レジデントノート

米国にて内科修行中。何ができるか模索している過程を記録していく

認知症

 

認知症は二つあるいはそれ以上の認知機能の低下と定義され、覚醒や注意ではなく機能の障害を呈する

 

 

認知能力の低下は、出生時から存在し子供の時に症状が確認されその後終生みられる intellectual disability(知的障害)(以前はmental retardation (精神遅滞)と呼ばれていた) や単一の学習障害とは異なる

 

 

二つあるいはそれ以上の認知機能が障害される認知症は、amnestic mild cognitive impairment (MCI) (健忘型軽度認知機能障害)、健忘症候群(以前はKorsakoff syndromeと呼ばれていた)、単一の脳病変などとは区別される

 

 

注意と覚醒が正常であることがせん妄と区別される

 

 

認知症は特定の疾患ではなく症候群である

 

 

最も一般的なものがアルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症である

 

 

認知症を呈する1〜2%の患者では正常圧水頭症、薬剤による認知機能障害、甲状腺機能低下症、うつ病などの疾患が原因となる

 

 

認知症は小児期以降のいつの時点でも起こりえるが、主には人生の後半期に起こり、およそ71歳以上の14%、90歳以上の37.4%で認められる(1)

 

 

認知症患者のケアは家族や社会にとって感情的にも経済的にも負担となりえる。患者は最初は自宅でケアされるが、最終的には多くが施設に入り、67%がナーシングホームで亡くなる(2)

 

 

非公式なケアをどのように評価するかにもよるが、2010年における認知症のyearly per-person costは$41689〜$56290であった(3)

 

 

 

 

 

 

予防およびスクリーニング

 

認知症あるいは認知機能低下を予防することができるか?

Lancet Commissionによる最近の報告では認知症の9つの修正できうるリスクファクターが同定され、population-attributable fraction(もしそのリスクファクターが除去されれば、一定の期間内で新しく確認された認知症が減る率)が計算された。人生の初期(18歳以下)においては少ない教育(7.5%)、人生の中盤(45〜65歳)においては、高血圧(2.0%)、肥満(0.8%)、聴覚喪失(9.1%)、人生の晩期(65歳以上)においては喫煙(5.5%)、うつ病(4.0%)、少ない身体活動(2.6%)、社会的孤立(2.3%)、糖尿病(1.2%)とされた。これらのリスクは人生の各ステージにおいて分類されているが、生涯のどの時点においても重要であることを認識することが大切である(4)

 

 

修正できうるリスクファクターに対する介入が認知機能低下を防げるかどうかは明らかでない

 

2017年にNational Institute on AgingはAgency for the Healthcare Research and Qualityに介入によって認知機能低下を遅らせる事ができるか、あるいは認知症の発症を防げるかに関するエビデンスを調べさせた。このsystematic reviewではあらゆる介入も認知機能低下を遅らせる、あるいは認知症発症を防ぐ強いエビデンスは認められなかった。しかし、高齢者に対する認知トレーニングが特定の領域における認知パフォーマンスを向上させるエビデンスが確認された。さらには、スタディではほとんどの身体活動による介入では介入群とコントロール群における認知パフォーマンスの重大な差は認められなかったが、結果パターンからエアロビックおよびレジスタンストレーニングまたmulticomponent physical activityなどの有効性が示唆された(5)。FINGER (Finnish Geriatric Intervention Study to Prevent Cognitive Impairment and Disability)は4つの要素(栄養、運動、認知トレニーング、社会活動)を同時にターゲットとすることが高齢者における認知機能の向上および維持に有効であることが確認された(6)。このことより複数のリスクファクターに同時に取り組むことが認知機能低下を防ぐ事に有効である可能性が示唆された

 

より最近ではSPRINT-MIND (Systolic Blood Pressure Intervention Trial - Memory and Cognition in Decreased Hypertension)において50歳以上 (平均67.9歳)の成人の血圧目標を強化グループ (120mmHg以下)と通常グループ (140mmHg以下)に無作為に割り当てて行なった結果、primary outcomeである認知症のリスク低下に有意差は認められなかったものの(7)、secondary analysisでmild cognitive impairmanet (MCI)のリスク低下が認められ、より長期のフォローアップでは認知症発症のリスクを低下させる可能性が示唆された

 

 

重要なこととして臨床家はベンゾジアゼピン、抗コリン剤、バルビツール、その他の鎮静・催眠剤などの認知機能に影響を与える薬剤処方を最小限に止める、あるいは中止することによって影響を及ぼすことができる。スタディではベンゾジアゼピンや他の鎮静・催眠剤を使用している高齢者は、使用していない高齢者に比べ、認知機能テストの結果が悪いことが示されている(8)。それらの薬剤を中止することが認知機能を最適化することにとって重要である

 

 

疫学的なエビデンスでは中年期におけるエストロゲンの使用が後期における認知症の低い発症率との関連が示されているが(9)、WHIMS (Women's Health Initiative Memory Study)を含む前向き予防試験ではプラセボに比べ、エストロゲンとプロゲスチンの併用が認知症および他の合併症の発症率上昇との関連が示された(10)

 

WHIMSは65歳以上の女性における認知症予防にエストロゲン・プロゲスチン併用(n=2229)とプラセボ(n=2303)を比較したplacebo-controlled, randomized controlled trialである。試験期間内において平均4年間のエストロゲン使用が認知症の相対危険度 2.05 (95% CI, 1.21-3.48)との結果が示された

 

 

最近のAgency for Healthcare Research and Quality systematic reviewでは、オメガ3脂肪酸とginkgo biloba(イチョウ)はアルツハイマー認知症を防がず、ビタミンEは女性における認知パフォーマンスに効果をもたらさないことが確認された。ビタミンB12と葉酸の併用におけるエビデンスは混在している(5)

 

 

 

認知症をスクリーニングすべきか?

