レジデントノート

米国にて内科修行中。何ができるか模索している過程を記録していく

不眠

 

 

restless legs syndromeがある場合はフェリチンを測定する。低値あるいは正常低値の場合は鉄剤治療の適応となるかもしれない(1)

 

 

FDAに承認されている不眠治療薬の中で他に比べより推奨される特定の薬剤はない

 

 

 

American Academy of Sleep Medicine(AASM)のガイドラインに記載されている不眠治療剤リスト

 

ベンゾジアゼピン

 Triazolam

 Temazepam

非ベンゾジアゼピン受容体アゴニスト

 Zaleplon

 Zolpidem immediate-release

 Eszopiclone

メラトニン受容体アゴニスト

 Ramelteon

オレキシン受容体アンタゴニスト

 Lemborexant

 Suvorexant

三環系抗うつ剤

 Doxepin

 

 

 

効果および安全性のエビデンスが少なく、利益よりも有害性が大きい可能性があるため、トラゾドンを含む抗精神病剤と抗うつ剤は不眠治療のオフラベル使用は推奨されない(2)

 

 

ミルタザピンとアミトリプチリンはrestless legs syndromeと周期性四肢運動異常の原因となる、あるいは悪化させる可能性がある(3)

 

 

ジフェンヒドラミンは市販薬としてよく使用されるが、有効性のエビデンスは認められていない(2) 

 

 

 AASMガイドラインでは有効性あるいは有害性のエビデンスが確認されていないため、メラトニンの使用は推奨されていないが(2)、他では高齢者の第一選択薬として、入院中および長期療養施設入所中の状況も含めて、推奨されている(4, 5, 6, 7)

 

 

メラトニンは日中の眠気の原因となりうる(6) 

 

 

低用量のメラトニン(0.5-1mg)は高用量と同等の効果を認める

 

 

入院中の不眠治療剤使用をできる限り避ける努力をすべきである

 

 

入院中の高齢者で薬剤が必要だと考えられる場合には低用量のメラトニンが推奨される(7, 8)。高齢者においては他の薬剤は避けるべきである

 

 

 

 

 

1
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インザクリニック

アナルズオブインタナールメディシン

2021年3月9日 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急性膵炎

 

急性膵炎は膵臓の急性炎症で単発あるいは再発のイベントとしておこる

 

急性膵炎は軽度の炎症による軽い間質性の膵炎から広範囲の膵壊死によって多臓器不全を起こすものにまでわたる疾患である

 

診断は3つの特徴のうち少なくとも2つ以上認めることに基づいて行われる:特徴的な腹痛、正常上限3倍以上の膵酵素上昇(アミラーゼと/あるいはリパーゼ)、画像検査による特徴的な所見(1)

 

アルコール多量摂取と胆石が最も多い原因の2つであるが、他にも頻度が比較的低いが原因となるものが多数ある

 

急性膵炎による死亡率は5%以下であるが、中等症から重症の場合はより長い入院を必要とし、より高い死亡率へとつながる(2)

 

 

 

 

予防

急性膵炎の最たる原因は胆石(およそ35〜40%)と過剰アルコール摂取(およそ30%)である(3)

 

胆石症は米国で最も多い疾患の1つで、膵炎において胆石、胆泥、微小な結晶(microlithiasis)として発症しうる(4)

 

症候性あるいは無症候性胆石あるいはmicrolithiasisの患者が膵炎を発症するかを予測することは難しい。1つのリスクファクターは総胆管に結石を認める、特に2mm以下の場合(microlithiasis)である。十二指腸膨大部の膵管開口部に嵌頓する可能性があるからである

 

膵炎のリスクを減らすために、症候性胆石の患者は通常胆嚢摘出術を受ける必要があり、また総胆管結石を認める場合はたとえ無症状であってもERCPにて除去する必要がある。ウルソデオキシコール酸などの薬剤による溶解療法は膵炎予防に対する有効性が認められていない

 

アルコール関連膵炎は通常長期間(10年以上)の多量アルコール摂取によっておこる。リスクは摂取量によって上昇することより、アルコールの代謝物が膵臓に対し直接毒性作用を持つことが示唆される。アルコール使用障害患者の5%だけが膵炎を発症することより、その感受性を高める知られていない遺伝的素因や他の因子がある可能性が考えられる。例えば喫煙はアルコール性膵炎の進行を促進するという報告がある(5)。膵炎を発症するために必要なアルコール1日摂取量は明らかではない。1つのスタディではビールの多量摂取(週に14 drinks以上)との関連が認められたが、ワインや蒸留酒との関連が認められなかった、と報告している(6)

 

高トリグリセリド血症も重要なリスクファクターであり、重症へ進行する最も高いリスクとされている(7)。どの高トリグリセリド血症患者が膵炎を発症するかというリスクプロファイルは明らかでないが、高度に上昇していない場合の発症は稀である(通常1000mg/dL以上)(8)

 

いくつかの薬剤が急性膵炎の発症に関連しているが、そのリスクは低い。薬剤誘発性急性膵炎を発症したように見える患者も、特定の薬剤に起因すると決定する前に他の膵炎の原因の可能性を評価しなければならない。薬剤誘発性膵炎はその薬剤投与の過敏性反応として、あるいは投与開始後間もなく、あるいは長期使用した後の反応として、などといつの経過でも起こりえることを知っておく必要がある。しかし多くの場合は投与開始後間もなくおこることが一般的である。薬剤誘発性膵炎は以前に考えられていた以上に頻度が少なく、薬剤誘発性の明らかなエビデンスがない限り必須の薬剤は継続できることが多い(9)

 

 

重要な医原性リスクファクターにはERCPがある。ERCPに関連するリスクは2〜20%で、経験レベルなどの術者関連因子、施術適応(特にオッディ括約筋不全)、女性、ERCP関連膵炎の既往などに影響される(10)。発症は周術期のインドメタシン直腸投与によって減少し(インドメタシン投与群9.2% vs プラセボ群16.9%)(11)、また予防的膵管ステントによっても減る可能性がある

 

説明のできない急性膵炎の稀な原因には癌、粘液性嚢胞腫などによる閉塞、外傷歴、回虫、トキソプラズマ、クリプトスポリジウムなどの寄生虫やウイルス(サイトメガロ、EB)による感染などがある。血管炎や2型自己免疫膵炎などの自己免疫機序も確認されている

 

 

 

 

診断

 

病歴と身体所見

最もよく見られる症状は腹痛で、典型的には心窩部におこり背部へと放散する。疼痛は強く持続性で軽減因子および増悪因子がなく、嘔気嘔吐を伴うことが多い。時に疼痛は臥位で悪化し、座位で軽減する

 

急性膵炎を疑う場合は詳細な病歴によって原因を評価する必要がある。胆石による胆嚢摘出術の既往があって飲酒歴がない、あるいは少量の場合は残存する総胆管結石あるいはmicrolithiasisに起因する膵炎の可能性が上がる

 

アルコールおよび喫煙のタイプ、量、頻度の詳細な病歴聴取が大切となる

 

注意深い病歴聴取によって脂質異常症、腹部外傷、以前の似たようなエピソード、ERCP歴、体重減少や食欲不振などの悪性疾患の兆候、などを評価する必要がある

 

可能性のある起因薬剤とその使用時期にフォーカスした詳細な薬剤服用リストのレビューを行わなければならない(12)

 

身体所見

身体所見では体液量および重症度を評価するため脈、血圧、呼吸数を測定しなければならない

 

頻脈と血圧低下はより重症なケースで血管内容量低下を示唆する

 

SIRSの発症によって発熱がよく見られる

 

黄疸は胆管閉塞を示唆する

 

腹部は蠕動音の聴診、疼痛部位、腹壁防御(通常重症)、反跳痛、腹部膨隆などにフォーカスした詳細な診察が必要になる

 

膵臓が後腹膜腔に位置するため腹膜刺激兆候は認められないことが多い

 

蠕動音消失を伴う膨隆は多くの場合イレウスを示唆する

 

側腹部の斑状出血(Grey Turner sign)や臍部周囲の斑状出血(Cullen sign)は膵壊死による腹腔内出血を示唆する。両者とも稀である

 

意識障害もより重症膵炎を示唆し、敗血症、低酸素血症、電解質異常、アルコール使用などによっておこるかもしれない

 

多臓器不全は膵壊死など差し迫る合併症を伴う重症膵炎を示唆する

 

胆石の存在、発熱、右上腹部の疼痛、黄疸(Charcot biliary triad)は胆管炎を示唆するが、急性膵炎の炎症によるものだけであるかもしれない

 

 

血液検査

血清アミラーゼと、あるいはリパーゼが正常上限の3倍以上に上昇することが急性膵炎診断の鍵となる

 

アミラーゼは感度が高いが特異度が低く、偽陽性率が高くなる(13)。血清アミラーゼ上昇の他の原因には唾液腺および卵管の疾患、腸虚血、穿孔性消化性潰瘍、慢性腎臓病などがある

 

リパーゼはアミラーゼに比べて、アルコール性膵炎の場合や、上昇が持続することより患者が救急外来を発症から数日遅れて受診した場合などは、より感度と特異度が高い

 

しかしリパーゼも腎不全、頭部外傷、頭蓋内腫瘍、ヘパリン投与中(リポプロテインリパーゼの活性によって)などの場合には偽性に上昇する可能性がある(14, 15)

 

血清リパーゼの上昇はICUの重篤な患者においてもよく見られる(16)

 

アミラーゼとリパーゼを同時に評価しても診断の正確性が上がらないようである(13)

 

上昇レベルが重症度を反映せず、間違った治療の意思決定につながりうるため連続して測定する必要はない

 

48時間後の血清CRPは重症度を最も反映する

 

肝酵素は胆石膵炎の評価のためルーチンで評価される必要がある。ALT(150IU/L以上)の上昇は胆石が急性膵炎の原因であることの陽性的中率95%および特異度96%であるが、感度が50%以下である。ASTの正確性も同等である(17)。胆管炎に関連する直接ビリルビンの測定も重要である

 

トリグリセリドも測定しなければならない。1000mg/dL以上の場合は膵炎の原因となり、重症である場合が多い。急性膵炎においては膵の炎症による二次性脂肪血症のためにトリグリセリドが1000mg/dL以下に上昇している場合もよく見られるが、その場合は高トリグリセリド血症を膵炎の第一原因として混同してはならない

 

白血球上昇は通常急性の膵炎症のみによっておこり、それのみで感染の兆候とはならない

 

ヘマトクリットとBUNの上昇は血液濃縮を表す可能性があり、体液喪失を示唆し、重症度の指標となる(18, 19)

 

BUNの早期の変化が初期輸液治療に対する反応評価で最も役立つ指標となる(20)

 

不安定な患者におけるヘモグロビンの急な低下は出血性膵炎を示唆する可能性がある。循環している膵酵素あるいは血管障害による凝固因子の消費によってDICを発症する場合もある

 

画像検査

最初の画像検査として選ばれるのは超音波検査である。すぐに利用可能、非侵襲的、低費用、胆石の診断に比較的感度が高い(90%以上)からである。胆石の存在、総胆管拡張があれば膵炎の原因として胆石の可能性が示唆されるが、遠位総胆管と膵臓体部および尾部は腸管ガスのためにはっきりしないことが多く、超音波による胆石膵炎の診断は感度が限られる

 

詳細な病歴、身体診察、血液検査にて急性膵炎の診断がはっきりしない場合はcontrast-enhanced, thin-sliced, triple-phase CTによって膵臓の優れた画像が得られ、他の腹痛の原因も同定できる

 

CTはまた膵炎の重症度の評価にも有効で、壊死(感染を伴うあるいは伴わない)、偽嚢胞形成、血管性および膵外合併症などの評価を行うことができる(21)

 

CTは初期の段階では膵炎の兆候および合併症を確認できない可能性があるので、入院時に診断が疑わしい場合を除いては推奨されない。さらには造影剤が腎不全を悪化させる可能性もある

 

造影剤アレルギーの場合はMRIが膵炎の診断および合併症評価のためのより費用がかかる代替の画像検査となる。胆嚢および総胆管のmicrolithiasisまた膵管の途絶の検知により感度が高い(22)

 

腎機能障害の場合は造影なしのMRIが壊死を検知し、T2-weighted imageに基づいて胆管と膵管の明瞭な画像が得られる

 

 

 

他の画像検査の中でMRCPは非侵襲的で、胆管結石への感度が高く(90%以上)、膵管癒合不全、膵管異常、輪状膵、粘液嚢胞腫などの他の解剖学的異常を同定することができる(23)。また残存する結石やデブリを除外することができる

 

 

内視鏡的超音波検査は胆管内の小さな結石(5mm以下)、もとから存在する慢性膵炎、膵管を閉塞する小さな腫瘍、膵炎の原因となる他の解剖学的異常への感度・特異度が高い(24)。MRIより侵襲的であるが、より小さな結石を検知し、MRIが施行できない場合(重篤な患者あるいはペースメーカーがある場合など)に施行される(25, 26)

 

 

重症度

急性膵炎は様々な発症様式、予想がつかない経過、集中治療必要性の有無の評価などから重症化および死亡リスクが評価されなければならない

 

Atlanta Classification of Acute Pancreatitisが1992年に作成され、不均一な診断基準および重症度評価を標準化するために2012年に改訂された(1)

 

この基準は膵周囲液体貯留などの局所的合併症の存在、臓器不全の有無に大きく依存しており、急性膵炎重症度評価のgold standardとみなされている

 

 

Atlanta Classification for Severity of Acute Pancreatitis(改訂)

 

軽症急性膵炎

 呼吸器、循環器、腎臓を含む膵外臓器不全の欠如

 局所的合併症(★)あるいは全身性合併症の欠如

 

中等症急性膵炎

 以下を含む合併症が存在

  膵周囲液体貯留あるいは膵周囲壊死

  持続しない全身性合併症

 

重症急性膵炎

 臓器不全が48時間以上持続(☆)

 

 

★偽嚢胞あるいは膵壊死

☆急性呼吸不全(PaO2-FIO2 ratio < 400)、ショック(収縮期血圧90mmHg以下)、腎不全(クレアチニン 1.4mg/dL以上)

 

 

 

 

 

死亡のピークは通常発症1週間以内と発症2〜6週以降にある。最初の週において疾患重症度は通常臓器不全の程度に反映される。その後は感染、血栓症、液体貯留などの局所的合併症の存在によって死亡率が予測される

 

初期診療では臓器不全の可能性を評価しなければならない(27, 28)

 

単一臓器不全から多臓器不全への進行は死亡率上昇の指標となる(29, 30)

 

凝固障害は予後不良を示唆する。血小板が100 x 10⁹ cells/L以下、フィブリノーゲン100mg/dL以下、fibrin split productsが80μg/mL以上の場合などである

 

同様に低血清カルシウム値(7.5mg/dL以下)も予後不良を示唆する

 

 

Atlanta criteriaは局所的合併症(急性膵および膵周囲壊死)の発症も重症膵炎を示唆するものと評価している。膵壊死はCTスキャンによって3cm以上あるいは膵臓の30%以上が灌流不良、造影不良として描出される(1)

 

膵液体貯留は原因とタイミングによって4つのタイプに分類される

 

急性の膵液体貯留あるいは膵周囲液体貯留と急性壊死性貯留は4週間以内に発症し、被包性の壁を形成しない。急性の液体貯留は間質性膵炎から発症し、急性壊死性貯留は壊死性膵炎から生じる

 

4週間以後は急性液体貯留は膵偽嚢胞内に発症し、被包性壁を有するが固形のデブリは含まない。急性液体貯留は通常消失するため偽嚢胞は実際稀である。しかし急性壊死性貯留は壁で囲まれた壊死を形成し、固形のデブリを含む

 

治療法が大きく異なるため膵の液体貯留の適切な分類が重要である

 

急性膵炎の経過初期における重症度評価の様々な基準が作成されてきた。Ranson基準、APACHE II/IIIスケール、modified Glasgow prognostic基準、Bedside Index for Severity in Acute Pancreatitisスコア、modified CT severity indexなどである(31ー38)。しかし初期に中等症から重症に進行する患者を同定するマーカーや基準で高い陽性的中率を有するものはない

 

アミラーゼやリパーゼの値は急性膵炎の重症度を反映しないが、重症患者における24時間後および48時間後のCRPが150mg/dL以上の場合は臓器不全および死亡リスク上昇との関連が認められている(39)。入院48時間後にSIRSが持続することも重症度予測の指標となる(40)

 

 

 

 

治療

急性膵炎の患者は重症度と進行を評価するまで入院にて十分観察しなければならない

 

必須の治療は積極的な静脈輸液、液体および固形物の経口摂取中止である

 

多くの場合静脈注射による疼痛管理が必要になる。典型的にはオピエートが使われ、呼吸抑制などの副作用をモニターしなければならない

 

複数回の既往があり軽症で安定している患者は外来にて管理される場合もある(41)

 

適応となればERCPのようなテストが通常入院にて施行される

 

重症膵炎は入院による厳重なモニタリングが必要となり、臓器不全がおこった場合はICUに転送されなければならない(42)

 

高齢患者で心血管疾患の既往がある場合は、ICUにて積極的な輸液投与が行われなければならず、より正確な体液モニタリングのために中心静脈カテーテルが必要になるかもしれない

