レジデントノート

米国にて内科修行中。何ができるか模索している過程を記録していく

診療の風景2

 

入院患者の高齢女性が不穏だから見にきてくれとコールがかかった

見当識を確認しようと尋ねたら名前と場所は答えられ、日にちは言えなかったが年と月は合っていた

大統領は誰かと問うと「asshole」との答えが返ってきた

これを見当識障害とするかの判断には検者の政治的信条というバイアスがかかる気がする

 

 

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肝酵素異常を認める患者のケア

 

アミノトランスフェラーゼ上昇時

 

臨床評価と身体診察

肝毒性薬剤の中止

アルコール摂取中止

ウイルス性肝炎と脂肪肝のリスク評価

 

検査

CBC, AST/ALT, TB, albumin, PT/INR

iron panel/フェリチン, トランスフェリン飽和度

HBsAg, HBcAb, HBsAb, HCVAb

超音波検査 

 

 

肝障害の重症度評価

軽度(正常上限の2〜5倍)

リスクファクターと徴候より追加検査を検討(HbA1c, lipid panel等)

 

中等度(正常上限の5〜15倍)

ANA, ASMA, immunoglobulins, ceruloplasmin, A1AT level/phenotype

 

重度(正常上限の15倍以上)

HAV IgM/HAV IgG, ANA, ASMA, immunoglobulins, Ceruloplasmin, A1AT level/phenotype, HSV, EBV, CMV PCR, serum/urine toxicology,  アセトアミノフェンレベル、ドップラー超音波

 

 

ANA: antinuclear antibodies

ASMA: anti-smooth-muscle antibodies

A1AT: α1-antitrypsin

 

 

 

 

ビリルビン値上昇時

 

直接ビリルビンの上昇でない時

血液スメア、reticulocyte count、ハプトグロビン、LDH

 

直接ビリルビンの上昇時

超音波検査

他の原因を評価(セプシス、TPN投与、肝硬変、胆管閉塞)

 

胆管拡張なし

ANA, AMA, ASMA, immunoglobulins

胆管拡張あり

MRCP/EUS/ERCP

 

 

AMA: antimitochondrial antibodies

 

 

 

 

 

 

 

アナルズオブインターナルメディシン

インザクリニック

2021年9月

 

 

 

200床以下の病院でのCOVID入院診療

 

病床が足りず医療が逼迫する理由の一つに病床数200床未満の民間病院のおよそ8割が患者を受け入れていない事があるという。おそらく人とモノが分散している事に起因すると考えられるため、乱暴な話それらをまとめて大きめの公立の病院に変えてしまえば状況が改善しそうな気もするが、現実的な案ではないだろう。対策としてはそれらの病院が患者を受け入れられない理由を調べ、今出来そうな事、次回の波までに出来そうな事、あるいは次回のパンデミックまでに準備出来そうな事を挙げ可能な支援を行う。そのくらいの事は百も承知で検討されているだろうが、患者受け入れに応じない場合は病院名を公表する、そんな事が聞こえてくると方向性に疑問が生じてしまう

 

自分は現在アメリカの州境にある、200床未満の病院で勤務している。産婦人科、精神科ベッドをのぞいて一般病棟2棟およびICUの計50床で内科および外科系患者の入院診療を行なっている。パンデミックの当初からCOVID患者を受け入れており、病棟がCOVID患者とそれ以外に分けられている。ピーク時にはICUおよび1病棟のほぼ全てがCOVID患者で占められた時期もあった。公的な病院でそもそも患者を受け入れないという選択肢がなく条件も異なるが、何がCOVID入院診療を可能にする事に役立っているかを考えてみた

 

 

COVID診療において有用なものの一つに財政補助があるだろう。詳細は知らないが当院も行政から援助を受けているはずだ。そんな支援にもかかわらずパンデミックの最中病院が経営破綻したというニュースを日米両国で耳にした。COVID診療に手を出したがために財政破綻したなどという事があると、ますます周りの腰が引けてしまうため、願わくばそんな事態が起こらないよう政府は全力で受け入れ機関を守っていただきたい、と全体の財政事情も分かっていない自分は安易に思ってしまう

 

 

残念ながら財政支援以外で有効と思われる事はどれも今すぐ変えられそうにないものばかりであったが以下それを一つ一つ挙げていく

 

 

 

 

 

 

呼吸療法士

「人工呼吸器を扱える看護師がいない」。患者を受け入れられない理由の一つとしてそんな声が聞こえてきた。当院はICUを備え専属のナースがいる。そしてこんな事を言ったら怒られそうだが、呼吸器の知識に長け、容易に扱えるナースといって思う浮かぶ顔はあまりいない。専門家から言わせれば自分も五十歩百歩だろうが、それでも支障なくみんな勤務を行なっているように見える。その理由に呼吸療法士の存在がある。呼吸療法士が日勤および夜勤帯ともに常在し、呼吸器に関するトラブルシューティングを速やかに行ってくれるからだ。呼吸器患者の看護、体位変換、吸引などに関する助言も行なっているはずである。呼吸器患者の酸素飽和度が下がった場合なんか医師より先にコールされるくらいだ。「設定をこのように変更しましたがよろしいでしょうか」などと事後報告される場合も多い。呼吸状態が悪化した患者にBIPAPを開始する際も設定くらいは問われるがあとは全て行ってくれる。動脈血液ガス採取も施行し、挙げ句の果てには抜管まで行ってくれるのである。州ごとに多少法律が違うのでちゃんと把握していないが、本来は医師の監督下のもと、であるはずだが実臨床では呼吸療法士が行ったことを医師が後から承認するという事が多々ある現状であろうと想像する。医師にとって、特に集中治療医がいない病院などでは、これほどCOVID診療の助けとなる存在はない気がする。日本では呼吸理学療法士は理学療法士や看護師などがさらに知識を深めて得られる資格だと理解しているが、とても同じだけの裁量が許されているとは想像できない。今からさらに呼吸器が発達しその扱いに高度な知識を要し、かつ集中治療医が必ずしも全ての医療機関に配属されづらい事を考えると可能業務が拡大された呼吸療法士の存在は非常に大きな役割を果たすだろうと考えられる

 

 

 

 

Phlebotomist(フレボトミスト)

採血を専門とする医療従事者がいる。高校卒業資格があり、4ヶ月から1年間のトレーニングを受ければなれる業種である。米国におよそ12万人いるそうだ。基本的には院内のほとんどの採血を行ってくれる。COVID診療に直接影響するわけではないが看護師の負担は減らしてくれる。点滴交換、経管栄養の準備、シフトの引き継ぎ準備などで忙しい朝方に多くの人の採血を行うことは大変である。得手不得手もあるだろうし採血が非常に困難な患者もいて、時に複数回失敗してしまう場合だってあり、担当を続ける患者との関係性に多少の影響を及ぼす可能性もあるかもしれない。技術の高い専門家が引き受けてくれれば、その物理的・心的負担の軽減は、ただでさえ負荷のかかるパンデミックの最中には特に大きいと考えられる。看護業務の効率化、場合によっては少しでも疲弊を減らしバーンアウトを防げる可能性があるのであれば、その人件費はペイされるのかもしれない

 

 

 

eICU

当院では数年前から常勤の集中治療医が1人勤務している。勤務時間は平日の日勤帯で、それ以外、つまり夜勤帯と土日の大半はeICUによるICU患者管理が行われている。eICUというのは集中治療医が専門医のいない病院のICU治療を遠隔で支援するシステムである。遠隔センター、当院の契約しているeICUは近隣の大学病院に所在するが、そこに待機する集中治療医がカルテ情報、患者モニター、呼吸器情報などにアクセスし、場合によっては病室に設置されたカメラを通して患者を観察し診療を支援する。基本的には電話で遠隔センターにいる専門ナースあるいは医師に相談して指示を仰ぐのだが、患者の急変時などは病室内にある緊急ボタンを押せば即座に集中治療医とテレビ電話がつながるシステムとなっている。夜勤帯のICUのほぼ全てのコールは夜勤医でなくeICUに繋がれ、夜勤医が呼ばれるのは急変時などの特別な場合のみである。アメリカにおけるeICUの導入は2000年頃からで、ICU患者の死亡率低下、ICU入院期間短縮、それによる医療費削減などがスタディでも報告されており、現在では全米のICU病床の15%がeICUによってカバーされている。1人の集中治療医と数人の専門ナースがチームを組んで同時に複数の病院のICU患者およそ100150人の診療を行なっている。COVID患者でICUが埋められている状況において24時間いつでも集中治療医に電話コンサルトできる環境は非常に心強く感じる