U.S. Preventive Services Task Forceは認知症の全般的なスクリーニングを推奨していない(11)

 

 

IU-CHOICE (Indiana University Cognitive Health Outcomes Investigation of the Comparative Effectiveness of dementia screening)では65歳以上のプライマリケア患者4005人を認知症スクリーニングをするグループとスクリーニングしないグループに無作為に割り当てて調べられた。スクリーニンググループで認知症の可能性があると同定された患者はCollaborative Dementia Care Programに紹介され、さらなる診断的評価、カウンセリング、マネージメントが行われた。結果、この両グループでは12ヶ月でprimary outcomes (health-related quality of life、うつ病、不安)およびsecondary outcomes (ヘルスケアの利用およびadvance care planning)において有意差が認められなかった。死亡率および重大な有害事象も両グループで差が認められなかった(12)

 

しかしながら、全般的なスクリーニングとターゲットを絞ったスクリーニングあるいは個々の同定を行うことを区別することは重要である。なぜなら認知症は広く存在しているが、プライマリケアにおいて認識されていない事がよくあるからである(13)

 

一つのスタディでは、297人の患者のプライマリケア記録が調べられた結果、認知症の基準を満たす65%が認知症と記載されておらず、その中には重度認知症の20%も含まれていた(13)

 

他のスタディでは鬱血性心不全で入院した患者の元々ある認知機能障害の影響が調べられた。認知機能障害を持つ心不全患者における30日再入院率は認知機能障害を持たない患者に比べ、非常に高かったことが認められた。このスタディでは、認知機能障害を持つ心不全患者のcaregiverに対する教育が行われた場合、再入院率が低いことが確認され、認知機能障害の認識および退院時のcaregiverに対する教育がアウトカムの向上に繋がる可能性が示された(14)

 

したがって臨床家はあらゆる年代の成人における日常機能に支障をきたす記憶障害、説明できない機能低下、衛生状態の悪化、薬剤アドヒーランス低下、新たな精神科的症状、新たな、あるいは繰り返す入院、などをきたす鑑別疾患として認知症を考慮する必要がある。急性期疾患に伴う新たなせん妄の発症が認知症の最初の症状である場合もある

 

 

高齢者の認知症を評価する場合、患者からと患者をよく知る情報提供者からの病歴聴取を行うと共に、標準化されたスクリーニング法を使用する必要がある。スクリーニング法は簡易で、感度が高く、広く利用可能で、患者に関連する人口集団のデータに裏打ちされたものであるべきである。Mini-Mental State Examination (MMSE) (15)が広く使われてきたが、現在は著作権による制限が存在する。代替法としてはMini-Cog(16)、St. Louis University Mental Status Exam (SLUMS)(17)、Montreal Cognitive Assessment (MoCA)(18)がある。Mini-Cogは簡潔さが良く、SLUMSはMMSEに最も類似し(19)、MoCAは感度が最も高いが特異度が低い(20)。MoCAはもともとMCIを同定するために作られたもので、中等度か重度の認知症患者には困難である可能性がある。以前にMMSEによって認知機能を評価されていた場合は、MMSEスコアをMoCAスコアに換算するツールが利用可能である(21)

 

 

 

Mini-Cog

ステップ1:Three Word Registration

(三つの言葉を言い(Ver 1:banana, sunrise, chair,  Ver 2: leader, season, table, Ver 3: ・・・  )、それを復唱させる。そして記憶するよう伝える)

ステップ2:Clock Drawing

(円が描かれた紙に時計を描かせる。まず時刻の数字を入れさせる。続いて11時から10分過ぎた時刻をさす針を描くように伝える)

ステップ3:Three Word Recall

(ステップ1の三つの言葉を言わせる)

Scoring

Word Recall(0-3 points):ヒントなしで言えれば各語1点ずつ

Clock Draw(0 or 2 points):全ての時刻の数字が間違いなく、かつおよその正しい位置に書け、針が11と2(11時10分、針の長さは問わない)にあれば2点。正しく描けなかった、あるいは拒否した場合は0点

Total Score(0-5 points)

認知症スクリーニングのcut pointは3点未満。臨床上有意な認知機能障害を持つ患者の多くはこれ以上の点数を獲得する場合があり、より感度を高くしたければcut pointを4点未満にすることが望ましい

 

 

 

 

 

 

診断

 

臨床家は患者の特徴的な認知機能障害の病歴を使って鑑別疾患をあげ認知症の原因を確定する必要がある

 

認知機能に困難がある場合、患者をよく知る情報提供者から情報を得ることが大切になる。その際、患者がいない場所で情報を集める方が容易であることが多い

 

病歴を取る場合、医師は鑑別診断とよくあるタイプの認知症の自然経過を知っている必要がある

 

 

 