 

BMIが高く(30kg/m²以上)、尿量低下(50mL/h以下)、頻脈(120 beats/min以上)、酸素飽和度90%以下、脳症の兆候、さらなる麻薬治療を要する、などの場合は特別なモニタリングユニット(必ずしもICUではない)への転送を考慮しなければならない

 

 

体液管理

炎症メディエーターによる透過性上昇、サードスペースへ失われることによる血管内ボリュームの低下がおこるため急速輸液は急性膵炎管理において極めて重要となる(19)

 

血管内ボリュームの低下によって膵臓の灌流が低下し膵壊死や腎不全などの合併症がおこる

 

輸液投与はバイタルサインに基づいてガイドされなければならない。臨床的評価(頸部静脈、肺鬱血)、尿量、12時間、24時間におけるヘマトクリットの変化などである

 

SIRSを緩和しCRPを下げることをサポートする臨床試験データより、乳酸リンゲル液が生理食塩水よりも有効なようである(43)

 

診断がつき次第できる限り速やかに急速輸液を開始することが重要である

 

 

栄養

軽症膵炎では多くの場合栄養サポートが必要ない。疼痛、嘔気、嘔吐が軽減すれば、経口栄養が開始できる

 

低脂肪食にて開始し、疼痛の変化および嘔気、嘔吐をモニタリングする

 

画像所見の改善、アミラーゼおよびリパーゼの正常化は回復の予測に役立たないため、食事は患者の症状に基づいてアドバンスしていくべきである

 

壊死リスクのある中等症から重症の膵炎患者では、早期経腸栄養にて明らかな死亡率低下が認められているため、できる限り早く経腸栄養を始めるべきである

 

経静脈栄養に対する経腸栄養の主な利益は腸から炎症を起こしている膵臓へのbacterial translocationによる感染性膵壊死などの感染合併症の低下させることである

 

患者が耐容できれば入院後72時間以内に低脂肪食を開始することができる

 

重症患者あるいはイレウスなどで経腸あるいは経口栄養に耐容できない患者では経静脈栄養が必要になる場合もある

 

他の補助治療

酸素投与は急性膵炎の初期におこる急性呼吸促迫症候群を減らすかもしれない

 

疼痛管理は治療のもう一つの要である。急性膵炎による疼痛の重度および経口摂取不能であることが多いことより、麻薬経静脈投与が必須となる。オピエートが通常2〜4時間毎に投与される。間欠的投与による疼痛管理が不十分な場合はpatient-controlled analgesia pumpが使用される場合もある

 

モルヒネは理論上オッディ括約筋圧を上昇させ、膵および胆管から腸管への流れを低下させる可能性があるが、それは臨床試験によって確認されていない

 

急性膵炎の疼痛管理にはフェンタニル、ヒドロモルフォン、モルヒネが最もよく使われる麻薬である

 

 

抗菌薬

軽症間質性膵炎、または無菌性壊死を伴う中等症から重症膵炎であっても抗菌薬投与は推奨されない

 

感染合併症を減らすための予防的抗菌薬投与をサポートするスタディはない。コクランレビューでは抗菌薬投与によって壊死性膵炎の感染を予防する、あるいは死亡率を下げる利益は認められない、としているが、βラクタムイミぺネムのみは膵の感染を有意に下げる可能性があるとされている(44)。レビュアーは予防的抗菌薬を推奨するにはより良くデザインされたスタディが必要であると結論している

 

胆管炎、感染性膵壊死、感染性膵液体貯留には抗菌薬投与が必要になる。セプシスあるいは感染が疑われる場合は、培養、胸部画像検査を含む発熱評価をしなければならない。必要あれば膵壊死部位のCTガイド下による穿刺吸引にて細菌および真菌培養を行わなければならない

 

もし検査結果が陰性でも敗血症、臓器不全、膵の30%以上が壊死している場合には抗菌薬投与を継続する必要がある

 

感染性膵壊死は培養に基づいて抗菌薬を選択しなければならない。グラム陰性菌の選択薬としてはイミぺネム、メロぺネム、メトロニダゾールを伴うオフロキサシン、シプロキサシン、第三世代セファロスポリンなどがある

 

感染性膵壊死を認める患者では治療反応の評価に対する注意深いモニタリングが必要である。多くは侵襲的治療を必要とせず薬剤治療にて改善する

 

膵液体貯留に対するマネージメントは最小の侵襲的ドレナージとデブリードマンの施行によって過去10年の間に大きく変わっている。膵液体貯留は多くの場合自然軽快するため、症状(疼痛、内腔閉塞、感染)がある場合のみ治療介入が必要となる

 

急性液体貯留および壊死性液体貯留においては介入を遅らせることが基本的な考え方となっている。それによって被包性壁が成熟するためである。これは通常膵炎発症後3〜4週間まではおこらない。一旦被包性壁が形成されたら、偽嚢胞に対するドレナージ術および壊死性貯留に対するデブリードマンが施行される

 

向上した有効性、低い合併症率、低コストによって外科的手技よりも最小の侵襲性内視鏡的ドレナージおよびデブリードマンが好まれる(45, 46)

 

 

胆管結石による胆石膵炎が疑われる場合はERCPが必要になるかもしれない

 

胆石による軽症間質性膵炎の患者は退院前に胆嚢摘出術を行う必要がある。手術を行わなかった場合、退院後に再発する可能性が50%もあるからである(47)

 

 

ERCP

残存する胆石による胆道閉塞が画像にて認められる場合はERCPによる胆道括約筋切開術と胆石除去の適応となる

 

胆管炎が疑われる場合は緊急ERCPが適応となる

 

胆管炎の基準が満たされない場合、早期のERCPによる合併症のリスクが高まることが示されている(48)

 

膵管途絶による複雑性急性膵炎患者ではERCPによる膵管ステント留置術が有効であるかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

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インザクリニック

アナルズオブインターナルメディシン

2021年2月9日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

せん妄

 

せん妄は突発性の混乱、時間による動揺、注意力低下、意識レベルの異常を特徴とする急性の脳機能障害である(1-3)

 

せん妄(delirium)、脳症(encephalopathy)、急性錯乱状態(acute confusional state) に対する用語が近年改訂され、専門家がそれぞれ特定の使い方を推奨している

 

急性脳症は中枢神経系”プロセス”の病理学的状態を指すのに対し、せん妄はベッドサイドで観察される症状を表すものとして使用されるべきであると専門家が推奨している(4)

 

せん妄は非常によく見られるが診断が難しい場合がある。時おり患者は急性の不穏にのみなる場合もあるが、これは低活動型に比べ遥かに少ない(1, 5)

 

多くの患者で低活動型が優位を示し、時おり不穏が認められる混合型の様相を呈する

 

せん妄は急性の意識状態の変化であり、慢性で緩徐に進行する認知症と鑑別されなければならない。しかし既存の認知障害がせん妄のリスクファクターとなるため、せん妄と認知症が併存する場合が多い

 

入院する多くの高齢者(11−40%)にせん妄が認められる(1, 6)

 

関節置換術などの待機的手術後の15−25%、股関節骨折修復術や心臓手術後の50%以上の高齢者にせん妄が起こる(7-10)

 

ICUに入院し人工呼吸器サポートを必要とする全ての年齢層の患者80%までにせん妄が認められ、終末期の累積発生率は85%とまで高くなると報告されている(11, 12)

 

 

せん妄と患者の悪い予後が強く関連することが多くのエビデンスによって認められている。院内ではせん妄による死亡のリスクが10倍上昇し、院内合併症、入院期間の延長、退院後のナーシングホームの必要性に対するリスクが3−5倍高くなる(1)

 

入院中にせん妄を発症した患者はたとえ退院しても身体機能および認知機能回復が悪くなる場合が多い

 

 

 

 

スクリーニングと予防

 

せん妄は高齢者におこる多因子性症候群であるが、どの年齢層においても起こりえる。障害がおきる他の臓器と同様に、せん妄のリスクファクターは多因子性で、多くの場合は発症臓器以外、せん妄においては脳や中枢神経以外に存在することが多い

 

せん妄のよく見られるリスクファクターモデルは素因と誘因を区別する。前者は患者のせん妄発症の可能性を高める慢性的な因子であり、後者はせん妄を起こす急性の状態あるいはイベントである

 

いくつかの大きな疫学的スタディとシステマティックレビューによってせん妄の素因と誘因が定義されている。このモデルに基づき患者のせん妄リスクは素因と誘因の合計によって規定される。素因が多いほどせん妄発症に必要な誘因のイベントが少なくなる(13)

 

たとえば健康な若年者はICUにおける重篤なセプシス、呼吸不全、人工呼吸器治療によって起こりえるのに対し、認知機能障害を伴う虚弱な高齢者では睡眠のためにジフェンヒドラミンを服用しただけでも起こる可能性がある

 

 

せん妄のリスクファクター

素因

・既存の認知機能障害

・複数の併存疾患(うつ病も含む)

・多剤服用

・感覚器障害(視覚、聴覚など)

・運動機能の低下(日常活動の低下など)

・アルコール多飲や低栄養状態

・貧血

 誘因

・重症疾患(セプシス、脳卒中など)

・テザー(繋ぎ止めるもの)の存在(尿道カテーテルなど)や身体拘束

・手術/麻酔

・新たな精神科薬剤

・疼痛

・環境変化

・脱水/電解質異常

・尿閉/fecal impaction(糞塊埋伏)

 

 

 

いつスクリーニングすべきか

せん妄はよく見られる状態であるが55−80%のケースが臨床チームに認識されず記録されない(14-16)。したがって認識し速やかな治療を行うために患者のスクリーニングは重要となる

 

せん妄の検知と治療を改善するためのシステマティックプログラムの有効性を評価したトライアルではせん妄の検知率を高め、アウトカムを中等度に改善することが示された(17)

 

既存の認知機能障害や複数の併存疾患を有する、またはICU入室を必要とするせん妄のリスクを有する入院患者をスクリーニングする必要がある

 

病院からナーシングホームや外来などの急性期後ケアに移行する患者にもスクリーニングを行うことが必要となる。長引くせん妄が治療プランや回復の障害となる可能性があるからだ

 

 

せん妄を同定する多くのスクリーニングと診断ツールが利用可能である

 

せん妄の4つの重要な特徴である、急性の意識変化と時間による動揺、注意力低下、無秩序な思考、意識レベルの異常、を評価するConfusion Assessment Method(CAM)診断アルゴリズム(18)が簡易なスクリーニング法として使われるhttps://www.mnhospitals.org/Portals/0/Documents/ptsafety/LEAPT%20Delirium/Confusion%20Assessment%20Method%20-%20CAM.pdf

 

 

臨床ケアにおける通常の観察によってせん妄を認識することは不十分であり、検知を向上させるために標準化された評価法を使用すべきである事をスタディが示唆している(19)

 

CAMを使用した診断にはせん妄の1番目と2番目および3番目あるいは4番目の特徴の存在が必要となる

 

CAMはせん妄の診断のための正確なアプローチ法である。2001年から2013年にかけた多くの文献のレビューでは感度82%、特異度99%であったと報告されている(20)

 

以前に認知機能評価が行われていない場合はCAMの感度がかなり下がることを認識しておく必要がある

 

評価者はRichmond Agitation and Sedation Scale(21, 22)などを利用して意識レベルの評価を、また注意の評価を1つあるいは追加のアイテムを使って行うことができるhttps://www.mnhospitals.org/Portals/0/Documents/ptsafety/LEAPT%20Delirium/RASS%20Sedation%20Assessment%20Tool.pdf

 

 

 

せん妄スクリーニング法の主な要素

・注意力の評価(✴︎)

・無秩序な思考の評価に理解を問う(どこにいますか、何があなたに起こっていますか)

・精神運動状態の評価(不穏か活動低下かその混合か)

・タイムラインの推定と発症経過

 

 

 

 

最初の認知評価にてせん妄が疑われたら、せん妄に特異的な診断ツールによって評価を行う必要がある

 

CAMは米国においてせん妄の同定に最も広く使用される方法であるが、最適なパフォーマンスのため正確に使用するには特別なトレーニングを要する(23)

 

 

3-Minute Diagnostic Interview for Confusion Assessment Method(3D-CAM)は入院患者の評価により簡易で、感度95%、特異度94%とされている(24)

https://www.nejm.org/na101/home/literatum/publisher/mms/journals/content/nejm/2017/nejm_2017.377.issue-15/nejmcp1605501/20180122/images/img_xlarge/nejmcp1605501_t2.jpeg

 

 

曜日の確認と1年の月を反対から言わせるultra-brief 2-item testは妥当なスクリーニング法で感度93%、特異度64%である(25)https://www.nursing.psu.edu/wp-content/uploads/2019/03/UB-2-with-disclaimer-fick_Delirium-Pocket-Card_052118.pdf

 

 

他の方法には4A's Test(4AT)があり簡易で特別なトレーニングを必要としない。4ATが最初のスクリーニングとして推奨される国もあり、感度は76%、特異度は94%である(26)

https://static1.squarespace.com/static/543cac47e4b0388ca43554df/t/54524ad8e4b062dfa3d09628/1414679256191/4AT+v1_1+May+2014.pdf

 

 

Confusion Assessment Method for the ICU(CAM-ICU)は注意、思考、意識レベルを評価するため患者の非言語反応を利用した特別なCAMアルゴリズムを適応している(12)。CAM-ICUは妥当的で信頼ができ、数分で行うことが可能である。ICUの患者はせん妄のリスクが高いため少なくとも毎日スクリーニングを行う必要がある

https://www.aacn.org/docs/EventPlanning/WB0016/Delirium-CAM-ICU-gwgqydl2.pdf

 

 

 

 

予防

せん妄に対する全ての介入の中で、よく認められるリスクファクターを減らすことを目標とするプロトコールが最もエビデンスによって支持されている。この方法を使った効果的な予防によってせん妄の発症を40%減らすことができる(27)

 

Yale Delirium Prevention Trialはせん妄の6つのリスクファクター;認知障害、睡眠障害、低活動性、視力障害、聴覚障害、脱水をターゲットとするHospital Elder Life Programの有効性を評価した(28)。リスクファクターは入院時に評価され、1つあるいはそれ以上リスクファクターを有する患者に介入が施された。介入は特別にトレーニングされたチームによって行われ、その中には暖かいミルク、背中をさする、就寝時に落ち着く音楽を流すなどの非薬物療法による睡眠プロトコールが含まれた。この介入は鎮静剤の使用を大きく減らした。介入グループではせん妄が有意に減少した(オッズ比, 0.60 [95% CI, 0.39-0.92], number needed to treat, 19)(28)。Yale trialで使用されたアプローチは広く行われている 

 

他にはせん妄リスクのある患者の家族を介入に利用する方法も同等の成功を納めている(29)

 

非薬物療法による睡眠の質の改善自体ははっきりせず良いスタディが少ない(30, 31)

 

通常推奨されているせん妄予防法がCOVID-19パンデミックによって挑戦を受けている。病院や他のケア施設では感染リスクのため家族、友人、そして病院スタッフとの接触を制限している。これらの接触は安心、見当識、他のサポートを提供し、せん妄を予防するために重要な役割を果たしている

 

 

せん妄を予防あるいは重症度を減らす薬物トライアルは今日まで成功していない。最近のシステマティックレビューでは抗精神薬使用によるせん妄予防あるいは治療をサポートするエビデンスが認められなかった(32-34)

 

ICUではよくハロペリドールが使用されるが、せん妄リスクの高い患者においても生命予後を改善しないことが示されている(35)

 

非薬物療法による予防アプローチがせん妄の重症度および期間を減らす。これらのトライアルでは看護師ケアの改変、患者中心にフォーカスした病院環境、せん妄の誘因としてよく見られる因子を減らすことなどを含む新しいケアモデルが評価されている(36)

 

抗精神薬投与で過活動性症状から低活動性に変わりせん妄の症状が改善した印象を与え、結果せん妄の重症度が一見改善したように見えることが指摘されている。スタディでは低活動型せん妄は過活動型せん妄と同等あるいはより悪いアウトカムを有すると報告している(37, 38)

 

 

 

 

 

診断

混乱した入院患者およびリスクの高い混乱したいかなる状況の患者においてもせん妄を考慮する必要がある

 

 

病歴と身体診察

せん妄の診断は病歴と身体診察に基づいて行われる

 

クリニカルアセスメントよりも正確な血液検査、画像検査あるいは他の検査は存在しない(1)

 

病歴と身体診察はせん妄評価の2つの役割がある。診断の確定と原因および誘因の同定である

 

せん妄は主にcaregiverあるいは家族から病歴聴取を行う

 

1つの重要な要素は意識変容のタイムラインを同定することである。急性の発症がせん妄に最も一致する。正常な場合と非常に混乱する意識状態の変動があるかどうかも必須の要素である

 

身体診察の重要な側面は意識状態の評価であり、最も重要な評価は意識レベルと注意力の決定である

 

 

 

注意を評価するテスト(✴︎)

・Digit span

https://www.mesa-nhlbi.org/PublicDocs/MESAExam5Forms/V5%20MESA%20Digit%20Span%20Test.pdf

・曜日を尋ねる、年の月を反対から言わせる

・continuous performance task(患者にリストの中からある文字が聴こえた場合に手をあげるようにさせる)