 

 

 

 

病棟医

受け入れが難しい原因として「呼吸器内科がいないから」ということも聞く。当院にも常勤の呼吸器内科医が1人いるがCOVID患者を受け持つことはない。COVIDも含め内科患者は全てホスピタリスト、いわゆる病棟専門医が主治医となり、呼吸器内科などの専門家はコンサルタントとなるからだ。ホスピタリストが入院業務全般を引き受けることによって、専門家はその知識・経験を必要とされる難しい患者診療により多く発揮・共有されることが可能となる。当院のCOVID診療において主にコンサルタントとなるのは呼吸器内科ではなく感染症内科である。特定の治療薬を使うか否かの判断、あるいはその承認、検査や感染隔離などで相談を受ける。常勤医が1人いてパンデミックの中活躍している。専門家の助言が得られればより説得力をもって診療が可能となる。ただその感染症内科医がいなければCOVID診療もままならないかと言えば必ずしもそうとは言えない気がする。多少アウトカムは下がる可能性もあるが、アクセスできる最新情報は皆同じであるし、COVIDだけで言えば診療経験年数も変わらないからだ。ジェネラリスト万能と言いたい訳ではもちろんないが、非常事態なのだから誰かが患者を診ざるを得ず、ホスピタリストがいれば「専門外で見られません」という理屈が通らないためCOVID患者の担当を決める際に困らないで済むだろうと感じる

 

 

 

Nurse practitioner 

人手不足という要因も大きいだろうが、これはなにもパンデミックで始まったことではない。アメリカでも医師が有り余っている訳ではなく、特に都市部以外で医師不足が存在するのは同じである。その解決に大きな役割を果たしているのがナースプラクティショナーの存在だ。看護師が学位を取得し試験に合格してなる資格である。州ごとに規制が異なるが、外科手術など以外では医師とほぼ同等の診療、診断、検査、処方等が行える。当院でもナースプラクティショナーが、担当患者数は多少減らされるものの医師と同じようにホスピタリストとして入院患者を受け持ち診療を行なっている。日勤は医師2人とナースプラクティショナー1人、時にその逆の比率でシフトが組まれ2病棟をカバーしている。ナースプラクティショナーなしではとても病棟業務を回せない状況となっている。その存在なくしてCOVID入院診療を継続できないのは言うまでもない

 

 

 

 

緩和ケア

当院には常勤の緩和ケアナースプラクティショナーが1人いる。予後が悪そうだと判断されれば速やかにコンサルト依頼が出される事が多い。進行した認知症、進行性悪性疾患、慢性呼吸不全、心不全にて入院を繰り返す高齢者など。依頼を受けたナースプラクティショナーが本人および主要家族での話し合いをコーディネートしてくれる。予想される経過、予後、アドバンスドケアプラン、退院後に受けられるサービス、ホスピスへの連携、苦痛・苦悩への対処法などを長い時間かけてきめ細やかに話してくれる。その対応で患者・家族の考えが変わりアドバンスドケアプランが大きく変更されることも多々ある。そしてそのコンサルトはCOVID患者においても同様に行われている。呼吸状態が改善せず人工呼吸療法が長引く、臓器不全が進行する、昇圧剤にて血圧が保てない、などの場合で相談されることも多い。家族との話し合いを繰り返した末に治療撤退を決め気管チューブが抜かれた患者も多数いる。もちろん最後まで諦めずに治療を継続する場合もある。正解というものはないだろうが、少なくとも転機にかかわらず本人の苦痛を少しでも和らげる、家族と対話を続けてその苦悩に寄り添う、という意味で緩和ケアナースプラクティショナーの果たす役割は非常に大きいと感じる

 

 

 

 

個室

当院は全室個室である。COVIDを受け入れるのに優位に働くのは当然のことだろう

 

 

 

 

ヒーロー・ヒロインイズム

良くも悪くもそういう風潮があると感じる。院内で「我々は敵と戦う勇者である」みたいな感じのポスターを見かけることがある。院外ではそれを称え街の人が拍手を送ってくれたり、場合によっては医療従事者を優遇してくれるお店まである。その影響もあるかもしれないがマスメディアの報道も、ナーシングホームで大規模のクラスターが発生したというニュースを一度見たことはあるが、院内クラスターが起こりそれを糾弾する雰囲気の報道は目にしたことがない。COVIDに関わる医療従事者あるいはその家族が保育園の入所やその類のことで不遇な目に遭ったという事も、実際には起こっているかもしれないが、少なくとも耳にしたことはない。人々の士気を下げる事はしないという意味では、少し安易な、と言ったら叱られそうだが、そういうヒーロー・ヒロインイズムも緊急事態下では有意に働くのだろうと感じる

 

 

 

 

COVID入院診療に役立っていることを挙げてみてたどりつく結論は規制緩和と分業によって個人の負担を軽減し専門知識を共有することであった

 

遠隔医療やナースプラクティショナーの導入に難色を示す動きもあるという。人と資源が限られ効率よく活用しなければならない状況においては単に時間の問題である気もし、自分で自分の首を絞めているようにも思えてしまう。何でも追随すればよい、という事ではないが、周りのアイデアを参考にしながら自分にあった最適解を探し、ともに難局を乗り越えていくことが大切になるのだろうと感じる

 

 

 

 

 

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腰痛

 

脊椎変性に関連するよくみられる状態

椎間板変性症

ヘルニアを伴う椎間板変性症(L5およびS1レベルが最も好発)

脊椎管狭窄症(50歳以下では稀)

 

腰痛をきたす脊椎疾患

強直性脊椎炎および体軸性脊椎関節炎(朝のこわばり、運動で軽快、通常40歳以下で発症)

骨髄炎、脊髄膿瘍、脊髄硬膜外膿瘍(発熱、局所圧痛)

脊椎あるいは周辺組織の悪性疾患(転移性腫瘍(前立腺、乳腺、肺))

馬尾症候群(膀胱あるいは腸管機能不全(尿閉が最もよく見られる))

圧迫骨折を伴うあるいは伴わない代謝性骨疾患(骨粗鬆症)

 

腰痛として認識されうる非特異的疾患

腹腔内臓器疾患(消化性潰瘍、膵炎、尿路結石、腎盂腎炎、前立腺炎、骨盤内感染症、腫瘍、大動脈解離、他)

帯状疱疹

心理社会的苦悩

 

 

 

 

画像検査

 

即座の画像検査

放射線検査および血沈

・悪性疾患のリスクファクター(悪性疾患既往を伴う新たな腰痛、悪性疾患の複数のリスクファクター、悪性疾患を強く疑う臨床兆候)

MRI

・脊椎感染のリスクファクター(静注薬剤使用あるいは最近の感染歴および発熱を伴う新たな腰痛)

・馬尾症候群のリスクファクター(新たな尿閉、腸管機能不全、肛門周囲の感覚消失)

・重度の神経障害(進行する運動障害あるいは複数の神経レベルでの運動障害)

 

治療トライアル後に画像検査を検討

放射線検査のみ、あるいは血沈検査併用

・悪性疾患の弱いリスクファクター(説明のつかない体重減少、50歳以上)

・強直性脊椎炎のリスクファクター(朝のこわばり、運動で改善、早朝に腰痛にて覚醒、20代あるいは30代)

・脊椎圧迫骨折のリスクファクター(骨粗鬆症の既往、コルチコステロイドの使用、外傷、高齢(65歳以上の女性、75歳以上の男性))