アルツハイマー病

特徴

初期は緩徐な記憶喪失、意識レベルは保たれる、IADLパフォーマンスの障害、言語の間違い、視覚空間認識の悪化。中期では失行(運動可能であるが合目的な運動ができない)、見当識障害、判断の障害。病期が進むと、失語、失行、失認(形態と意味の連合が不良)、注意の低下が起こる。終盤ではIADL/ADLを依存しなければならず、歩行や嚥下機能が失われる

ノート

医師に提示される症状は認知に関連しないものである可能性もある。最も初期の症状が妄想や抑うつであるかもしれず、後に認知症症候群の一つの症状であったと認識される場合がある。転倒、振戦、筋力低下、反射異常などの神経学的症状は初期には典型的ではない。それらの症状が早期から認められる場合はアルツハイマー病以外の可能性が示唆される

(アルツハイマー病の臨床診断基準はNational Institute on Aging and the Alzheimer's Associationから利用できる)(22)(★)

 

血管性認知症

特徴

機能の喪失が脳血管イベントと時間的に一致しておこるものとされている。段階的な悪化が認められうる。silent stroke、多発性の小さな脳卒中、重度のびまん性脳血管疾患などが見られるかもしれない

ノート

たとえ身体診察から脳卒中が示唆されない場合でさえも、脳血管疾患リスクファクターを持つ患者では可能性を考慮する必要がある

 

レビー小体型認知症

特徴

病状の初期には軽度のパーキンソニズム、説明のつかない転倒、幻覚、妄想。抗精神薬に極端に敏感に出やすい錐体路外副作用、歩行障害、転倒、認知の変動

ノート 

認知症全体の20%にまでのぼる可能性がある。 血管性認知症でないが神経学的異常を認める場合は疑う必要がある

  

前頭側頭型認知症

特徴

60歳前の発症。言語の障害がよく見られる。初期には記憶が保たれる。著明な人格の変化。多くの場合、過食、衝動性や攻撃性の悪化、無気力などの行動障害が伴うことが多い

ノート 

進行性核上性麻痺、原発性進行性失語、意味性認知症、認知症を伴う筋萎縮性側索硬化症、大脳皮質基底核変性症、などの疾患を含む。機能的神経画像は前頭葉あるいは側頭葉の機能不全を示すことが多い

 

せん妄

特徴

急性の発症で症状が変動する。不注意、意識レベルの障害、思考の混乱(見当識障害、記憶障害、言語に対し不注意)を示唆する認知の障害が認められる

ノート

認知症を診断する際には除外診断する必要がある。せん妄は代謝性障害、薬剤副作用、感染などの重大な全身性障害を反映しているかもしれないので診断は非常に大切となる

  

うつ病

特徴

気分の低下、快感の喪失、自己価値感の低下、希望の欠如、食欲・性欲・睡眠の変化、体性症状の増加、神経過敏、希死念慮

ノート

認知機能の障害は単にうつ病によるものである可能性がある。またうつ病が認知症の最初の症状である場合もある

 

薬剤

特徴

よく原因となるものにはベンゾジアゼピン、バルビツール、抗コリン剤、他の鎮静・睡眠剤がある

ノート

認知症患者の認知機能障害が薬剤によって悪化する場合も考えられる

  

軽度認知障害(mild cognitive impairment)

特徴

他の認知機能障害あるいは機能低下を伴わない記憶障害

ノート

多くの患者が認知症へと進む(およそ年12〜15%の割合で)

 

硬膜下血腫

特徴

転倒や頭部外傷に伴う場合もあれば伴わない場合もある。非特異的な頭痛。意識の変動

ノート

古典的な症状が見られるのはむしろ例外的である。神経学的異常は軽度であるかもしれない

 

外傷性脳損傷

特徴

臨床症状は部位によって異なるかもしれない。人格や気分の変化がよく見られる

ノート

脳震盪後症候群は注意低下を認める場合もある

  

正常圧水頭症

特徴

認知症、歩行障害(緩慢、大きな歩幅、方向転換障害)、尿失禁。認知症はよく精神運動遅延や無気力と関連する場合がある

ノート

もし疑いが強ければ、腰椎穿刺を行い、その前後で歩行をモニターする。脳室腹腔シャントによって改善する患者もいる

 

ビタミンB12欠乏

特徴

緩徐な発症。うつ病と関連する場合もある。神経学的所見で固有受容感覚や振動覚の低下、運動失調、バビンスキー反射陽性などが見られるかもしれない

ノート

もしビタミンB12レベルが正常低値で、メチルマロン酸とホモシステインレベルの上昇が認められれば、細胞内のビタミンB12が低値である事を示唆している可能性がある。貧血は伴わない場合がある

  

慢性的なアルコール使用

特徴

慢性的なアルコール使用は中等度から重度の認知症をきたしうる。禁酒の期間によって戻る場合がある

ノート

これは全般的な認知症を伴わない短期記憶の単一的な喪失であるコルサコフ症候群とは異なる

 

トキシン

特徴

芳香族炭化水素、溶剤、重金属、マリファナ、オピオイド、鎮静・催眠剤

ノート

尿あるいは血液検査、重金属スクリーニングは有用である

 

パーキンソン病

特徴

皮質下認知症(感情や行動に変化が現れやすい)、皮質性認知症(言語、思考、社会的行動などに問題が生じやすい)、あるいは両方を有する。再認記憶(情報が記憶として保持されていたか参照)は保たれるが自由再生(保持されていた情報を自由に再生する)は障害されるかもしれない。視覚空間機能が障害されるかもしれない

