レジデントノート

米国にて内科修行中。何ができるか模索している過程を記録していく

研修医は反射神経をつけろ

これは自分が研修医の時に先輩から言われた言葉だ

 

頭を使う事はもちろん大切だが、医師として(特に若手の頃は)ファンクションするためには考えなくても勝手に体が動くような迅速さも必要だ

という事を意図していたと理解している

 

既に卒後年数がすぐに出てこないくらい時間が経ってしまったが自分は未だ研修医をしている。だから今もこの教えに向き合っている

 

例えば夜勤中に10人の患者を入院させるような場合

細部にわたる問診を取り、隅々まで身体診察を行い、鮮やかな鑑別を挙げ、治療方針を決め、ノートを書き、華麗に指示を出す

 

もちろんこれを全員にできたら素晴らしいだろうが、自分の場合は仮に最初の数人でこれを目指しても、残りの対応が悲惨な事になってしまうのは目に見えている

 

だから如何に時間内に全員を及第点に持っていくかをゴールにし、もし抜けた部分があれば後から補えばいい、そのくらいの気持ちで診療を行っている事が多い

実際問題タイムマネージメントも大切だという話だが、その対策のためいろいろな試みを行っている

 

各疾患ごとの入院時ノートやオーダーセットのフォーマットを作っておく事もその一環だ

それ以外に力を入れている事がある

 

オリジナルマニュアルを作成する事だ

 

“こういう時はこう対応する” といった事を記したものだ

 

よく出版されている〇〇マニュアルみたいなものを自分で一から作るのだ

それを持ち運ぶ事によって現場で大幅に時間をセーブする事ができると感じている

 

そのマニュアルを小さめのノートに書き記して持ち運んでもいいだろうが、携帯性や増えていく情報量から考えても、やはりスマートフォンに電子情報として入れる事が最適だろうと考える

 

自分の場合はiphoneのメモ機能を使っている

 

使用する薬の投与量などの情報をスマートフォンに入れて使うことはよくあるだろうが、それを診療で出くわすあらゆる疑問に対して行う、それくらいの勢いで作成していく

 

例えば

・喘息発作の初期治療は?その投薬量は?

・治療抵抗性喘息の鑑別は?その検査項目は?

・anti-IgE therapy の適応は?

・喘息大発作時の挿管後の人工呼吸器設定 (flow, TV, I:E, PEEP, goal plateau pressure) は?

 

などというように同じ疾患でも診る度に出てくる新たな疑問をその都度調べて付け足していく

その疑問に対する答えの情報源は、自分の場合ほとんどUpToDateあるいはガイドラインなどからである

 

この作業を始めてから五年近く経つだろうか。やる気や忙しさの兼ね合いで休んだり再開したりを繰り返しながら細々と続けてきたが、トピックを記したメモの数は現在700程度になっている(他のスマートフォンは分からないが、iphoneのメモ機能の良いところは入れられる数に制限がない(らしい)事である)。

  

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このマニュアル作成は地道で時間がかかり、速効性が必ずしも高くないので当初の目的に必ずしも合わないように感じられるが、それでも多くの利点があると考えている

 

 

・スピード・利便性

作成開始後しばらくは感じられないかもしれないが、ある程度入れてトピックが一巡すれば診療の効率を大幅に改善すると感じられる。調べたい言葉を入れ検索にかけると、すぐにそのメモの書いている部分に辿り着く事ができる。スマートフォンは常に携帯する事が多いので、肝心な時に手元にない、一旦医局に戻って調べてくる、なんて事が少なくなる。UpToDateなどを契約して端末で常に見られるようにしておくのも一つの方法だが、ひとたびネットの繋がらない環境(当直先など)に行けば途端にパフォーマンスが悪くなる事も起こり得る。それにそのUpToDateだが、もともと纏められたものとはいえ、急いでいる時にパッと読んで探している答えを見つける事、それを目の前の患者に適応していいのかの答えを探す事は、個人の能力にも関係するのだろうが、自分の場合はなかなか難しいと感じている。昔UpToDateをそのままコピペしてメモに入れた事があったが恐ろしいくらい機能しなかった。自分で読んでさらに纏めておく事で必要な情報をすぐに取り出せるようになる

