レジデントノート

米国にて内科修行中。何ができるか模索している過程を記録していく

救外より入院依頼を受けてから指示出し,ノート記載を終了するまでの経時的行動

 

ここでの主なコンセプトは入院対応におけるタイムマネージメントである

救急から入院依頼が引っ切り無しに来る場合、とても各所を行ったり来たりしている余裕はない

どこで時間をロスするかを考え、それを減らすための対策を行う

 

例えば 

・入院場所が違う

本当はICUが必要だった、そもそも病院のキャパシティーで対応できない場合、転棟・転送になるともう限りなく時間が消費されてしまう

・入院した後に追加の画像検査などが必要であったと気づく

救外で行えればスムーズであるが、一旦入院してしまうと対応が後手後手になってしまう

・問診の抜け

患者とカルテとの間を行ったり来たりする時間は大きなロスとなる

・患者が来院当日の薬を内服したかの確認

ワーファリンやlong-acting insulinなど入院後いつから開始するかが異なってくるため必要な情報だが、個人的にはこの確認のし忘れを頻回にしでかし、患者のもとに戻らなければならない事が多々ある

 

他にも大小無数にあるが、それらを如何に少なくできるか奮闘している試行過程を記す

 

 

 

 <事前の準備>

自分仕様の情報収集フォーマットを作成し、プリントアウトしてストックしておく 

 

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 枠左上より

 ED:救急医の患者プレゼンの要所を記入

 ED med: 救急外来で投与された薬剤

 HPI:現病歴、 (+):陽性症状、 (-):陰性症状

 Smoke:喫煙歴、 Alcohol:飲酒歴、 Drug:ドラッグ歴

 FH:家族歴・社会歴、 All:アレルギー、 Code:急変時対応

枠右上より

 PMH:既往歴、 Home med:外来薬剤、 Surgery:手術歴

 VS:救急外来バイタルサイン、 Labs:血液検査所見

 CXR:胸部レントゲン写真所見、 EKG:心電図所見

 Work-up:他の検査(CT, 関節液穿刺、髄液検査、・・)

 PE:身体所見

 Med rec:過去の診療録(入院歴、抗生剤選択、培養歴、心エコー、ストレステスト、呼吸機能検査、CT、・・・)

右端

 Problem:プロブレムリスト

 Plan:診療方針

 Trop / Lactic A / 他:経時的にフォローすべきものを記載

 Order:routine order チェック用(code, 安静度, DVT予防, 心電図モニター, 食事, 血液検査, コンサルテーション)

 Order / Med rec / note:routine work チェック用(order, 外来内服薬確認, カルテ記載)

 

 

 

<ERから連絡を受ける>

①ERからのポケベルが入った時点でコンピューターのERチャートを開き、名前を聞いたらすぐに患者カルテを開けるようにしておく

②ERに電話

③名前、性別、年齢を確認、記載しながらカルテを開く

④救急医の申し送りを聞きながら、出来る限りフォーマットを埋めていく

(主症状、陽性・陰性症状、主要検査結果、画像検査結果、心電図、救外投与薬、プロブレムリスト、・・・)

⑤救急医の申し送りを聞きながら同時に行うこと

・救急医の診断を疑うこと(ダブルチェック機能として)

・重症度を想像する(バイタルを確認、外観なども含め印象を確認する)

・緊急性の高い鑑別疾患をあげる(肺血栓塞栓症、大動脈解離、細菌性髄膜炎、septic joint、septic shock、・・・)

⑥電話を切る前に救急医に確認すること

・診断および入院が必要な理由を確認する(特に入院の理由が明らかでない場合)

・入院先を確認(ICUが必要か、NPPVが必要か, 心電図モニターが必要か、病棟で持続静注、頻回のモニターが可能か・・・)