ノート

レビー小体型認知症に対し、パーキンソン病と認知症を有する患者は認知症が発症するだいぶ前から運動症状を持ち、著明な精神症状あるいは意識の変容は認めないことが典型的である。

  

他の原因

進行した肝臓あるいは腎臓疾患、脳腫瘍、慢性中枢神経感染症、中枢神経血管炎、クロイツフェルト・ヤコブ病、電解質異常、HIV関連認知症、ハンチントン病、多発性硬化症、神経梅毒、神経サルコイドーシス、全身性エリテマトーデス、甲状腺疾患、ウィルソン病

 

 

 

 

(★)全ての原因による認知症およびアルツハイマー病の臨床診断

全ての認知症は認知的な、あるいは行動的(神経精神的)な症状が認められる:

・職場あるいは通常の活動における機能に支障をきたす

・以前の機能レベルに比べ低下を認める

・せん妄や主要な精神疾患によるものではない

・病歴、臨床学的評価、標準的な手段によって診断される

・二つ以上の認知領域を障害する

 

おそらくアルツハイマー病である:

・認知症の基準を満たす

・緩徐な発症

・進行的な認知の低下

・学習・記憶の認知機能障害と、あるいは言語、視覚空間機能、遂行機能の障害

・以下の追加的因子は診断の補助に役立つかもしれない:

 家族歴、神経画像にて脳萎縮、脳波と腰椎穿刺所見が正常

 脳脊髄液amyloid-β 42、amyloid positron emission tomography、18 F-labeled fluoro-2-deoxyglucose positron emission tomographyなどのバイオマーカーなどもアルツハイマー病の病理学的経過の可能性を高めるかもしれないが、ルーチンでの利用は推奨されていない

 

 

 

 

 

認知機能あるいは全般的な機能の変化を有する患者を評価する場合、急性に発症する注意と認識の障害を特徴とするせん妄の可能性を考慮する必要がある。認知症と違って、せん妄は通常、急性な発症で、分あるいは時間単位で変動することが一般的である。興奮や精神病的症状(過活動型せん妄)を呈する場合もあれば、緩慢で鈍く、軽度のうつ病や引きこもった様に見える場合(活動低下型せん妄)もある。せん妄は感染、代謝障害、薬剤の影響、悪性疾患などの全身性の状態を反映している場合が多く、速やかな診断が重要になる。せん妄の評価には、混乱の評価を行える3-Minute Diagnostic Confusion Assessment Method(23)、せん妄の同定を行う4 A's Test(24)あるいはConfusion Assessment Method for the Intensive Care Unit(25)などがある

 

 

 

4AT

(1)ALERTNESS(覚醒)

傾眠が強い(起こすことが困難、あるいは評価を行なっている間中、明らかにうとうとしている)あるいは興奮/過活動が認められるかもしれない。寝ている場合は言葉や肩を優しく揺すって起こすことを試みる

 正常(評価中に完全に覚醒していて、かつ興奮していない)  0点

 起こした後に軽度の傾眠を認めるが(10秒以下)、その後正常になる 0点

 明らかな異常  4点

 

(2)AMT4

年齢、生年月日、場所(病院の名前)、現在の西暦

  間違いなし 0点

  間違いが一つ 1点

  間違いが二つ以上 2点

 

(3) ATTENTION(注意)

一年の月を12月から反対に言わせる

  月を7つ以上正しく言える 0点

  開始するが正しく言える月が6つ以下/開始することを拒否する 1点

  テスト不能(状態が不良、うとうとしている、注意散漫で開始できない) 2点

 

(4)ACUTE CHANGE OR FLUCTUATING COURSE(急な変化あるいは変動する経過)

 覚醒、認知、他の精神機能の明らかな変化あるいは変動が認められる 

  はい  0点

  いいえ 4点

 

4点以上:せん妄の可能性 +/- 認知障害

1−3点:認知障害の可能性

0点: せん妄あるいは重度の認知障害は否定的((4)の情報が不完全である場合は依然せん妄の可能性がある)

 

 

 

 

 

身体診察を行う際は血管性および神経疾患に重きを置きながら、認知機能障害の原因となる、あるいは悪化させる状態を評価する必要がある

 

 

認知機能の評価にはSLUMS(5分かかる)やMoCA(10分かかる)などの標準的なツールを使用すべきである

 

 

American Academy of Neurologyのガイドラインによれば、認知機能異常を評価する場合は一般的な疾患に対する血液検査と、状況によっては選択的な追加検査を行うことが推奨されている(26, 27)  

 

血液検査

認知機能障害の評価における基本的な血液検査

 一般生化学(低ナトリウム血症、低血糖、腎機能異常、肝機能異常)

 血算(感染、貧血)

 TSH(甲状腺機能異常)

 ビタミンB12(ビタミンB12欠乏)

以下の検査も必要になる場合がある(暴露歴等にて)

 Rapid plasma reagin test(神経梅毒の可能性が高ければfluorescent treponemal antibodyも調べる)

 HIV test(HIV-associated dementia)

 Toxicology screen(アルコール、ドラッグ)

 ESR(血管炎)

 重金属スクリーニング(砒素、水銀、アルミニウム、リチウム、鉛)

 サイアミン(サイアミン欠乏)

 Paraneoplastic panel(腫瘍)

 胸部レントゲンあるいはCT(感染、腫瘍)

 尿検査(感染)

 

 

 