・attention screening examination(写真を見せ、覚えさせ、思い出させる)

・serial 7's or 3's(100から7を順に引き算させる、20から3を順に引き算させる)

・"world"を反対からスペルさせる

 

 

 

病歴と身体診察のもう一つの重要な要素はせん妄の原因と誘因の評価である。これには薬剤服用歴、バイタルサイン、一般診察が含まれる

 

 

 

検査

血液検査、脳画像検査、脳波は診断における病歴と身体診察の代替とはならない。しかし病歴と身体診察に基づいて注意深く検査が選ばれた場合はせん妄の可能性のある原因と修正できうる誘因を同定することが可能であるかもしれない

 

 

病歴から痙攣活動あるいは頭蓋内因子(頭部外傷後の意識障害)の存在が強く疑われる、身体診察から局所神経徴候や痙攣活動が検知される場合を除いては脳画像と脳波は通常有用性が低い(39)

 

これらの検査は患者が入院経過中にせん妄を起こした場合も有用ではない(40)

 

せん妄が時おり脳卒中の徴候として現れる場合があること(41)は留意しておく必要があり、リスクファクター、病歴、身体診察から示唆される場合は脳画像検査は必須となる

 

 

 

せん妄を評価する血液検査、画像検査、他の検査

基本血液検査

・血算:感染、重度の貧血

・電解質:電解質異常、特に高ナトリウム血症、低ナトリウム血症

・BUN、Cre:脱水および不顕性腎不全(稀)

・血糖:低血糖、重度の高血糖、高浸透圧状態

・肝機能(AST, ALT, T-bil, ALP):不顕性胆管炎、胆管結石、肝障害

感染評価

・胸部レントゲン写真:肺炎(発熱や身体所見から疑われる場合)

・尿一般沈渣・培養:尿路感染(発熱や泌尿器系症状がある場合)

・腰椎穿刺:病歴と身体診察から髄膜炎あるいはくも膜下出血を強く疑う、あるいはせん妄が遷延する、予期されていなかった、説明ができない、若年者に起こる、などの場合

心電図:心筋梗塞や不整脈

動脈血液ガス:慢性閉塞性肺疾患で高二酸化炭素血症の場合

薬物血中濃度:特定の薬剤では血清レベルが正常範囲でもせん妄が起こりえる

ドラッグスクリーニング:摂取が疑われるのはより若い患者の場合が多い

脳画像検査(CT, MRI):病歴と身体所見から脳梗塞や脳出血が強く疑われる場合やせん妄が遷延する、予期されていなかった、説明ができない、などの場合

脳波:痙攣が疑われる場合diffuse slow-wave activityがよく認められるが、可逆的な原因の評価および治療に対して役立つことは少ない

 

 

 

 

鑑別疾患

せん妄の主な鑑別疾患は認知症、うつ病、他の急性の精神科症候群、そしてせん妄の部分症候群として知られる亜症候群性せん妄がある(1)。多くの場合、これらの症候群が併存し互いにリスクファクターとなるため、本当の意味での鑑別疾患ではない

 

 

最も多く遭遇する診断の問題は新たに混乱を呈した患者が認知症か、せん妄か、あるいはその両方を有するか、という問題である。これを決定するためには、医師は患者のベースラインの状態を以前の記載情報から、あるいは家族や患者を知る人から入手しなければならない。ベースラインからの急性の意識の変容は認知症に一致せず、せん妄を示唆する

 

新たな神経認知障害の診断はせん妄を起こしている間には行えないことを認識している必要がある

 

急性に揺れ動く経過の変容(分から時間単位で)と意識障害はせん妄を強く示唆する

 

認知症を有する入院患者のせん妄発症率は非常に高い。認知症患者のせん妄発症リスクは2−5倍高くなる(42)。したがって既存する認知症の診断によってせん妄を除外できず、よりその可能性を高くするかもしれない

 

うつ病は低活動型せん妄と混同される場合がある。1つのスタディでは、うつ病として精神科コンサルトを受ける急性疾患患者の3分の1に低活動型せん妄が認められたと報告されている(43)

 

躁状態や急性精神病症状などの急性精神科症候群は過活動型せん妄のような徴候を認める。最初は精神科疾患に起因するものと決定することやその下地になっている重篤な内科疾患を見逃さないためにも、過活動性患者はせん妄として評価し管理した方が良い

 

せん妄の全てでなく部分的な特徴を呈する患者は亜症候群性せん妄と評価される。これらの患者のアウトカムはせん妄の基準を満たす患者と同等で、せん妄と同様に評価され、マネージメントされなければならない。しかしエビデンスが少ないため亜症候群性せん妄とせん妄への進展あるいは重篤患者における悪い予後との関連は不明である(44, 45)

 

 

 

 

 

治療

 

入院

せん妄を疑う患者を入院させるかを決定するには診断的評価のタイムライン、臨床的安定さ、社会的サポートなどのいくつかの因子を考慮する必要がある。すべてのせん妄患者を入院させる必要はなく、入院自体がせん妄を悪化させうる

 

診断的評価がすべて滞りなく行え、患者の安全が確保され、せん妄の原因が純粋に薬剤の副作用のみ、あるいは単純な感染症で治療が複雑でない場合は外来管理も適切であるかもしれない

 

患者の状態が改善しない、あるいは急性に悪化した場合に速やかに外来医師に連絡できるcaregiverが存在することも重要である

 

せん妄をきたした患者は可能なら、見慣れた環境で診断および治療できることが最善である。入院は認知障害あるいは虚弱な患者にはトラウマとなる場合もある

 

しかし、セプシス、心筋梗塞などの不安定な内科疾患とせん妄が関連する、あるいは家庭でのサポートが不十分などの場合は入院も必要になるかもしれない

 

この決定をする場合は院内合併症がハイリスクであること、見慣れぬ環境によって見当識が障害され、せん妄を悪化させる可能性があることを考慮する必要がある

 

 

スタディでは注意深く選別された急性状態の患者が”home hospital”で管理された場合せん妄の発症率が院内で管理された同様の患者より低かったと報告されている(46, 47)。家庭での適切な臨床的および社会的サポートが利用可能でない場合が多いため、多くのせん妄患者は入院する

 

 

 

非薬物療法

非薬物療法がせん妄治療の基本となる

 

せん妄の主要治療は原因因子の同定と治療である

 

スタッフの言葉かけによって安心感を与える事や付き添いの方が薬物療法よりも好ましい

 

マネージメントには下地となる疾患の同定と治療、そして誘因に関連するものの除去あるいはその軽減が含まれる。そのような因子には精神科薬剤、水分・電解質異常、強い疼痛、低酸素血症、重度の貧血、感染、感覚器障害、活動不足などが含まれる

 

特に高齢患者ではせん妄の原因を1つのみに特定することはできないかもしれない。ベースラインにある多くの脆弱性因子や急性の悪化誘因などの影響の累積によるため、いくつかの因子の少ない改善でも全体的に良い結果とつながる可能性もある(1)

 

 

精神科薬剤は最も重要でせん妄の修正できうる因子であるため特に注意を払う必要がある

 

ハイリスクに含まれるのが、ベンゾジアゼピン、鎮静剤、抗コリン作用の強い薬剤、オピオイド、ドーパミン作動性薬剤などである(48 , 49)

 

ベンゾジアゼピンは特にせん妄との関連の強い薬剤である  

 

 

 

薬剤治療

せん妄を治療する薬剤はない

 

不穏や他の症状を起こした患者に対し鎮静をもたらす薬剤(抗精神病薬など)はある

 

専門家は鎮静をきたす薬剤は過活動型せん妄をより低活動型に変え、効果を認めたように誤認される可能性があることを指摘している(50)。低活動型せん妄は患者の悪い予後を示唆する

 

せん妄を起こした患者に抗精神病薬が広く使用されているが、患者の症状が治療の妨げになる、あるいは患者自身やケアを行う人が危険にさらされる場合を除いては投与しないことが推奨されている(33)

 

入院中に抗精神病薬が投与された場合は誤嚥性肺炎のリスクが4倍高くなる(51)。せん妄を遷延させる、過活動型を昏迷に変えて合併症リスクを高める、誤嚥性肺炎のリスクを高める、などの理由から薬剤治療は慎重に行わなければならない

 

不穏をきたしたせん妄患者の薬剤マネージメントは必要な時のみに抑え、効果の出る最も低用量をできるだけ短い期間にとどめて使用する必要がある

 

抗精神病薬はせん妄の症状に対し最もよく使われるクラスの薬剤であるが、効果が限られていることや有害事象からその適応は限られることがますます明瞭となっている(32-34)

 

抗精神病薬の薬剤間で比較した試験が少なく、他より優れた薬剤があるかは明らかでない

 

トライアルでは入院において、せん妄による不穏に対して使用された場合はハロペリドールが他の非定型抗精神病薬と同等の効果があることが示されている。定型抗精神病薬と非定型抗精神病薬の両方で副作用の可能性があり、QTc延長、誤嚥、死亡リスクの上昇などが含まれる

 

 

軽度せん妄を認める高齢患者が不穏になってケアが安全に受けられない場合は低用量の抗精神病薬が鎮静目的で使用され、用量を増やす場合は慎重に再評価を行う必要がある

 

より重度のせん妄ではより高用量の薬剤が初期には使用される。せん妄の悪化と誤認されうる高用量抗精神病薬の副作用であるアカシジア(motor restlessness)を注意して評価しなければならない

 

パーキンソン病、レビー小体型認知症の患者ではより錐体外路作用の少ない非定型抗精神病薬が好まれ、ハロペリドールは避けるべきである

 

ICUにおける重症患者では、薬剤副作用と静脈ラインやデバイスを除去されることのリスク対効果を比較して薬剤治療が好まれることが多い

 

しかしながら、せん妄を予防あるいは治療のためのルーチンでの抗精神病薬使用は推奨されない(32, 33)

 

最近のガイドラインでは非薬物療法を最適化し、呼吸器管理の患者で鎮静が必要な場合はデクスメデトミジンの使用が推奨されている(52)

 

デクスメデトミジンは挿管され人工呼吸器治療を受けているICU患者の鎮静に使用されるαアドレナリン受容体作動薬である。あるスタディではおそらくその鎮痛作用によって高用量オピオイドへの暴露を減らし、ICUでのせん妄の発症率および期間を減らすことが報告されている(53-55)。このためデクスメデトミジンは重症患者においてベンゾジアゼピンの代替としてよく使用されている(56, 57)

 

抗コリン薬剤とせん妄との関連から、コリンエステラーゼ阻害剤のトライアルが行われているが良好な結果は認められていない(58)

 

”薬剤性拘束”が使用されるすべての場合において治療チームはその使用を必要とするターゲットになる症状を同定し、薬剤による効果を頻回にレビューし、副作用と合併症を評価する必要がある

 

 

せん妄患者のsupportive care

運動性を高める

・留置カテーテルや静脈ライン、心電図モニター、持続パルスオキシメーターなどの他の”テザー”の使用を最小化

・身体拘束を除去

・食事の際にベッドから移動させ、必要なら栄養と運動性を高め誤嚥リスクを減らすために食事介助を提供

・可能なら1日に少なくとも2回は歩行させる

尿量および排便をモニタリング:せん妄に寄与する尿閉およびfecal impaction(糞塊埋伏)を避ける

日常ルーチンを正常化

・眼鏡、補聴器などの適切な感覚器インプット、時計、カレンダー、適切な照明の提供

・頻回の見当識オリエンテーション、"reconditioning"を促す対人コンタクトの仕組み化

・健全な睡眠−覚醒サイクル:スタッフによるノイズを減らす、ポケベルをサイレント化、必要な時以外のバイタル測定をなくす、病棟の照明を下げる、テレビやラジオを消す、などによって環境刺激を減らし夜間睡眠を促す

 

 

 

身体拘束

身体拘束は常に好ましくないものとされるが、暴力的行動をコントロールする、特にICUなどで挿管チューブ、動脈内デバイス、カテーテル、重要なデバイスが除去されることを防ぐために必要な場合があるかもしれない

 

その場合は可能なら付き添う人あるいは家族によって落ち着きが促されることの方が拘束よりも効果がある場合もある

 

拘束が行われる場合はその適応を頻回に再評価し、できる限り速やかに拘束を除去する必要がある

 

身体拘束はおそらく混乱した患者の転倒頻度を減らさず、障害のリスクを高める可能性がある(59)

 

拘束の使用を減らすことがせん妄リスクのある患者のアウトカム改善と関連する(60)

 

アラームは患者の移動の自由を制限する異なった形の拘束である。ベッドと椅子のアラームは見守りのない歩行を防ぎ転倒リスクを減らす目的で頻回に使用される。しかしこれらのタイプのアラームは転倒リスクを減らすことが証明されておらず、患者に苦痛を与えうる(61)

 

 

 

フォローアップ

せん妄をきたした患者はたとえ混乱が回復しても脆弱なままである。1つのスタディでは心臓手術後の患者で院内せん妄を起こした場合、長期の認知機能障害が術後1ヶ月および1年後にも確認された(62)。これはおそらく非心臓待機的手術を受ける患者にも当てはまることが考えられる(63)。せん妄をきたした患者の短期および長期的モニタリングが必要となる

 

短期的にはせん妄をおこした患者はベースラインに戻るまで内科的、認知的、機能的なモニタリングが必要となる。モニタリングの頻度は状況と持続する不安定性に依存する。病院においては少なくとも毎日その存在と重症度をモニターし、リハビリ施設への入院も含む退院後の患者は週毎に、そして地域に戻った際は月毎にモニタリングを行う

 

CAMに基づいて運用される多くのツールがせん妄の重症度の評価に使われている(64, 65)

 

せん妄をきたし外来にて管理される患者は頻回のモニタリングを必要とし、最初は日毎に、そして状態が改善するにしたがってその頻度を減らしていく

 

症状が持続あるいは悪化する場合はさらなる治療プランの修正、入院またはサポートサービスの増加が必要となる

 

電解質異常、心不全、感染などのせん妄をきたす内科的コンデションの改善を確認するためにもフォローアップ検査が必要になるかもしれない

 

認知機能はせん妄の診断と同様の方法によってモニタリングが行える。特にADLの評価はせん妄からの機能回復のモニタリングに有用である

 

回復期の患者はより多くの援助が必要になるかもしれず、せん妄が回復するに順って減らしていけるかもしれない

 

せん妄のエピソードから1−2ヶ月後にも認知機能あるいはADLがベースラインに戻らない患者は老年科および精神神経検査による評価を考慮しなければならない

 

せん妄の期間を最短化することが重要なゴールとなる。期間が短ければ短いほど、より元の状態に戻りやすいと考えられている(それでも週から月単位の期間を要するが)。せん妄が2週間以上続いた患者はベースラインの状態に戻る可能性がかなり低いとされている(62)

 

せん妄はたとえ改善してもより悪い長期予後のリスクを高める(66)。せん妄から完全に回復した患者でも依然その再発、認知機能および身体機能低下、死亡のリスクがある

 

長期アウトカムを向上させる介入はよく調べられておらず議論が続いている(67)

 

 

 

 

 

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アナルズオブインターナルメディシン

インザクリニック

2020年10月6日

 

 

C型肝炎ウイルス

 

全経口投与可能、短期間投与、耐容性良好、広く入手可能、効果の高い急性および慢性C型肝炎ウイルス感染に対する抗ウイルス薬の急速な発達によってウイルスの根絶が達成可能なゴールとなっている。2016年にWHOは2030年までにHepatitis C virus (HCV)の影響をなくす国際戦略とアクションプランをかかげている(1)

 

 

HCVは米国において最もよく見られる血液感染性の病原体である

 

HCV RNAが治療終了後少なくとも12週間検知されない状態、sustained virologic response (SVR)が治癒とみなされる

 

現在SVRは8〜12週間の経口抗ウイルス治療を受けた患者の95%以上で達成される(2)

 

SVRの結果、生命をおびやかす合併症である肝癌(3)および総死亡率(4)が著しく減少する

 

HCV感染はもはや米国における肝移植の最たる原因ではなくなったが(5)、新たな抗ウイルス治療にもかかわらず、依然肝癌の最も多い原因である(6)

 

 

伝染

HCV患者の多くは感染した血液への経皮的な暴露によって感染する

 

血液感染の主な2つの経路はドラッグ注射と医原性感染である

 

ドラッグ注射を行う人の間での感染血液に汚染された注射器の共有によって伝染することが多い

 

ドナー血液のスクリーニングが始められた1992年以前の血液製剤への暴露もHCV感染のリスクファクターとなる

 

タトゥーやピアスなどの美容的手技は厳格な感染コントロール手段が取られる限り感染リスクは非常に低いと考えられている

 

適切な感染コントロール手段が取られていない状況では血液透析を受けている患者での高い感染率が報告されている(7)

 

HCV RNAがウイルス血症患者の精液に検知される場合があるため、HCVは性交渉によって伝染するかもしれない。しかしセロステータスの異なる異性間カップルで行われたスタディでは伝染性は非常に低いことが報告されている(8)

 

HCVは男性間での性交渉(MSM: men who have sex with men)、特にプロテクトされていないアナルセックス、あるいはHIV感染を有する場合などでは伝染率が高いと考えられている(9)

 

HCVの母から子への感染率は4〜5%と考えられている(10)。母乳と感染の関連が認められず、授乳は安全と考えられている(11)