 病院のキャパシティーで対応できるか不明の時は受け入れを保留して確認する

・鑑別疾患に基づき救急外来にて追加検査が必要だと感じた時は救急医の考えを確認する

(細菌培養採取の確認、直腸診、肺動脈CTA(頻脈、低酸素)、頭部CT(アルコール+高度の意識障害)、髄液検査(意識障害+発熱)、腹部CT(尿路感染、血圧低下)、・・・)

 

 

 <患者を診に行く前に診療録より情報収集しプロブレムリストを追加>

①救急外来での情報を追加収集(バイタルサイン、血液検査(採取時間も:troponin, 乳酸値などをフォローする必要がある場合)、画像検査、投与薬剤、・・・) 

②過去の記録より最も近い入院歴および今回と同様の入院歴を確認、退院サマリーに目を通し、ポイントを確認し、過去の診療録欄に記載

(過去の主要内服薬, ポイント:ACS rule out→ストレステスト結果、感染症→培養結果/投与抗生剤、消化管出血→内視鏡結果、・・・)

救急外来でのバイタルサインの異常、検査値異常は基本的にすべてフォーマット右端のプロブレムリストに追加、検査値異常が新たなものか、慢性的なものか過去の情報より確認(腎機能, 貧血, 血小板数, Na, 肝酵素,・・・)、新たなものである場合でそのアセスメントのために追加検査が必要な時はPlanに追加

④過去の心エコーを確認(多量の輸液投与が予想されるとき)、右下の過去の診療録欄に心機能を記載(拡張能障害にも注意)

⑤その他の関連情報を随時収集

 

 

<救急外来へ移動中>

・鑑別診断およびプロブレムリストに基づく問診・診察のポイントを考え、フォーマットにメモする

 

 

<救急外来で患者ベッドおよび心電図を確認>

・救急医から追加情報があるか確認

・心電図をダブルチェック

・必要あれば過去の心電図取り寄せを依頼

・必要時QTcを計算(入院後に抗精神薬投与の可能性がある場合など)

 

 

<患者問診・診察>

①名前を確認、挨拶をし問診を開始

②聞き忘れのないようフォーマットに沿って問診していく

(必要なら現病歴の問う内容で忘れる傾向にあるものをフォーマットに入れておく

発症日時、発症様式、発症時の状況、時間的経過、不変・悪化、症状の性質、改善・増悪因子、強さ、放散性、随伴症状、医療機関受診の有無、検査歴、治療の有無および効果、発症時でなく今来院した理由、過去同様の症状の有無、最後に通常の状態であった事を確認された日時、旅行歴、sick contact、ROS、・・・)

③喫煙歴:

COPDと診断された事があるか・呼吸機能検査の有無を確認、在宅酸素治療の有無を確認、入院後ニコチンパッチを使用するか確認(Planに追加)

④飲酒歴:

Heavy drinkerの場合は最後の摂取日時、過去の離脱症状・痙攣の有無を確認(PlanにCIWA protocolを追加)

⑤ドラッグ歴:

投与経路、過去の離脱症状の有無、Drug rehabに興味があるか、入院中に情報提供を受けたいか確認(Planにopioid withdrawal protocol、social worker / drug abuse consultを追加)

⑥家族歴・社会歴:

・家族歴

虚血性心疾患・悪性疾患・静脈血栓症等は発症年齢を確認、突然死の有無も必要時確認

・社会歴

住居の種類、一緒に暮らしている人、訪問看護の有無、移動時のデバイスの有無(杖, 歩行器, 車いす)、経口摂取の有無および栄養形態、排泄

⑦アレルギー:その時の反応を確認(特に抗生剤の場合)

⑧既往歴:

診断日時も確認(心筋梗塞、脳梗塞、静脈血栓症、・・・)、専門医フォローの有無を確認、消化管出血歴、転倒歴、・・・

⑨外来内服薬:

来院当日の服薬の有無を確認(抗凝固剤、抗血小板剤、long-acting insulin、ステロイド・・・)、既往歴にもかかわらず推奨薬剤を服薬していない理由を確認(ACEI/ARB, β遮断剤, 抗血小板剤, 抗凝固剤、・・・)

