レジデントノート

米国にて内科修行中。何ができるか模索している過程を記録していく

非アルコール性脂肪肝疾患

 

Nonalcoholic fatty liver disease(NAFLD)は肥満の増加に伴って非常にその数が増え、現在では米国および世界で最も多い慢性肝疾患となっている(1)

 

病理学的にNAFLDは80%以上の患者にみられるnonalcoholic fatty liver(NAFL)(あるいはisolated hepatic steatosis)と20%以下の患者にみられるnonalcoholic steatohepatitis(NASH)に分類される

 

肝脂肪変性が5%以上認められる場合にNAFLDと定義される。NAFLはNASHの病理診断に必要な特徴を欠くものと定義される(炎症、肝細胞風船様腫大、線維化を伴うあるいは伴わないhepatic injury)

 

 

NAFLDは現在米国において肝酵素異常の最も多い原因である。スタディでは米国の人口の30〜40%がNAFLDを持つと推定され、その大部分がNAFLで、残り5%がNASHに罹患しているとされている(2, 3)

 

NAFLDは特発性肝硬変の最たる原因である(2)

 

NAFLDを持つ患者は心血管疾患、悪性疾患、肝疾患の合併症などに起因する死亡率が高く(2)、その罹患者数の多さおよび合併症により医療経済的負担が非常に大きくなっている(4)

 

予後が異なるためNAFLとNASHを鑑別することは重要である。NAFLは無症候な経過をたどる一方で、NASHは線維化の進行、肝硬変、肝不全、肝癌へ発展するリスクを有する

 

NASHは線維化の進行が通常遅く、そのステージが一段階上がるのに数年を要することが多いが、5〜18%の患者では速い進行が認められると報告されている(3, 5)

 

 

NASHの患者の10〜30%だけが肝硬変に進展するが、NAFLDの高い罹患者数によりend-stage liver diseaseの治療に多くの医療資源を必要とすることになる

 

 

NASH肝硬変は現在肝臓移植の二番目に多い原因であり、2020年までには最たる原因になると予想されている(6)。よってNAFLDの診断および管理に精通することは重要となる

 

 

 

定義

NAFLD

Definition:アルコール多飲によらない脂肪肝疾患の総称

Prevalence:世界の人口のおよそ25〜52%(7)、 米国の人口の28〜46%(8)

 

NAFL

Definition:肝細胞障害(肝細胞風船様腫大)や線維化を伴わない5%以上の脂肪性変化

Prevalence:NAFLDの80%以上(7)

Prognosis:肝硬変に進展するリスクはわずか

 

NASH

Definition:線維化を伴う、あるいは伴わない炎症および肝細胞障害を伴う5%以上の脂肪性変化

Prevalence:NAFLDの20%以下、総人口のおよそ1.5〜6.45%(7)

Prognosis:11%の患者が15年かけて肝硬変に進展する(3)

 

NASH肝硬変

Definition:現在あるいは過去の病理学的肝臓脂肪を認める肝硬変

Prevalence:NASHの10〜30%の患者

Prognosis:31%の患者が8年かけて肝不全、7%の患者が6.5年かけて肝癌を発症する(3)

 

 

 

 

肥満、metabolic syndrome、脂質異常症、糖尿病はNAFLDの主要なリスクファクターである(9, 10)。他にはpolycystic ovarian syndrome、甲状腺機能低下症、閉塞性無呼吸、下垂体機能不全、性腺機能低下症、膵十二指腸切除、乾癬などがある(3)

 

 

PNPLA3の変異遺伝子であるI148MがNAFLDの重症度に関連を認める(11)。最近のスタディでは一親等にNASH肝硬変を認める場合は線維化の進展のリスクがNASHの家族歴を持たないコントロール群に比べ12倍高くなることが報告されたが、この関連の機序を裏付ける遺伝的あるいは環境的要因は確認されていない(12)

 

 

 

 