 

HCVセロステータスが異なり他に関係を持たない長期の異性カップル間でのコンドーム使用は推奨されていないが、多数の関係を有する患者やHIV陽性のMSMにおいては推奨される

 

患者から医療従事者への針刺し事故後の伝染予防処置を取ることは推奨されていない。感染のリスクが低い事、感染が起こっても効果的な抗ウイルス治療があること、およびコストがかかるためである(12)

 

 

 

 

スクリーニング

急性期および慢性期の大半が無症状であるためHCV感染のスクリーニングを行うことが推奨される

 

American Association for the Study of Liver Diseases and the Infectious Diseases Society of America (AASLD/IDSA)は18歳以上のすべての人に単回のスクリーニングを行うことを推奨している(2)

 

ドラッグ注射使用者、HIV陽性MSMなどのリスクが持続する人の場合は少なくとも年毎のスクリーニングを行う必要がある(13)

 

 

 

 

診断

 

自然経過

HCV暴露後の潜伏期間は2〜12週間であり、その間HCV RNAは検知され伝染可能であるが、肝酵素(ALT)は正常のままである

 

潜伏期間後、軽度の肝炎が起こるが、多くの患者が無症状で10〜15%においてインフルエンザ様症状、筋痛、黄疸、濃い尿、などが見られる。劇症型の報告もあるが非常に稀である。大半が無症状であることより急性感染の患者が医療機関を受診することは少ない

 

Anti-HCV antibodies (HCVAbs)は感染の初期では検知されないままである場合が多く、この時期に検知するためにはHCV RNAテストが必要となる

 

急性期にspontaneous viral clearance(再検査にてHCV RNAが消失)がおこる割合は15〜45%である。これは若年者、女性、特定の遺伝的多型を有する、などの有症状者により多く見られる(14)

 

spontaneous clearanceは感染から6〜12ヶ月以内に起こることが一般的である。慢性感染が確立した後に治療なしでウイルス消失が起こるのは12ヶ月以降であるが、非常に稀である(14)

 

感染後の最初の1年はHCV RNAが検知される事とされない事が揺れ動くので(15)、モニタリングを中止する前にウイルス血症消失の確認を繰り返し行うことが重要となる

 

無治療の急性感染患者の多くが慢性感染へと進行する。慢性感染の間、ALTは通常では常にあるいは間欠的に上昇するが、20%までの患者では正常のままである可能性もある

 

慢性感染患者は通常無症状であるが、クリオグロブリン血管炎、ポルフィリン症、インスリン抵抗性/糖尿病、慢性腎臓病、倦怠感などの肝外症状を認める場合もある(16)

 

 

 

HCV感染の肝外徴候

クリオグロブリン血管炎

膜性増殖性糸球体腎炎

膜性腎症

単クローン性ガンマグロブリン血症

非ホジキンリンパ腫

関節痛/関節炎

レイノー現象

倦怠感

シェーグレン症候群

扁平苔癬

porphyria cutanea tarda

糖尿病/インスリン抵抗性

甲状腺機能低下症/甲状腺機能亢進症

 

 

 

 

慢性感染の主な続発症は肝線維症であり、数十年かけて肝硬変と進展する。15〜20%の慢性HCV感染患者が20年かけて肝硬変に進展する(17, 18)

 

肝疾患進展への最も大きいリスクファクターは感染獲得の年齢である(19)。50歳以降に感染した人の60%以上が20年以内に肝硬変になるのに対し、40歳以前に感染した人が肝硬変になる割合は10%以下である

 

定期的なアルコール摂取、脂肪肝、他のウイルスの重複感染(HIV、HBVなど)も線維化を促進する

 

いったん肝硬変を発症すると、門脈圧亢進症(腹水、食道や胃からの消化管出血)、肝性脳症、肝細胞癌などの合併症により非常に死亡率が高くなる

 

HCV関連肝硬変による肝細胞癌リスクは治療成功がない場合は年3%までと高くなる

 

 

診断検査

患者はanti-HCV (HCVAb)テストによってスクリーニングされる。これは感度と特異度が高い(20)。HCVAbはnucleic acid testing (NAT) に比べ安価であるが、現在と過去の感染の判別ができず、偽陽性もみられる。NATが急性期およびHCVAb産生が遅れる可能性のある免疫不全患者では好ましい。いったんHCVAb陽性が確認されたら、PCRを使ってHCV RNAを測定し現在の感染かを確認する

 

HCV RNA titersと病態の進行あるいは線維化との関連性が認められないため、抗ウイルス治療を受けている患者以外でHCV RNAを繰り返し測定する意義はない

 

6つの主なviral genotypeがあり、genotype 1(特にsubtype 1a)が米国において最もよく認められる。すべてのgenotypeにおいて臨床経過は非常によく類似している。過去には治療レジメンと治療期間を決定するためにgenotypeの評価が必要であったが、AASLD/IDSAの新たに単純化されたガイドラインではgenotypeに基づく治療アルゴリズムは大多数の治療候補者においてもはや推奨されない。genotype検査は肝硬変の患者においては依然有用である。またいったんウイルス消失した後に新たなgenotypeあるいはsubtypeが検出された時に再感染を同定する場合などにも有用である

 

全生化学とGFR推定、血算、PT/INRはすべてのHCV感染患者で測定される必要がある。腎機能低下が見つかれば、尿タンパクおよび血清クリオグロブリンの測定を行う必要がある。HCV患者は感染経路が共有されることからHIVとHBV(HBsAg、HBsAb、HBcAb)のスクリーニングも行わなければならない。A型肝炎の免疫に関する評価も推奨される(HAV IgG)。可能なら超音波にて肝硬変を同定するため肝臓の結節性および脾臓の大きさを測定することも有用である。ただ検査結果が正常であっても肝硬変は除外できないことにも注意が必要である

 

 

 

線維化の程度を評価することの重要性

併存する脂肪肝やアルコール依存がなければ抗ウイルス治療はC型肝炎による代償性肝硬変から非代償性肝硬変に進行するリスクを本質的には無くすことが可能である。しかし線維化が進行した患者、特に肝硬変患者においては肝細胞癌のリスクが高くなる(3, 21)

 

アルコール摂取や非アルコール性脂肪肝などによる肝障害が併存する場合は線維化が進行した患者あるいは肝硬変患者において肝代償不全や肝細胞癌のリスクが高くなる。したがってアルコール摂取を中止あるいは減量、体重減量、脂質異常症の治療、インスリン抵抗性のマネージメントなどのリスクファクターの修正が肝不全の原因が2つ以上ある患者においては強調される必要がある。肝細胞癌あるいは肝代償不全がおこれば、肝移植を考慮する必要がある

 

 

 

血液検査

脾摘あるいは他の骨髄抑制の原因などがなければ血小板数は門脈圧亢進の代理マーカとして非常に有用である。血小板数が200×10⁹ cells/L (20万/μL)以下の場合は疑いを持たなければならない。160×10⁹ cells/L (16万/μL)以下あるいは110×10⁹ cells/L (11万/μL)以下の場合の肝硬変に対する特異度はそれぞれ88%および95%である(22)

 

血清アルブミンが35g/L (3.5g/dL)以下の場合の肝硬変に対する特異度は90%であり、38g/L (3.8g/dL)以下の場合は可能性を考慮する必要がある

 

HCVウイルスレベル、AST値あるいはALT値と線維化の程度とは相関を認めない

 

AST、ALT、血小板数によってFibrosis-4 (FIB-4)とAST-platelet ratio index (APRI)の2つの指標が計算できる。AASLD/IDSAガイドラインではFIB-4を治療開始前評価の1つとして推奨している(http://www.hepatitisc.uw.edu/page/clinical-calculators/fib-4)(2)。FIB-4スコアが3.25以上の場合は肝硬変も含む進行した線維化に特異性が高い。よって新たにHCV感染が診断された多くの患者の初回診療において進行した線維化のリスク評価が容易に行うことが可能である

 

 

 

線維化の決定

線維化ステージを決定することは疾患および死亡率を評価することの助けとなる(23)。いくつかの線維化スコアリングシステムが存在するが、METAVIRが最もよく使用され、F0 (線維化なし)からF4 (肝硬変)までをステージングする

 

肝線維化評価のゴールドスタンダードは生検であり、適切に採取され評価された場合は最も正確な指標となる。また脂肪性肝炎などの原因も検知することが可能だ。しかし現在ではサンプリングエラーや評価者間での相違などのリスクがあることからゴールドスタンダードとしての地位が下がっている。また侵襲的で強い疼痛や出血の小さなリスクも有している

 

非侵襲的な線維化評価がより多く行われるようになってきている。安価で患者の受容も良く、生検に比べ繰り返し行うことが可能である。肝超音波検査などは進行した肝硬変を同定することが可能だが、初期の肝硬変では感度が高くない

 

ステージングを行う非侵襲的画像アプローチが広く利用できるようになってきている

 

FibroScanは超音波に基づく画像手段で線維化の程度に相関する肝臓の硬さを測定する。Acoustic radiation force imaging (ARFI)とpoint shear-wave elastography (pSWE)はエラストグラフィック技術で既にある超音波システムに組み込まれている。ARFI/pSWEはベースライン評価の腹部超音波検査時に行われる場合もあり、FibroScanよりも利用しやすい地域もある。magnetic resonance elastography (MRE)はMRIに基づく肝線維化を評価する手段で特殊なハードウェアとソフトウェアをインストールする必要があるが、超音波ベースのアプローチに比べ進行した線維化や肝硬変の診断能力が高い

 

 

 

 

治療

 

進行を遅らせる方法は

アルコールの定期摂取は線維化進行との関連を認め、中等度の摂取でさえも悪い予後と関連する(24)。安全な摂取量が確立されていないため線維化が進行したあるいは肝硬変を有するHCV感染患者は禁酒が勧められる(2)

 

コーヒー摂取は線維化進行を遅らせ、肝細胞癌の発生率を下げるデータがある(25)

 

進行した肝疾患患者では腎障害および消化管出血のリスクがあるためNSAIDsは避けるべきである

 

一般的にアセトアミノフェンは1日2gを超えない限り安全とみなされている

 

スタチンは肝疾患患者に安全に使用でき、肝細胞癌や肝非代償および死亡を減らす可能性があると考えられている(26, 27)

 

A型肝炎に対するワクチンを慢性肝疾患患者、特に慢性C型肝炎の患者に施行することが推奨されている。両ウイルスの重複感染がより重篤な肝障害をきたす可能性があるからだ

 

肝硬変患者では感染リスクが高まるため、肺炎球菌および毎年のインフルエンザワクチン摂取を行うべきである

 

HIVあるいはHBVが陰性のHCV感染患者では重複感染を予防することが重要である。HBV感染はワクチンによって防ぐことができる

 

選ばれたHCV関連の肝硬変患者では上部消化管内視鏡による食道静脈瘤のスクリーニングが推奨される(28)

 

すべての肝硬変患者では肝画像検査(通常超音波であるが、造影CTあるいは造影MRIも使用される)とαフェトプロテイン血液検査による肝細胞癌のスクリーニングを、治癒が達成された後でさえ、6ヶ月毎に行う必要があ(3, 29)

 

 

 

すべてのactive HCV感染患者において抗ウイルス治療は利益があるとのコンセンサスが得られているが、ウイルスの根絶によって状態が変わらない生命予後の短い患者は例外となる(2)

 

 

 

 

治療前検査

治療前血液検査はHBcAb IgG、HBsAg、HBsAb、HCV RNA、血算、総生化学、推定GFR、妊娠テスト(現在のすべてのdirect-acting antiviral (DAA)治療は妊娠カテゴリーCとされている)が含まれる

 

genotypeテストは多くの患者では必要とされないが、genotype 3 感染の肝硬変患者の治療選択にウイルスの抵抗性を調べる必要があるため、ウイルスgenotypeテストは肝硬変患者、特に非代償性肝硬変患者では有用となる

 

肝硬変でgenotype 3 感染が確認された患者ではnonstructural protein 5A (NS5A) viral resistance mutationsを調べなくてはならない

 

 

 

薬剤相互作用

線維化の評価に加え、患者が服用する全ての処方薬と市販薬を確認する必要がある。起こりえる薬剤相互作用をLiverpool HEP Drug interaction toolで調べることが可能である(http://www.hep-druginteractions.org/)。考慮すべきことの主なものには、アミオダロンはソホスブビルが含まれるレジメンと共に投与されると重度の徐脈を起こす可能性、カルバマゼピン、オクスカルバゼピン、フェノバルビタール、フェニトイン、リファンピン、チプラナビル、St.John's wortなどの強いシトクロムP450誘導剤は有効血中濃度を下げる可能性、スタチンはプロテアーゼ阻害剤と共に投与されるとtoxic levelを上げる可能性、エチニルエストラジオールを含む避妊薬と特定の化学療法薬はプロテイン阻害剤によって濃度が高められる可能性、プロトンポンプ阻害剤は特定のNS5A阻害剤の吸収を抑制する可能性、などがある

 

 

 

治療レジメンの選択

肝硬変の有無、以前の治療の有無が治療レジメン選択決定の要となり、リバビリンを追加するか、あるいは治療を延長するかを決定する。また選択は服用薬剤との薬剤相互作用を最小化することや服薬数負担を減らすことなども考慮して行われる

 

承認されているDAAには3つの成分がある。NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤、NS5A阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤である。投薬量が固定された合剤には2〜3剤が含まれる。単剤治療では速やかに起こるウイルス抵抗性のために有効でなくなるため合剤治療が必要となる

 

抗HCV治療剤の中で最も安全性が低いため、ペグインターフェロンはもはや使用されない

 

リバビリンも既に有用性が低くなっているが、必要となる場合もある

 

 

 

特定の患者における考慮

 

HIV/HCV重複感染

HIVとHCV重複感染患者におけるDAA治療の成功率と耐容性はHCV単独感染者と同等である(30, 31)。HIV/HCV重複感染で考慮すべきことはHCV DAAと抗レトロウイルス治療の薬剤相互作用である。スタディでは正しく組み合わされた場合は抗HCV DAAはHIV抑制を阻害しないと報告されている

 

 

HBV/HCV重複感染

重複感染の患者ではC型肝炎ウイルスは通常B型肝炎ウイルスの複製を抑制する。したがってHCV抑制はHBV再燃(HBV reactivation: HBVr)を起こす可能性がある。HBsAg陽性の患者はHCV治療中および治療後にHBVに対するDAA(エンテカビル、テノホビル)にて治療される必要がある。HBsAg陰性でHBcAb陽性の患者のHBVrのリスクは1%以下であるがHCV治療数年後に起こる場合もある(32)。これらの患者はHCV治療終了後少なとも24週間はHBVrをモニターする必要がある

 

 

非代償性肝硬変

肝非代償の患者ではインターフェロンに基づく治療は危険であるが、プロテアーゼ阻害剤を含まない経口レジメンは高い効果を持って安全に投与できるかもしれない(33)

非代償性肝硬変患者の治療は肝臓専門医にて、理想的には肝移植センターで行われることが望ましい。治療前に肝移植の適応が評価される必要がある。患者が肝移植の適応があり肝非代償性が強い場合は肝移植後まで抗ウイルス治療を延期することが適切な場合もある

 

 

慢性腎臓病

慢性腎臓病ステージ4あるいは5の患者もいずれのstandard first-line DAAにて治療を行うことができる。透析およびHCV陰性ドナーからの長い待機期間より死亡率が高いことから治療を移植後に延期することが適切であるかもしれない

 

 

 

HCV治療の効果

ソホスブビル/ベルパタスビル、ソホスブビル/ベルパタスビル/ボキシラプレビル、ピブレンタスビル/グレカプレビルがすべての主要なHCV genotypeの治療としてFDAに承認されている(34)。未治療で非肝硬変患者のどのgenotype感染患者へも効果は95%を超える

 

ソホスブビル/ベルパタスビル

ASTRAL-1試験では121人の代償性肝硬変を含むgenotype 1, 2, 4 ,5, 6で未治療あるいはインターフェロン治療を経験している患者624人に対し12週間のソホスブビル/ベルパタスビル1日1回投与を行った結果99%で効果を認めた。重篤な副作用は治療薬を投与された2%の患者で認められた。プラセボ投与を受けた116人の患者では1人もSVRが達成されなかった(35)

 

ピブレンタスビル/グレカプレビル

ENDURANCE-1試験ではgenotype 1で、未治療の(62%)あるいは以前にインターフェロンベースのレジメン治療を受けた(38%)、患者703人が無作為に抽出され8週間あるいは12週間のピブレンタスビル/グレカプレビルが投与されて行われた(36)。SVR率は8週間および12週間グループでそれぞれ99.1% (CI, 98%-100%) および99.7% (CI, 99%-100%)であった

 

ソホスブビル/ベルパタスビル/ボキシラプレビル

ソホスブビル/ベルパタスビル/ボキシラプレビルは初回レジメンあるいは以前の治療後に再発した患者に投与される。POLARIS-2とPOLARIS-3試験では34%の肝硬変を含む611人の未治療患者にソホスブビル/ベルパタスビル/ボキシラプレビルが投与されて行われた。12週間治療によるSVR率はすべてのgenotypeにおいて95〜98%であった(37)

 

 

 