⑩手術歴:

一般手術歴、冠動脈ステント留置歴 (種類, 日時)、弁置換術 (種類)、最近のストレステスト歴、上部・下部内視鏡歴、悪性疾患治療歴、・・・

⑪身体診察

外観(toxicかそうでないか)、意識レベル(家族・施設の人にベースラインとの違いを確認)、ドライかウェットか評価、カテーテルの確認:ポート, 気切, PEG, 膀胱カテーテル、尿道留置カテーテルは救外で留置されたかの確認(尿路感染症の場合で以前から留置されている場合は最後の交換日時を確認)、褥瘡の有無(治療介入を確認)、・・・

⑫現時点でのアセスメントおよびプランを患者・家族に説明、質問に回答

⑬急変時対応の確認、contactする人および連絡先を確認

 

 

<オーダー>

①問診・診察に基づいて新たなプロブレムおよびPlanをフォーマットに追加

(理学療法士コンサルト(退院時にリハビリ転院が予想される場合)、嚥下機能評価、褥瘡ケアコンサルト、栄養士コンサルト、one to one observation、精神科コンサルト、・・・)

②Routine Orderを入れる(フォーマットをチェックしながら)

(code、安静度、DVT予防、心電図モニター、食事、翌日血液検査、コンサルテーション)

③Planに基づきOrderを追加していく

(輸液、抗生剤、培養、乳酸値フォロー、ステロイド、気管支拡張剤ネブライザー、cycle troponin、翌朝心電図、ストレステスト、静注利尿剤、strict In/Out、体重測定毎日、Hb/Hctフォロー、Mg/Phosフォロー、PPI、発熱時指示、疼痛時指示、嘔気時指示、・・・)

 

 

<外来内服薬確認>

①外来内服薬を確認(薬局に電話で確認)

②入院後各薬剤の継続・中断を決定

(意識レベル、絶食、腎機能、血圧、脈拍、ストレステスト予定、消化管出血、risk/benefit balance等に基づいて)

 

 

<入院時ノート記載>

①アセスメント/プランを最初に書く

(呼び出されて途中で中断したとしても少しでも他のスタッフに考えを伝えるため)

・One linerを書く

(A 71 year-old nursing home resident male with PMH of MI, COPD on 2L, and T2DM who presented with altered mental status was admitted to general ward for UTI)

・基本的にはすべてのプロブレムを挙げる勢いで書く

入院後に患者を全く見ていない別の人が診療を引き継ぐ事を可能にするため

(電解質異常、アシドーシス、血球数異常、褥瘡、糖尿、高血圧、心不全、CKD、慢性心房細動、認知症、慢性疼痛、・・・)

・すべてのプロブレムに自分なりのアセスメントを記載する

・アセスメントが不明な場合は主な鑑別を挙げ、その中で自分が最も疑っているものを明示する

・アセスメントを補足する情報を記載する

(陽性所見、陰性所見、検査結果、ベースラインの値(LVEF, クレアチニン, Hb, ・・・)、外来治療、・・・)

・プロブレムそれぞれに対するプランを書く

(検査、治療法、コンサルテーション、外来内服継続・中断、経過観察、・・・)

・中断した外来内服薬の理由を記載する

②他の必要情報を記載

・現病歴は開いた瞬間に読者の勇気をくじく程長くはしないよう心掛ける

・救急外来経過を記載する(最初のバイタル、意識レベル、主な検査結果、治療薬、専門医コンサルト、経過、診断、入院病棟)

・患者のベースラインの状態を記載(意識レベル、意思疎通、歩行、住居状況、訪問看護、経口摂取、排泄等)

 

<最終チェック>

・ノート記載が終了したら、もう一度オーダーの漏れ、検査日時の間違い等ないか再度確認する

 

 

<心を整える>

どんなに鬼のように忙しくても「イーーーーッ」ってならないように空いた時間は瞑想して次の入院に備える

 

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