診断

NAFLDの診断は画像検査あるいは生検にて肝臓脂肪を確認し、かつ、アルコール多飲、他の脂肪肝の原因、および他の慢性肝疾患を除外する必要がある

 

NASHのスタディにおいてアルコール多飲の定義は男性では一週間に21 standard drink以上、女性では14 standard drink以上の飲酒を2年以上行うこととされている(13)。National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholismではone standard drinkを14gの純アルコールを含む飲料としている(13)

(14g alcohol :5%ビール約350cc、12%ワイン約150cc、40%蒸留酒約45cc)

 

 

アルコール性肝疾患および非アルコール性肝疾患は同時に認められ、両者を鑑別することは難しい。alcohol liver disease-NAFLD index(ANI)は MCV、AST-to-ALT ratio、BMI、sex to predict the likelihood of alcoholic liver diseaseを変数として計算する。ANIが2.2以上の場合はアルコール性肝疾患の可能性が92.4%、- 2.2以下の場合はNAFLDの可能性が91.8%となる(14)

 

 

脂肪肝が代謝異常あるいは薬物に起因する場合はNAFLDと分類されない。例としてはrefeeding syndrome、トキシン暴露、重度の体重減少をきたす状態(空回腸バイパス術、胃バイパス手術、重度の飢餓)などである。薬物にはamiodarone、diltiazem、tamoxifen、steroid、highly active antiretroviral therapyなどがある(5)

 

脂肪肝をきたすalcoholic steatohepatitis、Wilson病、慢性C型肝炎などの肝疾患もNAFLDと分類されない

 

同時に存在しうる他の慢性肝疾患である、alcoholic liver disease、ヘモクロマトーシス、自己免疫肝炎、慢性ウイルス性肝炎、α1-antitrypsin deficiency、Wilson病、薬剤性肝障害なども除外する必要がある

 

 

 

Laboratory test

血液検査はNAFLDの診断に他のsteatohepatitisの原因や慢性肝疾患を除外するために必要である。comprehensive metabolic panel、アルブミン、プロトロンビン時間、血算にて線維化ステージを評価するnoninvasive scoring systemや肝硬変の予後を評価するModel for End-Stage Liver Diseaseの算定に使われる

 

血小板数減少は門脈圧亢進に対する感度が高いが特異度は高くない

 

NAFLDの血液検査所見は非特異的だが多くの場合AST-to-ALT ratioが1以下である。3分の1の患者でASTとALTが2〜4倍に上昇し、またALPが軽度上昇する。ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間は正常、フェリチンが軽度に上昇する

 

抗核抗体やanti-smooth muscle antibodiesがlow titer(<1:320)で認められることも珍しくなく、あるスタディではNAFLDの20%で自己抗体が陽性であったと報告されている(5)

 

 3分の1の患者では肝酵素異常が認められず、たとえNASHに進展しても肝酵素値が正常である場合がある

 

 

 

鑑別診断

Alcohol liver disease

Work-up to help rule out disorder:病歴、AST-ALT ratio(>2)

Characteristics suggestive of disorder:アルコール歴、alcoholic liver disease/NAFLD index>2.2

 

ヘモクロマトーシス

Work-up to help rule out disorder:フェリチン上昇、transferrin saturation上昇、HFE gene検査

Characteristics suggestive of disorder:色素沈着、糖尿、睾丸萎縮、性欲低下、心拡大

 

慢性ウイルス性肝炎

Work-up to help rule out disorder:HCVAb、HBsAg、HBsAb、HBcAb

Characteristics suggestive of disorder:肝脂肪なし、リスクファクター:薬物静注、risky sexual behaviors、輸血

 

α1-Antitrypsin deficiency

Work-up to help rule out disorder:α1-Antitrypsin phenotyping

Characteristics suggestive of disorder:関連する肺病変、血管炎

 

