喫煙
米国において1965年以降タバコの使用数は半分以下に減っているが依然予防できうる死の原因第1位である(1)
多くの医師が喫煙治療に関する適切なトレーニングを受けておらず、多くの患者が禁煙に関する援助を受けていない
喫煙者は非喫煙者に比べ10年以上寿命が短くなることが示された(2)
およそ全ての癌による死亡の3分の1は喫煙に起因するとされている(3)
中年以降における虚血性心疾患による死亡の3分の2は喫煙に起因していることが示された(4)
米国において年間7300人の癌による死亡、および34000人の虚血性心疾患による死亡は受動喫煙に起因しているとされている
40歳以前に禁煙すれば喫煙に関連する死亡率を90%減少させる可能性が示された(2)
喫煙してきた癌患者が診断の時点で禁煙すれば死亡のリスクを30〜40%減少させるとされている(5)
癌診断後の喫煙の継続は癌の再発、他の原発癌の発症、癌治療抵抗性、外科的手術合併症、化学療法の必要性、放射線治療合併症のリスクを高めることが示された(1, 5)
禁煙10年後には肺癌発症リスクを50%まで減少させることが示された(1)
禁煙後2〜3年には虚血性心疾患による死亡のリスクが3分の2減少する事が示された(6, 7)
禁煙後2〜4年で脳卒中発症のリスクが非喫煙者と同等になるとされている(8)
喫煙歴に関わらず全ての年齢において禁煙は利益をもたらすことが示された(2, 4)
最近の二つの大きな後ろ向きコホート分析では55〜64歳で禁煙すれば、4年寿命が伸び、たとえ70歳以降に禁煙しても、その後も喫煙を継続するグループに比べ死亡リスクを減少させることが示された(2, 4)
ニコチンは最も中毒性のある物質の一つである(1)
タバコの離脱症状は抑うつ気分、不安、 易興奮性、集中力低下、食欲増加、情動不安、不眠などである(9)
離脱症状は典型的には最後の喫煙から数時間後に始まり、最初の1週間にピークを迎える。その後6週間、あるいはそれ以上持続しうる(10)
喫煙者の多くは18歳以前に喫煙し始めるので年齢、性別、既往歴にかかわらず全ての患者に喫煙の有無を問診することが推奨されている
電子タバコの蒸気にはタバコに比べその量は非常に少ないが有害物質が含まれる。FDAの統制を受けていないため製造工程は標準化されておらず、含まれる有害物質の量も異なりうるため、現時点において電子タバコは安全とは言い切れない(11, 12)
支援を受けずに禁煙できる確率は5%以下とされている(13)
医師からの簡易なアドバイスでさえも禁煙への有効性が認められている。その継続期間と頻度が禁煙成功に対し強い相関関係を有する(14, 15)
外来受診のたびに禁煙に対する簡易な臨床介入である”5As”を利用することが推奨されている(14)
5As
ASK: 受診のたびに喫煙に関して尋ねる
ADVISE: 禁煙を勧める(強く明確で個人に向けたメッセージで)
ASSESS: 禁煙に対するやる気を尋ねる(全員が禁煙の準備ができている訳ではなく、その場合は動機づけのカウンセリングを行う)
ASSIST: 禁煙を援助する(禁煙開始日を決める、行動を変える(代替となる行動、技術)、薬剤治療、援助(環境や誘引となるものへ介入))
ARRANGE: フォローアップ(対面・電話・メールにて、達成度・副作用・離脱症状をモニターする)
Meta-analysis において禁煙に関する他の治療を伴わない自己支援のアイテムは有効性が示されなかったが、個人ごとに調整されるものはそうでないものに比べ少ないながらも効果が認められている。最近ではアプリ、携帯、ウェブサイトに基づくプログラムなどがあり、その多くはエビデンスには基づかないものの、有害性も少ないため広く利用可能である(16)
6ヶ月以上の禁煙に対する鍼灸治療、指圧治療、光線治療による一致した有効性は認められなかった(17)
現在FDAに認可されているタバコ依存に対する薬物治療は7つある。そのうちの5つはNRT (nicotine replacement therapy)(パッチ、ガム、トローチ、吸入、鼻内噴霧)であり、その他2つは非ニコチン製剤である(bupropion, varenicline)
すべての喫煙者に対し禁忌でない限り薬物治療を行うことが推奨されている(14)
bupropion と NRT は同等の有効性を認め、varenicline は NRT単剤および bupropion より高い有効性を認めた(18)
nicotine replacement therapy
NRTによるニコチン伝達はタバコに比べて遅いので、喫煙者は喫煙と同等の快感は得られない(10, 14)