画像検査 

認知機能異常を認める期間が3年以下の場合はCTあるいはMRIによる頭部神経画像検査を行い、脳血管障害、出血、腫瘍、膿瘍、クロイツフェルト・ヤコブ病、水頭症などを除外診断する必要がある。早期の発症、早い進行、局所神経障害、脳血管障害のリスクファクター、最近の転倒、中枢神経感染症、説明のつかない意識の変動、早期の人格変化などのアルツハイマー病に非典型的な症状などがある場合は画像検査の有用性が高まる

 

glucose or amyloid positron emission tomography(PET)のルーチンでの使用は推奨されないが、アルツハイマー病と前頭側頭型認知症を鑑別する時などには役立つかもしれない(28, 29)

最近のIDEAS (Imaging Dementia - Evidence for Amyloid Scanning) studyでは認知症の評価にamyloid PET imagingの有用性が11409人の参加者によって調べられた。画像検査の前後において、アルツハイマー病あるいはその他の認知症に対する薬物治療の処方、認知症と診断された人の安全および将来のプランに対するカウンセリングが63%の増加を認めた(CI, 62.1% to 64.9%)。このスタディはこれらの変化が臨床的アウトカムの向上に関連するかを同定するようにはデザインされていない(30)

 

 

遺伝検査はハンチントン病の疑いがない限り認知症評価の適応とならない。現在のところApoE4 alleleをルーチンで検査することをサポートするエビデンスは存在しない(31)。家族性のアルツハイマー病や前頭側頭型認知症に認められる常染色体優性遺伝子変異の検査は、家族に複数の患者が認められる、臨床徴候と検査所見がこれらの疾患を示唆する、かつ患者の発症が60歳より若い時のみに考慮される。遺伝検査を行う前には遺伝カウンセリングを行うことが推奨される(31)

 

 

他の検査は特定の状況において考慮される

 

脳波はせん妄、痙攣、脳炎、クロイツフェルト・ヤコブ病などが疑われる時には有効であるかもしれない

 

腰椎穿刺は患者が55歳以下で、進行の速い認知症、RPRが陽性、急性あるいは慢性の中枢神経感染症、paraneoplastic syndrome、中枢神経悪性疾患、免疫不全、などを認める場合には適応となるかもしれない

 

 

 

 

 

治療

 

一般的な健康および衛生に関するアドバイス

認知症の初期の段階では、患者はメディカルケアの詳細を理解すること、ケアをコントロールすること、外来受診日や服薬を把握することが難しい可能性がある。臨床家はこれらの制限に注意を払い、それらを補うケアプランを準備する必要がある。病状の後期では、患者は便秘、排尿時痛、歯痛、視力低下、聴力低下などの症状を認識できない可能性があり、臨床家はそれらの問題を積極的に探しに行かなければならない

 

認知症がない患者と同様に、一般的なメディカルケアや予防的ケアに注意を払うことが重要である。血圧コントロール不良による脳卒中や心筋梗塞は認知症それ自体と同等に患者の機能およびQOLを障害しうる。慢性疾患のコントロール不良がさらなる認知機能低下に繋がる可能性があるため、血圧、糖尿、コレステロール、抗血小板治療、ワクチンなどに注意を向けることが大切である。認知症のステージに基づいて治療ゴールを患者ごとに設定し、議論することも重要である。認知症がさらに進んだ患者では、栄養、スキンケア(特に会陰部)、排泄スケジュール、デンタルケアなどに注意を払うことの重要性が増していく

 

 

 

 

監督が必要になる可能性のある運転、調理、他の活動などの安全に関するアドバイス

進行した認知症患者では運転能力が最終的に失われる。しかし、いつ運転を中止すべきかを予測することは、特にその制限が本人および家族の負担になるような場合などは、困難である。しかしながら、多くのスタディが疾患の早い段階で運転能力が障害されていることを示しているため、これは避けられない問題である

 

患者に最近の交通事故、ニアミス、運転能力の変化などについて尋ねなければならない。この質問は情報がオープンに交換されるような状況で行われる必要があり、また患者のいないところで情報提供者とのミーティングを設定しなければならない場合もある。病状の早期で既に運転能力が障害されている場合は、速やかに運転を中止するよう指示しなければならない。初期の認知症で運転に関する問題歴がない患者では、運転教習所や病院の職業訓練プログラムなどで運転技術の評価を受ける必要がある。もし運転能力に問題がなく運転を継続する場合は、運転能力に悪化がないかの情報を定期的に更新していく必要がある。American Academy of Neurology Evidence-Based Practice Parameterは認知症患者の運転の評価に関するアウトラインを提供している(32)

 

オフロードとオンロードを含むWashington University Road Testを使ったprospective case-control studyでは、テストに落ちた割合が、コントロール群では3%、非常に軽度のアルツハイマー病患者では19%、軽度のアルツハイマー病患者では41%であった。過去の運転経験はテストの落第に対し有効には働かなかった(33)

 

医師による推奨は利益的および不利益的なアウトカム両方を有する。カナダのスタディでは、様々な疾患で医師から運転を中止するように告げられる事で衝突事故が45%減少(4.76 vs 2.73 per 1000 patients)(P < 0.001)したが、その医師のもとに戻ってくる患者の数も減少し、鬱による救急外来受診が上昇したと報告されている(34)

 