自己免疫性肝炎

Work-up to help rule out disorder:抗核抗体、anti-smooth muscle antibody、血清IgG上昇

Characteristics suggestive of disorder:肝臓脂肪なし、他の自己免疫疾患の既往(1型糖尿病、Graves病、潰瘍性大腸炎)、肝酵素高値、グロブリン高値

 

Wilson病

Work-up to help rule out disorder:ceruloplasmin、尿中copper

Characteristics suggestive of disorder:若年、神経精神症状、Kayser-Fleischer rings

 

薬剤性肝障害

Work-up to help rule out disorder:AST、ALT、暴露歴

Characteristics suggestive of disorder:肝臓脂肪なし、薬剤開始後の肝酵素値上昇、薬物中止後に肝酵素値改善

 

 

 

 

 

画像検査

画像検査がNAFLDの診断のため肝脂肪の有無および線維化の評価目的に行われる。肝生検が原因診断および重症度評価のgold standardであるが、その手技は費用やsampling errorなどによって制限される。また侵襲的であり、出血あるいは死亡などの稀ではあるが重篤な合併症とも関連する。原因が明らかでない肝酵素値上昇の評価のため、またNAFLDを疑う場合の確認のために画像検査を行わなければならない

 

肝臓脂肪が33%を超える場合の超音波検査の感度は100%、CTでは93%であった(15)

 

MRI-derived proton density fat fraction(MRI-PDFF)は新たな画像診断法であり、肝全体のfat mappingを可能にし、その検査結果は肝生検に近似する(16) 。スタディではMRI-PDFFは肝脂肪の評価で肝生検より優れ(17)、より良くNASHを評価できる非侵襲的な画像に基づくバイオマーカーとして臨床試験での利用が増えてきている(18)

 

 

最初の画像評価にどの検査を選択するかは放射線被曝、施設のキャパシティ、BMI、費用などに基づいて判断される。NAFLDを疑う全ての患者に画像検査を行わなければならない。いつ画像検査を繰り返すかは線維化のステージおよび進行のリスクによって決定される。NAFLが確認された患者ではその緩慢で非進行性の自然経過に基づいて3〜5年後に画像検査が繰り返される。NASHが確認された患者では線維化のステージに基づいて検査間隔が決められる

 

 

Risk stratification for NAFLD progression(19)

Low-risk profile(フォローおよびリスクを再評価)

 BMI<29.9kg/m2

 Age<40歳

 糖尿病およびmetabolic syndromeを示唆する所見なし

Noninvasive fibrosis estimates:

 Fib-4<1.30

 APRI<0.5

 NFS<-1.455

 Fibroscan<5kPa

 

Intermediate-risk profile(肝生検を検討)

 BMI ≧ 29.9kg/m2

 Age>40歳

 metabolic syndromeを示唆する複数の所見

Noninvasive fibrosis estimates:

 Fib-4 1.30 - 2.67

 APRI 0.5 - 1.5

 NFS -1.455 - 0.675

 Fibroscan 6 - 11kPa

 

High-risk profile(肝生検あるいはMR elastographyなどの肝硬変確定検査を検討)

 AST > ALT

 血小板<150000

Noninvasive fibrosis estimates:

 Fib-4>2.67

 APRI>1.5

 NFS>0.675

 Fibroscan>11kPa

  

Fib-4:Fibrosis-4 index(age x AST / PLT x square root of ALT)

APRI:AST-platelet ratio index(AST / upper limit of normal AST / PLT / 1000 x 100)

NFS:NAFLD fibrosis score(-1.675 + 0.037 x age + 0.094 x BMI + 1.13 x IFG/diabetes (yes=1, no=0) + 0.99 x AST/ALT ratio - 0.013 x PLT - 0.66 x Alb)

Fibroscan:超音波を利用して組織の弾性を評価する検査

 

 

 