 

・編集可能

自分が研修医になりたての頃は書籍のポケットマニュアルを購入して使った経験がある。速効性としてはかなり有用なものだったと感じる。しかし医療の進歩は速く、ついこの間までコンセンサスを得ていた事が実は正しくなかった、新しい治療薬が主流になる、なんて事もある。その変更をその都度書き足していってもいいが、段々見づらくなるし、書き込める量に限度もある。そして何よりもベテランの域に近づいてくるとマニュアル本を若者の前で開く事に少し躊躇いもでてくる事が予想される

あるいは書籍でなく電子版として有名なマニュアルをアプリとして利用できるものもあるが、かゆい所に手が届かない感じで必ずしも知りたい事が載っていない事も多々ある。複数の電子版マニュアルを入れて使う事もあるだろうが、結局どこにどの情報が入っていたかを探す事に手間がかかり本末転倒になる事もある。その点自作のマニュアルだと一本化でき、ピンポイントで自分に必要な情報を付け足していく事ができる。使いやすくするために記載の順序を変えたり、不必要に情報が多すぎる時は削って見やすくする事も自在である。使えば使うほど自分仕様に洗練させていく事が可能だ

 

・情報整理

時間短縮のため見てすぐ情報に辿り着く事が主な目的であるが、せっかく勉強したからといってすべてを盛り込もうとすると情報量が増えすぎて反ってその機能に支障をきたしうる。よって入れる情報は必要最低限、かつ後から読んでも根拠を理解できる量にする事が望ましい。そのためresourceのガイドラインなどを読む時もどこが抽出すべきポイントかという意識を持って読め、その情報をまとめる作業自体が記憶の定着に繋がりやすくなる。そのように自作マニュアルは作成する時点で知識が身に付きやすくなるが、既成のものは使っていく間に自分のものになっていくので、ある程度時間がかかるし、そうなった時点で既に古くなっている可能性も出てくる

 

・情報保持

文献やresourceを読んでもその内容を自分は読んだ端から凄まじい勢いで忘れていく事ができる。「だからもう読んでも仕方ないんじゃないか」なんて言い訳をして文献を読むモチベーションを上げる事が難しく感じられた。仮に繰り返し読んで一時的に記憶に残ったとしても、10年後、20年後には継続的アルコール摂取の影響や無症候性脳梗塞などで全て忘却の彼方に消え去っている可能性が高い。よってより信頼のおける媒体に情報を残しておく事は有効な手段だと感じる。以前は学んだ事をノートに書き留めたり、パソコンにまとめようとした事もあったが、その時は多少やった気になっても、情報が分散する事もあって、結局後から見返す事はほぼ皆無で診療に直接役立つ事は少なかった。「だから勉強したって仕方ないやん」という言い訳がここでも出てきてサボる口実にしていた。それを携帯一本に絞って情報を入れる事で、いつでもアクセスでき現場で実際に役に立つ事が分かっていれば知識習得に取り組むモチベーションにも繋がりやすくなる

 

 

要するに自作マニュアルは作成に多少時間がかかるが、ある程度出来上がれば仕事の能率が格段に向上し、一生ものとして使える素晴らしい代物だという事を言いたいだけだ。

そして、さらには医師としてのモチベーションを保つ事にまで貢献してくれる。

研修医の時に早く一人前になりたくてやる気が高いのはよくある事だ。ただ分かり易いゴールが立てにくい職業柄、研修が終わって一段落した後に如何に医師としてのテンションを維持していくかが勝負になると感じる。その点、このマニュアル作成作業は診療における疑問が無くならない限り、あるいは情報updateのために一生続いていくので、少しずつでも前に進んでいる事を視覚的に確認でき、ささやかでも自分の成長を感じ続ける事ができるので、気持ちを保っていく助けになると感じている

 

もしジェネラルにやって行こうという気持ちがあるのなら腰の軽い研修医のうちに自分用のマニュアルを作り始める事を個人的には強くお勧めする