治療の安全性

ペグインターフェロンとリバビリンは様々な副作用や禁忌を認める。これらの薬剤を含むレジメンは現在では使われることが少なくなっている(38)

 

ペグインターフェロンやリバビリンを含まない抗ウイルスレジメンも倦怠感、頭痛、嘔気などの副作用を認める。これらが認められるのは比較的少なく一時的で、持続したりあるいは重度で治療中止しなければならないことは稀である(39)。非代償性肝硬変ではプロテアーゼ阻害剤を含むレジメン(ピブレンタスビル/グレカプレビル、ソホスブビル/ベルパタスビル/ボキシラプレビル、グラゾプレビル/エルバスビル)などは避けるべきである

 

 

 

治療中のモニタリング

外来受診や電話による抗ウイルス薬治療中のアドヒランスモニタリングは有用である。糖尿病患者では抗ウイルス治療がインスリン抵抗性を改善させ、低血糖をきたす可能性があるためカウンセリングを行う必要がある。ワーファリン治療中の患者ではINRの変化をきたす可能性があり、投与量を調整する必要があるかもしれない。それら以外ではDAAは非常に安全な薬剤であり、特定の血液検査にてモニターする必要はない。HCV RNAは治療開始4週間後にアドヒランスの指標として評価することが可能で、HCV RNAはほぼ全例で検知されない、あるいは非常に少ない量が検知される。高量検知される場合はアドヒランスが最適でないことが示唆される。B型肝炎ウイルスに暴露歴のある患者(HBcAb陽性、HBsAg陰性)ではHCV血症が改善した後にHBVrの小さなリスクがあり、DAA治療終了12週間後および24週間後に再燃の評価(HBsAg)を行わなければならない(32)

 

 

 

治療終了後のモニタリング

肝硬変発症前にSVR(治癒)を達成した患者では治療後に肝臓関連のモニタリングを行う必要はない。肝硬変を認める患者では6ヶ月毎の超音波およびαフェトプロテインによる肝細胞癌のサーベイランスを行い続ける必要がある

 

SVRの持続性は大きな前向き試験で確認されており、5年のフォローアップにおいてHCV RNA陰性が99%以上で持続した。治療成功後に再感染のリスクファクターがある患者では年毎のHCV RNA評価が必要になる

 

慢性C型肝炎のよく見られる症状の倦怠感は抗ウイルス治療成功後に改善するかもしれない(40)

 

SVRは肝臓の炎症減少およびALT値の正常化との関連を認める。SVR後にALT上昇が持続する場合はさらなる検査が必要かもしれない

 

肝酵素値正常化後の新たな上昇は再燃(通常治療終了後12週間以内)か再感染(治療終了後いつでも起こりえる)かを決定するためHCV RNAテストを行う必要がある

 

 

 

 

 

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インザクリニック

2020年9月1日

アナルズオブインターナルメディシン

 

 

 

慢性閉塞性肺疾患

 

慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease (COPD))はよく見られる予防および治療が可能な疾患で、持続的な呼吸症状と肺活量測定によって確認される進行的な気道閉塞を特徴とし、有害な粒子やガスに対する肺の異常な炎症反応と関連する(1-5)

 

COPDは4億人に近い人が罹患し、世界で3番目に高い死因となっている(6, 7)

 

米国ではCOPDによる死亡数が2000年以来男性より女性の方が多くなっている。実際、米国におけるCOPDの年齢調整死亡率は1999年から2014年の間で男性では減少したが、女性では同期間において死亡率が維持されている(8)

 

COPDの最たる原因は喫煙であるが、25%にのぼるまでの人に喫煙歴が認められない(9)

 

大気汚染、化学煙霧、粉塵、また暖炉で燃やされる木材などバイオマス燃料から発生するものなどの肺刺激性物質への長期暴露もCOPDの起因となるかもしれない

 

稀な遺伝子疾患、α1 -アンチトリプシン欠損症も原因となる

 

 

 

スクリーニング

 

リスク

発症するためには原因物質の吸入が十分な量および期間が必要となるため40歳以下でCOPDが発症することは少ない

 

およそ80%が喫煙に起因する。喫煙者が臨床的に重大なCOPDを発症するリスクは15%と言われているが、これは過小評価されてるかもしれない(10)

 

非喫煙者のリスクファクターはバイオマス燃料、大気汚染、間接喫煙、蒸気・ガス・粉塵・煙などへの職業的暴露、喘息、妊娠中の母親の喫煙、低出生体重、小児期の呼吸器感染歴などである(11, 12)

 

遺伝因子もCOPDの罹患しやすさに関連し、最もよく知られているのがα1アンチトリプシン欠損である

 

 

無症状患者へのスクリーニング

無症状の患者にスパイロメトリーによるスクリーニングを行うことを支持するエビデンスはない

 

U.S. Preventive Services Task Forceは無症状患者へCOPDのスクリーニングを推奨していない(13)

 

しかし疫学的データではCOPDが診断不足であることが示されている(14)

 

さらには多くのCOPDを有する患者は症状を報告しないが、実際、症状を避けるあるいは最小限にするため日常身体活動を制限していたり、あるいは症状を体調不良や年齢のせいにしている場合もある

 

呼吸プライマリケアクリニックにおける患者報告による5つの簡単な質問と呼気ピークフローの選択的な使用によって、COPDのさらなる診断的評価が必要な患者が同定できたと報告されている(15)

 

 

 

 

 

 

 

診断

 

いつ診断を考慮するか

リスクファクターを有する40歳以上の成人で、息切れ、咳嗽、喀痰などの慢性的な呼吸症状を訴える場合はCOPDの診断を考慮しなければならない

 

COPDは”不均質な”コンディションであることを認識する必要があり、ある患者は粘液の過剰産生による慢性咳嗽(慢性気管支炎)が主要症状であり、一方で肺過膨張による進行的な呼吸困難(肺気腫)が主な症状の場合もある

 

 

 

呼吸機能検査の診断的役割

関連するリスクファクターと慢性呼吸症状の存在に加え、気管拡張剤投与後のFEV1-FVC ratioが0.70以下であることがCOPDの診断に必要である(1)

 

いったん診断が確定すれば、予測FEV1パーセンテージが肺機能障害の重症度に関する情報を提供する。軽度(FEV1≧予測値80%)、中等度(FEV1 予測値50-79%)、重度(FEV1 予測値30-49%)、最重度(FEV1<予測値30%)と分類される

 

予測FEV1パーセンテージは死亡率との強い関連を認め、COPDの長期予後予測として妥当性が確立しているBODE(Body mass index、airflow Obstruction、Dyspnea、Exercise capacity)の1つの要素となっている(16)

 

肺活量、一酸化炭素拡散能(diffusing capacity for carbon monoxide (DLCO))などの他の呼吸機能検査も診断をサポートするかもしれないが必須ではない

 

 

他の検査

スパイロメトリー以外にCOPDの診断に必要な検査はない。しかし他のいくつかの検査も臨床的な表現型の特定およびマネージメントに、特に病状が進行している場合においては役立つかもしれない

 

動脈血液ガス試験は慢性的な高二酸化炭素血症を同定し、家庭での非侵襲的呼吸器治療が必要な患者の評価に有効である(17)

 

進行性に呼吸困難あるいは呼吸機能が悪化する、一酸化炭素拡散能が低下する、CTで重度の肺気腫を認める患者などでは6分間歩行試験を行い、労作による低酸素血症と長期酸素療法の適応に関する評価を行わなければならない

 

血算での好酸球数は吸入コルチコステロイド(inhaled corticosteroid [ICS])の開始および中止を決定する判断の助けとなるかもしれない。好酸球数値の高い患者では一般的に吸入ステロイドによく反応するからである(18)

 

胸部CTスキャンはCOPD急性増悪を再発する場合や最大治療にかかわらず呼吸困難が持続する患者の評価に重要であり、肺血栓塞栓症の除外や気管支拡張症、肺線維症、肺腫瘍などの他に併存する肺疾患の評価を行うことができる(19)

 

COPDの発症が50歳以前、α1トリプシン欠損症の家族歴、認識されるリスクファクターがなく肺気腫、気管支拡張症、肝疾患、脂肪織炎を認める、あるいは重症度が原因物質の暴露の程度に一致しない場合などはα1トリプシン値の測定も考慮しなければならない(20, 21)

 

 

喫煙は呼吸機能悪化を促進するため、すみやかに禁煙を促すためにも、あるいはα1トリプシンの静脈投与によって呼吸機能およびCTで測定される肺濃度の低下を減少させられるため、その治療を考慮するためにもCOPD患者を同定することは重要となる(22)

 

 

考慮すべき他の疾患

喘息、気管支拡張症などの気道閉塞をきたす肺疾患を考慮しなければならず、またそれらはCOPDと併存する場合もある

 

またCOPD患者は冠動脈疾患、心不全、肺高血圧症、閉塞性睡眠時無呼吸、骨粗鬆症、うつ病、不安障害などの他の疾患の高いリスクともなる(23, 24)

 

 

喘息との鑑別

喘息とCOPDを鑑別することは難しい。どちらもスパイロメトリーにおいて気道閉塞が認められ同様な呼吸症状(呼吸困難、咳嗽、喘鳴)を有する

 

しかしいくつかの臨床的特徴がこれらを鑑別する助けとなりうる。一般的に喘息患者は喫煙者であることが比較的少なく、若いうちから発症し、症状の変動を経験し(日中と夜間、日毎、季節毎)、ピークフロー測定によってもその変動が確認され、運動、寒冷、エアロアレルゲン(イエダニ、かび、花粉、ペット)などの症状発症の誘因を持ち、アトピーの既往歴あるいは家族歴の割合が高い

 

反対にCOPDでは発症が比較的遅く、重大な喫煙歴(20 pack-years以上)があることが多く、持続性の労作性呼吸困難および湿性咳嗽を有し、一般的に吸入薬への反応が安定しない

 

これらの両方の臨床的特徴を有する患者は喘息とCOPDが併存すると考えられる(25)

 

 

 

 

 

 

治療

 

禁煙

COPDを罹患している全ての喫煙者に禁煙を促す必要があり、外来受診あるいは入院の度にアプローチしなければならない

 

治療する医師のその継続性が禁煙チャンスを最大限にすることに欠かせない

 

禁煙は多くの臨床的利益があり、気管支拡張剤への反応を良くする、肺機能低下を減らす、死亡率を下げる、などが含まれる(26)

 

カウンセリングプログラムと薬剤治療を組み合わせることが禁煙を援助する最も効果的な方法である。薬剤治療のオプションにはニコチン治療(貼付剤、ガム、トローチ、経鼻スプレー、吸入剤)とブプロピオンやバレニクリンなどの経口剤がある(27)

 

 

薬剤治療へのアプローチ

気管支拡張剤、コルチコステロイドを含む吸入剤はCOPDマネージメントの要である

 

気管支拡張剤は短期作用型(短期作用型β2アゴニスト、短期作用型ムスカリンアンタゴニスト)と長期作用型(長期作用型β2アゴニスト(long-acting β2-agonist [LABA])、長期作用型ムスカリンアンタゴニスト(long-acting muscarinic antagonist [LAMA]))がある

 

Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD) ABCD staging systemに基づき、症状の重さおよび急性増悪のリスクが吸入剤治療をガイドしなければならない(1)

 

症状の重さはmodified Medical Research Council dyspnea severity scaleあるいはCOPD Assessment Test (CAT)(8つの症状を評価(www.catestonline.org))を用いて評価することができる

 

急性増悪のリスクは前年のその頻度と増悪の重症度によって規定される。推奨される初期吸入剤治療はGOLDグループAでは短期作用型気管支拡張剤、グループBでは1つの長期作用型気管支拡張剤(LABAあるいはLAMA)、グループCではLAMA、グループDでは1つのLAMAあるいは2剤(LAMA+LABA)あるいは吸入コルチコステロイド(ICS)とLABAの併用、とされている(1)

 

 

GOLD ABCDステージングによる初期治療ガイド

A:低いリスク、少ない症状/増悪年1回以下/CAT score<10/mMRC Dyspnea Scale Score 0-1

B:低いリスク、より多い症状/増悪年1回以下/CAT score≧10/mMRC Dyspnea Scale Score ≧2

C:高いリスク、少ない症状/増悪年2回以上あるいは入院年1回以上/CAT score<10/mMRC Dyspnea Scale Score 0-1

D:高いリスク、より多い症状/増悪年2回以上あるいは入院年1回以上/CAT score≧10/mMRC Dyspnea Scale Score ≧2

 

 

 

Modified Medical Research Council Dyspnea Scale

:強い労作の時のみ息切れがする

:平地で急ぐ時あるいはゆるやかな丘を歩く時に息切れがする(軽度)

:息切れのため平地では同年代の人よりゆっくり歩く、あるいは自分のペースで歩く時に息切れのために立ち止まる(中等度)

:平地でおよそ100ヤード(91m)、あるいは数分間歩いた後に息切れのために立ち止まる(重度)

:息切れのために外出できないあるいは着替えで息切れする(最重度)

 

 

 

COPD急性増悪診断基準と重症度

診断基準

日常の呼吸症状より強い

・呼吸困難の増悪

・喀痰の増量

・喀痰の膿性度上昇(黄色あるいは緑色)

重症度

軽度:短期作用型気管支拡張剤にて治療

中等度:短期作用型気管支拡張剤と抗菌薬とあるいは経口コルチコステロイドにて治療

重度:救急外来受診あるいは入院を要する

 

 

 

 

吸入器具と薬剤クラスはアクセス、使用の容易性、好みなどに基づいて個人毎に選択されるべきである

 

正しい吸入手技に関する教育を行うことが重要である。75%以上のCOPD患者が吸入の際に1つ以上の間違いを犯している、といわれている(28)

 

 

 

吸入気管支拡張剤

短期作用型気管支拡張剤の作用期間は3−6時間で、呼吸症状の改善のため必要に応じて使用される。逆に長期作用型気管支拡張剤は維持療法として呼吸困難の減少、肺機能の改善、急性増悪を減らすために毎日使用する必要がある(29)

 

LAMAはLABAより急性増悪の予防に効果がある(30)

 

 

LAMAとLABAの併用による気管支拡張治療は単剤よりも症状、肺機能の改善により効果的である(31)。したがって症状の強い患者(CAT score≧20)に併用療法を、あるいは単剤治療にて症状が持続する場合は併用治療にエスカレートすることを考慮する必要がある(1)

 

 

 

コルチコステロイド

Inhaled corticosteroid (ICS) はCOPDに単独では処方されず、長期作用型気管支拡張剤との併用で使用される

 

LABAとICSの併用は健康状態、肺機能、急性増悪の頻度に関して単剤治療よりも効果が大きい

 

症状が重く急性増悪の頻度が高い(GOLDグループD)、特に喘息と合併している、あるいは血中好酸球数が0.300×10⁹cells/L以上の場合には、LABAとICSの併用を初期治療として考慮する必要がある(1)。スタディでは血中好酸球数が高い場合、ICSが急性増悪の予防により効果的であることを示している(18)

 

LABA、LAMA、ICSの3剤治療はLABA/LAMAあるいはLABA/ICSの併用治療よりも症状および肺機能の改善、急性増悪の頻度を減らすことに効果的である(32)

 

ICSは肺炎、非結核性抗酸菌感染、口腔カンジダ、あざができやすい、などの有害事象のリスクを高めることを認識している必要がある。したがってICS治療を受けているCOPD患者のリスクと利益を定期的に評価することが大切である

 

COPD患者でICS中断による臨床アウトカムを評価したスタディでは混合するデータが得られている。3剤吸入治療を受けている急性増悪頻度の高くない患者ではLABA/LAMA併用治療に変更した場合、肺機能のわずかな低下が認められたが、増悪頻度に違いはなかった(33)。しかしベースライン血中好酸球数が0.300×10⁹cells/L以上のサブグループでは肺機能のより大きな低下および急性増悪頻度の増加が認められた。これらの結果より、ICSを継続あるいは中断する判断は急性増悪の頻度、有害事象、血中好酸球数などの鍵となるさまざまな因子を考慮に入れた上で行う必要がある

 

経口コルチコステロイドは期間を限定した急性増悪治療のために控えておく必要がある。一般的に安定した患者では経口ステロイドの長期投与は避けるべきである。利益が限られた上、骨粗鬆症などの有害事象のリスクが高いからである

 

 

 

経口治療剤の追加

COPD急性増悪は疾患の自然経過において有害なイベントであり、QOLの低下、肺機能の損失、死亡率の上昇との関連を認める。したがってそのようなイベントの予防がCOPDマネージメントの重要な要素となる。最大吸入治療を受けていて急性増悪を繰り返す患者では予防のためにアジスロマイシンあるいはロフルミラスト長期投与の追加を考慮する必要がある

 

多施設RCTでは過去に喫煙歴があり急性増悪リスクの高い1142人のCOPD患者が評価された。通常治療にアジスロマイシン250mg 1日1回投与とプラセボ投与がそれぞれ追加されたグループに割り当てられ1年間追跡された(34)。アジスロマイシン投与を受けたグループの最初の急性増悪までの期間中央値が266日であったのに対し、プラセボグループは174日であった(P<0.001)。聴覚障害をきたしたのはアジスロマイシングループの25%、プラセボグループでは20%であった(P=0.04)

 

