線維筋痛症
線維筋痛症はよく見られる疾患で主症状は慢性的で広範囲にわたる疼痛である(1)
有病率は用いる診断基準によって4倍も異なりえる(2)
線維筋痛症は人口のおよそ2〜4%が罹患している(2)
線維筋痛症は費用がかかり、生産性の喪失や機能障害による社会への経済的負荷は非常に大きい。線維筋痛症の患者は糖尿や高血圧と同様にヘルスケアの利用が頻回となる。平均で1年間の外来受診回数は10回となる(3)
病態生理とリスクファクター
線維筋痛症の原因は不明である
長年に渡って専門家の間でその原因に対して異議が唱えられてきて、心因性によるものとの見られ方もあった。この古い捉え方は疼痛の制御および中枢性感作の障害を特徴とするものというより最近の研究によって反証されている
functional MRIを使用した脳画像検査や他の研究によって線維筋痛症の患者では疼痛を増強させる、あるいは疼痛の抑制を低下させる、疼痛処理および制御のいくつかの問題が存在することが確認されている(4)。これには、疼痛を処理する脳領域のより活発な活動、刺激に対する過剰な疼痛反応、脳の形態や末梢および脳の受容体の変化、疼痛に関連する神経ペプチドや神経伝達物質(サブスタンスP、脳由来神経栄養因子、グルタミン、ドーパミンなど)レベルの変容などが含まれる。これらの変化が他の感覚入力の処理にまで影響を及ぼす可能性によって、倦怠感、睡眠障害、認知障害、抑うつなどの他の症状を説明できるのかもしれない(1)
リスクファクターは何か
修正不能なリスクファクターには遺伝因子、女性、他の疼痛疾患の存在が含まれる。
双子の研究では広範囲の慢性疼痛の遺伝率はおよそ50%であった(5)。American College of Rheumatology (ACR) の診断基準(2010年)に基づけば線維筋痛症の男女比はおよそ1:2である。他の疼痛疾患の既往も線維筋痛症との強い関連を認める。例えば関節リウマチやSLEなどの炎症性疾患を持つ患者の20〜30%に線維筋痛症が認められるとの報告もある(6)。うつ病や不安障害などの精神疾患が線維筋痛症患者の25〜65%に認められる可能性がある(7)。また線維筋痛症は慢性腰痛、過敏性腸症候群、顎関節症などの同様の機序をもつ他の慢性疾患と併発することがよく見られる
修正しうるリスクファクターには睡眠障害、運動不足、肥満がある。ノルウェー人女性の縦断研究では不眠症状が線維筋痛症発症のリスクをおよそ2倍高める一方で、ハイレベルな身体活動が予防効果を持つことが確認されている(8)。体重過多あるいは肥満女性は標準体重の女性に比べ60〜70%高い割合で線維筋痛症を発症しやすいことが示されている(8, 9)
診断
線維筋痛症の患者は広く多発性の慢性疼痛(3ヶ月以上)を持ち、倦怠感、睡眠異常、認知あるいは身体性の症状を伴う
”体中が痛い”という主訴は線維筋痛症の可能性を示唆する
疼痛は最初から全身性である場合もあれば、腰部や頸部などの特定の部位に限局して始まる場合もある
広範囲の疼痛とともに、患者は倦怠感や睡眠異常を呈することがよく見られる(1)
倦怠感は中等度から重度で慢性的である(10)
記憶、注意、集中などに関連する認知障害を訴える患者もいる
身体性の症状(頭痛、腹痛、膨満感、嘔気、下痢、顎部痛、めまい、感覚異常など)もよく見られ、現在の診断の枠組みにも入れられている
3ヶ月以上持続する広範囲あるいは多発性の疼痛がある患者では線維筋痛症の診断を考慮しなければならない
ACRは繰り返し線維筋痛症の分類あるいは診断基準を発表してきた(11)
1990年のACR基準では腰部から上方および下方の両方において左右どちらにもおよぶ広範囲の疼痛を認め、かつ身体診察において定義された圧痛点が18個中少なくとも11個以上認めなければならない、というものであった。この基準の問題点は疼痛以外の症状が含まれていないこと、また必要とされる圧痛点の特異性および実用性に疑問があることであった
ACRは2010年に診断基準を更新した(12)。この基準では圧痛点の必要性を省き、身体性症状を加え、19の部位の疼痛リストの数を評価するWidespread Pain Indexと、倦怠感、睡眠異常、認知症状の評価および身体性症状(下腹部痛、頭痛、うつ)の数を評価するSymptom Severity Score、の2つの簡易な評価スケールが追加された
2011年には患者が自己申告できる質問へと修正が加えられた(11)
2016年には他の部分的な疼痛疾患と鑑別するために5つ体部のうち4つ以上に疼痛を認めることが必須となった(11)。また”線維筋痛症は他の診断の有無にかかわらず診断される”という基準が加えられた