NAFLDの患者において線維化を確認し、そのステージを決定する事は予後および管理の指標として重要である。また線維化を確認することによってNASHの診断が確定できる。NASHの患者での線維化のステージが長期予後の最も確かな指標となる

 

 

 

Staging of liver fibrosis

F0:no fibrosis

F1:portal fibrosis without septa(線維性隔壁)

F2:few septa

F3:numerous septa without cirrhosis

F4:cirrhosis

 

 

 

 

線維化の程度の非侵襲的な評価方法として様々な画像検査が開発されてきた

 

Fibroscan(ultrasound-based transient elastography)はlow-amplitude shear waveを使って肝臓のstiffnessを評価する(20)

 

MR elastographyは軽度から進行した線維化の鑑別により感度が高く、病理学的検査によく相関する(21)。しかし費用、技術および施設のキャパシティに依存するため利用が限られる

 

 

 

 

重症度の評価および生検判断のガイドとなるRisk scoring systemとbiomarkers

バイオマーカーとrisk scoring systemがNAFLDの非侵襲的な診断および線維化のステージングために開発されてきた。cytokeratin-18の分解産物、CK-18M30がアポトーシスの循環マーカーであり、NASHの同定マーカーとして最も研究がされてきた。初期のスタディでは感度・特異度が高いとされたが、後期のmeta-analysisでは単独のNASH予測マーカーとしては感度・特異度ともに十分でないと評価された(22)

 

 

様々なrisk scoring systemがNAFLDの重症度評価のためにつくられてきた。NAFLD fibrosis score、Fibrosis-4 index、AST-to-platelet ratio index、血清バイオマーカー(Enhanced Liver Fibrosis score、FibroMeter、FibroTest、Hepascore)などがある。これらのテストは進行した線維化があるかどうかの評価に適しているが、中等度の線維化の鑑別には有効ではない

 

上記の中で年齢、BMI、高血糖、血小板数、アルブミン、AST-to-ALT ratioを臨床データとして使うNAFLD fibrosis scoreが肝臓に関する予後予測に最も有効であるとされている(23)。NAFLD fibrosis scoreのlow cutoff score - 1.455におけるnegative predictive valueは93%、high cutoff score 0.676におけるpositive predictive valueは90%とされている(24)

 

 

 

肝生検

肝生検は限界があるものの未だNAFLDの診断および予後評価のgold standardである。NAFLDの診断が不明な時、あるいは他の慢性肝疾患の可能性がある場合は肝生検を行わなければならない。強く自己抗体陽性を認める場合などは自己免疫肝炎を生検によって除外する必要がある。非侵襲的検査が脂肪肝と脂肪性肝炎を鑑別できない場合は生検を行わなければならない。何故ならNASHはより積極的な治療を必要とし、肝硬変の場合は肝癌のスクリーニングおよびより密なフォローアップが必要となるためである。画像検査は肝鬱血や強い炎症と線維化を鑑別することに最適の検査ではないため、このような状態の場合は生検を行う必要がある。NASH肝硬変への進展のリスクを臨床因子(年齢、BMI等)、血液検査risk score(Fibrosis-4 index、AST-to-platelet ratio index)および非侵襲的線維化測定を使って評価する。進展リスクがintermediate-risk profileあるいはhigh-risk profileの患者は生検を考慮する必要がある。特にMR elastographyやFabroscanなどが利用できない場合などである(19)

 

 

 

 

治療

NAFLDの治療薬としてU.S. Food and Drug Administration(FDA)に承認されたものはまだないが、現在いくつかの治療薬が治験の様々な段階にある。初期の段階におけるNAFLD治療は、進行の阻害、病態の後退、およびNAFLD患者の第一死亡原因である心血管疾患などの合併症管理にターゲットが向けられる。NASH肝硬変に進行した患者においては合併症のスクリーニングおよび肝不全の予防・治療にターゲットが移行する

 

 

 

 

 