全てのNRT製剤は動機付けされた人において6ヶ月での禁煙率を50〜70%増加させる(18)
タバコ1本でおよそ2mgのニコチンが伝達される。したがって1日1箱吸う喫煙者ではおよそ40mgのニコチンが吸収されるため、21mg1枚のニコチンパッチでは完全にはその渇望を満たせないかもしれない(14)
1つのNRT製剤に他のNRT製剤を追加することで有効性が増す(14)。典型的には長期作用型NRT(ニコチンパッチ)に短期作用型NRT(ガム、トローチ、吸入、鼻内噴霧)を追加する
NRT投与中は禁煙することが推奨されているが仮に喫煙してしまう場合でもニコチンパッチをはがさず、禁煙行動を続ける
(複数のNRT製剤を同時に使用、あるいはNRT製剤とタバコとの併用が重大なリスクをもたらすことはほとんどないとされている)
NRT製剤は心筋梗塞発症2週間以内、重度の労作性狭心症、重篤な不整脈においては慎重に投与すべきとされている(19)
(これらの患者ではNRT製剤による副作用より喫煙継続によるリスクの方が大きいと考えられる)
NRT製剤
ニコチンパッチ( 25ドル / 2週間):
1日10本以上喫煙する場合は21mgから開始、4〜6週間後に14mgに変更、タバコに対する渇望がなければ2週間後に7mgに変更
ニコチンガム(35〜50ドル / 2週間):
必要時1〜2時間毎に投与(2m・4mg、ニコチン依存が強い場合は4mg)
ニコチン吸入(300ドル / 168 cartridges):
必要時吸入、1日16 cartridgesまで、口腔で吸収されるので深く吸い込む必要なし
ニコチン鼻内噴霧(300ドル / 4瓶):
必要時1時間毎に1〜2噴霧
ニコチントローチ(40〜50ドル / 72錠):
最初6週間は1日9〜15錠、その後減量(2mg・4mg、起床30分以内に喫煙していた場合は4mg)
bupropion
bupropionはセロトニン、ノルエピネフリン、ドーパミンを抑制する。ニコチン報酬系に関与するドーパミンに対する作用によって効果を発揮すると考えられている(14)
体重増加が少なく、抗うつ作用を有する
主な副作用は不眠、不安、口腔乾燥、頭痛、皮疹である(20)
最近の痙攣、摂食障害などでは禁忌とされている。高血圧にも関与するので血圧のモニターが必要である
禁煙開始1〜2 週間前から開始し、8〜12週間継続する
bupropion(150ドル / 1ヶ月):
150mg 毎朝投与を3〜7日継続、その後必要あれば300mg 1日1回に増量(典型的には8〜12週間投与)
varenicline
varenicline はニコチン受容体に対する partial agonist および antagonist として効果を発揮する
禁煙開始1週間前から開始する
最も一般的な副作用は嘔気、睡眠障害、消化器症状である。腎機能低下患者では投与量の調整が必要である。また異常行動、攻撃性、抑うつ、自殺行動などの神経精神症状に寄与する可能性も指摘されており、現在調査中である
varenicline(200ドル / 1ヶ月):
0.5mg 1日1回で開始し1〜3日継続、続いて0.5mg 1日2回に増量し4〜7日間、その後1mg 1日2回に増量(12週間まで継続、効果があればさらに12週間継続)
医師および被治療者は禁煙に失敗しても諦めずに禁煙に対する行動を継続することが推奨されている
(多くの禁煙成功者は数回以上の禁煙失敗を経験している)
電子タバコとニコチンパッチを比較した唯一の試験では禁煙率に有意差が認められなかったがその試験方法に重大な欠陥が指摘されている(21)。電子タバコに関するはっきりしたエビデンスが認められるまでは現在FDAに認可されているエビデンスに基づく治療を行うことが推奨されている(14)
多くの喫煙者が体重増加を禁煙しないことの理由としてあげるが、禁煙によってもたらされる健康に対する利益は中等度の体重増加によるリスクを上回ることを強調する必要がある
喫煙者は入院時により治療介入に反応を示すかもしれない
(入院した喫煙者に入院中および退院1ヶ月以内に行動変容に関する介入を行なった場合、禁煙を促進することが示された。またNRTをカウンセリングに追加した場合、カウンセリングのみ行なった場合に比べ禁煙率が増加した。カウンセリングに bupropion あるいは varenicline を追加した場合のはっきりしたエビデンスは示されなかった(22))
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インザクリニック
アナルズオブインターナルメディシン
2016年3月1日