他の事柄の安全に関しても患者および家族と共に継続的に評価していく必要がある。進行した認知症患者では最終的に服薬、調理、電気機器、草刈機、銃器などの使用ができなくなる

 

家の中での安全も、どの活動が依然可能で、またどの活動が制限あるいは監督を要するかが職業訓練士によって評価されることが可能だ。屋外への徘徊もよくみられ、定期的に評価される必要がある

 

 

 

 

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンはいつ処方すべきか

donepezil、galantamine、rivastigmineなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が症状を有するアルツハイマー病に処方できる。これらの薬剤はターゲットの用量に向けてゆっくり調整していけば、比較的耐容性が良好である。memantineは中等度から進行したアルツハイマー病の治療に承認されており、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬と併用して投与できる。効果が明らかでない場合は、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬やmemantineは中止されるかもしれないが、急性に認知機能が悪化する場合は再処方すべきである。これらの薬剤に対する患者や家族の期待を現実的なものにするように助ける必要があるかもしれない。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の副作用は嘔気、嘔吐、下痢、徐脈、失神、体重減少、異常な夢などである

 

あるスタディでは少なくとも3ヶ月以上donepezilを投与されている市中に住む患者295人に対し、1年後のアウトカムが調べられた(35)。プライマリアウトカムはMMSEによって評価される認知機能とBristol Activities of Daily Living Scale (BADLS)によって評価される日常生活機能である。donepezilを中止するように割り当てられたグループに比べ、継続したグループではMMSEのスコアが1.9ポイント(1.4ポイントが臨床的に有意な差とされる最低値)(CI, 1.3 to 2.5 points) 高く(高い方がより認知機能が良い)、BADLSスコアは3.0ポイント(3.5ポイントが臨床的に有意な差とされる最低値)(CI, 1.8 to 4.3 points) 低かった(低い方が支障が少ない)。プラセボでなくmemantine服用を割り当てられたグループではMMSEのスコアが1.2ポイント (CI, 0.6 to 1.8 points; P<0.001) 高く、BADLSスコアは1.5ポイント (CI, 0.3 to 2.8 points; P=0.02) 低かった。donepezilとmemantineでは統計学的に有意差を認めず、donepezilにmemantineを追加投与した場合はどちらか一方のみを投与している場合に比べ、利益は認められなかった

 

 

 

Donepezil

機序:アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

用量

5mg/dから開始。耐容できればターゲット用量である10mg/dに1ヶ月過ぎてから増量

利点

軽度、中等度、進行したアルツハイマー病のそれぞれの段階において症状の進行を遅くする

副作用

嘔気、嘔吐、下痢、食欲不振、徐脈、失神

ノート

高用量は耐容性が低くなるかもしれない。10mg/dより多い投与は推奨されない

 

Galantamine

機序:アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

用量

4mg1日2回から開始。ターゲット用量は24mg/d。ターゲット用量になるまで1ヶ月毎に4mg1日2回ずつ増やしていく

利点

軽度、中等度、進行したアルツハイマー病のそれぞれの段階において症状の進行を遅くする。ケアする人に関連するQOLの向上が認められている

副作用

嘔気、嘔吐、下痢、食欲不振、徐脈、失神

ノート

長時間作用型(1日1回)galantamine 8mg/dから開始。ターゲット用量24mg/dになるまで1ヶ月毎に8mg/dずつ増やしていく

  

Rivastigmine

機序:アセチルコリンエステラーゼ阻害薬

用量

1.5mg1日2回から開始。ターゲット用量は6-12mg/d。ターゲット用量になるまで1ヶ月毎に1.5mg1日2回ずつ増やしていく

利点

軽度、中等度、進行したアルツハイマー病のそれぞれの段階において症状の進行を遅くする

副作用

嘔気、嘔吐、下痢、食欲不振、徐脈、失神

ノート

高用量は耐容性が低くなるかもしれない。貼付剤(1日1回)のrivastigmine 4.6mg/dで開始。 耐容できればターゲット用量の9.5mg/dに1ヶ月以降に増量する

 

Memantine

機序:NMDA受容体拮抗薬

用量

5mg/dから開始。ターゲット用量である10mg1日2回になるまで1週毎に5mg/d 増量していく

利点

機能低下が少なくなる。認知機能が向上し、中等度から進行したアルツハイマー病患者をケアする人の負担が減少する。軽度のアルツハイマー病に対する効果をサポートするエビデンスは不十分

副作用

めまい、混乱、頭痛、便秘

ノート

ジェネリック薬剤が利用可能。ブランド薬剤は長期作用型のみ利用可能。錠剤あるいは液状薬が利用可能。長期作用型(1日1回)のmemantineを7mg/dで開始。耐容できればターゲット用量の28mg/dになるまで1週毎に7mg/dずつ増やしていく。amantadineとの併用は避ける

 

 

 

 

 

 

特定の認知症に対する薬剤

アセチルコリンエステラーゼ阻害薬であるrivastigmineはアルツハイマー病で使う同等量の投与によって軽度から中等度のパーキンソン病患者における認知機能向上に有効性が認められている。これは他のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬についても同様の効果があると信じられている(36)。レビー小体型認知症ではデータがはっきりしていない(37)。血管性認知症の患者においてはこれらの薬剤の使用が推奨されていない

 

 

 

 