2018年にはACTTION (Analgesic, Anesthetic, and Addiction Clinical Trial Translations Innovations Opportunities and Networks) - American Pain Society Pain Taxonomy (AAPT) が慢性疼痛疾患の診断システムをつるくプロジェクトの一環として線維筋痛症の新たな診断基準を提唱した(10)。AAPTは多発性の疼痛と倦怠感あるいは睡眠異常を線維筋痛症の主要な特徴として定義した。他の特徴としては全身性の軟部組織圧痛、認知症状、こわばり、環境過敏が含まれるが、これらは診断をサポートするものではあるものの必須とはされていない
2010/2011 ACR Criteria with 2016 Proposed change
症状の期間:3ヶ月以上
疼痛部位:全身性の疼痛:5つの体部(左上部、右上部、左下部、右下部、体軸)のうち4つ以上
線維筋痛症スケールスコア:WPI score7点以上かつSSS5点以上あるいはWPI score4〜6点以上かつSSS9点以上
倦怠感・睡眠:(ー)
追加基準・コメント:線維筋痛症は他の診断の有無にかかわらず診断される
Widespread Pain Index(19 regions: 各1点)
右顎、左顎、頸部、右肩、左肩、右上腕、左上腕、右前腕、左前腕、右臀部、左臀部、右大腿、左大腿、右下腿、左下腿、前胸部、腹部、上背部、腰部
Symptom Severity Score(計12点)
倦怠感(0-3点)、睡眠覚醒しても疲れが取れていない(0-3点)、認知症状(0-3点)
(なし: 0点, 軽度: 1点, 中等度: 2点, 重度: 3点)
過去6ヶ月における以下の症状の有無
下腹部の疼痛(1点)、うつ(1点)、頭痛(1点)
ACCTION-American Pain Society Pain Taxonomy Initiative
症状の期間:多発性の疼痛と倦怠感・睡眠異常の両方が3ヶ月以上
疼痛部位:全身性の疼痛:9つの部位(頭部、左上肢、右上肢、胸部、腹部、上背部、腰部/臀部、左下肢、右下肢)のうち6つ以上
線維筋痛症スケールスコア:(ー)
倦怠感・睡眠:中等度から重度の睡眠異常あるいは倦怠感
追加基準・コメント:診断に必須ではないがサポートするもの:圧痛、認知異常、筋骨格のこわばり、環境過敏、神経過敏
鑑別疾患
mechanical spinal pain and soft tissue
特定の部位(腰部、頸部、肩、顎)に限局する疼痛・こわばり・圧痛
腱(腱炎)あるいは滑液包(滑液包炎)の圧痛、画像学的所見
関節リウマチ
対称性、多発小関節炎、全身性症状(発熱、体重減少)、炎症マーカー上昇(ESR, CRP)、1時間以上朝のこわばり
脊椎関節炎
脊椎の疼痛(頸椎、胸椎、腰椎)、脊椎の関節可動域制限、画像学的所見、炎症マーカー(ESR, CRP)
多発性の変形性関節炎
関節のこわばり、関節周囲の痛み、joint line tenderness、画像検査上の関節間隙減少あるいは骨棘形成
リウマチ性多発筋痛症
肩および腰帯部痛、炎症マーカー上昇、コルチコステロイドへの反応良好、痛み以上にこわばりが目立つ、高齢者により多い
SLE
全身性の兆候(皮膚炎、腎炎)、光過敏、炎症マーカー上昇、抗核抗体陽性
多発性筋炎
近位筋力低下、筋の圧痛、全身性の疼痛の欠如、CPK上昇、特徴的な筋生検所見
neuropathy
感覚異常、身体所見上の感覚・運動神経障害、広範囲の疼痛はまれ、筋電図上の所見
ライム病
好発地域、最近のダニ刺され、皮疹、滑膜炎、診断的血清所見
肝炎
腹痛、肝酵素上昇、肝炎血清検査陽性
線維筋痛症は機能性身体症候群として分類される他の慢性的な疼痛を認める疾患と併存することがよくある。これには片頭痛、緊張性頭痛、過敏性腸症候群、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、間質性膀胱炎(painful bladder syndrome)、慢性骨盤痛、顎関節症などが含まれる(10)
血液検査
線維筋痛症の診断に特異的な血液検査異常はない。したがってその評価に対する血液検査の役割は限られており、最小限にすべきである(1, 10)。血液検査の主な目的は似た症状を呈する他の疾患の評価を行うためとなる。専門家は炎症の有無を評価するために血算、ESRあるいはCRPを初期評価として推奨している