MRI

・神経根症の兆候を認め手術あるいは硬膜外ステロイド注射の候補となる患者(L4, L5, S1の神経支配に一致する下肢疼痛を伴う腰痛、straight leg raiseあるいはcrossed straight leg raise試験陽性)

・脊椎管狭窄症のリスクファクター(下肢への放散痛、高齢、偽性跛行)

 

画像検査なし

即座の画像検査を要する基準を満たさず1ヶ月の治療トライアルによって腰痛が軽減あるいは消失

以前に脊椎画像検査を行なってから臨床的変化を認めない

 

 

 

 

治療

急性腰痛はよくある疾患で、50〜75%が4週間以内に、90%以上が6週間以内に自然軽快し、たとえヘルニアを伴っていたとしてもほとんどの人は手術を必要としないことを患者に伝える必要がある

 

慢性腰痛は治療が困難で時間とともに再発が起こりえる。患者は治療ゴールがたとえ完全な消失を達成できないとしても機能を維持することであることを理解する必要がある

 

ある程度の効果があるかもしれない介入にはspinal manipulation、マッサージ、鍼灸などが含まれる

 

グルコサミンおよびコンドロイチンの効果は不明である

 

双極性磁気、フェルデンクライスメソッド、リフレクソロジーはおそらく効果がないと考えられる

 

温熱、牽引、経皮的神経電気刺激、電気的筋肉刺激、超音波、低レベルレーザー治療、干渉波治療、短波ジアテルミー、腰椎サポートなどが腰痛治療に使われてきた。RCTでは効果がほとんど確認されていないが、一般的に安全であると考えられている。患者の期待とプラセボ効果が治療的価値に一定の役割を果たしているかもしれないが、証明されていない治療の考えられる効果はそのコストと照らし合わせて考える必要がある

 

 

 

治療薬

薬剤の効果は一般的に強くない。薬剤治療を開始する場合は考えられる副作用、コスト、他の治療に比較した負担を考慮して決定する必要がある

 

First-line Treatment

NSAIDs(イブプロフェン、ナプロキセン)

 

Second-line Treatment

筋弛緩(シクロベンザプリン、チザニジン)

抗うつ剤(デュロキセチン)

 

限られた患者への補助的治療

オピオイド

トラマドル

 

効果が認められないため推奨されない

アセトアミノフェン

抗てんかん薬(ガバペンチン、プレガバリン)

 

 

 

 

 

インザクリニック

アナルズオブインターナルメディシン

2021年8月10日 

 

 

 

 

 

 

多発性硬化症

 

体温上昇、確認できる感染、他に偽再発の誘因がなく、新たな神経症状あるいはその悪化が24時間以上続くことを再発の定義とする

 

再発が確認された時の標準治療は高用量コルチコステロイドであり、典型的にはメチルプレドニゾロン 1日1g静注を3〜5日を経口薬の漸減なしに行う

 

最近の試験では経口メチルプレドニゾロン1日1g 5日間と経口プレドニゾン1日1250mg 5日間は同等の効果であったとされている(1, 2)

 

ステロイドに反応しない再発は血漿交換(3)、副腎皮質刺激ホルモンゲル筋注あるいは皮下注5日間(4)、シクロフォスファミドパルス静注(5)がレスキュー治療として利用可能である

 

多くの再発では入院治療を必要としない。経口ステロイド治療は入院による経過観察を必要としない

 

運動機能を完全に失う、感染リスクを高める膀胱あるいは排便コントロールの障害を伴う重度の再発の場合には入院による利益があるかもしれない

 

ステロイド投与による糖尿病患者の血糖値モニタリングなど、特別なモニタリングを必要とする場合もまた入院の利益があるかもしれない

 

 

 

 

 

1. Ramo-Tello C ,  Grau-López L ,  Tintoré M , et al. A randomized clinical trial of oral versus intravenous methylprednisolone for relapse of MS. Mult Scler. 2014;20:717-25.

2. Morrow SA ,  Stoian CA ,  Dmitrovic J , et al. The bioavailability of IV methylprednisolone and oral prednisone in multiple sclerosis. Neurology.  2004;63:1079-80.

3. Trebst C ,  Reising A ,  Kielstein JT , et al. Plasma exchange therapy in steroid-unresponsive relapses in patients with multiple sclerosis. Blood Purif. 2009;28:108-15.

4. Simsarian JP ,  Saunders C ,  Smith DM . Five-day regimen of intramuscular or subcutaneous self-administered adrenocorticotropic hormone gel for acute exacerbations of multiple sclerosis: a prospective, randomized, open-label pilot trial. Drug Des Devel Ther. 2011;5:381-9.

5. Gómez-Figueroa E ,  Gutierrez-Lanz E ,  Alvarado-Bolaños A , et al. Cyclophosphamide treatment in active multiple sclerosis. Neurol Sci. 2021.

 

 

 

アナルズオブインターナルメディシン

インザクリニック 

2021年6月

 

 

 

 

 

 

 

 

 

COVID19(米国施設ガイドライン)

2021年5月20日作成

 

推奨・エビデンス

NIH:National Institute of Health(国立衛生研究所)

推奨

 A:強く推奨
 B:中等度推奨
 C:オプショナルで推奨

エビデンス

 I:one or more randomized trials without major limitations

 IIa:other randomized trials or subgroup analyses of randomized trials

 IIb:nonrandomized trials or observational cohort studies

 III:expert opinion

 

IDSA:Infectious Diseases Society of America(米国感染症学会)

推奨

 強く推奨

 弱く推奨・条件付き推奨

エビデンス

 高い

 中等度

 低い

 非常に低い

 

UTD:UpToDate

推奨

 強く推奨

 弱く推奨

エビデンス

 高い

 中等度

 低い

 

 

 

診断

核酸検出検査(PCR検査)

 検体採取

  上気道より採取(鼻咽頭、鼻腔、咽頭のいずれかから)(NIH: AIII)

  咽頭よりも鼻咽頭、中鼻甲介、前鼻腔、唾液、前鼻腔と咽頭両方、のいずれかから採取(IDSA: 弱く推奨/非常に低い)

 

核酸検査初回偽陰性率5-40% (1, 2)

発症期間によるRT-PCRの偽陰性率:暴露当日100%、発症5日目38%、発症8日目20%、発症21日目66% (3)

(RT-PCR:real time polymerase chain reaction)

 

初回PCR検査が陰性でも疑いが強い場合は感染防護を継続し再検査

 挿管されている場合は下気道より採取(NIH: BII)

 気管洗浄検体よりも気管吸引検体を推奨(NIH: BII)

 喀痰、気管洗浄液、気管吸引のいずれかから採取(IDSA: 弱く推奨/非常に低い)

  

 

入院時検査

血液検査

 血算

 全生化学

 CPK

 CRP

 troponin

 D-dimer

 Fibrinogen

 フェリチン

 LDH

 血液培養2セット(菌血症が疑われる場合)

 

β-HCG(妊娠可能な女性)

心電図

画像検査

・ポータブル胸部X線

・PA/側面像はCOVID19の疑いが高くない場合および結果がマネージメントを変えうる場合のみに考慮

・CTはCOVID19の確定診断への有用性が限られており、結果がマネージメントを変えうる場合のみに考慮

 

 

入院基準

UTD(下記のいずれか一つでも満たせば入院になる可能性が高い)

・重度の呼吸困難(安静時呼吸困難、一文を中断せずに話せない)

・SpO2 ≦ 90%

・意識障害、低灌流あるいは低酸素血症の徴候(転倒、血圧低下、チアノーゼ、無尿、胸痛など)

 

NIH(下記のいずれか一つでも満たせば)

・SpO2<94%

・呼吸数>30/min

・PaO2/FiO2<300mmHg

・肺野浸潤影>50%

 

 

薬剤

スタチンは継続

NSAIDsは臨床適応があれば投与(NIH: AIII)

ACEI/ARBは継続(血圧低下、急性腎障害などの禁忌がない場合)

気管支拡張剤はネブライザーを避ける(ウイルスをエアロゾル化して伝搬性を高めるリスクがあるため、metered dose inhaler(加圧式定量噴霧吸入)を使用)。ネブライザーが必要な場合は適切な感染コントロール処置を行なって投与