減量と身体活動

減量はNAFLDを改善させる主要な治療法である。肝臓の病理学的改善は減量する体重の量に直接比例する

9.3%の体重を減量することによって生検によって確定されたNASHの病理学的所見を大きく改善した(25)。また体重減少によってMR spectoscopyによって確認されたNAFLDの改善を認めた(26)

 

生活習慣への介入として身体活動の推奨を行わなければならない。小さなトライアルでは週3回の有酸素運動が体重減少を達成しない場合ですら内臓脂肪および肝臓脂肪を減らすことが確認された(5)

 

 

 

 

 

食事調節

どのタイプの食事がNAFLDの病理学的改善に最適かの議論が続いている

 

6週間のcrossover studyでは同カロリーの低脂肪・高炭水化物食に対し、Mediterranean diet(オリーブオイル、全粒穀物、野菜、ナッツ、果物、ヨーグルト、魚など)の方が体重減少に差がなかったにも関わらずインスリン抵抗性および肝臓脂肪の改善により有効であることが認められた(27)。他のスタディでは2週間の低炭水化物食の方がカロリーを減らした食事より、体重減少が同等であったにも関わらず、より肝臓脂肪の改善を認めた(28)。限られたデータでは飽和脂肪酸および高フルクトースコーンシロップ摂取を減らし、オメガ3脂肪酸の補足および中等量のコーヒー摂取によって肝臓脂肪および線維化に効果がある可能性が示唆されたが、前向き試験によるデータが必要である(5)

 

 

 

薬物治療

 

NAFLDの治療に承認された治療薬はないが、いくつかの薬剤が臨床試験において脂肪性肝炎の改善に有効性を認めている

 

減量薬

NAFLDの病理学的改善には少なくとも9%の体重減少を達成する必要がある。

今日最も多く研究されている減量薬は可逆的な膵・胃リパーゼ阻害剤のorlistatである。しかし大きなスタディでは体重減少がプラセボと同等であった。胆汁鬱滞、胆石、および稀な肝障害の副作用が認められFDAによって注意勧告が出されている(5)。他の減量薬は研究されていない、あるいは副作用によってトライアルが中断されている(5)

 

インスリン感受性改善薬

metforminはNAFLDに関連する肝酵素値を下げ、インスリン抵抗性を改善するが、有意な病理学的改善を認めないためNASHの治療薬としては推奨されていない

PIVENS trialにおいてpioglitazoneが肝細胞風船様腫大は改善しないものの、肝臓脂肪、炎症、インスリン抵抗性および肝酵素値を有意に改善した(29)。主な副作用は3〜5kgの体重増加で治験患者の60〜70%で認められた

 

Vitamin E

Vitamin Eは比較的安全で安価である。肝臓における活性酸素の産生を減らし、酸化ストレスを減少させる

PIVENS trialではpioglitazoneを投与されたグループでは認められなかった肝臓脂肪の病理学的改善のprimary end pointに到達した(29)。Vitamin Eは脳梗塞のリスクを下げる可能性がある一方で、出血性脳卒中および前立腺癌のリスクを高めるかもしれない(3)

 

Lipid management

高脂血症はNAFLDの患者でよくみられ、脂質低下薬剤、主にスタチンはその効果が研究されてきた。pilot studyとlarge-scale trials両方で中等度の効果が確認されているが、肝酵素値および肝臓脂肪の改善に関しては評価されていない(5)。Ezetimibeは動物試験とsmall pilot tiralで病理学的改善が認められているが、large-scale basisでは研究されていない(30)

 

Cytoprotective agents

胆汁酸であるursodeoxycholic acid(UDCA)の試験結果は混在している。large placebo-controlled trialではプラセボに比較し、UDCAを投与されたNAFLDを持つグループにおいて改善は認められなかった(31)。しかし、続くトライアルではUDCAをVitamin Eと併用した場合に肝臓脂肪と肝酵素値の改善が認められた。続くトライアルではUDCAのある程度の効果が認められたものの、原発性硬化性胆管炎の患者において死亡率の上昇が認められた(5)。よってルーチンでの投与は推奨されない

