レジデントノート

米国にて内科修行中。何ができるか模索している過程を記録していく

尿路感染症

 

尿路感染症には一般的に以下のものが含まれる

無症候性細菌尿、急性単純性膀胱炎、再発性膀胱炎、カテーテル関連無症候性細菌尿、カテーテル関連尿路感染症、前立腺炎、腎盂腎炎

 

 

 

尿路感染症のリスクは男性より女性の方が、特に閉経前の方が高い。他には糖尿病、神経因性膀胱、脊髄損傷、妊娠、前立腺肥大、また留置尿路カテーテル(30日以上)や尿路ステント留置などに関連する排尿問題を有する患者でもリスクが高まる(1, 2)

 

 

 

無症候性細菌尿を認める女性では症状を有する尿路感染症のリスクが高まるが、それに対する抗菌薬治療は尿路感染のリスクを減らさない(3)。無症候性細菌尿のスクリーニングおよび治療が推奨されるのは妊婦、およびTURP (transurethral resection of the prostate) やその他粘膜出血の可能性のある泌尿器科侵襲的手技を受ける患者である(4)

 

 

 

尿路感染症を繰り返す女性では抗菌薬の予防的投与を行う場合がある。予防的投与は性交後に、あるいは継続的に行われる。 年に3~4回尿路感染を発症する女性、特に性交に関連して発症する場合は、性交後の予防的投与が高い有効性を認めている 

(前年に2回以上培養で確認された尿路感染を発症した女性で行われたrandomized, double-blind, placebo-controlled trialではプラセボ投与グループの感染率が3.6 per patient per year であったの対し、性交後にtrimethoprim-sulfamethoxazole 40mg/200mg)を一回投与したグループでは感染率が0.3 per patient per yearであった(5))

 

 

 

より頻回の尿路感染を繰り返す女性では抗菌薬の継続的予防投与が行われる(daily, thrice-weekly, or weekly)。ただ尿路感染の発症率が減るのは抗菌薬投与中のみで、多くの場合投与中断後にもとの発症率に戻る

 

  

 

クランベリージュースが尿路感染の予防に有効かどうかの議論は続いている。cochrane review and meta-analysisは尿路感染予防にクランベリージュースは推奨されないとの結論を出している(6)が、他のmeta-analysisではクランベリーを含む製品が尿路感染の予防に有効であることが示されている(7) 

 

  

 

閉経後の女性ではエストロゲン製剤の膣外用投与が尿路感染の頻度を減らす可能性がある。2008年の2つのスタディのcochrane systematic reviewではエストロゲン膣外用投与が閉経後女性の尿路感染の頻度を減らすとの結論を出している(8)。Society of Gynecologic Surgeons Systematic Review Groupのガイドラインではエストロゲン膣外用を尿路感染を繰り返す閉経後女性への投与を推奨している(9)

 

  

 

尿路感染症の最も一般的な症状は、尿路カテーテルを留置されていない場合では、排尿時痛、頻尿、尿意切迫である。尿路感染である可能性が高まる症状は排尿時痛、血尿、costovertebral-angle tendernessである。逆にvaginal dischargeやirritationを認める場合は尿路感染の可能性が下がる(10)

 

 

 

尿路カテーテルを留置されている場合ではカテーテル関連尿路感染症を示唆する症状は発熱、悪寒、意識障害、他に原因を認めない倦怠感、側腹部痛、costovertebral-angle tenderness、血尿、骨盤部痛などである

 

 

 

ガイドラインでは1000 colony-forming units per milliliter of urine以上ではカテーテル関連尿路感染症と診断可能であるとされている

 

 

  

カテーテル関連尿路感染症の多くの症状は非特異的であるため、診断する前に他の感染症や原因を検討する必要がある。カテーテル関連尿路感染症とカテーテル関連無症候性細菌尿を鑑別するのはchallengingである

 

 

 

sexually transmitted diseaseは常に尿路感染症の鑑別診断として考慮される必要がある。vaginal dischargeなどの示唆する症状の有無を問い、それが認められる場合は検査が必要となる

 

 

 

抗菌薬の投与期間が異なるため、膀胱炎として治療を開始する前に常に腎盂腎炎の可能性を考慮する必要がある。膀胱炎の症状で来院した患者には発熱、嘔気、嘔吐、悪寒、側腹部痛がないことを確認する必要がある。尿路症状と発熱を有する男性の場合では前立腺炎と腎盂腎炎を鑑別診断として考慮する

 

 

  

排尿時痛や頻尿などの典型的症状を有する女性で他の診断や合併症を示唆する症状を認めない場合は検査を行うことなしに膀胱炎として治療を開始することが可能である 

 

 

  

膀胱炎の症状を有する女性ではpositive urine dipstickが診断の補助になりうるが、検査前確率が高い場合はurine dipstick検査が陰性であっても除外診断することはできない(10, 11)。したがって明らかな尿路感染症状を有する場合はdipstick testは不要である