抗凝固剤

禁忌がない限り入院患者全員に深部静脈血栓予防にて投与(NIH: AIII)

抗菌薬

UTDではルーティンでの投与は推奨していないが、細菌性肺炎との鑑別が難しい場合はエンピリックの投与も妥当としている。プロカルシトニンがガイドになるかもしれない(注1)。WHOでは重症(呼吸数>30/min、重度の呼吸困難、SpO2<90%)の場合にはエンピリックに投与することを推奨している

(NIH・IDSAでは推奨・非推奨なし)

 

   

重症度

軽症

有症状だが呼吸困難がなく、画像所見正常

中等症

下気道病変がありSpO2 95%以上

重症

SpO2 94%以下、PaO2/FiO2<300mmHg、呼吸数>30/min、肺野病変>50% 

重篤

ICU入院、呼吸不全、敗血症性ショック、多臓器不全

 

 

予後評価のためのリスクファクター

疫学(カテゴリー1)

50歳以上

呼吸器疾患の既往

慢性腎臓病

糖尿病 A1c>7.6%

高血圧

心血管疾患

肥満(BMI>30)

妊娠

生物学的薬剤使用

臓器移植歴あるいは免疫抑制剤使用

HIV、CD4<200あるいはCD4不明

 

バイタルサイン(カテゴリー2)

呼吸数>24/min

心拍数>125/min

SpO2≦94%

PaO2/FiO2<300mmHg

 

血液検査(カテゴリー3)

D-dimer>1000ng/mL

CPK>正常上限2倍

CRP>100mg/L(10mg/dL)

LDH>245U/L

トロポニン上昇

リンパ球絶対数<0.8(800/mcL)

フェリチン>500μg/L

  

アルゴリズム

1. 診断

2. 重症度評価

3. 予後評価

4. 治療決定

 

 

 

軽症・中等症で入院を必要としない

・supportive care

・外来にてモニタリング

・予後不良ハイリスクの場合は抗モノクローナル抗体治療(注2)

  Bamlanivimab + Etesevimab(NIH: AIIa)(IDSA: 弱く推奨/低い)

  Casirivimab + Imdevimab(NIH: AIIa)(IDSA: 弱く推奨/低い)

 

 

入院で酸素投与を必要としない

・予後不良ハイリスクの場合はレムデシビルを検討してもよいかもしれない

(UTDは弱く推奨/低い)

(NIHはデータ不十分として推奨・非推奨もしていないが、予後不良ハイリスクには考慮してよいかもしれないと記載)

(IDSAは投与しないことを弱く推奨/非常に低い)

 

 

入院にて酸素投与(高量でない)を必要とする

デキサメタゾン(NIH: BI)(IDSA: 弱く推奨/中等度)

デキサメタゾン + レムデシビル(酸素必要量が増加する場合)(NIH: BIII)

レムデシビル(低量の酸素を必要とする場合)(NIH: BIIa)(IDSA: 弱く推奨/低い)

 

 

ネイザルハイフローあるいはNIPPV治療を必要とする

デキサメタゾン(NIH: AI)(IDSA: 強く推奨/中等度)

デキサメタゾン + レムデシビル(NIH: BIII)

トシリズマブを上記のいずれかに追加(近日の入院で急速に酸素必要量が悪化し全身性炎症が強い場合)(NIH: BIIa)(IDSA: 弱く推奨/低い)

・レムデシビル単剤治療は推奨しない(NIH: AIIa) 

 

 

挿管・人工呼吸器治療あるいはECMO

デキサメタゾン(NIH: AI)(IDSA: 強く推奨/中等度)

デキサメタゾン + トシリズマブ(ICU入院24時間以内)(NIH: BIIa)(IDSA: 弱く推奨/低い)

レムデシビル併用(IDSA:弱く推奨/中等度)(NIHはデータ不十分として推奨・非推奨もしていない)(UTDはルーチンの投与をしないことを推奨しており(弱く推奨/低い)、挿管24〜48時間以内ならデキサメタゾンに追加することが妥当であるかもしれないが、臨床的利益は不明であると記載)

・レムデシビル単剤治療は推奨しない(NIH: AIIa) 

 

 

 

 

デキサメタゾン

6mg 1日1回 経口あるいは静注投与(10日まで)

重症あるいは重篤なCOVID19患者にて利益(RRR 36% on invasive O2 Tx vs RRR 18% on non-invasive O2 Tx)(4)

酸素投与を必要としない患者には利益が認められない

他のステロイドと異なりミネラルコルチコイド作用がない

10日間投与あるいは退院時のどちらか早い方で中止

代替療法

 ヒドロコロチゾン静注 50mg 8時間毎

 メチルプレドニゾロン静注 30mg 1日1回

 プレドニゾン 経口40mg1日1回

 

レムデシビル

初日200mg静注1回、続いて100mg静注1日1回4日間

RCTsにて主要アウトカムへの利益が明確でない(5-10)

5日目までに改善しない、人工呼吸器・ECMO治療の場合など10日目まで延長可

肝酵素と腎機能を毎日フォロー

退院時に中止

ALTが正常上限の10倍以上の場合は開始しない、あるいは中止

GFR<30の場合はケース毎に利益とリスクを考慮して投与を決定する

 

トシリズマブ

8mg/kg(max 800mg)1回投与

酸素必要量増加(>6L/24時間)、CRP>75mg/L(7.5mg/dL)の場合に考慮

既にデキサメタゾンを開始されていなければならない

免疫不全患者、コントロール不良の他のウイルス感染、細菌感染、真菌感染、AST/ALT>正常上限の5倍、好中球数<1000cc/mm³、血小板<50000、腸穿孔のハイリスク患者、などでは注意

 

  

Daily Management

心電図をフォロー:QTを延長する薬剤投与時

 

血液検査

状態が安定するまで毎日

・血算(特に総リンパ球数)

・全生化学

・CPK

・CRP(入院最初の1週間、ICU以外(注3))

ベースライン、およびその後隔日(ICU入院あるいは上昇している場合は毎日)

・PT/PTT/フィブリノーゲン

・D-dimer

リスク層別化

・LDH(上昇している場合は毎日)

・トロポニン(上昇する場合はフォロー)(注4)

血球貪食症候群が疑われる場合(肝酵素上昇、フィブリノーゲン低下、血圧低下)

・ESR、フェリチン

 

 

呼吸状態をフォロー

酸素化目標 

UTDではSpO2 90% to 96%を保ちながらFiO2をできる限り低くすることが好ましいとしている。NIHでは最適酸素飽和度は不明であるが、92%以上96%以下に保つことが妥当としている。WHOでは90%以上を推奨

 

ハイフローネイザル・NIPPV

WHOはmild ARDS(200mmHg<PaO2/FiO2 ≦ 300mmHg (with PEEP or CPAP≧5cmH2O))の場合はハイフローネイザル、NIPPVのトライアルを行ってもよいかもしれない、としている。

従来の酸素投与法では酸素必要量を保てない場合はNIPPVよりもハイフローネイザルを推奨(NIH: BIIa)

COVID以外の急性呼吸不全患者におけるブラインドなしで行われたハイフローネイザルとNIPPVが比較された試験において人工呼吸なしの期間(22日 vs 19日)と90日死亡率(HR 2.01 vs HR 2.50)であった結果に基づく(11)  

 

非挿管患者の腹臥位療法

酸素投与量を増加しても低酸素血症が持続するが挿管の適応でない場合はawake prone positioning(覚醒腹臥位療法)を検討することを推奨(NIH: CIIa)しているが、適応があるにもかかわらず挿管を避ける目的で行わないことも推奨している(NIH: AIII)

WHOでは重症で酸素投与を必要とする場合(ハイフローネイザル、NIPPVも含む)は弱く推奨(エビデンス低い)

酸素化が改善したと報告するスタディもあるが(12)、挿管を回避できる、回復を早める、死亡率を下げるかに関するエビデンスは不明である

適応:自分でポジションを調整でき腹臥位に耐容できる患者

禁忌:緊急で挿管が必要、血行動態不安定、最近の腹部手術、脊椎が不安定 

 