 

Obeticholic acid

farnesoid X-receptor agonistであるObeticholic acidはphase 2b randomized clinical trialにおいて、プラセボに比べNASH患者の肝臓病理学的所見(肝臓脂肪、炎症、線維化)の改善が認められた。副作用は投与量に依存する掻痒感と脂質異常であるが、脂質異常はスタチンへの反応を認めた(32)。phase 3 clinical trialが進行中である

 

Elafibranor

Elafibranorはdual peroxisome proliferator-activated receptor-α/δ agonistであるが、phase 2b trialにおいてNASHの改善、線維化進行の阻害、および心血管代謝の改善を認めた。しかし可逆的で軽度のクレアチニン上昇との関連を認めた(33)。現在phase 3 clinical trialが進行中である

 

Cenicriviroc

C-C chemokine receptor type 2 (CCR2)とtype 5 (CCR5)は肥満関連のマクロファージの脂肪組織および肝組織浸潤を介在し、また肝星細胞の活性化に関連すると考えられている。この過程が慢性炎症、インスリン抵抗性および、それに続く線維化の原因となる。Cenicrivirocはdual CCR2/CCR5 antagonistの経口薬でNAFLDの活動性を抑えることがマウスモデルで確認されている(34)

 

Selonsertib

アポトーシスシグナルであるregulating kinase 1(ASK1)はserine/threonine kinaseであるが、それが抑制される時炎症および線維化を改善することがNASHの動物モデルで確認されている。Selonsertibはこの選択的酵素である。phase 2 trialにおいてMR elastographyおよび生検によって評価されたfibrosis scoreを少なくとも一段階改善し、アポトーシスと壊死の血清バイオマーカーも改善することが確認された(35)。phase 3 STELLAR trialが進行中である

 

 

 

Advanced Clinical Trials中のNAFLDに対する薬剤

 

Vitamin E

Dosage:800 IU daily

Mechanism of Action:抗炎症作用

Trial Phase:3

Key Clinical Trials:PIVENS trial(8)

Trial Outcome:NASHの統計的有意差を認める病理学的改善

Side Effects/Contraindications:前立腺癌および出血性脳卒中リスクの上昇

 

Pioglitazone

Dosage:30mg daily

Mechanism of Action:PPAR-γ agonist、糖および脂肪代謝、血管への影響、抗炎症作用

Trial Phase:3

Key Clinical Trials:PIVENS trial(8)

Trial Outcome:脂肪肝、炎症、インスリン抵抗性、肝酵素値の改善、統計学的には有意差を認めないNASHの病理学的改善

Side Effects/Contraindications:体重増加(3-5kg)、心不全患者では避けるべき、閉経後骨密度減少、膀胱癌リスクの上昇

 

Obeticholic acid

Dosage:25mg daily

Mechanism of Action:Farnesoid X-receptor agonist

Trial Phase:3

Key Clinical Trials:FLINT trial(32)

Trial Outcome:線維化を進行させずNASH activity scoreの2 points以上の改善を伴う肝臓病理学的所見を改善

Side Effects/Contraindications:掻痒感、脂質異常

 

Elafibranor

Dosage:120mg daily

Mechanism of Action:Dual PPAR-α/δ agonist

Trial Phase:3

Key Clinical Trials:RESOLVE-IT

Trial Outcome:in progress

Side Effects/Contraindications:軽度の可逆的なクレアチニンの上昇

  

Cenicriviroc

Dosage:≧20mg/kg daily

Mechanism of Action:CCR2/CCR5 inhibitor

Trial Phase :3

Key Clinical Trials:AURORA

Trial Outcome:in progress

Side Effects/Contraindications:さらなるスタディによる評価待ち

  