病歴や身体所見など臨床的に炎症性のリウマチ性疾患が疑われない限りはスクリーニングあるいはルーチンの血液検査(リウマチ因子、抗核抗体)を行わないことが推奨されている。それらのテストは健康な人でも陽性になることがよく見られ、陽性的中率が低いからである
線維筋痛症に特異的な画像所見はないため、ルーチンで画像検査を行うべきではない
臨床的に関連する疾患が疑われる場合は追加の検査を考慮する
示唆する症状がある場合は、睡眠スタディを行い、閉塞性無呼吸、restless leg syndrome、周期性四肢運動障害などを評価することができる。閉塞性無呼吸やrestless leg syndromeは併存することがよく見られる(13, 14)
よく合併がみられるうつ病や不安障害などを評価するための精神心理的アセスメントも有用であるかもしれない(6)
線維筋痛症の患者で感覚障害が多く報告されるが、筋電図は通常適応とならない
自律神経系異常に関連する起立性低血圧症状、頻脈、動悸などを認める場合もある
治療
線維筋痛症治療のアプローチは機能の維持あるいは改善、QOLの改善、症状のコントロールである
このゴールを達成するためにガイドラインは個人ごとで複数の手段を利用した治療アプローチを推奨している
治療開始にあたって患者は診断、基本的な病態生理、セルフマネージ法も含む治療オプションに関する教育を受ける必要がある
そのセルフマネージの方法には睡眠衛生、バランスの良い食事、有酸素運動を含む定期的な身体活動、減量、健康的な生活習慣の維持などが含まれる
身体活動
定期的な身体活動は線維筋痛症の効果的なマネージメントにおいて必須である。2017年European League Against Rheumatismは線維筋痛症のマネージメントにおいて治療として”強く”推奨できるのは運動のみである、と発表している(15)
有酸素運動は線維筋痛症患者の睡眠を改善させたり(16)、抑うつや不安症状を軽減させる可能性がある(17)
日常生活における活動性を中等度高めるだけでも患者の生活機能を改善させることができる(18)
最も効果的な介入はウォーキング、水泳、水中エアロビクス、サイクリングなどのlow-impactな有酸素運動を含む専門家に監督される運動プログラムである(16, 19)
他に効果のある可能性のあるエクササイズはウェイトトレーニング(20)や太極拳・ヨガなどのmind-body options(21)などである
エクササイズは通常耐容性がよく有害事象が少ないが、アドヒーランスが容易ではない。エクササイズプログラムは開始することおよび継続することが難しい。患者はエクササイズによって疼痛および倦怠感が悪化することを恐れるかもしれない。アドヒーランスを高めるために、患者の耐容性に合わせて徐々に量と強度を上げていく段階をおったエクササイズプログラムが推奨される
アドヒーランスを高めるために、患者の好み、不安、アドヒーランスのバリアになるもの、などを考慮しながら個人毎にエクササイズプログラムを決定しなければならない
心理療法・行動療法
2013年のcochrane reviewでは疼痛緩和、気分改善、治療終了時および長期フォローアップ期間における障害の改善に対し、認知行動療法はコントロールに比較して小さな利益を認めると結論している(22)。より最近のシステマティックレビューでは、心理療法は通常のケアに比べて身体機能、疼痛、気分の改善に効果がある可能性があるが、そのエビデンスレベルは低い、としている(23)
たとえ利益が大きくないにしても、心理療法は薬物療法より明らかに安全であり、コストも低いと考えられる。費用効果分析では、認知行動療法は通常治療にpregabalinとduloxetineを併用した場合に比べ、より費用対効果が高かった、と報告されている(24)
心理療法に対するバリアとして考えられるのは、線維筋痛症患者のマネージメントに関する専門知識を有する心理療法家へのアクセスが限られていること、患者がメンタルヘルス専門家にかかることを躊躇すること、などが含まれる。アクセスを向上させるために、電話や通信技術によって提供される介入が作られ研究されている。例えばインターネットによるセルフマネージメントプログラム(25)やインターネットによる認知行動療法コースの有効性(疼痛の軽減、うつの改善、満足度の向上)が確認されている(26)
睡眠
全ての線維筋痛症患者に対し、痛み、倦怠感、認知症状を軽減させるために睡眠が重要であることを教育する必要がある。慢性的な不眠を持たない患者へ基本的な睡眠衛生に関するアドバイスを行うことは適切である
患者は無呼吸を含む睡眠疾患の有無を評価されるべきである。その場合は特異的治療を要する可能性があるからだ