挿管

挿管のタイミングは難しいが、いたずらに遅らせて緊急に行わなければならない状況は患者および医療従事者双方にとって有害となりえるため、下記を評価しながら挿管の閾値は低めにしておくことが大切である

・数時間で急速に悪化

・ハイフローネイザル(>50L/min)、FiO2>0.6にて改善を認めない

・高二酸化炭素血症発症、呼吸努力の増大、tidal volume増加、意識状態悪化

・血行動態不安定あるいは多臓器不全

 

人工呼吸管理

low tidal volume (VT) ventilation(VT>8mL/kg(理想体重)よりもVT 4-8 mL/kgを推奨)(NIH: AI)
Plateau pressure<30cmH2O(NIH: AIIa)

liberal fluid strategyよりもconservative fluid strategyを推奨(NIH: BIIa)

(liberal fluid strategy(CVP 10-14mmHgあるいは肺動脈楔入圧14-18mmHgを目標)とconservative fluid strategy(CVP<4mmHgあるいは肺動脈楔入圧<8mmHgを目標)に分けて行われたARDSのスタディに基づく) (13)

 

腹臥位療法

人工呼吸療法の最適化にも関わらず低酸素血症が続く場合は12-16時間/日の腹臥位療法を推奨(NIH: BIIa)

重症ARDS(PaO2/FiO2<150)の場合は12-16時間/日の腹臥位療法を推奨(WHO)

 

神経筋遮断薬

肺保護換気を促すために中等度から重症ARDSに対し神経筋遮断薬の間欠的あるいは持続的投与を推奨(NIH: BIIa)

WHOでは中等度から重症ARDSに対し持続静注による神経筋遮断薬をルーティンで使用しないことを推奨。鎮静にもかかわらず呼吸器と同調しない、低酸素血症あるいは高二酸化炭素血症が改善しない場合は間欠的あるいは持続投与を検討してもよいかもしれない、としている

UTDではデータが矛盾しているためルーティンでの使用は好ましくないとしいてる

 

ECMO

WHOでは肺保護換気にもかかわらず酸素化が改善しない場合(PaO2/FiO2<50mmHg for 3 hours、PaO2/FiO2<80mmHg for 6 hours)は検討することを推奨

UTDでは他の呼吸器療法(腹臥位療法、神経筋遮断薬、high PEEPなどを含む)に失敗した時の最後のリゾートとすることを提唱している

絶対禁忌:回復が望めない複数の重度の病態が存在(多臓器不全、進行悪性疾患、重度の中枢神経障害、長期の心停止)

相対的禁忌:高齢、BMI>40、重度の免疫不全、重度心不全

 

 

退院

一般的には他の疾患と同じで病院レベルのケアおよびモニタリングを必要としない状態になれば可能。施設に転院する場合はその入所基準を満たす必要があるかもしれない。自己隔離ができる状況であれば感染隔離継続が必要であることが自宅への退院を遅らせてはならない

 

 

隔離解除

CDC基準

症状に基づく隔離解除基準

軽症から中等症で重度の免疫不全がない場合(下記の全てを満たす)

・発症から少なくとも10日以上経過

・最後の発熱から解熱剤なしで24時間以上経過

・症状改善(咳、呼吸困難)

無症状で重度の免疫不全がない場合

・最初の検査陽性日から10日以上経過

重症〜重篤あるいは重度の免疫不全がある場合(下記の上3つ全てを満たす)

・発症から少なくとも10日から20日まで経過

・最後の発熱から解熱剤なしで24時間以上経過

・症状改善(咳、呼吸困難)

・感染症専門家コンサルトを検討

 

検査に基づく隔離解除基準

有症状の場合(下記すべてを満たす)

・解熱剤なしで発熱改善

・症状改善(咳、呼吸困難)

・PCR検査が24時間以上あけて少なくとも2回陰性

無症状の場合

・PCR検査が24時間以上あけて少なくとも2回陰性

 

(重度免疫不全:化学療法中、造血幹細胞移植1年以内、未治療HIVでCD4<200、複合免疫不全症、プレドニゾン20mg /日以上14日以上服薬など)

 

 

他の治療薬

ファビピラビル

インフルエンザ治療に使われるRNAポリメラーゼ阻害剤である。現在COVID19に対する治験が行われている。初期の試験ではロシア(14)と中国(15)において利益も報告されたが、他の治療薬(immunomodulatory agents)も投与されており解釈には注意を要する。イランの試験では重症COVID19に効果が認められなかったと報告されている(16)

 

ヒドロキシクロロキン

入院患者に投与しないことを推奨(NIH: AI)

IDSAは投与しないことを強く推奨(中等度)

 

ロピナビル・リトナビル

入院患者に投与しないことを推奨(NIH: AI)

IDSAは投与しないことを強く推奨(中等度)

 

回復期血漿輸血

IDSAは投与しないことを弱く推奨(低い)

中和抗体を含む血漿が理論上臨床利益をもたらすとして緊急で承認されたが、重症患者に対する利益が明確でないため、UTDでは臨床試験以外で投与しないことを弱く推奨している

  

イベルメクチン

IDSAは臨床試験以外で投与しないことを弱く推奨(非常に低い)

NIHはデータ不十分として推奨および非推奨を行なっていない

 

免疫グロブリン静注

NIHではデータ不十分として推奨および非推奨を行なっていない

 

 

 

注1 

プロカルシトニンはCOVID19にて入院する多くの患者にルーティンでの検査は推奨されないが細菌感染合併のリスクが中等度の場合は限られた有用性があるかもしれない。スタディではCOVID19感染の初期7〜10日まではプロカルシトニンは低値のままで、それ以降では細菌感染の合併がなくても上昇することが確認されている。

発症から経過が短いCOVID19患者で細菌感染の可能性が懸念される場合にプロカルシトニン値が低値であれば、抗菌薬投与が必要でないかもしれない。また、臨床経過が悪化する場合にプロカルシトニン値が低値のままであれば細菌感染合併の可能性が低いと考えられるかもしれない

 

注2

Anti-spike SARS-CoV-2モノクローナル抗体はS蛋白受容体ドメインと結合しACE2受容体との作用を阻害する。外来におけるRCTでは特定のモノクローナル抗体が入院を70%まで減らしたと報告されている。Bamlanivimab、bamlanivimab + etesevimab、casirivimab + imdevimabがハイリスクの外来患者に承認された

外来投与基準

・COVID19診断確定

・軽度から中等度の症状(無症状は除外)

・発症から10日以内に投与終了が可能

・酸素投与を必要としない、あるいはCOVID19によって酸素必要量がベースラインより増えない

・以下のリスクを少なくとも1つ以上有する

  65歳以上

  BMI>35

  慢性腎臓病

  糖尿病

  免疫不全疾患

  免疫抑制剤使用中

  高血圧既往の55歳以上

  心血管疾患既往の55歳以上

  COPDあるいは他の呼吸器疾患既往の55歳以上

 

注3

入院1週間以上あるいはICU入院の場合は炎症マーカーの解釈が困難となる。CRPはトシリズマブの投与決定の判断に役立つかもしれない

 

注4

心筋障害のバイオマーカーはCOVID19 、急性心疾患(心筋梗塞や心不全)で上昇する可能性がある。正常上限の2倍以上で血行動態が安定している場合はトロポニン値をフォローする。説明のつかない血圧低下や中心静脈血酸素飽和度の低下などがない場合はルーティンでの心臓超音波検査は不要である。トロポニンが正常上限の5〜10倍以上の場合で血行動態が悪化する、あるいは他の懸念される心血管症状や徴候がある場合は心臓超音波検査や循環器コンサルトを考慮しなければならない

 

 

 

 

参照

UpToDate

WHO COVID-19 Clinical management

https://www.who.int/publications/i/item/WHO-2019-nCoV-clinical-2021-1

NIH COVID-19 Treatment Guideline

https://files.covid19treatmentguidelines.nih.gov/guidelines/covid19treatmentguidelines.pdf

IDSA Guidelines on the Treatment and Management of Patients with COVID-19

https://www.idsociety.org/practice-guideline/covid-19-guideline-treatment-and-management/

CDC Clinical Care Guidance

https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/clinical-guidance-management-patients.html

Massachusetts General Hospital COVID-19 Treatment Guidance

https://www.massgeneral.org/assets/MGH/pdf/news/coronavirus/mass-general-COVID-19-treatment-guidance.pdf

UCSF Adult COVID-19 Management Guidelines

https://infectioncontrol.ucsfmedicalcenter.org/sites/g/files/tkssra4681/f/Executive_Summary_UCSF_Adult_COVID_Inpatient_Management_Guidelines.pdf

 

 

1

COVID-19 diagnostics in context.
Weissleder R.  Sci Transl Med. 2020;12(546) 

2

Occurrence and Timing of Subsequent SARS-CoV-2 RT-PCR Positivity Among Initially Negative Patients.