ホスホジエステラーゼ4阻害剤であるロフルミラストは急性増悪のリスクが高く、FEV1が予測値の50%以下で慢性気管支炎型の患者における中等度から重度の急性増悪の頻度を減らすことが証明されている(35)

 

テオフィリンは弱い気管支拡張作用を有する経口剤である。効果が比較的弱く、狭い治療域、他の薬剤との相互作用、有害事象(嘔気、嘔吐、頻脈性不整脈、痙攣)などのために、一般的には使用が推奨されない

 

 

 

予防接種

Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)はインフルエンザと肺炎球菌のワクチン接種をCOPDを含む慢性呼吸器疾患を有する患者に推奨している

 

インフルエンザワクチンは急性増悪の頻度を減らすため全てのCOPD患者が毎年接種すべきである(36)

 

19−64歳の喫煙者あるいはCOPD患者は23-valent pneumococcal polysaccharide vaccineを接種すべきであり、前回の接種から5年以上あいていれば65歳で再接種する必要がある(37)

 

ACIPは65歳以上の成人に13-valent pneumococcal conjugate vaccine (PCV13)接種をもはや推奨していない。広く普及している小児へのPCV13ワクチンによってPCV13血清型による感染が著しく減少したからである(38)

 

PCV13ワクチンの適応には侵襲的肺炎球菌感染、免疫不全状態、無脾症、脳脊髄液漏、人工内耳植え込みなどがある

 

 

急性増悪

急性増悪は細菌あるいはウイルスの気道感染、環境的刺激物質(高い湿度、冷たい空気、エアロアレルゲン)への暴露、肺血栓塞栓症などに続いて起こることが多い(19)

 

速やかな診断がマネージメントとして重要である。作用オンセットが速いため短期作用型気管支拡張剤が急性増悪治療の中心を担う。追加的なマネージメントには抗菌薬や経口コルチコステロイドの開始、入院必要性の評価などが含まれる

 

COPD急性増悪の症状は特異的でないため、急性心筋梗塞、肺炎、不整脈、心不全増悪などの鑑別疾患を考慮する必要がある

 

外来におけるCOPD急性増悪患者には抗菌薬処方を考慮する必要がある。いくつかのスタディでは抗菌薬治療によって治療の失敗を減らし、急性増悪が起こる間隔を長くすることが確認されている(39)

 

膿性喀痰の存在は抗菌薬治療による利益が得られる可能性を最も高める(40)

 

急性増悪の重症度と肺機能障害の程度も抗菌薬を投与するかの重要な判断材料となる

 

COPD急性増悪の実際の誘因は不明である場合が多い。したがって抗菌薬治療はもっともよく見られる細菌をカバーする必要がある;ヘモフィルスインフルエンザ、肺炎球菌、モラクセラカタラーリスなどである。また以前の治療への反応や地域の耐性パターンも考慮にいれる必要がある(41)

 

抗菌薬のオプションにはβラクタム/βラクタマーゼ阻害剤、第2あるいは第3世代セファロスポリン、マクロライド、フルオロキノロン、テトラサイクリン、トリメトプリム−サルファメトキサゾールが含まれる

 

経口コルチコステロイドは中等度から重度の急性増悪に対し強く考慮される必要がある。急性増悪に対する経口あるいは静注コルチコステロイド投与が治療の失敗の可能性を下げ、1ヶ月間における再発を減らすことがいくつかのスタディによって認められている(42)。これらのスタディでは症状や肺機能のより早い改善、入院期間の短縮なども示されている

 

コルチコステロイドの静注投与と経口投与の両者では治療の失敗率、再発、死亡率に違いを認めるエビデンスはない。静注および経口ステロイド両方において副作用が認められるが、経口治療の方がより軽度であるため好ましい

 

救急外来受診したCOPD急性増悪患者314人において行われたRCTでは5日間と14日間の経口コルチコステロイド投与において6ヶ月間での急性増悪再発に違いが認められなかった(43)。この結果はICU入院を必要としない患者へのプレドニゾン40mg/日5日投与の一般的治療法をサポートする

 

急性増悪の外来マネージメントに適切な反応を示さない患者がいることを認識している事が重要である。これらの患者では入院による非侵襲的あるいは挿管による呼吸器治療を必要とする可能性もある

 

 

COPD急性増悪による入院適応

・突然悪化する安静時呼吸困難、高い呼吸数、酸素飽和度低下、混乱、意識レベル低下などの重度の症状

・急性呼吸不全

・新たな身体所見(チアノーゼ、末梢浮腫)

・急性増悪初期治療への反応を認めない

・重大な併存疾患(心不全、新たに発症した不整脈)

・診断不明

・家庭でのサポートが十分でない

 

 

 

 

リハビリテーション

呼吸リハビリテーションはエクササイズトレーニング(エアロビックと筋力トレーニング)、教育、心理的カウンセリング、栄養カウンセリングを含む様々な介入からなる学際的なケアプログラムである

 

症状を有する全てのCOPD患者に治療の一環として呼吸リハビリテーションを推奨すべきである。最も利益が得られるのはCOPDによってQOLが障害されている、生活を制限する息切れおよび不安を経験している、強化的な教育およびエクササイズプログラムに積極的に参加する意思のある患者などである(1, 3)

 

計3822人のCOPD患者を評価した65のRCTの2015年コクランコラボレーションレビューでは呼吸リハビリテーションが呼吸困難を減らし、運動耐容能を増やし、健康関連QOLを改善したと報告している(44) 。1477人の患者を評価した他のコクランコラボレーションレビューではCOPD急性増悪後の呼吸リハビリテーションによる再入院および死亡率に対する効果は混合しており、いくつかのスタディでは利益を認めたが、他では認められなかった(45)

 

 

 

他の付随的治療法

付随的な治療もよく行われるが、その有効性をサポートするエビデンスは少ない

 

flutter valve deviceの使用や胸部理学療法は慢性気管支炎あるいは併存する気管支拡張症患者の喀痰排出を促し、呼吸困難感を軽減するが、過剰な喀痰産生がない状況ではその有効性が限られている

 

 

 

酸素療法

重度の安静時低酸素血症を認める患者に対する長期酸素療法は死亡率を減少させる(46, 47)。したがって中等度から重度のCOPD患者は定期的に酸素投与必要性の評価を行う必要がある

 

30分room airで呼吸した後にPaO2を測定することが酸素治療開始の最も正確でスタンダードな方法である

 

パルスオキシメトリーを長期酸素治療必要性の評価および酸素投与量の調整のために使用することができる

 

長期酸素治療が適応となれば、1日最低15時間以上、理想的には24時間使用することが推奨される

 

 

長期酸素治療の適応

安静時room airにて評価

・SaO2 ≦ 88%  

あるいは

・PaO2 ≦ 55mmHg

運動時にて評価

・SaO2 ≦ 88%あるいはPaO2 ≦ 55mmHg

かつ

・酸素投与による運動時低酸素血症の改善を確認

睡眠時に評価

・SaO2 ≦ 88%あるいはPaO2 ≦ 55mmHg 睡眠時に5分以上認める

あるいは

・SaO2 5%以上の低下あるいはPaO2 10mmHg以上の低下が低酸素血症に起因する症状や症候(認知機能低下あるいは落ち着きのなさ)を伴って5分以上認める

 

心不全、肺高血圧/肺性心、赤血球増加を有する患者では安静時、運動時、睡眠時にSaO2 ≦ 89%あるいはPaO2 56-59mmHgを満たせば酸素治療開始の適応となる

 

 

 

 

COPDで重度の安静時低酸素血症を有する患者では長期酸素治療による死亡率の低下が確認されているが、中等度の安静時低酸素血症あるいは運動時低酸素血症の患者においては生命予後に対する利益が認められていない。よってこれらの患者では酸素治療開始の判断を患者と意思決定の共有を行う必要がある

 

 

 

肺容量減少手術

Lung volume reduction surgery (LVRS)は罹患部位あるいは機能していない気腫性肺実質を30%にのぼるまで切除を行い、残存する肺がより機能することを促す手術である

 

これはCOPD患者で呼吸リハビリテーションを終了し以下の基準を満たす場合に考慮される;1)胸部CTにて両側上葉優位の気腫性変化を認める、2)全肺気量と残気量がそれぞれ予測値の100%および150%以上、3)気管支拡張剤投与後のFEV1が予測値の45%以下、4)room airにてPaCO2 60mmHg以下でPaO2 45mmHg以上

 

 

FEV1が予測値の20%以下でCT上均一な気腫性変化あるいはDLCOが予測値の20%以下の場合はLVRSが考慮されない。それによる利益がなく、術後死亡率が高いからである(48)

 

上葉優位の気腫性変化、低運動耐容能、重度の症状を持つ限られた患者においてLVRS後の症状の改善および運動耐容能上昇を伴う死亡率低下が認められる(48)

 

 

気管支鏡的肺容量減少術

選択的に気道に弁を留置して気腫性変化をきたした部位に無気肺をつくる気管支鏡的アプローチによる肺容量減少術が発達してきている。2つの弁デバイスが2020年1月16日にFDAによって承認されている。bronchoscopic lung volume reduction (BLVR)の患者選択は2つをのぞいてLVRSと同様である。気腫性変化の領域は上葉優位である必要がなく、弁留置によって無気肺をつくるためのターゲットとなる肺葉に関わる間裂は完全である必要がある

 

BLVR後の気胸合併率は30%にまでのぼる

 

BLVRによる長期予後はまだわかっていない

 

多施設RCTにてターゲットとなる肺葉にcollateral ventilationがない重度COPD患者に対するZephyr Endobronchial Valve (Pulmonx)の安全性および効果が評価された。12ヶ月の期間において標準治療に比べ治療グループにて肺機能、運動耐容能、呼吸困難、QOLで有効性が認められた(49)

 

 

肺移植

COPDに特異的なガイドラインでは薬剤、呼吸リハビリテーション、酸素治療の最大治療にもかかわらず病状が進行し、肺容量減少術の適応にならず、BODE index scoreが5-6、PaCO2が50mmHg以上、PaO2が60mmHg以下、FEV1が予測値の25%以下の患者では肺移植チームへの紹介が推奨されている(50)

 

COPDに対する単肺あるいは両肺移植に関する議論が続いている。両肺移植が生命予後(51, 52)および機能改善(53)に優位であると報告するスタディがある一方で、生命予後は同等で、単肺移植の方が術後合併症が少なく、移植待機期間による生命予後が良いとする報告もある(54)

 

肺移植が成功すれば肺機能、運動耐容能、QOL、およびおそらく生命予後が改善する(2)

 

慢性移植片拒絶(閉塞性細気管支炎)が長期合併症および死亡の最たる原因であり、その率は25−55%にのぼる

 

 

 

 

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インザクリニック

2020年8月4日

アナルズオブインターナルメディシン 

 

 

 

 

 

甲状腺機能低下症

 

甲状腺機能低下症は甲状腺が末梢組織の需要に見合うだけの十分な甲状腺ホルモンを産生できない状態である

 

原発性甲状腺機能低下症は甲状腺自体の疾患による甲状腺不全を指し、全ての甲状腺機能低下症の99%以上を占める(1)

 

原発性甲状腺機能低下症は基準範囲よりも甲状腺刺激ホルモン(TSH: thyroid-stimulating hormone)が高く、サイロキシン(thyroxine: T4)が低い場合に顕性と定義される。潜在性甲状腺機能低下症は機能不全がより軽度で、TSHが軽度から中等度上昇するが、T4が正常範囲にあるものとされる

 

顕性甲状腺機能低下症の有病率はアメリカでは0.3〜3.7%、ヨーロッパでは0.2〜5.3%である(1, 2)

 

甲状腺機能低下症の有病率は年齢とともに上がり、女性、他の自己免疫疾患を有する、ダウン症候群、ターナー症候群などでより多く認められる(1)

 

潜在性甲状腺機能低下症はより有病率が高く、およそ3〜15%とされている(3)

 

アメリカにおける成人の原発性甲状腺機能低下症の最も多い原因は慢性リンパ球性甲状腺炎(橋本甲状腺炎)、放射性ヨウ素アブレーション、甲状腺摘出術、高量の頭頸部放射線治療などである

 

世界においては地域に起因する重度のヨウ素欠乏が最も一般的な原因である(1)

 

非自己免疫性浸潤疾患(アミロイドーシス、ヘモクロマトーシス)も頻度は少ないが原因となる

 

多くの薬剤が甲状腺機能を障害し、原発性甲状腺機能低下症の原因となる(4)

 

甲状腺機能低下症は3つのタイプの破壊性甲状腺炎の回復期にも一時的に認められる;出産後甲状腺炎、無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎

 

中枢性甲状腺機能低下症(二次性甲状腺機能低下症)は甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンと、または甲状腺刺激ホルモンの産生を障害する視床下部あるいは下垂体疾患によって起こる(1, 5)。最もよくみられる原因は腫瘍、手術、放射線治療、出血、感染、浸潤性疾患、外傷性脳損傷、薬剤などである(4, 5)

 

 

スクリーニング

 

リスク

原発性甲状腺機能低下症のリスクが上がるのは、甲状腺ホルモン不全の症状がある、甲状腺腫、甲状腺疾患あるいは治療歴、1型糖尿病、副腎不全、セリアック病、尋常性白斑、などの自己免疫性疾患、などを有する場合である

 

薬剤で原発性甲状腺機能低下症のリスクを高めるものは、アミオダロン、ヨウ素サプリメント、リチウム、インターフェロンα、免疫チェックポイント阻害剤(イピリムマブ、ニボルマブ)、アレムツズマブなどがある(4)

 

中枢性甲状腺機能低下症のリスクを高めるのは、下垂体手術、放射線治療、外傷性脳損傷や、グルココルチコイド、ドパミン、オクトレタイド、ベクサロテン、ミトタンなどの薬剤である(4)

 

 

 

上記のリスクを有する患者をスクリーニングすることは適切である。しかし、すべての人をルーチンにスクリーニングすることは推奨されてない。無症状で軽度の甲状腺機能低下症を診断することおよび治療することに利益があることを示すエビデンスが不十分であるからだ。にもかかわらず特定のスクリニーングの推奨が学会毎に大きく異なっている(1, 6, 7, 8)

 

 

血清TSH測定が甲状腺機能低下症の検知に最も適する方法であり、99%以上の甲状腺機能低下症が原発性であり、TSH上昇が最初の血液検査異常として認められる(1)。中枢性甲状腺機能低下症が疑われる場合は、TSH産生が正常に行われないため血清free T4の測定が適切となる

 

 

 

 

 

診断

 

症状

甲状腺機能低下症の患者が経験する症状は多くが非特異的で、甲状腺機能低下症以外でも起こるものが多い

 

1997年のスタディでは顕性甲状腺機能低下症の患者がよく経験するのは、皮膚乾燥(76%)、寒冷不耐性(64%)、肌荒れ(60%)、眼瞼浮腫(60%)、発汗低下(54%)、体重増加(54%)、感覚異常(52%)、cold skin(50%)、便秘(48%)であるとされた(9)

 

2014年のスタディでは倦怠感(81%)、皮膚乾燥(63%)、呼吸困難(51%)、情動不安定(46%)、便秘(39%)が多いと報告された

 

甲状腺ホルモン不全の程度が上がるにつれて症状の数およびその重症度が上がる傾向があるが、 生化学的値の異常が強い場合でも無症状あるいは症状が軽度である患者も見られる

 

甲状腺機能低下症の患者は精神科疾患と診断され、抗うつ剤、抗不安剤、抗精神科剤などで治療されることが多く見られる(10)

 

高齢者の患者では典型的な症状が少ない傾向で、その世代では倦怠感や衰弱などが最も目立つ特徴がある(11)

 

中枢性甲状腺機能低下症では原発性と症状が同様であるが、視床下部ー下垂体疾患の症状や兆候が認められるかもしれない。腫瘍による症状、他のホルモンの過剰あるいは不全、感染、炎症などである(5)

 

 

 

身体所見

身体所見も同様に非特異的な傾向があり、わずかか、あるいは欠如する場合もある

 

最もよく認められるのは粗い肌、皮膚乾燥、脱毛、眼瞼浮腫、嗄声、動作緩慢などである(9, 12)

 

深部腱反射遅延は典型的身体所見であり、myoedema(筋腫脹)も時折見られる

 

甲状腺腫、あるいは甲状腺摘出後の手術痕なども重要なサインである

 

一般血液検査異常も診断的ではないが、甲状腺機能低下症を示唆するものがある;低ナトリウム血症、大球性貧血、クレアチニンキナーゼ上昇、などがよく見られる所見である

 

甲状腺機能低下症はすべての脂質とリポ蛋白質(総, LDL, HDL, TG, lipoprotein)上昇を伴う混合型高脂血症の原因ともなる(13)

 

閉塞性無呼吸もおよそ30%の顕性甲状腺機能低下症患者に認められたと報告されている(14)

 

 

血液検査 

血清TSH測定が原発性甲状腺機能低下症を最もよく検知する試験である

 

TSH高値はほとんどの場合が原発性甲状腺機能低下症であり、それが正常の場合は甲状腺機能が正常であることを強く示唆する

 

TSHは日内変動があり、午後の遅い時間および夜間に最も高くなる(1)

 

年齢が上がることも、甲状腺機能が正常に見える人の自然なTSH上昇との関連が認められている(15)