効果の認められない薬剤 

イチョウ(ginkgo biloba)は認知症の進行を遅めない。NSAID、エストロゲン、ergoloid mesylateは認知機能低下に対する薬剤として処方されるべきではない。サプリメントとして広く使われているココナッツオイルやcaprylideneを推奨できるだけのエビデンスは認められていない。最近、U.S. Food and Drug Administration (FDA) は認知症に対する商品として安全性および有効性が認められていない物を、アルツハイマー病を防ぐ、改善する、治す、と称して販売している企業に対する警告を出している。医師は効果が認められず、害にすらなり得るこれらの商品に関する情報を患者に提供する重要な役割を担う(38)

 

 

 

 

認知症患者への抗うつ薬処方

およそ3分の1の患者が認知症の発症後にうつ病のエピソードを有する(39)。しかし、抗うつ薬の有効性に関するエビデンスは混在している(40)。体重減少や不眠などのうつ病の症状は認知症のみによるものである可能性があり、診断を複雑にしていることが原因として考えられるかもしれない。臨床家は常にうつ病に対する可能性を疑って診療すべきである

 

 

 

 

睡眠の問題、行動の問題、精神症状に対する非薬物療法的アプローチ

抑うつ、不安、睡眠異常、興奮、幻覚、妄想などの精神症状はよく見られ、介入が必要になる場合が多い(41)。様々な非薬物療法的アプローチが効果的であり、症状が差し迫る危険や強い苦痛を生み出さない限りにおいては、まずそれらを先に試みるべきである(42)。これらのアプローチは、多くの感情や行動障害は”decoded (解読) ”できること、あるいはそれらを起こす内的あるいは環境的要因に基づくものとして理解することができる、という考え方を強調している。このdecodingプロセスは4-D (Describe, Decode, Devise, Determine)(43)やDICE (Describe, Investigate, Create, Evaluate) (44)などのシステマティックなアプローチを使って行うべきである。Decodingには行動の詳細を記述し、行動の起きる特徴、1日のうちの時間帯、場所、先行する要因、特定の人がいる場合あるいはいない場合、食事あるいは他のキーとなる活動との近接性、およびその結果起こる行動などに気づくことが含まれる。行動障害の起因となるよくある環境的要因としては、患者に空腹、疲れ、プレッシャー、痛み、孤独などがある場合に興奮が起こりやすい事などが含まれる。施設で見られるよくある例では、シフトの交代時、あるいは特定のスタッフが存在する場合、などのケアが提供される時に興奮がおこりやすい事などがある。そのパターンが認識されれば、ターゲットとする介入が作成され、施行し、そして改善を行える。このような行動障害によるアプローチによって抗精神薬使用を避けられる場合が多い

 

 

行動および精神科的障害に対する評価と治療のアプローチ(43)

 

Disturbance

繰り返す叫びや怒鳴り

Define and Describe

何を言っているか、いつ言うか、叫びや怒鳴りに続いて起こることは何か(患者や他の人に)

Decode (What Causes the Problem?)

忘れやすさ、恐れ(おそらく精神症状からの)、痛み、シフトチェンジ、騒音、他の不快な刺激、特定の人の存在あるいは不在

Devise a Treatment Plan

精神科あるいは内科的なコンディションを治療する、環境を変える、患者の居場所を変える、redirect、安心させる話しかけ、投薬する

Determine Whether the Treatment Has Worked

介入後の叫びや怒鳴りの頻度をモニターする

 

 

Disturbance

抑うつ気分

Define and Describe

患者の気分を描写する、1日のうちのどの時間帯に起きるか、どの環境で起きるか、どの人の周りにいる時に起きるか、明らかな誘因があるか

Decode (What Causes the Problem?)

忘れやすさから来る苦悩、せん妄、うつ病、薬剤の影響、内科的疾患、環境(最近の移動、ケアする人がいなくなる、何らかの刺激)

Devise a Treatment Plan

安心を与えるような話しかけ、あるいは注意を外らせる、うつ病の治療(内服、電気痙攣療法)、内科的なコンディションの治療、服薬の調整、アクティビティー内容の改善、その他の調整

Determine Whether the Treatment Has Worked

介入後の患者の気分をモニターする、治療による副作用をモニターする、治療プラン施行の妨げとなる事を同定する

 

 

 

 

 

非薬物療法的アプローチにて改善しない場合の治療オプション

幻覚、妄想、興奮などの精神症状は、まず重大な有害性が少ない非薬物療法的にて治療すべきである(42)。なぜなら全ての抗精神薬は死亡のリスクを有するからである(45, 46, 47) 。症状が患者に重大な苦悩をもたらす、あるいは危険な状況を生み出す場合には、非薬物療法的介入とともに薬物治療を行うことが適応となる。抗精神薬を始める前に、アルツハイマー病患者の興奮を減らすことが確認されている、citalopramなどのSSRIを試すことが必要かもしれない(48)。しかし、QT延長のリスクがあるため、FDAは60歳以上の患者には1日20mgを超えないことを推奨している

 

抗精神薬による治療を考慮する場合は、第一世代に比べ遅発性ジスキネジアなどのリスクが比較的低い第二世代の薬剤が通常推奨される。全体としてこれらの薬剤の効果はmodestである(49)。risperidoneやolanzapineを支持するエビデンスが増えているものの、同等の薬剤も使われている。これらの薬剤はできる限り低用量で、かつできる限り短い期間の投与にする必要がある。薬剤が続けられる場合は定期的なモニターが必要になり、用量を減らす、あるいは開始3ヶ月以内に中止する試みをすべきである。死亡率の上昇、脳血管イベントの上昇などのためにFDA は第二世代抗精神薬に対するblack box warningを出している。このアウトカムの原因は不明であるが、転倒、感染、心血管イベント、脳血管イベントなどが寄与しているかもしれない。また抗精神薬はメタボリック症候群、体重増加、脂質上昇、糖尿病などとの関連が認められている