 

 

 

膀胱炎症状を有する女性では他の鑑別診断のために必要、あるいは基礎疾患の有無の評価のために必要である場合を除いて、血液検査を行う必要はない。腎盂腎炎を発症する女性の30%は菌血症を合併するため、血液培養採取は起因菌同定に有効となる。糖尿病を有する患者や腎移植を受けた患者では菌血症を合併する可能性が高いため、全身性の症状を有する場合は血液培養評価が必要である(12, 13)

 

 

  

単純性膀胱炎では一般的に女性の場合は尿培養は不必要であるが、妊婦と男性の場合は行う必要がある

 

 

Escherichia coliが単純性膀胱炎と腎盂腎炎の起因菌の90%を占める。他にはKlebsiellaやProteusが含まれる。Staphylococcus saprophyticusは特に基礎疾患のない女性の単純性膀胱炎と腎盂腎炎の5-10%を原因となる。短期間の尿路カテーテル留置患者ではカテーテル関連尿路感染症の起因菌としてはE coli、他には院内感染菌としてKlebsiella、Citrobacter、Enterobacter、Pseudomonas、coagulase-negative staphylococci、enterococci、Candidaなどがある。長期のカテーテル留置患者では典型的には複数菌による感染となる。上記の菌およびProteus、Morganella、Providenciaなどが起因菌となる(14)

 

  

 

女性における単純性膀胱炎において尿培養で認められた大腸菌群、S saprophyticus、Enterococcus以外の菌、例えばlactobacilli、α-streptococci、S saprophyticus以外のcoagulase-negative staphylococciなどはcontaminantsと考えられることが多いが、複雑性尿路感染症においてはほぼ全ての尿培養菌を起因菌として検討する必要がある

 

 

  

単純性膀胱炎では画像検査(腹部単純X線、腹部エコー、CT、excretory urography)を行う必要はない。interventionを要する膀胱閉塞、尿路結石などの解剖学的異常を診断する場合には必要となる

 

 

 

近年のスタディでは救急外来において発熱を伴う尿路感染症患者に画像検査を行うかの判断のために、尿路結石の既往、尿pH 7.0以上、腎機能低下(GFR 40以下)からなる指標を使ったclinical prediction ruleが提示された。このruleに従えば臨床outcomeを失することなしに画像検査の数を40%減らすことが可能であるとされている(15)

 

 

 

尿路感染の治療はhost factor(性別、免疫機能、泌尿器科的異常、等)、重症度、多剤耐性菌リスクに基づいて行われる

 

 

 

抗菌薬を選択する場合、妊娠および授乳の有無、他の薬剤との相互作用、アレルギー、最近の抗菌薬使用、他の感染症の有無、旅行歴、過去の培養結果、等を考慮する必要がある

  

 

 

単純性膀胱炎治療として次の四つの抗菌薬がfirst-line therapyとして、また代替薬として二つの抗菌薬が推奨されている 

 

第一選択

 

nitrofurantoin

100mg 1日2回5日間

組織浸透性が低いため腎盂腎炎の可能性がある場合には使用できない。FDA pregnancy category B 

  

 

TMP-SMX (trimethoprim-sulfamethoxazole)

160/800mg (1 DS tablet) 1日2回3日間

耐性菌が増えているので使用の際には注意を要する。FDA pregnancy category C(妊婦での使用を避けるべき)

  

 

pivmecillinam

米国では現在使用できない。他の薬剤に比較して効果が劣るが耐性菌の頻度が低いためヨーロッパの特定の国では第一選択薬として人気がある

 

 

fosfomycin trometamol

3 gram 1回投与

米国での使用頻度は低い。他の薬剤に比較し効果は低い可能性がある。腎盂腎炎の可能性がある場合は使用できない。しかしsurveysではESBL産生グラム陰性桿菌などの多剤耐性菌に対するactivityを有していることが示された。FDA pregnancy category B 

 

 

代替薬

 

βラクタム剤 

投与量は薬剤に準じる。投与期間5~7日

一般的に効果は劣り、副作用の頻度も高いため代替薬として使用される

  

 

fluoroquinolone

ofloxacin, ciprofloxacin, levofloxacin

投与量は薬剤に準じる、投与期間3日間

効果は高いが重篤な副作用が利益を上回るため最後の選択薬としての位置付けに変更となった。他に抗菌薬が使用できない時にのみ使用することが推奨されている

 

 

 

 

男性での単純性尿路感染症における抗菌薬の最適投与期間に関するデータは限られている。Observational studyでは抗菌薬14日間投与グループは7日間投与グループに比べ利益が認められなかった上、Clostridium difficile感染の頻度が高かった(16)

 

 

 