不眠の患者へは不眠の認知行動療法(cognitive behavioral therapy for insomnia (CBT-I))が第一選択治療となる(27)。個別あるいはグループによるCBT-Iが利用できない場合は、本、ウェブ、アプリによって提供されるセルフヘルプCBT-Iも有効であることが分かっている(28)
薬物治療
非薬物療法の開始後、線維筋痛症の症状を緩和するために様々なクラスの薬剤が試されるかもしれない
三環系抗うつ剤、特にamitriptylineは初期選択薬として長い間臨床で使われており、システマティックレビューでもその効果が確認されている(29, 30)。副作用を少なくするため、amitriptyline 少量を夜間から開始し、投与量を少しずつ調整していく。nortriptylineやdesipramineなどの他の三環系抗うつ剤も試されるかもしれないが、あまりよくスタディされていない。cyclobenzaprineは骨格筋弛緩薬として分類されてきたが、構造的および作用的に三環系抗うつ剤に類似している
三環系抗うつ剤が禁忌または反応しない、あるいは耐容できない場合は、serotonin-norepinephrine reuptake inhibitor (SNRI)が考慮される。SNRI特にduloxetineやmilnacipranはいくつかのトライアルで有効性が確認されている。2014年のシステマティックレビューではプラセボに比べduloxetineはプライマリーアウトカムである疼痛50%軽減をより多く達成し(相対危険度1.57)、そのnumber needed to treatは8であった(31)。SNRIsの長期のトライアルは少ないが、duloxetineは1年のフォローアップにおいて安全で効果的であることが認められ(32)、強い倦怠感あるいは抑うつを合併する患者では良き選択薬となるかもしれない。milnacipranはプラセボに比べ、疼痛軽減、生活の質および身体機能の向上により効果的であり(33)、duloxetinenの代替薬になるかもしれない
ガバペンチノイド(gabapentinとpregabalin)は線維筋痛症の患者に有効性が認められている(34)。5つのrandomized placebo-controlled trials(4つがpregabalin、1つがgabapentin)のメタアナリシスではそれらが疼痛を有意に減少させ、睡眠および生活の質を改善することが認められた(35)。gabapentinを調べたスタディは少ないが、pregabalinの代替薬になるかもしれない。一つのスタディではプラセボに比べgabapentinの有効性が認められたが(36)、最近のシステマティックレビューでは線維筋痛症の疼痛を軽減させるためにgabapentinを投与することを推奨する、あるいは反駁するのに十分なエビデンスがない、としている(37)
疼痛の緩和のためacetaminophenやNSAIDsがよく補助的に処方されるが、線維筋痛症に効果的であるかは確認されていない(38)
tramadolも線維筋痛症治療にスタディされており、強い疼痛を認める患者には投与してもよいかもしれない(39)
capsaicin外用は153人が参加した2つのトライアルがレビューされ、疼痛軽減に利益が認められたが、他のアウトカムに関しては一致した結果が得られなかった(40)
薬剤
三環系抗うつ剤
投与量
amitriptyline:10mg睡眠時で開始、維持量20-30mg
cyclobenzaprine(代替):5-20mg睡眠時
利益
広く利用可能、低価、よくスタディされている、疼痛と睡眠に有効
不利益
緩徐な調整が必要、抗コリン・抗ヒスタミン副作用がよく見られる(口渇、便秘、尿閉、鎮静、集中力低価)、心毒性
SNRI
投与量
duloxetine:20-30mg朝で開始、維持量60mg
milnacipran:12.5mg朝で開始、維持量50-100mg1日2回
利益
複数の臨床試験で有効性が認められている(venlafaxineは除く)、抑うつを併発している患者に有効である可能性、三環系抗うつ剤よりも耐容性が良い
不利益
頭痛、嘔気、口渇、下痢(duloxetine)、便秘(milnacipran)
ガバペンチノイド
投与量
pregabalin:25-50mg睡眠時で開始、維持量300-450mg/日
gabapentin:100mg睡眠時で開始、維持量1200-2400mg/日
利益
疼痛と睡眠を改善させる可能性
不利益
めまい、口渇、傾眠、体重増加、末梢浮腫、認知異常(pregabalin)
アセトアミノフェン・NSAIDs
投与量(ー)