Selonsertib

Dosage:20mg daily

Mechanism of Action:ASK1 inhibitor

Trial Phase:3

Key Clinical Trials:The ASK1 inhibitor Selonsertib in Patients with NASH(35)

Trial Outcome:画像および生検における1段階以上の線維化の改善

Side Effects/Contraindications:さらなるスタディによる評価待ち

 

NGM282

Dosage:3 or 6 mg subcutaneous injection

Mechanism of Action:Fibroblast growth factor-19 agnonist

Trial Phase:2A

Key Clinical Trials:NGM282 for Treatment of NASH(36)

Trial Outcome:NASH患者の肝臓脂肪の急速で有意な減少

Side Effects/Contraindications:下痢、腹痛、嘔気

 

 

 

 

減量手術

減量がNASHの最も効果的な治療である。食事および運動にて少なくとも9%の減量を達成できない患者において減量手術が考慮される。randomized controlled trialは行われていないが、多くのスタディで60〜80%の患者において線維化の改善を含む著しいNASHの改善が認められている(2)。ただ代償性および非代償性肝硬変の患者においては減量手術を受けた場合死亡率の上昇が認められた(37)

 

 

NASH肝硬変

20%以上のNASH患者が肝硬変に進展する。そのうち45%の患者が10年以内に非代償性肝硬変を発症する(3)。診断時に上部内視鏡にて食道静脈瘤のスクリーニングを行わなければならない。6ヶ月毎に非代償性肝硬変の症状・所見、血液検査にて肝臓合成能(INR、アルブミン、ビリルビン)、および肝癌のスクリーニングのため腫瘍マーカーと併用して画像検査を行う必要がある

 

 

肝移植

NASH肝硬変は現在米国において肝移植適応の第二番目に多い原因となっている(6)。患者が非代償性肝硬変を発症したら移植チームに紹介しなければならない。肥満や他の合併症などにより、移植待機中に非代償性の症状を発症するリスクが高く、また移植の手技も技術的に困難であることが多い。これらの要素などにより移植後の合併症の頻度も高く、graft lossや移植後30日死亡率が比較的高い(2)。しかし移植1〜3年後の死亡率は他の原因による移植患者と同等となる。多くの患者が移植後5年以内に脂肪肝の再発を認めるが、graftが肝硬変になるのは5%だけである(38)。最近のスタディでは肝移植と同時にsleeve gastrectomyを受けた患者は効果的な体重減少と移植後のgraftの脂肪肝化や糖尿病などの代謝性合併症の頻度が低くなることが確認された(39)

 

 

モニタリング

全てのNAFLD患者は超音波、CT、MRIなどの画像検査による評価を行う必要がある。線維化の評価のため画像検査を繰り返さなければならない。これらの患者のモニタリングに関するガイドラインはないが、筆者たちはNAFLの患者に対し6ヶ月毎に肝酵素値を評価し、5年毎に超音波による画像評価を行なっている。血算を毎年行いfibrosis risk scoreを計算する。risk stratificationは専門家紹介のタイミングおよびフォローアップの強度を決定することに役立つ。

NASH患者ではlow-grade fibrosis(stage 1-2)の時は6ヶ月毎に肝酵素を測定、3 〜5年毎にelastographyによる線維化の再評価を行っている。もし線維化の進行が認められれば、再評価の間隔を1〜2年に短くする。肝硬変の患者では他の原因による患者と同様にスクリーニングおよび治療を行う

 

 

予後

多くのNAFLD患者(約80%)はNAFLで進行を認めず、肝臓に関して良好な経過をたどる。NASHを発症するのは20%以下の患者で、その10〜20%の患者が肝硬変に進展する。そのうち45%が10年かけて非代償性肝硬変となり、7%が6.5年で肝癌を発症する(5)。非代償性肝硬変の患者で最も多い症状は腹水であり、最も重要な死亡予測因子は腎不全である(40)

 

 

 

 

 

 

 

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2018年11月6日6