Long DR.  Clin Infect Dis. 2020

3

Variation in False-Negative Rate of Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction-Based SARS-CoV-2 Tests by Time Since Exposure.

Kucirka LM.  Ann Intern Med. 2020;173(4):262. Epub 2020 May 13. 

4

Dexamethasone in Hospitalized Patients with Covid-19.
RECOVERY Collaborative Group, Horby P.  N Engl J Med. 2021;384(8):693. Epub 2020 Jul 17

5

Drug treatments for covid-19: living systematic review and network meta-analysis.

Siemieniuk RA.  BMJ. 2020;370:m2980. Epub 2020 Jul 30.

6

Remdesivir for the Treatment of Covid-19 - Final Report.

Beigel JH. N Engl J Med. 2020;383(19):1813. Epub 2020 Oct 8.

7

Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial.

Wang Y.  Lancet. 2020;395(10236):1569. Epub 2020 Apr 29

8

Repurposed Antiviral Drugs for Covid-19 - Interim WHO Solidarity Trial Results.

WHO Solidarity Trial Consortium, Pan H, Peto R.  N Engl J Med. 2021;384(6):497. Epub 2020 Dec 2

9

Remdesivir for severe covid-19: a clinical practice guideline.

Rochwerg B, BMJ. 2020;370:m2924. Epub 2020 Jul 30. 

10

Remdesivir for Adults With COVID-19 : A Living Systematic Review for American College of Physicians Practice Points.

Wilt TJ.  Ann Intern Med. 2021;174(2):209. Epub 2020 Oct 5.

11

High-flow oxygen through nasal cannula in acute hypoxemic respiratory failure.

Frat JP, Thille AW, Mercat A, et al.  N Engl J Med. 2015;372(23):2185-2196

12

Feasibility and physiological effects of prone positioning in non-intubated patients with acute respiratory failure due to COVID-19 (PRON-COVID): a prospective cohort study.
Coppo A.  Lancet Respir Med. 2020;8(8):765. Epub 2020 Jun 19.

13

Comparison of two fluid-management strategies in acute lung injury.
National Heart, Lung, and Blood Institute Acute Respiratory Distress Syndrome (ARDS) Clinical Trials Network, Wiedemann HP.  N Engl J Med. 2006;354(24):2564. Epub 2006 May 21.

14

AVIFAVIR for Treatment of Patients with Moderate COVID-19: Interim Results of a Phase II/III Multicenter Randomized Clinical Trial.
Ivashchenko AA. Clin Infect Dis. 2020

15

Experimental Treatment with Favipiravir for COVID-19: An Open-Label Control Study
Cai Q, Yang M, Liu D, et al.  Engineering. 2020

16

Safety and efficacy of Favipiravir in moderate to severe SARS-CoV-2 pneumonia.
Solaymani-Dodaran M.  Int Immunopharmacol. 2021;95:107522. Epub 2021 Mar 11.

 

 

 

 

 

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肺高血圧

 

肺血管床は通常抵抗が低く、全身循環のおよそ15〜20%の圧で全心拍出量を収容できる容量がある。肺高血圧では上昇した肺動脈圧が拍出量を維持しようとする薄い壁でできた右室に負荷をかける。効果的な治療なしでは、進行する右室機能不全が症状の悪化をもたらし、通常死に至る。肺高血圧は左心疾患あるいは肺疾患によって引き起こされる場合が多く見られる。頻度は少ないが、肺血管自体に内因する過程によって起こる場合もある。肺高血圧の原因を鑑別することは適切な評価を要し、また必須となる。なぜなら原因によって対応が異なることおよび不適切な治療は重篤な害をもたらす可能性があるからである

 

 

診断およびスクリーニング

正常の肺動脈収縮期圧(pulmonary arterial systolic pressure: PASP)は15〜30mmHg、拡張期圧は4〜12mmHg、平均圧は9〜18mmHgである。現在の定義では平均肺動脈圧(mean pulmonary arterial pressure: mPAP)が25mmHg以上の場合に肺高血圧とされる。現在WHOによって5つのカテゴリーに分類され、それぞれで肺動脈圧上昇の原因、自然経過、治療が異なっている

 

肺動脈高血圧(WHO group 1)は毛細血管前肺細動脈に血管病因を有する特異的な血行動態を持つものとして定義される。この血行動態的定義を満たすためには平均肺動脈圧は25mmHg以上で肺動脈楔入圧(pulmonary capillary wedge pressure: PCWP)が15mmHg以下でなければならない

 

肺高血圧の最も多い原因は左心疾患に基づく左房圧上昇と慢性的な肺静脈圧上昇によるものである。肺静脈圧上昇をきたす左心疾患の主なものは左室収縮能不全および拡張能不全、僧帽弁あるいは大動脈弁疾患である。肺静脈抵抗は長期の肺静脈圧上昇とともに上昇する

 

慢性肺疾患は肺実質の破壊、肺血管の絞扼、低酸素による肺血管収縮などを起こし、肺高血圧をきたしうる。最も多い原因は慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。特発性肺線維症などのような線維性肺疾患、膠原病性血管疾患によるびまん性肺実質疾患(強皮症やSLEなど)なども肺高血圧の原因となる。閉塞性睡眠時無呼吸もこのカテゴリーに含まれる

 

肺塞栓症後の患者4%が慢性血栓塞栓性肺高血圧をきたす(1)。症状が進行して肺高血圧が認識され、その原因が評価されるまで静脈血栓塞栓のイベントが認識されない場合もある

 

左心疾患、慢性低酸素性肺疾患、慢性血栓塞栓症がない場合は、肺高血圧が内因する肺血管障害による”肺動脈高血圧”に起因するものであるかもしれない。これは進行的な血管内膜、中膜、外膜の障害による肺血管抵抗の上昇が関与している。遺伝的素因あるいは膠原血管病、HIV、肝疾患、左右シャントを伴う先天性心疾患、メタンフェタミンなどの刺激薬使用歴などのリスクファクターなどによっておこる場合がある。リスクが同定できない場合に肺動脈高血圧は”特発性”と呼ばれる

 

 

 

 

肺高血圧の原因

肺動脈高血圧(WHO group 1)

左心疾患による肺高血圧(肺静脈高血圧)(WHO group 2)

慢性肺疾患/低酸素血症による肺高血圧(WHO group 3)

塞栓症による肺高血圧(慢性血栓塞栓性肺高血圧、腫瘍塞栓)(WHO group 4)

その他の原因(サルコイドーシス、リンパ性閉塞)(WHO group 5)

 

 

 

 

症状

進行する呼吸困難が肺高血圧で最もよく見られる症状である。これが半分以上の患者で最初に見られ、最終的にはおよそ85%にまで認められる(2)。労作性呼吸困難はよく見られる症状であり、また肺高血圧は比較的頻度が少ないため、患者同定のために疑いをもつよう意識する必要がある。疾患に対する認識が向上しているが、発症から診断まで遅れることが多く、肺動脈高血圧の20%までの患者が診断に2年以上かかると報告されている

 

他の症状には倦怠感(26%)、胸痛(22%)、失神あるいは失神前症状(17%)、下肢浮腫(20%)、動悸(12%)などがある(2, 3)

