デバイスが2020年1月16日にFDAによって承認されている。bronchoscopic lung volume reduction (BLVR)の患者選択は2つをのぞいてLVRSと同様である。気腫性変化の領域は上葉優位である必要がなく、弁留置によって無気肺をつくるためのターゲットとなる肺葉に関わる間裂は完全である必要がある
BLVR後の気胸合併率は30%にまでのぼる
BLVRによる長期予後はまだわかっていない
多施設RCTにてターゲットとなる肺葉にcollateral ventilationがない重度COPD患者に対するZephyr Endobronchial Valve (Pulmonx)の安全性および効果が評価された。12ヶ月の期間において標準治療に比べ治療グループにて肺機能、運動耐容能、呼吸困難、QOLで有効性が認められた(49)
肺移植
COPDに特異的なガイドラインでは薬剤、呼吸リハビリテーション、酸素治療の最大治療にもかかわらず病状が進行し、肺容量減少術の適応にならず、BODE index scoreが5-6、PaCO2が50mmHg以上、PaO2が60mmHg以下、FEV1が予測値の25%以下の患者では肺移植チームへの紹介が推奨されている(50)
COPDに対する単肺あるいは両肺移植に関する議論が続いている。両肺移植が生命予後(51, 52)および機能改善(53)に優位であると報告するスタディがある一方で、生命予後は同等で、単肺移植の方が術後合併症が少なく、移植待機期間による生命予後が良いとする報告もある(54)
肺移植が成功すれば肺機能、運動耐容能、QOL、およびおそらく生命予後が改善する(2)
慢性移植片拒絶(閉塞性細気管支炎)が長期合併症および死亡の最たる原因であり、その率は25−55%にのぼる
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インザクリニック
2020年8月4日
アナルズオブインターナルメディシン