 

TSHの上昇が認められれば、free T4とともにTSHを再測定して顕性(free T4低値)あるいは潜在性(free T4正常)甲状腺機能低下症が存在するか評価する必要がある

 

多くの状況では甲状腺機能低下症の患者においてtotal T3あるはfree T3を測定する必要はない。甲状腺機能低下症患者では脱ヨウ素酵素活性によって循環しているT3は比較的よく保たれているからである。したがってT3測定を行ってもTSHとfree T4によって得られる甲状腺機能低下症の重症度に関する追加的な情報が提供されることはない

 

 

抗甲状腺ペルオキシダーゼ(anti-TPO)抗体と抗サイログロブリン抗体の存在は甲状腺機能不全の原因が橋本甲状腺炎であることを示す。しかし成人における甲状腺機能低下症は医原性あるいは薬剤性でない場合はほとんどが橋本甲状腺炎であるため米国甲状腺学会(American Thyroid Association)と米国臨床内分泌学会(American Association of Clinical Endocrinologists)は甲状腺抗体の測定を推奨していない(6)

 

甲状腺超音波検査は橋本甲状腺炎では通常低信号パターンを示す(1)が、触診あるいは他の画像検査によって偶然1つあるいはそれ以上の結節を認める場合以外は甲状腺機能低下症において甲状腺画像検査は推奨されない

 

中枢性甲状腺機能低下症の診断は原発性に比較して難しくなる

 

TSHが低値あるいは正常低値で甲状腺機能低下症症状を認める患者、特に視床下部ー下垂体疾患を有する患者においてfree T4低値が確認されれば中枢性TSH不全が示唆される(1, 5)

 

中枢性甲状腺機能低下症とnonthyroidal illness syndromeを鑑別することは困難である。その場合はtotal T3とreverse T3(RT3)の測定が有用であるかもしれない。TSHは通常両者において低値あるいは正常低値であるが、中枢性甲状腺機能低下症ではT4がT3に比較してより低値であり、RT3も低値である一方で、nonthyroidal illnesssではT3がT4に比べ低値でありRT3が上昇する傾向にある

 

 非甲状腺疾患の回復期にはTSHが軽度に上昇することが見られるかもしれない(16)。もしTSHが軽度上昇している患者で最近病気になったり入院したことがある場合はTSHを6〜8週間後に再度評価する必要がある

 

 

 

 

 

潜在性甲状腺機能低下症

潜在性甲状腺機能低下症ではTSHが上昇しfree T4あるいはtotal T4が正常範囲にある(1, 3)

 

TSH上昇は血清T4濃度が正常より低値であることを示唆する。上昇したTSHが甲状腺を刺激し、代償して適切な量に近い甲状腺ホルモンを産生しようとする

 

潜在性甲状腺機能低下症が顕性甲状腺機能低下症に進展するのはおよそ2〜6% of patients per yearである(3)。進展率は抗TPO抗体陽性(2〜3倍)およびTSHがより高値でfree T4がより低い患者で高くなる(3)

 

TSH上昇が7mU/L以下までの患者の46%までにおいて2年以内にTSHが正常化することは留意しておく必要がある(3)

 

潜在性甲状腺機能低下症は無症状あるいは非特異的症状であることが多い。一つのスタディではTSHが4.1〜9.9mU/Lにある患者942人、TSHが10mU/L以上の患者70人、甲状腺機能正常のコントロール群8334人を比較した結果、health-related QOL scoreが甲状腺機能低下症と正常グループ間で有意差が認められなかった(17)

 

潜在性甲状腺機能低下症はたとえ無症状であっても、冠動脈疾患、心不全、死亡率のリスク上昇と、特に比較的若い患者(65歳以下)でTSHが10mU/Lである場合は、関連がある可能性がある。逆に高齢(65歳以上)で特にTSHの上昇が軽度(<10mU/L)の場合はそのリスクが小さい、あるいはないことをスタディが示している(1, 3)。さらには軽度のTSH上昇は高齢者の機能的利益との関連があることを示すエビデンスもある(18)

 

 

 

 

 

治療

 

Lサイロキシン(LT4: L-Thyroxine)が多くの患者において効果的かつ安全に症状を軽減し生化学値を正常化するため甲状腺機能低下症の治療として選択される(1, 6, 19, 20)。十二指腸で吸収された後、循環に入ったLT4が末梢組織脱ヨウ素酵素によってT3に変換され、その率は各組織の代謝必要量によって制御される(1, 21)

 

LT4投与量は比較的健康な顕性甲状腺機能低下症の成人患者においては1.6mcg/kg/dayである(1, 6, 19, 20)

 

lean body mass(BMIを24〜25kg/m2とした場合の身長から導かれる体重)は実際の体重に比較して投与必要量を推測するより良い指標となる(22)。例えば、67インチ(170cm)で190パウンド(86kg)の女性はBMIが24kg/m2であるとした場合のlean body weightは153パウンド(70kg)となり、彼女のlean mass body投与量(1.6mcg/kg)は112mcg/dとなり、実体重から計算された場合は137mcg/dとなる

 

比較的若い患者で冠動脈疾患の既往がない場合は初回フル投与量によく耐容し、通常甲状腺機能低下症による症状が速やかに改善する

 

LT4治療開始後、TSHは6〜8週間後に測定し、通常6〜8週毎に12.5〜25mcg/d単位で変更してTSHが正常範囲になるように調整する

 

TSH目標値を達成するためのLT4投与量は甲状腺摘出術既往の患者や小児おいて比較的高くなる傾向がある(1)

 

60歳以上の高齢者や冠動脈疾患の既往のある場合は比較的低量のLT4(25〜50mcg/d)から開始し、TSH目標値に到達するまで6〜8週毎に12.5〜25mcg/d単位で調整を行う。急なフル投与や急速に投与量を増やした場合に起こり得る不整脈や虚血性イベントを防ぐ目的でこの低量開始によるアプローチは好まれている(1, 6, 19, 20)

 

LT4は食事摂取の1時間前あるいは4時間後に水とともに摂取される必要がある。また鉄剤、カルシウム、大豆サプリメントから少なくとも4時間ずらして摂取しなければならない。代替としては最後の食事から2〜3時間あけた睡眠前に服用する方法もある(1, 6, 19, 23)

 

もし服用できなかった場合は翌日に2投与量まとめて服用することができ、その後通常量を再開できる。もし2回服用できなかった場合は2投与量を2日間服用し、その後通常量を再開することが可能である

 

 

 

潜在性甲状腺機能低下症の治療適応

軽度の潜在性甲状腺機能低下症の患者は症状が軽度でTSH上昇が少ない場合にはLT4治療によって症状が改善しないかもしれない(1, 3)。高齢者で行われた2つのRCT(65歳以上(24)と80歳以上(25))では軽度の潜在性甲状腺機能低下症に対するLT4治療によって甲状腺による症状あるいは倦怠感の改善が認められず、secondary outcome(血圧、体重、腹囲径、握力)に対する利益も認められなかった。しかし症状が比較的強く、TSHが10mU/L以上であった場合には治療による利益があるようであった(1, 3, 6, 19, 26)

 

潜在性甲状腺機能低下症に対するLT4治療によって冠動脈イベントおよび死亡率を減らすかを評価した十分なRCTが行われていない(1, 3)

 

1つのコホート研究では比較的若い患者では心血管疾患に対する利益が認められたが、高齢者では認められなかったと報告されている(27)。他のスタディでは高齢者の潜在性甲状腺機能低下症に対するLT4治療が死亡率上昇との関連を認めたとも報告されている(28)

 

 

したがってガイドラインでは潜在性甲状腺機能低下症に対する治療は患者毎に決めることを推奨している(6, 19, 26)

 

70歳以下でTSHが10mU/L以上の場合はLT4治療を強く考慮する必要がある

 

70歳以上でかつ、あるいはTSHが10mU/L以下の場合は、症状の有無、甲状腺腫の有無、TSH上昇の程度、TPO抗体、妊娠の希望、心血管疾患リスクファクター、冠動脈疾患、心不全などを考慮に入れて患者毎に決定する必要がある

 

3〜6ヶ月以内に症状に対する利益が明らかにならない場合、あるいは重大な副作用を認める場合は治療を中止する必要がある

 

治療を行わないことを決定した場合は症状およびTSH値を6〜12ヶ月毎にモニターし、症状が出る、あるいは悪化する場合、またTSHが10mU/Lを超える場合は治療を開始する必要がある(1, 3, 19, 26)

 

 

甲状腺ホルモン投与の有害事象は稀で、薬剤が過剰に投与された場合のみに起こりえる。TSH値を抑制するLT4投与は不安、倦怠感、過剰発汗、動悸、振戦、不眠などを起こすかもしれない。慢性的な甲状腺ホルモンの過剰暴露は心房細動および高齢者や閉経後患者の骨粗鬆症による骨折リスクを上昇させる(29)

 

 

 

モニター

甲状腺ホルモン投与を受けている患者では受診毎に甲状腺ホルモン不全あるいは過剰の症状および兆候、薬剤のアドヒランス、併用薬剤、TSH値を評価する必要がある

 

甲状腺機能低下症患者では関連する症状の改善とTSH値が甲状腺ホルモン投与必要量のガイドとなる

 

TSHは正常下垂体機能においては甲状腺ホルモンの状態の最も正確で客観的な指標となる(1, 3, 6, 19)

 

TSHは治療開始後6〜8週毎に評価され、LT4投与量をTSH値が正常範囲になるまで調整する必要がある。その後TSHを3〜6ヶ月後に評価し、以降年に1回測定する

 

TSH値が正常範囲外になる場合はLT4投与量を6〜8週毎に12.5〜25mcg増減してTSHが目標値に到達するように調整する(1, 6, 19)

 

米国におけるTSHの正常範囲は多くのラボで0.45〜4.5mU/Lである

 

LT4治療を受けている患者のTSH目標値を正常下限に設定する治療家もいる。しかしこの治療法は実証されておらず、よくデザインされたRCTで評価された結果、TSH目標値を正常範囲下限に設定する治療は、中央あるいは上限に設定することに比べ、LT4治療を受けている患者の症状または認知機能を改善しないことが確認されている(30, 31)

 

逆に甲状腺摘出後の末梢における甲状腺ホルモン活性のバイオマーカーはTSH値を0.03〜0.3mU/Lに保った場合に術前の値に最も近くなることが報告されている(32)

 

TSHが正常上限あるいはわずかに正常値よりも高い範囲にあることが高齢者(65〜70歳以上)の長寿および良い運動機能に関連する可能性も示唆されている(1, 18)

 

したがってガイドラインではTSH目標値を多くの患者では正常下限におくことをサポートしておらず、70〜80歳以上の患者では4.0〜6.0mU/Lを目標とすることを推奨している(19)

 

 

中枢性甲状腺機能低下症はTSHを正常に産生できないため、LT4治療反応のモニターにTSHを使ってはならない。代わりにfree T4をモニターし正常上限に維持される必要がある(1, 5) 

 

 

 

入院 

粘液水腫性昏睡の治療には入院が必須であり、重度の甲状腺機能低下症で服薬ができない場合も入院が考慮され、LT4が経鼻あるいは静注投与(経口投与量の75%量)される

 

粘液水腫性昏睡は非代償性甲状腺機能低下症としても知られ、甲状腺機能低下症の極度の症状として発症する生命危機に関わる状態である。不適切に治療された、あるいは未治療の甲状腺機能低下症の高齢者に、寒冷暴露、感染、外傷、手術、心筋梗塞、心不全、肺血栓塞栓、脳卒中、呼吸不全、消化管出血、中枢神経抑制剤の使用などの発症を促すイベントが起こった時に発症することが多い(1, 33, 34, 35, 36)

 

最初に報告された当初は粘液水腫性昏睡の死亡率は100%とされたが、適切に治療された場合の予後は大きく改善し、現在の死亡率は0〜45%の範囲にあるとされる(1, 33)

 

診断は主に臨床所見に基づく。最も特徴的な所見は低体温、徐脈、低呼吸である。心嚢液、胸水、腹水、イレウス、尿閉もよく見られる。中枢神経症状には痙攣、昏迷、昏睡が含まれる。深部腱反射は欠如あるいは遅延する。甲状腺機能低下症の皮膚変化および毛髪の変化もよく見られる。甲状腺腫や甲状腺摘出術痕は診断の助けとなる

 

貧血、低ナトリウム血症、低血症、コレステロール上昇、クレアチニンキナーゼ上昇もよく認められる血液検査所見である

 

TSH値は非常に高くなり、T4とT3は非常に低くなることが多い。しかし粘液水腫性昏睡はTSH上昇あるいはT4/T3不全の程度に基づいて診断することはできない

 

 

診断を促進するための粘液水腫性昏睡スコアリングシステムが発表されている

 

Myxedema Coma: Clinical Feature Scoring System

体温

>35℃(0)

32−35℃(10)

<32℃(20)

中枢神経症状

なし(0)

傾眠/嗜眠(刺激で覚醒し、合目的行動も可能)(10)

昏朦(覚醒はしているが浅い眠りに近い状態)(15)

昏迷(強い刺激で覚醒、発語ははっきりしない)(20)

痙攣/昏睡(強い刺激にもほとんど反応がない)(30)

消化器

食欲不振/疼痛/便秘(5)

蠕動運動低下(15)

麻痺性イレウス(20)

起因となるイベント

あり(10)

心血管

心拍≧60拍/分(0)

心拍50〜59拍/分(10)

心拍40〜49拍/分(20)

心拍<40拍/分(30)

他の心電図異常(10)

心嚢液/胸水(10)

肺鬱血(15)

心拡大(15)

血圧低下(20)

代謝異常

低ナトリウム血症(10)

低血糖(10)

低酸素血症(10)

高二酸化炭素血症(10)

GFR低下(10)

粘液水腫性昏睡を促すイベント

寒冷暴露 

感染、外傷、手術

脳卒中

心筋梗塞

肺血栓塞栓

糖尿病性ケトアシドーシス

薬剤(中枢神経抑制)

 

スコア

≦24:粘液水腫性昏睡でない可能性が高い

25〜59:粘液水腫性昏睡の可能性

≧60:粘液水腫性昏睡の可能性が高い

 

 

 

 

初期治療のゴールは欠乏した甲状腺ホルモンプールの急速な補充である。正常では体内に貯留されている総T4量はおよそ1000mcg(500mcgが甲状腺にあり、500mcgが残りの体内にある)である。稀な状態でもあるため異なる甲状腺ホルモン補充法を比較したRCTがない。当施設ではローディング投与として300〜500mcgのLT4を初日に静注投与を行い、以降、経口摂取が可能になるまで経口投与量(服用量あるいは1.6mcg/kg/d)の75%量を1日1回静注投与を行う。LT4静注投与に反応を示さない場合は、5mcgのLT3を4〜6時間毎に静注投与することが考慮されるかもしれない。LT4/LT3混合静注投与を推奨する専門家もいる。比較的低いLT4ローディング投与量(200〜300mcg)と10mcg LT3静注投与を行い、以降LT4 100mcg 1日1回静注投与およびLT3 10mcgを8〜12時間毎静注投与を行う(19, 36)。他の治療にはストレス量のグルココルチコイド投与、バイタル維持および酸素化のサポート治療、発症を促進する状態の治療などが含まれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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アナルズオブインターナルメディシン

インザクリニック

2020年7月7日

 

 

 

 

 

 

 

 

全身性エリテマトーデス

 

Systemic Lupus Erythematosus (SLEあるいはループス)は免疫システムが体中の正常な細胞と組織を攻撃することによって起こる病態である。SLEの免疫反応はBリンパ球とTリンパ球の過剰な免疫応答と自己抗原に対する免疫寛容の欠如によって特徴づけられる。抗体産生、免疫複合体の組織沈着、補体とサイトカインの活性化によって軽度の倦怠感や関節痛から生命を脅かす臓器障害に至るまでの範囲にわたる臨床症状が引き起こされる

 

北米での罹患率は10万人あたり23.2人で世界で最も高い(1)

 

SLEは治癒しないが、薬物によってコントロールすることが可能である。米国での年齢調整死亡率は46年の間に24.4%減少し、これは治療の発達と早期診断によるものと考えられている(2)。しかし一般人口に比べ依然SLE患者の死亡率は2〜3倍高い。最も多いSLE患者の死因は腎疾患、心血管疾患、感染症である(2, 3)

 

 

 

診断

体重減少、倦怠感、軽度発熱はよく見られ、関節痛や関節炎を伴うかもしれない

 

SLEの関節炎の特徴は持続する朝のこわばりと軽度から中等度の関節腫脹である。非びらん性で、対称性あるいは非対称性、大関節あるいは小関節のどちらにも認められるうる。多量の関節液貯留が認められることは少なく、関節液も炎症性ではない(4)。関節変形も少ない

 

全身症状を伴う関節痛や関節炎が、SLEに特徴的な顔、頸部、四肢の光過敏性皮疹などを認めない場合は、SLEの診断の前に感染症診断のための評価を行うことが妥当である

 

 

皮膚症状もよく見られ75〜80%の患者で認められる(5)。急性、亜急性、慢性に分類される

 