 

 

心臓超音波検査

心臓超音波検査は肺高血圧を評価するために最も良い検査の一つである。肺動脈収縮期圧は心臓超音波検査によって三尖弁逆流速度から算出される推定右室圧を下大静脈外観から推定される中心静脈圧に加えることによって推定される。多くの患者で肺動脈収縮期圧の近似値を得ることが可能だが、正確な三尖弁逆流のエンベロープが得られない場合は情報が限られる。右房および右室拡大、肥大、右心機能不全の所見は肺動脈収縮期圧の正確な推定よりも重要である。なぜならこれらの所見は原因にかかわらずより重篤な病態を示唆するからである。心臓超音波検査による肺動脈収縮期圧の推定は肺高血圧の評価に有用であるが、疾患の正確な重症度および治療反応を評価する場合には適切ではない。特定のタイプの肺高血圧に対する特異的治療を考慮する場合は、右心カテーテル検査が必須となる。心臓超音波検査のみでは肺動脈高血圧を診断できない

 

 

 

他の検査

肺高血圧の原因診断あるいは除外のために他のいくつかの試験が必要となる。たとえ肺塞栓症の既往がなくても慢性血栓塞栓症を除外するため換気血流スキャンを行わなければならない。肺塞栓症が認識されていない場合が多く見られるからである。CT肺血管造影は肺高血圧の重要で治療できうる原因除外には感度が十分には高くないと考えられている。臨床症状、呼吸機能検査、胸部レントゲンからびまん性肺疾患が疑われる場合には胸部CTが有用であるかもしれない。睡眠時無呼吸の可能性がある場合は睡眠検査を考慮しなければならない

 

 

 

肺高血圧の評価

膠原血管病のための自己抗体検査

BNPあるいはNT-proBNP

胸部レントゲン

血算

心臓超音波検査

心電図

電解質/クレアチニン

HIV血清検査

肝機能検査(ALT, AST, ALP, T-bil)

安静時および労作時酸素飽和度

ポリソムノグラフィー

呼吸機能検査(スパイロメトリ、肺容量、拡散能)

放射性核種拡散血流検査

右心カテーテル

6分間歩行距離

 

 

 

他の試験も疾患の重症度評価、治療選択および治療反応評価に有用である。ヘモグロビン酸素飽和度を安静時および労作時に測定しなければならない。BNPもあるタイプの肺高血圧の重症度と相関を認める。特に肺動脈高血圧の場合、あるいは肺高血圧が収縮性左心不全に関連する場合などである。最初の診断時のBNPが150pg/mL以上の肺動脈高血圧患者は悪い予後と相関し、また治療開始後にBNP 180pg/mL以上が持続する場合も予後が悪い(4)。NT-proBNPが1400pg/mL以上の場合も予後不良との相関を見せる(5, 6)。BNPおよびNT-proBNPは肺動脈高血圧と左心疾患に起因する肺静脈高血圧の両方で上昇する可能性があり、両者を鑑別できない。6分間歩行試験は肺高血圧の機能的影響の評価を行うことができ、予後とも相関を認める。連続的な試験も治療反応の評価に有用であるかもしれない

 

 

 

心臓カテーテル検査

肺動脈高血圧の診断確定には右心カテーテルが必須であり、肺血管に対する特異的な内科的治療を開始する前に行わなければならない。また以前に認識されていなかった左心機能不全および肺静脈高血圧の同定にも有用である。たとえ肺高血圧が左心疾患に関連するものであっても、肺高血圧の診断の確定および重症度評価のためにも右心カテーテルを考慮しなければならない。弁膜性心疾患および心移植適応に関する治療オプションに影響を与える可能性があるからである。同様に慢性肺疾患に関連する肺高血圧の血行動態が分かることで、開胸肺生検、治療オプション、肺移植のタイミングの考慮などに関する意思決定に影響を与えられる。右心カテーテルは肺高血圧の患者において安全な手技で、合併症率は1.1%で、最も多く関連するものが静脈アクセス、不整脈、迷走神経反射による血圧低下などである。手技による死亡は稀で0.05%と報告されている(7)

 

 

 

 

肺動脈高血圧の診断

肺高血圧の存在(平均肺動脈圧が25mmHg以上)

肺静脈高血圧の欠如(左房あるいは肺動脈閉塞圧(楔入圧)が15mmHg以下)

肺血管抵抗上昇(>3 Wood units)

重度の慢性低酸素性肺疾患(重度の慢性閉塞性肺疾患など)あるいは慢性血栓塞栓症の除外

 

 

 

 

 

 

治療

適切な治療は肺高血圧の原因に依存し、慢性心疾患あるいは肺疾患を持つ患者ではその元になる状態に対する治療にフォーカスすることとなる。通常これにより症状および肺の血行動態が改善する

 

酸素療法は安静時、労作時および睡眠時に酸素飽和度90%以上を維持する量を投与すべきである(8)。アイゼンメイジャー症候群をきたし右左シャントを伴う患者では酸素投与による利益が証明されていない

 

原因によらず肺高血圧が右心不全をきたす場合は利尿剤治療が必須になる。最適な投与量に関するデータは少ないが、利尿剤(塩分制限と頻度の体重評価とともに)によって右心不全の症状を伴う患者の体液過剰および呼吸困難を最小限にすることが必須となる

 

 

 

左心疾患による肺高血圧の治療

臨床において左心疾患に関連する肺高血圧が最もよく見られるものである。左心疾患における肺高血圧は直接肺動脈圧を下げる試みよりも左心疾患自体に対する治療を行う必要がある。プロスタサイクリンアナログ、エンドセリン受容体拮抗剤、ホスホジエステラーゼ5阻害剤、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤などが左心疾患を伴う肺高血圧において調べられてきたが結果は思わしいものではなかった(9, 10, 11)。左心弁疾患、特に僧帽弁狭窄症による肺高血圧がよく調べられてきた。僧帽弁の治療後、肺動脈圧は多くの場合正常にもどる。反応は速やかにあるいは6ヶ月以内に現れる(12)

 

 

 

肺疾患による肺高血圧

COPDに関連する肺高血圧の治療において唯一効果が認められているのは酸素投与である(13)。治療はその元となる睡眠時無呼吸、COPD、肺疾患の最適化を目指す必要がある。低酸素血症を防ぐ酸素投与、適応があれが呼吸理学療法を利用することである(14)。睡眠時無呼吸は夜間酸素飽和度低下および低酸素性肺血管収縮を介する肺高血圧の促進を最小限にすべく積極的な治療を行うべきである。肺疾患による肺高血圧に対し肺動脈高血圧治療は現在推奨されていない(15)。びまん性肺疾患、COPDに対する肺血管拡張薬を投与した臨床試験において効果は認められず、これらの薬剤は換気血流不均等を悪化させ、より重度の低酸素血症をもたらす結果となった(16, 17)

 

 

 

慢性血栓塞栓症による肺高血圧治療

慢性血栓塞栓症は他の肺高血圧とは異なり、外科的手技である肺血栓内膜摘除術(pulmonary thromboendarterectomy: PTE)が治療選択となり治癒する可能性がある(18)。慢性血栓塞栓症の患者でPTEが適応とならない場合、あるいはPTE後に肺高血圧が残存する場合は経験のある施設における肺動脈バルーン形成術(balloon pulmonary angioplasty: BPA)が推奨されるかもしれない。慢性血栓塞栓症の診断が考えられる場合は効果的な抗凝固療法を開始し、専門施設に紹介する必要がある。肺高血圧に対する内科的治療がPTEやBPAの機械的治療を行う施設での評価を遅らせてはならない。外科的にアクセスできる疾患の多くの場合はPTE成功後も症状の改善が維持され、専門施設での外科的治療による死亡率は5%以下である(19, 20)。PTE後に肺高血圧が残存する患者あるいは外科的治療の適応とならない患者においては可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤リオシグアト治療が血行動態エンドポイントと6分間歩行距離などの機能的アウトカムを改善し、少なくとも1年間は効果が維持されたと報告されている(21, 22)

 

 