腎盂腎炎はtissue-invasive diseaseなのでinitial empirical regimenは可能性の高い起因菌をカバーするに十分なほどbroadにする必要がある。また複雑性尿路感染(妊娠、尿路結石、尿路閉塞、等)を除外しなければならない。また、経口摂取が可能か、入院が必要か、fluoroquinolone耐性およびESBL産生菌の可能性があるか、等の評価をする必要がある(17)

 

 

 

腎盂腎炎において経口抗菌薬治療が可能な場合はciprofloxacin 7日間投与が推奨される(fluoroquinoloneのlocal resistance rateが10%を超えない場合)(17)。1日1回投与の長期作用型のciprofloxacinおよびlevofloxacinも投与可能であるが、dataは限られている(18)。TMP-SMXも起因菌感受性が陽性の場合は投与可能であるが10~14日の投与期間を必要とする。βラクタム剤は効果が劣るので推奨されない

 

 

 

腎盂腎炎の外来治療において起因菌感受性が不明の場合は経口薬を開始する前に静注薬初回投与(ceftriaxone 1gram、ertapenem 1gram、長期作用型aminoglycoside)が推奨される。ciprofloxacinとTMP-SMXを比較したスタディではceftriaxoneを静注投与されてからTMP-SMXを開始したグループにおいてoutcomeの向上が認められた

  

 

 

急性単純性腎盂腎炎治療経口抗菌薬

 

fluoroquinolone

ciprofloxacin 500mg 1日2回 5~7日間

ciprofloxacin XR 1000mg 1日1回 5~7日間

levofloxacin 750mg 1日1回 5~7日間

 

TMP-SMX 

160/800mg (1DS tablet) 1日2回 10~14日間投与

 

β lactams

投与量は各薬剤に準じる 10-14日間投与

効果が劣るため、他の薬剤が投与できない時のみ考慮する

  

 

 

 

入院において静注薬治療を行う場合は感受性が判明するまではbroad-spectrum agentを投与する必要がある。Pseudomonasあるいは多剤耐性菌のリスクがある重症患者ではcarbapenem(imipenem-cilastatin、ertapenem、meropenem、doripenem)の投与が必要となりうる

 

 

 

カテーテル関連尿路感染症での抗菌薬の推奨投与期間は抗菌薬に反応が良好な場合は7日間、反応が遅い場合は10~14日間である

 

 

 

カテーテル関連尿路感染においてカテーテル留置期間が2週間以上の場合は、抜去あるいは交換する必要がある(19)

 

 

 

 

 

 

 

UpToDate

 

単純性腎盂腎炎治療静注抗菌薬

local resistance rateに基づいてfluoroquinolone、aminoglycoside +/- amipicillin、extended-spectrum cephalosporin、extended-spectrum penicillin、carbapenemを開始する 

 

 

カテーテル関連尿路感染治療抗菌薬

重症でない場合

ceftriaxone 1gram iv 24時間毎 

cefotaxime 1gram iv 8時間毎 

ciprofloxacin 500mg 経口/ 400mg iv 1日2回

levofloxacin 250-500mg 経口/iv 24時間毎

 

重症の場合

ciprofloxacin 400mg iv 1日2回

ceftazidime 1gram iv 8時間毎 

cefepime 1gram iv 12時間毎

ESBLの可能性がある場合はcarbapenemを投与

尿グラム染色においてgram positive cocciを認める場合はvancomycin ivを追加

投与期間7~14日間 

 

  

複雑性腎盂腎炎治療静注抗菌薬(*)

軽症~中等症

ceftriaxone 1gram iv 24時間毎 

ciprofloxacin 400mg iv 12時間毎 

levofloxacin 750mg iv 24時間毎

aztreonam 1gram iv 8~12時間毎

 

重症

cefepime 2gram 12時間毎

piperacillin-tazobactam 3.375 gram iv 6時間毎

ceftolozane-tazobactam 1.5gram iv 8時間毎

ceftazidime-avibactam 2.5gram iv 8時間毎

meropenem 500mg iv 8時間毎

imipenem 500mg iv 6時間毎

doripenem 500mg iv 8時間毎

 

投与期間7~14日間

 

 

(*)複雑性尿路感染症に含まれるもの

・コントロール不良糖尿病

・妊娠

・院内感染 

・急性腎障害あるいは慢性腎臓病

・尿路閉塞あるいはその疑い

・尿道留置カテーテル、stent、nephrostomy tube、urinary diversion 

・機能的あるいは解剖学的尿路異常

・腎移植

・免疫不全

 

 

 

 

 

 

1. Hooton TM, A prospective study of risk factors for symptomatic urinary tract infection in young women. N Eng J Med. 1996;335:468-74

 

2. Hooton TM, Pathogenesis of urinary tract infections: an update. J Antimicrob Chemother. 2000;46 Suppl 1:1-7

 

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インザクリニック

アナルズオブインターナルメディシン

2017年10月3日