急性の皮疹は頬部、頭、腕、手、頸部、胸部に現れる硬結性あるいは紅斑性のものである。頬部の皮疹は酒さ(rosacea)、薬疹、多形日光疹などに間違われる可能性があるが、SLEに特徴的な他の臨床症状や血清学的所見があれば皮膚生検が必要になることは稀である

 

亜急性皮疹は痕を残さず、光が当たる場所に出る環状連圏状型(リング状で重なる)、あるいは丘疹落屑型の皮疹からなる。これはanti-SSA抗体とよく関連する

 

慢性皮疹は円板状エリテマトーデスや、ループス脂肪識炎、肥大型エリテマトーデス(特徴的ないぼ状皮疹)、tumide lupus(滑らかで光沢がある赤紫色の丘斑で通常頭や頸部に出る)、凍瘡状エリテマトーデス(青紫の皮疹で手指、足趾、耳などに見られる)などの稀なものが含まれる。円板状エリテマトーデスは最もよく見られる慢性皮疹で瘢痕と色素脱失を残して治癒する硬結性丘斑を特徴とする。急性の皮疹はほぼ全身性ループスと関連するが、円板状エリテマトーデスでは全身症状が稀である(3〜5%)

 

 

 

 

SLEの症状は他にも様々な形で現れる。発熱、皮疹、関節炎が最も古典的な初期症状であるが、標的臓器の急性障害が見られることもよくある(6)

 

血小板減少、白血球減少、リンパ球減少、貧血などの血液所見を認める、血尿、蛋白尿、細胞円柱、血清クレアチニン上昇などの腎所見を認める、咳、呼吸困難、喀血、胸膜痛などの呼吸器所見を認める、頭痛、羞明、局所的神経所見などの中枢神経症状を認める、などが生殖年齢の女性である場合はSLEの可能性を考慮する必要がある

 

 

 

血液所見

血球減少はよく見られ、中等度から重度のリンパ球減少が疾患の高い活動性および臓器障害との関連を認める(7)。溶血性貧血は多くない(8)

 

 

腎所見

腎障害はよく見られる標的臓器障害であり、臓器不全のハイリスクであるため予後が悪い。50%にのぼるまでの患者に腎疾患を認める(9)。透析や腎移植を受けるループス関連末期腎不全患者は他の原因による末期腎不全患者に比べ予後が悪い(10)

 

 

呼吸器所見

あらわれる症状と治療への反応は障害される解剖学的部位に依存して異なる

 

胸膜炎が最もよく見られる呼吸器所見で、30〜50%の患者に認められる(11)。ループス胸膜炎は感染、肺血栓塞栓、肝疾患、心疾患、悪性疾患などの他の原因が除外されて初めて診断される

 

血管性障害は肺胞出血、肺高血圧、血栓塞栓症などの原因となる

 

実質の障害は比較的少なく、間質性肺炎、acute pneumonitis、BOOPなどに起因する場合もある

 

 

神経精神所見

SLEによる神経精神症状は血管障害、自己抗体、炎症メディエーターなどに起因し、頭痛、無菌性髄膜炎、血管炎、運動障害、痙攣、認知障害、精神症状、脱髄疾患、脊髄症、自律神経障害、末梢神経障害などを引き起こす

 

 

眼所見

乾性角結膜炎(シェーグレン病を伴うあるいは伴わない)、角膜炎、上強膜炎、強膜炎、ぶどう膜炎、網膜血管炎、網膜動静脈閉塞、網膜症などが眼所見として認められる可能性がある(12)

 

 

消化器所見

消化器症状としては食欲不振、嘔気、嘔吐、腹痛、下痢などが認められる。SLEにおける他の腹痛の原因としては腸間膜血管炎や肝胆道疾患による場合もある。稀な消化器合併症としては偽性腸閉塞、蛋白喪失性腸症、膵炎などがある。免疫不全を伴うSLE患者ではサイトメガロウイルスやサルモネラ感染による腸炎が起こる可能性もある

 

 

 

 

米国リウマチ学会の診断基準の役割

SLEは多臓器疾患で感染症、悪性疾患、他の自己免疫疾患に類似する

 

1997年にAmerican College of Rheumatology (ACR) のSLE診断基準がアップデートされた。この基準では最もよく見られる臨床所見および検査所見にフォーカスが当てられ診断への系統的アプローチが行われる。診断のためには11の基準のうち少なくとも4つを満たさなければならない。ACR基準は分類を促すことを意図して作成されたとはいえ、客観的な所見に基づきSLEの感度・特異度が高い診断ツールとなっている。しかし軽症は見逃される可能性もある。2012年にSystemic Lupus International Collaborating ClinicsがACR基準をアップデートした。1997年の基準に比べ、感度は上がったが特異度は上がらなかった(13)

 

 

ACR基準(1997年改訂)

・顔面紅斑
・円板状皮疹
・日光過敏
・口腔潰瘍(無痛性で口腔あるいは鼻咽腔に出現)
・関節炎(2領域以上の末梢関節で非破壊性)
・漿膜炎(胸膜炎あるいは心外膜炎)
・腎障害(0.5g/日以上の持続的尿蛋白か細胞性円柱の出現)
・神経学的病変(痙攣あるいは精神症状)
・血液学的異常(溶血性貧血、4000/μl以下の白血球減少、1500/μl以下のリンパ球減少、10万/μl以下の血小板減少のいずれか)
・免疫学的異常(抗ds-DNA抗体、抗Smith抗体、抗リン脂質抗体(抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラント、梅毒反応偽陽性)のいずれかが陽性)
・抗核抗体陽性

 

 

 

 

 

2019年にEuropean League Against Rheumatism (EULAR)がACRと共にSLEの基準をアップデートした。10の領域における22の基準を設け、それぞれ2〜10点の範囲で重きの異なる点数が与えられている(14)。抗核抗体陽性が基準を適応する必要条件となっている事に加え、診断のために計10点以上条件を満たさなければならない。2019年EULAR/ACR基準は診断の複雑性を加え、より臨床試験や診断困難なケースに有用となっている

 

 

 

EULAR/ACR基準(2019年)

エントリー基準:ANA≧1:80倍 (Hep2細胞の関節蛍光抗体法または同等の検査法)

全身症状
 発熱 (38.3℃以上)(2点)

血液
 白血球減少 (<4000/μL)(3点)
 血小板減少 (<10万/μL)(4点)
 自己免疫性溶血(4点)

神経
 せん妄(2点)
 精神症状(3点)
 けいれん(5点)

皮膚
 非瘢痕性脱毛点(2点)
 口腔潰瘍(2点)
 亜急性皮膚ループスまたは円板状皮疹(4点)
 急性皮膚ループス(6点)

関節炎
 2関節以上の腫脹を伴う滑膜炎または2関節以上圧痛と30分以上の朝のこわばり(6点)

漿膜炎
 胸水または心嚢水(5点)
 急性心膜炎(6点)


 蛋白尿>0.5g/24hr(4点)
 Class II or V ループス腎炎(8点) 
 Class III or IV ループス腎炎(10点)

抗リン脂質抗体
 カルジオリピンIgG 陽性またはCLβ2GPI-IgG陽性またはLAC陽性(2点)

補体
 Low C3 またはlow C4(3点)
 Low C3 かつLow C4(4点)

特異抗体
 抗ds-DNA抗体または抗Smith抗体(6点)

 

 

 

 

 

 

 

 

抗核抗体を検査する必要があり、陽性であった場合は抗ds-DNA抗体、Ro/SSA抗体、La/SSB抗体、抗Smith抗体、抗RNP抗体などの抗原特異的な抗核抗体を検査しなければならない。抗ds-DNA抗体のSLEに対する特異度は60%以上である。抗Smith抗体の特異度は90%以上であるが、陽性となるのは30%のみである

 

 

 

SLEの初期検査

血算

直接Coombs試験

総生化学

ESR

CRP

尿検査

血清学試験(抗核抗体、陽性の場合は抗ds-DNA抗体、抗SSA/SSB抗体、抗Smith抗体、抗RNP抗体) 

補体C3/C4

CPK

 

 

 

他の鑑別疾患は

慢性疲労症候群や線維筋痛症は全身性の筋骨格症状を持ちSLEに似るかもしれない。これらの疾患は一次性のものは自己免疫疾患が欠如し、また自己免疫疾患に二次的に発症する場合もある。炎症性疼痛がなく、血清学的に陰性であればSLEを除外できる

 

関節リウマチは強い炎症、びらん性関節炎、リウマチ因子あるいは抗cyclic citrullinated peptide抗体が陽性となるなどの特徴がある

 

プロカインアミド、ヒドララジン、ミノサイクリン、イソ二アジド、TNF阻害剤などの薬剤が薬剤誘発性ループスの原因となり、発熱、漿膜炎、関節炎、皮疹などのSLEに類似した症状を呈する。抗ヒストン抗体が薬剤誘発性ループスのおよそ75%の患者で認められるが、SLEでも陽性となり病理特異的ではない。抗ds-DNA抗体や他の特異的抗核抗体が認められることは稀で、薬剤中止によって数日から数週間で通常症状が軽減する

 

小あるいは中血管炎、血小板減少性紫斑病、ウイルス性関節炎などがパルボウイルスあるいはHIV/AIDSなどでも見られるが、血液検査、ウイルス血清検査、組織検査などで鑑別ができる

 

血液悪性疾患や悪性リンパ球増殖性疾患なども抗核抗体陽性を伴って、貧血、軽度発熱、胸水、リンパ節腫脹などを呈し、SLEと誤診される場合もある

 

 

 

 

 

治療

SLEの治療には多岐に渡る薬剤が使用され、それにはグルココルチコイド、抗マラリア薬、NSAIDs、免疫抑制剤、B細胞標的生物学的製剤などが含まれる。ヒドロキシクロロキンはSLE治療の要となっている

 

グルココルチコイドはSLEの多くの症状の第一選択薬である

 

ループス腎炎の組織学的検査結果に基づいて免疫抑制剤が選択される

 

ベリムマブはBリンパ球刺激因子を標的とするモノクローナル抗体であり、関節症状や皮膚症状を改善する(15)。ベリムマブ皮下投与によってSLEの悪化を減らし、グルココルチコイドの漸減を可能にすることが確認されている(16)

 

 

 

フレアのない安定した患者の治療

ヒドロキシクロロキンや他の抗マラリア薬が悪化を防ぐためSLEの患者に処方される必要がある。フレアを防ぎ、新生児SLEの先天性房室ブロックのリスクを減らすと同時に、ヒドロキシクロロキンは血小板凝集抑制によって抗血栓効果を発揮するため(17, 18)、抗リン脂質抗体や蛋白尿を認め血栓傾向のある患者では特に重要な治療となる

 

 

 

フレアを認める患者の治療

ループス腎炎、肺胞出血、中枢神経血管炎などの重症SLE症状を有する場合は免疫抑制剤とともにグルココルチコイド静注にて治療される。寛解が達成され、必要に応じて適切なsteroid-sparing薬剤が追加されればグルココルチコイドは漸減される。経口プレドニゾンやメチルプレドニゾロンが関節炎、胸膜・心膜炎、皮膚血管炎、ぶどう膜炎に投与される。グルココルチコイドの投与量と投与期間は行われた臨床試験が少ないため症状により臨床経験に基づいて行われている

 

 

 

皮膚症状の治療

皮膚ループスの全てのタイプ(急性、亜急性、慢性)に対し、タクロリムス、R-サルブタモールピメクロリムス、クロベタゾール、ベタメサゾン、光線保護剤などの局所投与が行われることが多い。RCTではSLEの皮膚症状に対するそれらの局所薬の効果はヒドロキシクロロキンやクロロキン全身投与と同等であることが示されている。

 

 

 

関節炎の治療

関節炎の治療には低量のグルココルチコイドと抗マラリア薬が第一選択となる。メトトレキサートも関節炎や皮膚症状に、特に他の全身症状がない場合などによく使用される(19, 20)

 

 

 

腎炎の治療

ループス腎炎の治療は腎生検の組織学的所見に基づいて決められる。クラスI・IIループス腎炎は免疫抑制剤を必要としないが、クラスIII・IVループス腎炎では積極的に使用されて治療される

 

 

寛解導入療法

臨床試験に基づきシクロホスファミドとグルココルチコイド静注の併用がクラスIII・IVループス腎炎における寛解導入療法のスタンダードとして確立している(21, 22)。シクロホスファミドはDNA鎖間架橋を促し、Tリンパ球とBリンパ球の増殖および抗体産生に影響を与えるアルキル化剤である。ミコフェノール酸モフィチルも過去10年間においてループス腎炎の寛解導入治療としての効果が確認されているが、シクロホスファミドとの優越性は確立されていない(23, 24)。2012年ACRガイドラインではクラスIIIあるいはIVループス腎炎の寛解導入治療としてシクロホスファミドあるいはミコフェノール酸モフィチルとグルココルチコイド併用治療が推奨されている(25)

 

 

維持療法

ACRガイドラインはミコフェノール酸モフィチルあるいはアザチオプリンをループス腎炎の維持療法として使用することを推奨している。その目的ではその両剤がシクロホスファミドに比べ優位性が認められている(26)。シクロスポリンのようなカルシニューリン阻害剤が維持療法の代替として使用されるかもしれない。多施設RCTではクラスIVとVのループス腎炎に対するシクロスポリンとアザチオプリンの比較において同等の有効性が認められ、また血圧および腎機能に対しても効果が同等であった(27)。カルシニューリン阻害剤のタクロリムスもまたびまん性増殖性あるいは膜性ループス腎炎の治療に使われる。リツキシマブはBリンパ球膜蛋白質のCD20に対するモノクローナル抗体である。リツキシマブは末梢血のBリンパ球を減少させる。日本とイタリアにおける小さな臨床試験では治療抵抗性ループス腎炎に対するリツキシマブの有効性が認められている(28, 29)

 

 

 

神経精神症状の治療

急性脳血管障害、痙攣、無菌性髄膜炎などの重症なSLEによる神経精神症状は経験的に治療され、グルココルチコイド静注、免疫グロブリン、シクロホスファミドなどが使用される。抗リン脂質抗体症候群の所見と重なるSLEによる脳血管障害所見を認める場合は免疫抑制剤に加え、抗凝固療法も必要になるかもしれない

 

 

 

呼吸器症状の治療

胸膜炎はNSAIDsおよび低量から中等量のグルココルチコイドに反応を示す。免疫抑制剤は治療抵抗性の場合に投与される場合がある。肺胞出血は突発性で予後が悪く、グルココルチコイド静注と免疫抑制剤治療を要する。血漿交換も考慮されるかもしれない。肺高血圧はSLEでは少なく(0.5〜17%)、血管障害、間質性肺炎、in situ thrombosisなどによる二次性のものである場合がある。SLEによる肺高血圧あるいは間質性肺炎に関する大きな臨床試験が行われておらず、治療は経験則に基づいて判断されている。ミコフェノール酸モフィチルとタクロリムスが膠原病における間質性肺炎の治療としてより盛んに使われるようになっている(30)。acute lupus pneumonitisでは高量グルココルチコイドとシクロホスファミドの併用治療が必要となる

 

 

 

眼症状の治療

眼障害の重症度と全身疾患の活動性に依存して治療が決まり、ステロイド外用、眼内ステロイド、抗マラリア薬、NSAIDs、経口あるいは静注グルココルチコイドなどが投与される。強膜および網膜障害があればグルココルチコイドパルス治療、それに続いて1mg/kgプレドニゾンと免疫抑制剤併用が必要となるかもしれない(31)

 

 

 

 

治療を受けている患者のモニター

フォローアップ受診での検査には血算、基礎生化学、尿検査が含まれる。多くの医師が抗ds-DNA抗体と補体C3・C4もルーティンで測定している。しかしこの診療は安定した患者においてはcontroversialである。抗ds-DNA抗体、補体C3・C4は症状を有するSLE患者の活動性評価および治療反応の評価により有効である。薬剤副作用の血液検査によるモニタリングおよびヒドロキシクロロキン服用中の眼科的評価にも注意を払う必要がある。骨粗鬆症予防も考慮し必要に応じて治療薬を処方することが妥当である

 

 

 

入院が必要な患者は?

重篤な合併症を認める場合は入院が必要となる。重度の血小板減少、重度あるいは急性に悪化する腎症、lupus pneumonitisの疑い、肺胞出血、重度の心血管あるいは脳血管障害、などを認める場合がそれに含まれる

 

SLEの主な死因に感染症があり、日和見感染も含まれる。SLE患者で説明のつかない発熱を認める場合は入院による評価および抗菌薬治療を開始する必要があるかもしれない。経験的治療においては黄色ブドウ球菌、緑膿菌、クレブシエラ、大腸菌、アシネトバクターをカバーする必要がある

 

SLE患者における胸痛は冠動脈疾患、漿膜炎、肺血栓塞栓症、食道疾患である可能性がある。SLEは内皮機能不全のリスクを高め、長期のステロイド投与が冠動脈疾患のリスクファクターを増やす(32)

 

SLEによる神経症状には神経精神ループス、感染症、抗リン脂質抗体症候群合併症、高血圧による場合などがある。SLE患者で急性の神経症状を認める場合は入院させ、画像、脳脊髄液、心超音波検査、血液検査による速やかな評価が必要となる

 

 

 

 

 

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インザクリニック

アナルズオブインターナルメディシン

2020年6月2日

 

 

 

 

 

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