肺動脈高血圧の治療

肺動脈高血圧の治療は一般的に”バックグラウンド”治療と肺動脈高血圧特異的治療に分けられる。バックグラウンド治療には前述のように利尿剤と酸素投与が含まれる

 

肺動脈高血圧に対するカルシウムチャネル拮抗剤の使用は右心カテーテル時の血管反応性検査に好反応を示した患者に限定すべきである。利益を認めるのは少数であるが(およそ10%以下)、それらの患者では多くの場合反応が数年持続し良き予後を示す。これらの薬剤は経験的に投与すると血行動態不安定化、症状悪化、あるいは死亡をきたす可能性もあるため、右心カテーテルにて血管反応性が明らかに示されない限り使用すべきではない

 

現在認可されている肺動脈高血圧治療は病因に関連する3つの分子経路をターゲットとしている。肺動脈高血圧の治療選択と決定は主に疾患の重症度とリスクによって決められる(23)

 

 

肺動脈高血圧治療薬

プロスタサイクリン・プロスタサイクリン受容体作動薬

エポプロステノール、イロプロスト、トレプロスチニル、セレキシパグ

 

エンドセリン受容体拮抗薬

アンブリセンタン、ボセンタン、マシテンタン

 

PDE5拮抗薬

シルデナフィル、タダラフィル

 

可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬

リオシグアト

 

 

 

臨床的数値(機能状態や6分間歩行距離など)と心不全に関する検査値(NT-proBNP、心臓超音波検査のハイリスク所見(心嚢液)、右心不全を表す血行動態(右房圧上昇と心係数低下))、右心障害を示唆する所見(超音波上の右心拡大あるいは右心機能不全あるいは測定された血行動態指標)を統合して疾患の重症度が決定される

 

現在のガイドラインでは低リスク群では単剤治療で開始することをサポートしている。しかし新たに診断された肺動脈高血圧患者の多くでは併用療法が推奨される(23, 24)。治療反応に対する評価をフォローアップしなければならない。もし患者が3〜6ヶ月後も中等度あるいは高リスクのままである場合は低リスクとなるまで治療をエスカレートしなければならない。NYHAIIIあるいはそれ以上の全ての患者では、特に他の肺動脈高血圧治療にもかかわらず高リスクのままである場合には、プロスタサイクリン非経口投与治療を考慮しなければならない

 

 

 

 

 

肺移植

肺動脈高血圧特異的治療にて改善を認めない場合は肺移植の評価を行うことが適切となる。重度の右心不全あるいは急速に病態が悪化する場合は早期の肺移植チームへの紹介を考慮しなければならず、肺動脈高血圧治療の反応を待つことによって紹介を遅らせてはならない

 

 

 

 

運動

運動が制限されることによる患者の身体機能低下を避ける、あるいはそれを改善させることが重要となる。肺高血圧では節度ある運動は禁忌でなく、患者に受容できる範囲での活動性を保つことを促す必要がある。軽度の息切れは受容されるが、重度の呼吸困難、運動性めまい、失神前状態、胸痛などをきたすほどの運動は避けるべきである。等尺性運動(固定抵抗に対して筋緊張を加える)は運動性失神をきたす可能性があるため避けるべきである

 

心不全あるいは進行した肺疾患による肺高血圧を呈する患者ではリハビリテーションプログラムに参加することが可能である。モニターされた運動プログラムは安定した肺動脈高血圧の患者において運動耐容能および生活の質の向上が認められ、内科的治療の補助的な役割を担う

 

 

 

 

予後

肺高血圧は心不全やCOPDなどと関連する多くの場合において予後不良とみなされている。心不全の場合は右心カテーテルにおける肺動脈圧の上昇が強い死亡予測因子とされ、特に心筋炎や右心機能低下などの場合である。同様にCOPD患者では重度の肺高血圧が悪い予後を示唆する

 

従来、肺動脈高血圧も予後不良とされてきた。National Institutes of Health Registry on Pulmonary Hypertensionによる1981年に開始された187人の特発性肺動脈高血圧患者の評価において生存期間中央値は2.8年で、1年生存率は68%であったと報告されている(3)。特異的治療が行われる近年に得られたアウトカムは向上したが、依然肺動脈高血圧は重篤な疾患である。多施設で行われたREVEAL(Registry to Evaluate Early and Long-Term Pulmonary Arterial Hypertension Disease Management)Registryでの2716人から得られたデータでは生存率がそれぞれ以下のようであった;1年:85%、3年:68%、5年:57%、7年:49%(25, 26)

 

 

 

 

 

 

1. Pengo V , Lensing AW , Prins MH , et al; Thromboembolic Pulmonary Hypertension Study Group. Incidence of chronic thromboembolic pulmonary hypertension after pulmonary embolism. N Engl J Med. 2004;350:2257-64.

 

2. Brown LM , Chen H , Halpern S , et al. Delay in recognition of pulmonary arterial hypertension: factors identified from the REVEAL Registry. Chest. 2011;140:19-26.

 

3. Rich S , Dantzker DR , Ayres SM , et al. Primary pulmonary hypertension. A national prospective study. Ann Intern Med. 1987;107:216-23

 

4. Nagaya N , Nishikimi T , Uematsu M , et al. Plasma brain natriuretic peptide as a prognostic indicator in patients with primary pulmonary hypertension. Circulation. 2000;102:865-70.

 

5. Fijalkowska A , Kurzyna M , Torbicki A , et al. Serum N-terminal brain natriuretic peptide as a prognostic parameter in patients with pulmonary hypertension. Chest. 2006;129:1313-21.

 

6. Andreassen AK , Wergeland R , Simonsen S , et al. N-terminal pro-B-type natriuretic peptide as an indicator of disease severity in a heterogeneous group of patients with chronic precapillary pulmonary hypertension. Am J Cardiol. 2006;98:525-9.

 

7. Hoeper MM , Lee SH , Voswinckel R , et al. Complications of right heart catheterization procedures in patients with pulmonary hypertension in experienced centers. J Am Coll Cardiol. 2006;48:2546-52.


8. Galiè N , Humbert M , Vachiery JL , et al; ESC Scientific Document Group. 2015 ESC/ERS guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension: the Joint Task Force for the Diagnosis and Treatment of Pulmonary Hypertension of the European Society of Cardiology (ESC) and the European Respiratory Society (ERS): endorsed by: Association for European Paediatric and Congenital Cardiology (AEPC), International Society for Heart and lung Transplantation (ISHLT). Eur Heart J. 2016;37:67-119.


9. Gheorghiade M , Greene SJ , Butler J , et al; SOCRATES-REDUCED Investigators and Coordinators. Effect of vericiguat, a soluble guanylate cyclase stimulator, on natriuretic peptide levels in patients with worsening chronic heart failure and reduced ejection fraction: the SOCRATES-REDUCED randomized trial. JAMA. 2015;314:2251-62.

 

10. Pieske B , Maggioni AP , Lam CSP , et al. Vericiguat in patients with worsening chronic heart failure and preserved ejection fraction: results of the SOluble guanylate Cyclase stimulatoR in heArT failurE patientS with PRESERVED EF (SOCRATES-PRESERVED) study. Eur Heart J. 2017;38:1119-27.


11. Packer M , McMurray JJV , Krum H , et al; ENABLE Investigators and Committees. Long-term effect of endothelin receptor antagonism with bosentan on the morbidity and mortality of patients with severe chronic heart failure: primary results of the ENABLE trials. JACC Heart Fail. 2017;5:317-26.

 

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13. Fawzy ME , Hassan W , Stefadouros M , et al. Prevalence and fate of severe pulmonary hypertension in 559 consecutive patients with severe rheumatic mitral stenosis undergoing mitral balloon valvotomy. J Heart Valve Dis. 2004;13:942-7.

 

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25. Benza RL , Miller DP , Gomberg-Maitland M , et al. Predicting survival in pulmonary arterial hypertension: insights from the Registry to Evaluate Early and Long-Term Pulmonary Arterial Hypertension Disease Management (REVEAL). Circulation. 2010;122:164-72.

 

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2021年4月