 

 

 

 

睡眠の問題に対する治療

薬物治療を行う前にまず非薬物療法的手法を試みるべきである。カフェインの使用、日中の睡眠、午後や夜間の薬剤、その他の基本的な睡眠衛生的な要素などの睡眠環境に注意を払う必要がある。メタアナリシスではどの薬物療法による介入も有効性が認められなかった。もし必要であれば、trazodone 25-50mgを注意深くモニターしながら使用できるかもしれない(50)

 

 

 

 

他にQOLを最大化させる手段は

QOLに重大な影響を与える可能性のあるものに積極的にアプローチしていく必要がある。眼鏡、補聴器などの感覚補助具、デンタルケア、騒音、照明、温度、十分な社会的あるいは認知的な刺激、衛生、痛み、便秘などである

 

 

 

 

いつ入院を考慮するか

認知機能を評価する際、危険な行動、安全でない生活環境、低下した栄養状態、ネグレクトされた内科的コンディション、協力の欠如などによって外来にて安全に、あるいは包括的に評価できない場合は入院が考慮されるべきである。重度の精神症状のために精神科入院が必要になる場合もある。例えば、患者が自殺企図を示す、食べ物や水分摂取の低下、妄想、抑うつ、動けない、内科的コンディションをケアできない、あるいは電気痙攣療法が必要になる場合などである。行動障害のある患者で、徘徊、暴力、叫び、過食、睡眠覚醒サイクルが重度に乱れるなどの理由で患者自身に危険がある、あるいは外来にて安全に治療できない場合なども入院が必要になる

 

 

 

 

家族が施設入所を決断することをどのように援助するか

認知症が進むと、よりニーズが増えていく患者に適切に対応するための環境(assisted-living facility or nursing home)への移動を考慮しなければならない場合が多い(51)。家での適切なサポートが少ないために移動しなければならない患者もいる。一般的に、身体的あるいは認知機能的な制限によって移動、歩行、排泄、食事など全てに介助が必要になり家での対応ができなくなる場合はnursing homeへの移動が必要になる。精神症状がコントロールできない、あるいはケアする人の負担が大きい場合も移動が必要になる場合がある

 

ケアする家族の休息期間が与えられると施設への移動の時期を遅らせられるかもしれない。家族はこの難しく痛みを感じえる決断の過程をサポートされ、ガイドされるべきである。突然の内科的疾患や事故などの場合に速やかに決断ができるように、家族には積極的に近隣で施設を探しておくようにアドバイスを与えられてもよいかもしれない

 

 

 

 

 

ケアする人に対するアプローチ

認知症患者をケアすることは肉体的にも精神的にも大変であり、認知症ケアにおいてケアを行う人が良い状態にあることが非常に大切な要素になる。ケアを行う人のよくある症状は罪悪感、怒り、悲しみ、疲れ、孤独、士気の低下、抑うつなどである。時間とともに患者の症状とケアを行う人に対する負荷が変わっていくため、外来受診の度にケアを行う人の状態を評価する必要がある

 

ケアを行う人への認知症に対する教育、ケア技術の訓練、ケアする人の健康状態に対する介入が多くの場合利益に繋がる(42)。Alzheimer's Associationや他の情報源から多くの冊子、本、教育に関するウェブサイトなどが利用できる。患者とケアする人の安全が受診毎に評価されなければならず、地域にあるケアの休息プログラムに関する情報が提供され、長期間のケアプランがサポートされなければならない

 

ケアを行う人には多くの地域で利用可能なサポートグループに関する情報が提供される必要がある。問題解決、コミュニケーション、行動障害への対応、感情的なサポートにフォーカスするグループはnursing homeへの移動を1年に及ぶまで遅らせ、患者とケアする人のうつ病を減らし、患者の興奮や不安を減らすことが、いくつかの適切に行われた規模の大きい試験によって確認されている(42, 52, 53, 54)

 

 

 

 

終末期ケアのオプション

一つのobservational studyでは、入院や手術が考慮される患者の81%において、最終的には代理人よって意思決定が行われていたと報告されている(55)。疾患の全経過を過ごす程長く生きる場合、認知症患者が判断能力を失うことは避けられないため、早い段階において事前指示を確認しておくことで終末期における患者の希望を実行する可能性を最大化することができる。医師がその意思決定をサポートすること、および事前指示に関する認識を促すことはこの意思決定の過程において中心的な役割を果たす

 

observational studiesでは認知症患者がホスピスケアを受けることでQOLが向上し、痛みの治療がより行われやすくなる、と報告している(56,  57)。専門家は短期的利益がない薬剤、例えばコレステロール降下剤などの中止を考慮することを推奨している(55)。進行した認知症では経口摂取の低下はよくあることである。経管栄養でなく、hand-feedingを多くの専門家が推奨している。また無症候性細菌尿に対する抗菌薬投与も避けることが推奨されている(58)が、コミュニケーションの取れない終末期の認知症患者では実行が難しい場合がある

 

 

 

 

 

 

 

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2019年9月3日