利益
他の治療の補助剤として利用、他の併存疾患に有用である可能性(変形性関節症)
不利益
有効性が確立されていない、アセトアミノフェンのスタディが限られている
Tramadol
投与量(ー)
利益
短期間における疼痛および生活の質の改善、強い疼痛および他の治療に抵抗性の患者に有効である可能性
不利益
間違った使われ方あるいは乱用の可能性、長期的効果が不明
外用剤
投与量
capsaicin gel:1日複数回
利益
疼痛に有効である可能性、安全
不利益
軽度の灼熱感
オピオイド
弱いオピオイド作用よりもセロトニン・ノルエピネフリン再取り組み阻害作用による効果が認められるtramadolを除いて、オピオイドは線維筋痛症に対する有効性が確立されていない。研究では線維筋痛症患者は内因性オピオイドシステムに変容が見られ、オピオイド拮抗薬である低用量のnaltrexoneによって疼痛の改善が見られるかもしれない、としている(41)。オピオイドが線維筋痛症に有効でないと考えられているにもかかわらず、疫学的調査では線維筋痛症患者に対しよく長期間投与されていることが確認されている(39)
鍼灸、カイロプラクティック、他のマニュアルセラピー
鍼灸や電気鍼療法のrandomized controlled trialsでは疼痛、倦怠感、生活の質の改善に有効であったことが確認されているが、これらのトライアルは規模が小さく、ほとんどが短期間のものである。cochraneレビューでは鍼灸は無治療に比べ有効ではあったが、偽の鍼灸よりも有効ではなかった、と結論している(42)。より最近のシステマティックレビューでは中等度のエビデンス(10トライル)において鍼灸が偽の鍼灸よりも有効であり、また非常に低いエビデンス(2トライル)では鍼灸が薬物治療よりも有効であった、としている(43)
カイロプラクティック、マッサージ、筋膜リリース(myofascial release)などの治療はエビデンスが非常に限られており、線維筋痛症における確立した有効性が認められていない(15, 21)
食事
患者の間では”抗炎症性”や他のダイエットに強く興味が持たれているにも関わらず、特定の栄養による介入が線維筋痛症に有効であることを支持するエビデンスはない。最近のレビューでは異なる食事に関する7つの臨床試験(低カロリー、ベジタリアン、low-FODMAP(小腸内で消化・吸収されにくい糖類(Fermentable:発酵性、Oligosaccharide:オリゴ糖、Disaccharide:二糖類、Monosaccharide:単糖類、Polyol:ポリオール)の略称))では同様な効果が認められたものの、その全てのスタディで規模が小さく、バイアスの重大なリスクを有している(44)。上記のようにエビデンスの質が低いことより、線維筋痛症患者に対する適切な食事のガイダンスは他の人と同様、必要であれば減量のためにカロリーを減らすことである
予後
線維筋痛症症状は外傷、手術、感染、精神的ストレスに引き続いて始まる場合がある。また明らかな誘因もなく、徐々に症状が発症していく場合もある。多くの患者が間欠的な変動を見せながらも長く疼痛および倦怠感を有する。研究によれば6つの紹介施設における8年間のフォローアップの間に疼痛、倦怠感、睡眠異常、不安、抑うつの症状の大きな変化が認められなかった(45)。最近の観察研究では、11年間のフォローで疼痛の少なくとも中等度以上の改善が認められたのは4人に対し1人の患者のみという割合であった(46)。逆に、Fitzcharlesの研究では治療開始2年後にも広範囲の疼痛を認めた患者は35%のみであったと報告している(47)。プライマリケアにおいて治療を受ける方が紹介施設で治療されるよりもより良い予後が認められている
線維筋痛症の患者では労働に支障をきたすことがよく見られる。ある研究では関節リウマチ患者の36.8%、変形性関節症患者の23.7%が社会保障にて障害認定を受けるの対し、線維筋痛症患者ではその割合が41.5%にまでのぼる、と報告されている(48)
予後は特定の人口統計、行動様式、精神心理的ファクターに関連している。女性、社会経済的地位の低さ、非雇用状態などが悪い予後との関連を示している(49) 。他の重要なファクターには、うつ病、薬物乱用の既往、疼痛破局的思考、過度の身体的懸念、肥満などがある(50)。線維筋痛症患者では自殺のリスクが高まるため(51)、うつ病の症状をモニターする必要がある
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アナルズオブインターナルメディシン
インザクリニック
2020年3月